任天堂「スプラトゥーン」はなぜヒットしたか | ニコニコニュース

6月にアメリカで開かれたゲーム見本市「E3」でも来場者の注目を集めた(写真:AP/アフロ)
東洋経済オンライン

任天堂が据え置き型ゲーム機「Wii U」専用ソフトとして、5月下旬に日本国内向けに発売した「Splatoon(スプラトゥーン)」が快進撃を見せている。

スプラトゥーンは、人とイカに変身できるキャラクターが街中を縦横無尽に動き回り、水鉄砲のような武器に入ったカラフルなインクを撃ち合って、そのインクで塗りつぶしたナワバリを奪い合うテレビゲーム。4対4のオンライン対戦ができる。

日本国内向けには初回出荷分の15万本のうち14万本以上が売れ、消化率は97%超。一時的に店頭から在庫が消えて、ダウンロードでしか買えない状態が続いた。先行して海外でも販売しており、6月下旬には世界での累計販売数が100万本に達したと発表された。

■SNSでもこの話題で持ちきり

発売直後からTwitter(ツイッター)などのSNS上ではスプラトゥーンの話題で持ちきりだった。筆者自身も、当初は特に興味がなかったのだが、あまりに楽しそうな様子に煽られて、新宿の家電量販店で見掛けた時につい購入してしまった。その時はまだ品薄であることを知らなかった。翌日に同じ店に行ったら、たくさん並んでいたソフトが見事に売り切れていた。

なぜこんなに売れ、大きな話題になっているのだろうか? それは、このゲームがオンライン対戦シューティングという、新参者がとっつきにくいジャンルに、新しい風を吹き込んだからだろう。

初心者でも楽しめる設定

オンラインでユーザー同士が対戦するゲームは、ゲーム業界の中で大きな市場ではあるものの、いわゆる熟練した「ガチ」なプレイヤーが多く、新参者が少し興味をもって参戦しても、いいように弄ばれてしまいゲームを楽しめないことがあった。

もちろん、スプラトゥーンもオンライン対戦型なので、これまでこの手のゲームをやり慣れた人が有利であることは言うまでもない。一方で、相手に照準を合わせることすらままならないプレイヤーでも、スプラトゥーンであれば、手探りなりに楽しむことができる。

それはなぜか。メインモードである「ナワバリバトル」を前提に説明していきたいと思う。

■新参者にも入りやすい設定

スプラトゥーンが新参者にとって入り込みやすい理由は、ゲームデザインとして「床を塗っていればチームの勝利に貢献できる」ということが明確だからだ。

スプラトゥーンはその派手な色合いが多くの人を引き付けているが、その色は決して見てくれだけのために派手なのではない。派手に塗りまくられたインクの色は、ゲームの勝敗を決定する最も重要な要素なのである。

ナワバリバトルはオンラインでランダムに選ばれた仲間4人で組み、同じくランダムに選ばれた4人の相手と3分間戦い、最終的に多くの床面積を自分の色に塗ったチームが勝ちというルールだ。だから闇雲にインクをばらまいていても、少しずつ勝利に近づくことになる。やはり武器を撃つゲームをプレイするからにはガンガン撃ちまくりたいものだ。その要望通り、プレイヤーはガンガンとインクをばらまきながら前線に進んでいくから、とても爽快だ。

そして、ゲーム終了後に得られるポイントも、床を自分のチームの色に塗った面積で決定され、相手を倒した数や倒された数はポイントにならず、隅に小さく表示されるのみである。このことからナワバリバトルでは、何も考えずに気持ちいいままに床を塗っていた新参者のほうが、高いポイントを得やすいのである。

では、オンライン対戦ゲームの醍醐味である、他プレイヤーとの攻防は不要なのか? もちろんそんなことはない。敵を倒せば相手の侵攻を止められ、相手の色に染まった床を一気に塗り返すことができる。

武器から発射されるインクは、床を自分チームの色に塗るためのものであると同時に、相手を倒すための弾丸でもある。次々に床を塗りながら先に進んでいれば、いずれ敵と遭遇する。その時、目の前には相手の色に塗られた床が見える。新参者であっても床のインクの色を見れば、パッと見た目で「ここから先は相手の陣地。いつ攻撃されるかもしれない」という心構えをもって進むことができる。

有利不利が一目瞭然

プレイヤーは自分のチームの色に塗られた床の上であれば、軽快に動きながら武器を撃つこともできるし、イカに変身してインクの中を高速移動しながらインクの補充もできる。しかし、相手の色に塗られた床の上では、ダメージを受け、動きも鈍り、イカになっても何もできない。いくら百戦錬磨のプレイヤーであっても、相手チーム色の床の上では「まな板の鯉ならぬ、まな板のイカ」である。

■初心者にもわかりやすいルール

そんな床の色は、手元のWii U GamePadに全体図がリアルタイムで表示されている。これを見れば今、味方が有利なのか不利なのかがすぐにわかる。また相手の色が増えている場所があれば、その付近に相手がいることもわかる。床の色によって有利不利が明確になるから、初心者でも行動の指針を決めやすいのだ。

初心者も、プレイするたびに、やがて敵を倒せるようになり、効率的に床を塗りながら同時に相手の侵攻を食い止められるようになる。こうなれば初心者は卒業だ。

筆者も何度となくプレイしているが、極めて直感的に状況が把握でき、勝つにせよ負けるにせよ、あまり理不尽な感じがせず、プレイ相手に対する怒りとかがあまり湧かず、快適にプレイできている。

そんな楽しいスプラトゥーンではあるが、その人気は当分安泰なのだろうか? 筆者はそうでもないだろうと考えている。

まず問題になってくるのは、これはスプラトゥーンに限ったことではないが、時間が経てば経つほど、慣れたプレイヤーと新参のプレイヤーの差が生まれてくる。

今はまだ、初心者が多く入り込んでいる状況で、わいわい楽しく遊んでいる。しかし、徐々に上手い人が出てきて、初心者が入り込めない壁が生まれてくる。

プレイヤーのランク付けや、ガチバトルなどの別要素に対する振り分けで多少は緩和できるものの、対人戦である以上は腕前による格差から完全に逃れることはできない。夏頃には「初心者お断り」なゲームになっていても、決しておかしくはない。

■初の大型イベントは問題発生

そして筆者が、今後のスプラトゥーンにとって、最も重大な問題だと考えるのが、6月13日から6月14日の24時間を費やして行われた「フェス」が失敗したことだろう。フェスとはユーザーが2つのチームに分かれ、勝敗を決める期間限定のイベントだ。このときは、朝食について「ごはん派」と「パン派」に分かれる勝負となった。

スプラトゥーン始まって以来、初の大型イベントとして期待されたフェスであったが、開始直後から混雑しすぎたり、ごはん派に人数が偏ったりしたことにより、ごはん派の人はマッチングが成立するまで待たされるなどの問題が発生した。

問題はほかにも……次回に期待すること

しかし、筆者自身はそうした不可抗力による不具合や、人数の偏りはさほど問題視していない。最大の問題はフェスによる新しいゲーム体験がまたく提供されなかったということだ。

ごはん派とパン派がそれぞれチームを組んで相手と戦うという新機軸はあったものの、結局は味方も対戦相手も、たくさんいるごはん派、パン派の中からランダムで組まれるのであり、そのゲーム体験は普通のナワバリバトルそのものでしかなかった。

また、フェス中は別モードであるガチバトルがプレイできないために、結局はみんながいつものナワバリバトルをプレイすることを余儀なくされた。画面上は、ゲーム上に登場するアイドルユニットの「シオカラーズ」が踊り、画面にたくさんのユーザーが自分を模して作ったキャラクターの「Mii」をネットワークでつなげる「ミーバース(Miiverse)」の投稿絵が並んで、平時とは違う盛り上がりを見せたのだが、筆者個人は「早くフェスおわんねーかな」という心情でいっぱいだった。

フェス中のゲームがナワバリバトルとまったく同じで、特別な何かをまったくといっていいほど用意していなかったというのは、完全に運営上の失態だろう。ナワバリバトルが面白くないわけではないが、せいぜい一日のこと、せめて武器が両チームとも固定であるとか、もしくは特別なアイテムが出るとか、たとえゲームバランスを崩すような事があったとしても、ゲーム内容そのものに関わるような、普段のゲーム性とはまったく異なる、特別な体験が欲しかったのは、いちユーザーとしての感想でもある。

■2回目のフェスが開催されるも…

本稿を書いている時点で、東洋水産とのコラボレーションで「赤いきつね vs. 緑のたぬき」のフェスが行われている。多くのユーザーを困らせたマッチングの問題は解消されたが、筆者の懸念である新たなゲーム体験が得られないということについては、前回と何も変わらないようだ。

ぜひとも挽回を期待したいのだが、今のところプラトゥーンには課金要素はなく、パッケージ売り切りの金額設定である。現時点で発売後半年ほどのアップデートが予定されているものの、課金要素がないということは、あらかじめ設定されたアップデート以上のサービス提供は期待できないということでもある。

過去の人気シリーズのナンバリングタイトル頼みの印象が強いWii Uに、久しぶりに現れた注目の新ソフトだ。ゲーム好きとして、今の人気のままで終わることなく、もう一歩突き抜けてほしいと願っている。