初対面で好感度アップ! 次につながる「会話術」 | ニコニコニュース

プレジデントオンライン

信頼できそう、もっと話を聞きたい、また会いたい。そう思われる人はどこが違うのか。
相手の懐に入り、次につながる話し方のコツとは。

■冒頭●一瞬で打ち解ける「事前の仕込み」

奥さんの誕生日も前もってリサーチ

雑談のいいところは条件にとらわれず、本音の話ができる点にある。とくに社内ではコミュニケーションが大事と言いながら、どうしても指示や命令が多くなり、水面下で文句が言われることになりがちである。しかし雑談なら上司、部下という立場を超え、同じ人間同士としてコミュニケーションができる。雑談の価値はそこにあり、私は非常に重要だと考えている。

人間は気持ちで仕事をし、気持ちで生きている。最初に誰かと会うとき、何も情報を持たずに「はじめまして。これまで何をされてきたんですか」と接するのと、会話のきっかけとなる情報を持ち「最近、○○しているそうですね」などと入っていくのとでは、その後の雰囲気は大きく異なってくる。

やはりお会いする人とは一歩近いところで話をしたい。常に一歩、間を詰めたい。だから私はお得意様やビジネスの相手にお目にかかるときは、事前に必ずリサーチする。社外の人にお会いするときは、直近3カ月分の新聞・雑誌記事に目を通している。

夜、若い社員を集めて飲むときも同じで、調べてみると、なかには今日が奥さんの誕生日という人がいたりする。

「毎年、誕生日はどうしているんだ?」
「いや、特別なことはしていません」
「バカ野郎! 今日は私が花を買ってやるから持って帰りなさい。ただし、来年からは自分で買うように」

やりすぎるといやらしくなるが、最初に会ったときに「そうなんだってね」と言えるものを持っていると、ふっと距離が縮んだり空気が柔らかくなったりする。

本題は半分の時間で

会議や商談の準備は週末にしている。金曜日には翌週の仕事の資料をつくって持って帰り、目を通してポイントをメモする。そして当日の朝、その日の資料を読み返す。そう言うと完璧主義者のように思われそうだが、ただその瞬間ごとに自分ができるベストを尽くしたいという思いからなのだ。

雑談にしてもビジネスにしても、すべて一期一会である。自社の社員であっても、年に1回しか会わない人もいる。その大切な機会には、やはり意味のある仕事をしたいと思う。

雑談にはもう一つメリットがある。それは、「雑談的に伝える」ことができるということだ。社長室に呼びつけて指示、命令を伝えるのと、こちらから相談する、あるいは相手の相談を受けるような形で伝えるのでは、結果として指示、命令に近い形になったとしても相手の受け止め方は違ってくるだろう。

雑談なら「そうは言いますが……」と相手も意見を言いやすい。しっかり考えている人と雑談していると、よい意味でだんだん議論に発展していく。

「それ、おもしろいな」「もう少し突っ込んでみよう」とプラスの話に発展していくのだ。それが新しい企画につながっていくこともある。

打ち合わせを早く終わらせて、残りの時間で「今年これができたら来年はあれができる。そうすると再来年はこうなる」と先々の構想まで話をしておけば、それを知っている人と知らない人とでは仕事のやり方も変わってくるだろう。

余った時間にするのではなく、意識して雑談の時間をつくる。30分の打ち合わせが予定されていたとしよう。事前にしっかり準備しておけば初めの10分か15分で本題は終わってしまう。残りの20分を使って「最近こんなことを考えているんだがあなたはどう思いますか?」といった話もできるようになる。

■中盤●「言うより聞く」「結論を出さない」が鉄則

なぜゴミ箱の上に座るのか

対面した相手と距離を縮めるために、私は目線の高さを合わせて話をするように意識している。たとえば、私が社員の職場へ行って話をしようとすると、相手はこちらに合わせて立ち上がろうとするだろう。これでは目線の位置が違ってしまう。そこでデスクの脇にあるゴミ箱に座って話をする。そうすると椅子に座っている社員とちょうど同じ目線の高さになる。

笑顔も大切だ。やはり難しい顔をしていたら雑談はできない。そして自分がオープンであるという姿勢を伝えるのだ。

社員、部下に対しては、自分が話をするより相手の話を聞くことが大切だと考えている。「最近、何か困ったことはないか?」「おもしろいことはないか?」と話を切り出すことが多い。

そのとき「何でも言ってみなさい」と言いながら、話を聞いた後に相手をバッサリやってはいけない。そうしたら、次からその人は口を開いてくれないだろう。

上司から怒られてしまうと、部下はなかなかものを言わなくなってしまう。つい叱りたくなるような話でも、いきなり「おまえ何を言っているんだ!」とはやらず、「そんなことがあるのか」「私にはよくわからないが、いったいどういう話なんだ?」という具合に聞いてあげるほうがよい。我慢してオープンな気持ちで聞くことである。

私は逆に、何も言わなくて叱られた経験がある。相手は当社の社長だった樋口廣太郎(故人)さんだ。「何か困っていることはないか?」と聞かれたので「ありません」と答えたら「部長だったら困っていなければおかしい。困っていないのは仕事をしていない証拠だ」と言って(笑)。

同じ言葉を交わすのでも、「言う」は自分の心に思ったことを音声で表しているだけにすぎない。「しゃべる」は「言う」を数多く繰り返すことである。しかし「話す」というのは相手の気持ちと自分の気持ちをわかったうえで言葉を交換していくことである。「言う」「しゃべる」「話す」はそれぞれレベルが違うのだ。「言い合う」はお互いに自分の意見を言って争っているだけだが、「話し合う」からは何か合意が生まれてくる。

屁理屈に聞こえるかもしれないが、このように私は自分でコミュニケーションのレベルを設定し、どうすればもう一つ高いレベルに上がれるかといつも考えて取り組んでいる。

「話し合う」のレベルに持っていくには、相手の土俵に乗ることが大切だ。こちらの土俵に引き込もうとすると、だんだん雑談が雑談ではなくなってくる。相手に心を開いてもらうには、まず安心感を与えなければならない。そして、途中で態度を豹変させてはいけない。この人とはケミストリー(相性)が合う、この人の話に共感する、と思われなければ本音は出てこない。

一番やってはいけないのは、結論を出そうとすることだ。言いっ放し、聞きっ放しでかまわない。ただし、そこで得た内容をオフィシャルな場面で使ったときは、どのような形でも必ずその人に伝わるようにフィードバックするようにしている。

「君のあの意見があったからこうしたよ」
「ほかにもいろんな話を聞いたけれど、やはりあなたの言うとおりだった」

すると、次も盛り上がるという好循環が生まれる。

■奥の手●苦手なタイプは「仕事・家族・趣味」で攻略

どんな人とも話が途切れないコツ

相手が自分の苦手なタイプ、あるいは寡黙な人の場合、どう話をつなげていったらよいかわからないという人がいるかもしれない。

お得意様へ行くとき、担当者から「この会社の社長はあまりお話しされないほうです」と耳打ちされることもある。そう言われていても、相手の社長が話さないことはなかった。

相手と話が盛り上がらないのは、相手の土俵に乗って話していないことが最大の原因である。事前にしっかり準備をし、こちらの姿勢を低くして、目線を合わせ話していけば必ず相手はいろんなことを教えてくれる。

相手の仕事、家族、趣味。これら3つの玉を準備しておけば、必ずどれかに引っかかるものだ。家族や趣味の話から仕事の話につながっていくこともある。子どもの話もいい。2度目以降に会う相手なら、「そろそろ小学生ですか」などと声をかければ覚えていたことを喜んでくれ、場が和むことが多いからだ。

社長だからといって、相手が自動的に話してくれるというほど甘いものではない。頭で考え、ハートを燃やし、腹をくくり、足を使って現場を歩き、最後に口で話すのが社長の仕事であり、私はずっとそうしてきた。

頭で考えてすぐ言葉にできる人は、確かに頭がよく語彙も豊富なのだろうが、言葉に重みがない。ハートを燃やして腹をくくり現場を歩いた人は、言葉に重みと具体性がある。そんなベースの有無が、話を盛り上げられるかどうかに関わってくる。

■別れ際●もう一度会いたくなる「リフレイン」効果

「時間潰し」と「実のある話」の違いは

相手にいい印象を残し、また会いたいと思ってもらうには、その日の話のなかで感動したり記憶に残ったりしたことを、別れ際にリフレインしておくとよいだろう。時間があればもっとこの話をしたかった、と思えば、先送りせず「またお目にかかってお話をうかがいたい」とお願いする。

私にとって、人にお目にかかって聞く話の内容はすべて勉強の材料である。新聞や雑誌でおもしろいと思う発言をしている人がいれば会いに行く。先日、島忠の山下視希夫社長が「プライベートブランドはやりません」と発言しているのを新聞で読んだ。興味を持ったのですぐに電話して会いに行き、お話を聞かせていただいた。電話口で「アサヒビールの社長ですが……」と言ったら驚かれてしまったが(笑)。

山下社長の話はこうだった。ホームセンターを展開する島忠はもともと、埼玉県春日部の桐箪笥屋。消えつつある日本の木工技術を後世に伝えていきたい。プライベートブランドの安い商品ではなく、メーカーから品質のよい商品を仕入れて販売したい――。

競争環境は今後さらに厳しくなっていく。「ナショナルブランドでどうやっていくのですか」と私が尋ねると、答えは「餅は餅屋です」。よい材料を使ってよい家具をつくり、店頭の社員教育に力を注ぎ、お客様のニーズを満たし納得して購入していただけるようにしている、と。

話を聞いてなるほど、これは強みの集中であると私は理解した。ただし、それは自分で足を運んで話を聞くからそう思うのであって、教科書を読んで知るだけでは実感も湧かない。

自分が教えを乞うときは同じ目線で敬語を使い、きちんと頭を下げて話すのは当然の礼儀である。それは社内でも同じことだ。自分が若い社員に何か教えてもらうときは社長室に呼ぶのではなく、各フロアにある打ち合わせ室へ行って話を聞くようにしている。

雑談は時間の無駄という人もいるが、私は前述したように雑談をしていて「これはおもしろい」と頭に残ったことを、新しい仕事や計画に反映したりすることがよくある。時間潰しのための雑談だと考えてはいないのだ。

時間潰しが目的になってしまうのは、相手への愛情が薄いせいだと思う。耳に音が響いているだけで、心で聞いていないのだ。相手の話をおもしろがって聞けるかどうか。そして、おもしろがれるかどうかは好奇心の有無にかかっている。

社内外を問わず、ほかの分野では私より優れた能力を持つ人はたくさんいる。私は全能の神ではないので、さまざまな能力を持つ人から話を聞き、学び続けなくてはならない。「いいとこ伸ばそう、自信を持て」が私の人生標語で、それを私はチームに対してもやっている。人間には苦手なこともたくさんあるが、できないことを悩むよりできることを伸ばしたほうがいい。

話していて「君、それおもしろいね」と私がいうのも、「あなたはその分野に力があるからもっとよく考えてほしい」という意図がある。SNSで「いいね!」ボタンを押されると、反応が返ってきたと嬉しくなってまた発信しようと思うだろう。それと同じことをリアルでやっているわけである。

----------

アサヒグループホールディングス社長 泉谷直木
1948年、京都府生まれ。72年京都産業大学法学部卒業後、アサヒビール入社。広報部長、経営戦略部長などを経て、2003年取締役に就任。06年常務酒類本部長、09年専務。10年3月、アサヒビール社長。アサヒグループの持ち株会社制への移行により11年7月より現職。海外子会社社員と話す機会もあるが、「外国人相手でもすぐに打ち解ける」という。

----------