先頃開催された「E3 2015」では、ソニーのHMD開発プロジェクト「Project Morpheus」やOculus VRの「Oculus Rift」にまつわる数々の最新情報が明らかにされ、注目を集めた。いよいよ来年から本格的なVRゲーミング時代の幕開けとなるが、周囲の期待に少し水を差すような、気になる記事が先日ネット上に投稿されている。記事の内容は、1996年にNBCで放送されたVRゲームの健康被害を特集した番組の紹介である。
■長時間プレイした後にはめまいや、吐き気、酔いなどが起こりうる
90年代にも各社からゴーグル型のVRゲーム機器がリリースされて、一時的にVRゲームのブームが到来したことがある。この当時、VRゲームの健康面に及ぼす悪影響に警鐘を鳴らす各界の識者が少なくなかったということだ。しかし再びブームが起ころうとしている現在、不思議なことにあまり健康面への懸念を口にする人々がいないというのが、情報サイト「The Verge」に掲載されたこの記事の執筆動機らしい。
現在YouTubeにアップされている当時のNBCの特集では、リポーターのケリー・サンダースがセントラルフロリダ大学の研究者に取材を行って、VRゲームの危険性を報告している。実際に被験者を使って行われた実験の模様も収められており、ゴーグル型の機器をつけてVRゲームをする前とした後での平衡感覚や認知機能の変化が調べられていて、30分間VRゲームをプレイした直後には著しくこれらの機能が低下し、酩酊に近い状態であることが示されている。しかも、この状態が20分続いたということだ。まさに"3D酔い"である。
そして番組の中で専門家は、VRゲームを長時間プレイ(長期暴露)した後にはめまいや、吐き気、酔いなどが起こりうることを警告している。またVRゲームが家庭用ゲーム機となったことで、長時間のプレイに歯止めがかからなくなることが特に危険であると警戒を呼びかけている。レポートに登場するVRゲーム好きの子供が「遊んだ後はめまいがするんだ」と話すシーンも収められている。
もちろんメーカー各社は、定期的に休憩を取りながらプレイをするよう製品に警告文を明記しているが、それが効力を持つかどうかはユーザーに委ねられていることは言うまでもない。番組ではバーチャルリアリティを現実の"悪夢"にするのかどうかは、ユーザーの心がけ次第である、と結んでいる。VRゲームが健康に及ぼす影響を今一度確認しておきたいところだ。
■HMDに手を出さない任天堂だが「NX」にはVR機能が？
各社HMDの最新情報で賑わいを見せる中、やや蚊帳の外に置かれている任天堂だが、この件で米国任天堂のCOOレジナルド・フィサメィ氏の発言が「Games Industry」で紹介されている。
「我々は(VRゲーミングの)技術的な知識を持っているし、すでに長きにわたっていろんな取り組みを行っています。我々が信じているのは、この分野の技術革新を進めていくためには、VRゲーミングを楽しいものにすると同時にソーシャルなものにする必要があるということです。しかし、現在のところVRゲーミングは楽しくないし、ソーシャルでもない、ただの技術なんです」（フィサメィ氏）
かつて任天堂は1995年にゴーグル型VRゲーム機「バーチャルボーイ」をひっさげ満を持してVRゲームに参入したが、市場の反応は乏しく、わずか半年ほどで販売を中止したという過去の苦い経験がある。またグラフィックス表現の面で画期的な携帯ゲーム機であるニンテンドー3DSも、3D機能のほうはそれほど重宝されていない感もあり、VRやAR(Augmented Reality)には慎重にならざるを得ない実情があるのかもしれない。
VRゲーミングには今のところ乗り気ではない任天堂の姿勢が再確認される形になったフィサメィ氏の発言だが、任天堂の社内には実際にVR関連の開発部署があり、鋭意研究を進めているのも間違いないことから、来年にも発売されるといわれている新型ゲーム機「NX」にはなんらかのVRやAR技術が導入されるのではないか、と記事では指摘されている。それがいったいどんなものになるのか勘案するのは時期尚早だが、今後話題になるやもしれず、頭に入れておいてもよさそうだ。
（文／仲田しんじ）
【参考】
・The Verge
http://www.theverge.com/2015/6/20/8819047/alarmist-1996-tv-report-highlights-dangers-of-virtual-reality-exposure
・Games Industry
http://www.gamesindustry.biz/articles/2015-06-18-nintendo-not-a-believer-in-current-vr-tech