【同人誌、ボカロにも影響?】妥結直前のTPP知財条項について徹底解説(全文文字起こし前編) | ニコニコニュース

TPP交渉合意のカギを握るアメリカのTPA=貿易促進権限法案が6月29日、署名され、正式に成立された。この結果、TPP妥結に向けて、日本とアメリカ、そして参加12カ国の合意が一気に進むことが予想される。

コメなどの農作物や自動車の関税ばかりが報道されるTPP問題だが、その中で大手メディアでは詳しく報じられないTPPによる知的財産権の問題。

TPP妥結で、同人誌、ボカロといった二次創作の活動が制限される恐れがある中、今回は実際に、当事者である漫画家やボカロPの方を迎えて、TPPの知財条項について伺った。後編はこちら

【出演】


司会:津田大介(ジャーナリスト・メディアアクティビスト):司会
ゲスト:福井健策(骨董通り法律事務所 弁護士)
中村伊知哉(慶應義塾大学メディアデザイン研究科 教授)
甲斐顕一(ドワンゴ会長室室長)
有馬啓太郎(漫画家)
黒田亜津(ボカロP)
大久保ゆう(青空文庫)※メッセージでの出演

【同人誌、ボカロにも影響?】妥結直前のTPP知財条項について徹底解説 - ニコニコ生放送

二次創作っていうのは、どういうこと?


津田:今日は、「ボカロも影響?TPP知財条項について徹底解説」と題しまして、TPPの中の知的財産条項に関する緊急生放送をお送りします。なぜこのタイミングで、緊急生放送をやるのかというと、先日、TPP交渉の大きなカギを握るアメリカのTPA法案が出たんですね。これは、大統領貿易促進権限、通称ファスト・トラックなんて言われるんですけど。

TPPの中の、農業とか、保険とか、医療とか、知財とか、著作権とか色々揉めていたんですが、特に日米で揉めていたのが、知的財産著作権。コンテンツ周りのものだったんですが、どうやらそこも妥結をするんじゃないかという観測が出てきており、なぜこのTPA法案がここまで騒がれているのかというところから、本当にTPPってどうなるのかと。

TPPを日本が妥結したら、ボカロ、ニコ生、同人誌、コミケ、そういうものが大きく影響受けるかもしれないということで、その辺りが実際にどうなるのか。問題点、懸念点、そしてそれに対する反対声明をしたい人はするということも含めて、きちんと考える。ニコ生だからこそやらなければいけない番組だということで、緊急生放送をしております。

加えて、今日は実際に創作活動をされているクリエイターの方々をお迎えして、知的財産条項が、実際どのような影響を与えるのか。こちらの方も一緒に考えていきたいと思います。

津田:まず、TPPが日本とアメリカで妥結したら、日本のニコ生業界、同人業界、ボカロ業界、色んな業界ありますけども。

福井:ニコ生業界って業界なの(笑)

津田:色々あります。まあ、二次創作っていうのは、どういうことかということも含めてですね、最初に福井さんに、短い時間で恐縮なんですけれども、出来るだけわかりやすく解説していただければと思います。

福井:本当に短くて、解説するたびに短くなってますけど、今日は10分ですよ。10分でTPPの著作権問題を説明しろというんで。

津田:いつも大体1時間ぐらいでやってますもんね(笑)

福井:帰ろうかと思いましたよ(笑)はい、ではいきましょう。それではみなさん、いつものおトイレタイムですけれども、TPP知財の米国要求というパネルからいきましょうかね。

TPP、これは様々な分野の国内制度を変えろということを中で交渉しているわけですけども、その中でも、著作権などの知的財産権が最大の難航分野であると。ひょっとしたら、これで(TPP)が流れるかもしれないと最近まで言われていたことは、随分知られるようになってきました。

内容は、米国が各国に対して、米国型のルールに揃えて、著作権などを強化しろということを要求し、各国がそれに反発するという構図です。なんで米国がそこに力を入れるかというと、ITや知財、コンテンツの分野っていうのが、米国最大の輸出産業だからです。

直近の数字も、紹介するたびに増えていきますけれども、2013年は、なんと15.6兆円という驚異的な外貨を使用料だけ、いわゆる印税的なものだけで稼ぎだしていますね。儲けはもっとすごく大きいですよ。で、それも大幅な黒字です。

(交渉)内容は、ウィキリークスなどを通じて、米国が何を要求しているかは大体分かっております。非常に長いリストになっていますけれども、今日は時間の都合で2つだけ紹介することにしましょう。

1つ目です。著作権には保護期間というものがありますけど、これを大幅に延長しろって言うんですね。著作権は著作者の生きている間、全部。それからその死後50年間は守られて、それから先は誰でも自由に使うことができる。いわば、社会の共有財産になるわけですよね。しかしながら、欧米はこれを90年代に一律で20年延長しました。その結果、死後70年になります。

それから、他国に対しても「延ばせ、延ばせ」という風に要求するんですね。なんで、要求するかといえば、他国で(著作権)が延びていれば、例えば、ミッキーマウスの寿命もそれだけ長くなる。ということは、著作権収入・権利収入を他国からもドンドン取れるから。お金だけじゃなく、大きな力を発揮できるからということです。

日本でも2006年頃から激論になったんだけれども、その頃には反対論も強くて、延長というよりは、見送られております。その時、どんなことが危惧されたかというと、例えば、延ばしたところで、死後50年も経てば、はるか前にほとんどの作品というのは、残念ながら市場から姿を消している。つまり売られていない。

売られていないものの権利をいくら延ばしたところで、遺族の収入なんか増えやしない。後で紹介するけど、単に使えなくなるだけで、こんなことをやっても意味が無い。ごく一部のディズニーみたいな企業が潤うだけなんだ。

津田:みんなよく言ってましたよね。「ディズニーの著作権だけ永久に保護するから、他は放っておいてくれよ」って話もあります。

福井:それはそれで、どんな世界なんだって気がしますけどね(笑)でも、「それでいいじゃないか」って意見が出るぐらい、ごく一部の権利者しか受益しないということは言われたわけですよ。

2つ目に言われたことは、大体死後50年も経つと、権利っていうのは、死後相続されて、相続人全員の共有になるんだけれども、死後50年といったら、さらにもう1代ぐらい相続されてますから、権利関係がすごい複雑になってくる。権利者が見つからないなんてのはザラにあるわけですよね。

津田:今コメントでね「データあるんですか?」ってあったんですけど、あるんですよ。我々が作ったthinkcというホームページがあって、そこに色んな文献があります。そして、文献へのリンクのデータが膨大にあるので、是非!見てください!

福井:ものすごい力入りましたね。

津田:そうですね。我々が頑張って作ったものですからね。

福井:作りましたね。懐かしくて遠い目になっちゃいますけどね。確かに、本の寿命なんていって、現役朝日新聞記者の丹治さんという方がね。

津田:丹治さんと言ってもあまり分からないですけど、ボカロ記者で。

福井:朝Pですか。

津田:朝Pっていうので、朝日新聞のボカロ厨ですごい有名な。気合が入りすぎちゃった初音ミクが好き過ぎる動画を、朝日新聞のデジタル状で公開して「これはちょっとやりすぎだろ」って言われた人です。

福井:これ以上、的確な説明はないですね。で、そんな風に古い作品っていうのは、権利関係が複雑になっちゃう。ということは、権利者が見つからない。見つからないってことはどういうことか。許可が取れない。売られてないのに、電子図書館で公開しようとしても、許可も取れない。要するに、忘れ去られるだけだろうと。こんなの誰にメリットがあるんだということも言われています。

3つ目、コンテンツの国際収支がアツイ。アメリカと違って日本は、著作権の使用料、いわゆる国際収支は真っ赤っ赤の大赤字なんですよ。年間どのぐらいのお金が海外に流出しているかというと、収支差額で8000億円の赤字です。すさまじいんですよね。それほど、海外、特に北米に著作権の使用料を献上している。延ばしたら、これが当然増えるわけですよ。これをどうするんだということも言われている。

当然ながら、青空文庫に直結影響が出るわけですよ。向こう20年延長されてしまったら、今後20年間新たに著作権が切れる作品っていうのはないわけだから、青空文庫上で発表できるように。世界の人々に向かって発信できる作品が減っていくということが言われている。

もう1つ、TPPで大きな論争になったのは、非親告罪です。ただし、これは、ほとんど日本でだけ大きな論争になっています。何かというと、著作権侵害というのは、刑事罰があるんですね。犯罪なんです。最高で懲役10年、あるいは1000万円以下の罰金という、国際的に見ても、重い法定刑が科されている。しかしこれは、親告罪なんです。権利者が悪質だと思って、告訴をしない限りは起訴・処罰をすることはできない。

これで、このあと出てくるでしょうけど、うまいバランスが取られて、「このぐらいは、まあいいじゃないか。問題視するまでじゃないよ」と思って、権利者が刑事告訴までしなければできてしまう。

津田:YouTubeなんかで勝手にアップされているけれども、「宣伝になるからいいや」と著作者が判断すれば、お咎めが無かったわけですよね。

福井:MAD動画なんかもそうですよね。宣伝になるとまでは思わなくても、取り締まるってほどじゃないよと。そこまでじゃないよってことが、うまく共存できてた。

津田:これが非親告罪化すると、別の人が「あれ?これ、勝手に人の権利が侵害されてるんじゃないか」っていうのを、まさに「通報しますか」ってなる。関係ない人が通報したことによって、著作者は「まあいいか」と思っていても、逮捕される可能性が出てくるってことですよね。

福井:まあ、そういうことなんですよね。これからは、権利者が悪質だと思っても、告訴をしていない時でも、警察が起訴処罰できることになるわけ。そうすると、第三者通報があっただけでも、問題視されちゃうかもしれない。

津田:これもう、ニコ生終了のお知らせじゃないですか。ニコ動もニコ生も(笑)でも、そういうことが今日の論点の1つであるってことですよね。

福井:実際ね、自粛が広がるのが恐いですよね。現に、起訴処罰化される問題以前に、通報されるのは恐いから、ガイドラインを作って、やめちゃおうとか、抑えちゃおうっていう萎縮は十分有り得ると思いますよ。

津田:なるほど。

福井:それで何が影響を受けるかって話になると、例えば、パロディなんかが影響受けやすい。(画面にドラえもんそっくりのイラスト)

津田:大丈夫ですか?許諾取ってなかったら、我々がみんなで通報する時ですよ。

福井:引用でございます。

津田:これは適法な引用ですね。でも、これ本物ドラえもんじゃないですよね。下に、書いてあるから。田嶋・T・安恵って。

福井:これはネット上でも、かなり話題になったので、ご紹介しておくと、いわゆるパロディ同人漫画ですよ。ネット上では非常に評価が高かった。

津田:出来が良すぎちゃって、ネットで拡散されすぎちゃって、そこから裁判に…みたいな。

福井:ネットだけなら、まだよかったかもしれないけど、これは常設展で販売して、確か600万以上、売り上げてます。で、やり過ぎとみられると叩かれるっていうのは、これまでもあったんです。ただ、やり過ぎとみられないものが、共存できていく。ある種の阿吽の間合いもあったんです。こんな風に問題視されるものは少数派だった。

津田:そのバランスがTPPで変わる可能性が出てくるってことですよね?

福井:権利者がそこまで問題視していなくても、起訴処罰されるかもしれない。そのために、バランスが崩れる。二次創作文化の良い部分っていうのは、グレーなバランスの中で生きてきたので、少なくとも大幅な見直しを迫られるかもしれないってことを言われたわけです。

で、これらのメニューについて、最近の報道によれば、TPP交渉は、非親告罪化もその方向で調整しているとNHKが伝えていました。報告機関も、死後70年受け入れの方向で調整しているということが言われた。

政府はそのたびに「誤報だよ」とは言うんだけれども、何度も何度も同じような報道が繰り返されるし、どうも交渉の方向性が覆うべくもないかなという状況になってきている。こういう中にあって、さっき津田さんも言ったように、ちょっと冷静になって考えようと。

TPP自体に反対というわけではない。でも、交渉の内容が秘密過ぎるから、もうちょっと公開してくれ。みんなに考えさせてくれ、みんなの意見も言わせてくれ。もし、それが出来ないんだったら、知的財産みたいな柔軟性が必要な分野は、TPP交渉から出来るだけ降ろしてくれ、落としてくれということを提言した。

クリエイティブ・コモンズ・ジャパンや、thinkCなどの連盟で、こういう提言を出したり、シンポジウムなどを開催したところ、非常に多くの団体が賛同し、共同声明を出してくれるに至りました。

ただ、ここにきて、アメリカでちょっと気になる動きがありました。TPAっていうのを、新聞なんかでご覧になっているかと思いますけど、実はTPP交渉は妥結直前と言われていながら、しばらく止まってたんです。

なんでかっていうと、アメリカの議会待ちだった。アメリカの議会で、いわゆる貿易促進権限と言われる、強い交渉権限を大統領に与える法案が、議会に通るかどうか、極めて微妙だったんです。一時は絶望って言われたんですね。それが、このTPAという法案なんです。

詳しい話は飛ばしますけれども、要するに、議会の条文ごとの承認まで受けなくても、大統領の権限で、条約については、かなりフレキシブルに交渉して。最後に一括してイエスかノーかで議会は承認してくださいっていう議会の承認の取り方が出来る権限を与えることになっています。

これが出来るとTPP交渉は、あとは一気に妥結にいくだけだということが言われていた。でも通るかどうか微妙だ。7月末までに何とか通ると話していたところ、先日一気にこれが可決成立してしまった。

津田:なんで通ったんですかね?

福井:米国内では、共和党などは自由貿易には大賛成で、出来れば通したい。一方で、TPPのような自由貿易には、米国内にも反対意見がある。労働者が海外の安価な労働力に流入することなどによって仕事を奪われてしまう。だから、労働者保護をもっとやってくれと。労働者保護をやってくれと言われると、共和党なんかは二の足を踏むわけなんです。

随分、紆余曲折あったけれども、共和党、民主党の間の話し合いがついたような形になって、この法案を通しましょうよと。ということで、一気にTPP可決となると、さっき挙げた保護期間延長や非親告罪が通っちゃうのかなっていうのが、直近の情勢ということになると思います。

津田:なるほど。分かりやすい説明ありがとうございました。(中村)伊知哉さんに伺いたいんですけれど、日本のコンテンツの輸出入も含めて、相当影響を受けそうなんですけれども、TPPの条件が向こうから突きつけられてきた時に、向こうのコンテンツ業界の反応、もしくは政府っていうのはどういう方針だったんですかね?

中村:この件を、政府で何度もちゃんと議論しなきゃいけないじゃないかっていう声は、産業界からもユーザの方々からもあったんで、政府にどんどん意見として出してたんですけども、交渉中だし、情報が出てこないから、「ちょっと待っててくださいよ」ってことで、今日まで来てるんですね。

津田:なるほど。ずっと待っててくださいよのままなんですね?

中村:そうなんです。先週の金曜日に政府の知財計画っていうのが、官邸で会議があって決まりました。そこでTPPについて書いてあるんです。簡単に読み上げると、「TPP協定については、産業界を始めとした関係者の意見を踏まえつつ、国益にかなう最善の結果を追求する」となっていて、要するになんにも言ってないんですよ。

「どうなるかわからないから、それからだよね」っていうところで来ましたと。オバマさんが頑張っちゃって、今回TPPが通るってことになると、一気にザッと行くかもしれないねってことで、もしこれで政府が妥結して、国内に帰ってきちゃったら、どうするかって、そういう場面になるんだろうと思います。

津田:そういう意味じゃ、コンテンツ業界、政府の一部の人間しかこの問題に関わって来れなかったというのが、ずっとTPPで問題視されてきた秘密交渉っていう部分でもあって。クリエイターが意見を表明したり、対案作りみたいなものに全く参加できない状況だったということがあるわけですね。

中村:農業の話だと農家が大変だって言って「反対!」という一辺倒なんですけども、知財の問題って権利者もあれば、ユーザもあって、意見の調整がそもそも難しい状態だったから、「こうだよね」って意見がはっきりしていなかったところもあって、国内的にも盛り上がりが欠けていたこともあったんだけども。クリエイターやネットユーザへの影響は


津田:ということで、ここまで基礎知識の部分と、我々が今置かれている状況というのを確認したんですけれど、ここからは実際のクリエイターやインターネットユーザにどういう影響があるのか。こちらを考えていきたいと思います。

まず、同人作家の立場から有馬さんにお伺いしたいんですけど、今どんな活動をされているのかっていうことと、TPPが入ったことによって、一番大きいのが非親告罪化かなと思うんですけど、そこにどんな影響があると考えられますか?

有馬:およそ20年近く同人誌を作っておりまして、その中では、オリジナルの作品もあれば、今言っているように二次創作の作品とかも、ずっと作り続けております。その中で、実際に漫画雑誌でデビューして、自分の作品もコンテンツとして持っていますし、それ自体が二次創作された経験も持っております(笑)

最近では、大学で講師をやっておりまして、若い人達が、今どういう風に考えているのか。そういうのを身近で見たりしています。実際のところ、僕が周りを見たり、ネットの話を見ていてですが、基本的にどうなるのか分からないってところが、一般的な感覚なんじゃないかなと。

津田:漠然とした不安感みたいなものが、広がっているということですかね?

有馬:それは当然そうです。ただ、文章とか漫画を書いたりする人間ってある程度、自分達で考えて、話を出していこうってところもありますので、状況が分からないとそこに対してあまり物事を言おうとしないんですよ。

だから、そのせいもあって、実際に起こったら恐いよねってところで、ちゃんと声が上がっているものの、実際にどうなるのかというのは、具体的に想像できない部分が多いので、そのせいで盛り上がっていない感じがあるんだろうかなと思っています。

津田:そもそも論に戻ると、二次創作、特に漫画っていうのは、作品の世界観を広げていくうえでも、一種の共生関係のようなね。オリジナル作品と二次創作の作品で、ファンは増えていく。また、雑誌ではないところで、漫画家、クリエイターが育っていく場所としてのコミケ・同人市場っていうのがあったと思うんですけど、その他ではいかがですかね?

有馬:僕自身も二次創作をさせていただくことによって、創作者としての自分のレベルをあげる訓練になったとは思っています。ただ同時に、よく言われてるパターンですけど、ありとあらゆる創作物って、基本的に、こういうパターンがあって、それを覚えて、それをもとに物を発表していって作り上げていく。レベルアップしていくための共存パターン だと思うんですけど。

津田:創作のサイクルみたいなものがあるわけですね。

有馬:はい。そのための場として、コミケというのが機能してましたし、最近でしたら、pixivですとか、そういったネット上で二次創作のものを発表して、評価をされるっていうことが、クリエイター達のレベルアップの場にもなっていっているという現状はあると思います。

津田:そういう意味では、TPPで自分たちの創作環境は変わってしまうのかなみたいなもので、福井さんに質問したいこととかありますか?ここがこうなったら、恐いんですけどみたいな。

有馬:正直な話、僕だけだったら、そこまで恐いなんて思ってません。

津田:ある程度のエスタブリッシュもされてきているので、別に大丈夫だと。

福井:なにを聞いてるんですか(笑)下の世代を慮っての発言だと思うんですけど。

有馬:そういうんじゃなくって。

福井:違うんですか!?

有馬:どちらかというと、創作すること自体に関しては、やり続けるよってのは変わらないと思うんですよ。

津田:例え、牢屋に入ってもモノを作ると。

有馬:牢屋に…。って言われた時に、「やっぱりそれは…」ってなっちゃうのが、最大の

津田:そういう意味で言うと、もし非親告罪化が入った時に、日本って実は親告罪であるけれども、著作権法の罰則がどんどん厳しくなっていったじゃないですか。世界から見ても、著作権侵害をした時の罪がすごく思いっていうのが日本でもあったわけですけど、それに非親告罪が組み合わさった時に、ちょっと踏み越えてでも、逮捕されてもいいけど、グレーなところで表現するんだっていう人のリスクってどうなるのかなって。気になるところなんですけど。

福井:日本は確かに、法定刑はやたら重いんですよね。さっきも言った通り、最高で懲役10年でしょ。これって比較で言うと、大麻の単純所持とか営利目的譲渡の法定刑よりも重いわけですよ。つまり日本では、路上でマリファナを売るよりも、著作権侵害のほうが法定刑は重いんですよ。

みなさんの中で、路上でマリファナを売ったことある方、画面の向こうどのぐらいいらっしゃいますか?

津田:アンケートを取ってみましょう。

一同:(笑)

福井:でも、著作権侵害を無い方、この中に1人もいらっしゃいません。全員やってるんです。それが法定刑が最高懲役10年というのは、すごく意味が重いんですね。普通そこに、何らかのセーフガードがあります。

例えば、日本みたいに親告罪にすることで、現実には重大なもの以外はほとんど起訴処罰されない。たまに「なんでそれが?」みたいなものが問題視されることもあるけども、これがセーフガード。あるいはアメリカみたいに、フェア・ユースっていう規定があるとかね。そういういくつかのセーフガードが働いて、なんとかバランスをとっている。

津田:記事を引用したりするのも、セーフガードの1つですよね。

福井:いわゆる例外規定があるとかね。これもセーフガードの1つです。じゃあ、それが1個外れて来た時に、現実に起訴処罰された時、日本では10年とか入れられちゃうのかというと、それはあり得ません。

日本には現在、かなり悪質な海賊盤業者が逮捕されたという時でも、罰金刑で出てきちゃうことが多いぐらいですから。

津田:牢屋には入らない?

福井:処分が決まるまでは入ってますんで。何泊かはすることになるんで、執筆道具は持っていったほうがいいかもしれない。

津田:だからそれが、多分そこまでいくことは、可能性としてはそこまで高くはないだろうけれども、それが萎縮になるのかもしれない。

福井:おっしゃる通りで、やっぱり大きな問題は、それが例えば「事情を聞きたいから来てくれ」っていうだけでも、十分イヤじゃないですか。「通報するよ」って言われるだけでも、多分十分イヤですよ。

津田:粘着するアンチが出てきたら、相当めんどうくさいことになる可能性がありますよね。

福井:実感こもってますね。

津田:いやいや、大変ですよ。僕は、めっちゃ通報される可能性ありますからね。

福井:それで、さっき有馬さんの言葉の中にもあったけど「場が縮んでいく」ことが、恐らくこの場の本質論だと思います。一人一人の起訴処罰のリスク以上にね。

有馬:ネットですとか、色んなところで僕達に提供していただいている二次創作の場、あるいは創作の場。これを排斥しましょう。これはダメですと言われた時に、創作するためのパターンも減っていってしまうし、やり方も減っていってしまうし。

そういう多様性がないと、コンテンツの力が落ちていってしまう。そういうところがものすごく問題じゃないかなと思います。ニコニコのクリエイターはどう思う?ドワンゴの対応は?


津田:続いて、ボカロP。ニコニコのクリエイターの立場から、黒田亜津さんにお話を伺います。今までの説明とか議論を聞いていて、いかがでしたか?

黒田:今まで自分はTPPをそんなに勉強できていなかったところがあるので。

津田:大丈夫ですよ。日本人の99%が勉強してないと思うんで(笑)

黒田:いやいやいや、当事者になる立場ですから。疑問点は山のようにあります。

津田:この辺りが疑問だというのが、福井さんとかにもしあれば。

黒田:やはりニコニコのユーザとして、私はここに来てますので、ニコニコのことを中心に聞いていきたいんですけど、私が作ったボーカロイドの曲がありまして。曲自体はオリジナルなんですけど、「たすけてドラえもん」って題名で、動画に。

津田:ストレートですね。

黒田:私が描いたドラえもんの絵が動画になっているというものでして。逮捕されますかね?

福井:本質的な質問出ましたね(笑)

津田:さっき福井さん、ご覧になってましたよね?

福井:いや、唸りましたね。

津田:どこに?曲に?

福井:もうドラえもんですよね。

津田:ドラえもんの絵?

福井:極めてギリギリの線をついているというか。「ドラえもんか、これは!?」って言うね。

津田:ドラえもんと言えば、言えなくもないが。しかし、これはまた違うものではないかみたいな。

福井:やっぱり、すごく似てるから著作権侵害なんですよね。記号としてはドラえもんだと誰でも分かるんだけれども、それを越えて、具体的表現がドラえもんと似ていないといけない。

津田:画伯になれば、なるほど大丈夫そうですね。

福井:カラオケも、ある域を越えると、著作権侵害じゃないという域が来ますね。別の曲になっちゃってるから。

黒田:メロディがもう全然(笑)

津田:そんなことが起きるんですね(笑)

福井:新曲になっちゃってるから、著作権侵害じゃないって話になることがあるから。

黒田:じゃあ私は大丈夫ですね(笑)

福井:ギリギリの線ですよね、あれは。

津田:絵としてはそうだとして、「たすけてドラえもん」というタイトルに使うことは、著作権的にはどう考えればいいですかね。商標登録の話ですかね。

福井:具体的な作品でどんどん話が進んでいるのも、どうかと思うんですけれども。実を言うと、単なる名称だけの利用であれば著作権侵害にはならない。

津田:あっ!画像が出ました!でも、ドラえもんですよね?

黒田:でもこれは、何回も書き直して、結構上手に書けた…

福井:さっきまでアウトって言っていた人達が、画面上で、セーフって言い出してますよ(笑)

津田:でもこれは、ニコニコの曲で「たすけてドラえもん」って曲があった中で、作者が絵を描いて、動画のイメージをどうするかっていう時に、現実的に藤子スタジオが、何かしらの権利侵害だと言ってくる可能性が少なかったということでしょうね。

福井:そうはいいつつも、さっきの絵柄っていうのは、微妙なものはあるんですよ。ごく堅い話をすればね。でも、恐らくあの程度で問題視されることは、すごく少ないと思うですよ。だから、現に出来ていたし、たくさん再生されているわけですよね。

津田:まさにそこが、親告罪か非親告罪かということの大きいポイントでもあるわけですね。

福井:これに対して、例えば、すごく反感を持った人が通報する。「あれ、著作権侵害じゃないの?」って強く言われた時に、

黒田:それが心配です。

津田:黒田さんへ直接来るんじゃなくて、権利者の方に毎日連絡がいったり、「なんで逮捕しないんだ?」みたいなクレームがあるかもしれない。

福井:そう。警察に行くとかね。ドワンゴに来るっていうのが十分有り得る。その場を提供しているから「同罪でしょ?」って話に当然なってくる。

津田:さあ、甲斐さん、そういうことが起きた時に、ドワンゴはどう対処するんですか?

甲斐:そういうフリですか。用意していた原稿が吹っ飛びましたね(笑)そうですね、ドワンゴの立場っていうのは、3月の発表の時にもお話しましたけれども、二次創作の促進というのを、大きな目的に掲げさせていただいております。そのためには、一次創作者と二次創作者の信頼関係に基づいて、作品が提供されるべきだし、そのための場を、あるいはルールを自主的に作って、ニコニコ動画の中で自由に思いっきり作ってくださいって形で。

ニコニコ動画も広まってきましたし、その中から、優れたクリエイター、ボカロもそうですし、歌ってみたとか、既存のメディアだったら出て来れなかったような、クリエイターの才能のある方々が出て来れたと思うんですよ。

しかも、大きな問題もなく、あるいは、イヤだと。二次創作に使われるのはイヤだというものに関しては、削除もしていますし。自主的な形で成立しているものが、自主的な形に関係なく政治的な制裁を受けることがあり得る、そういう余地が増えてくる。

そういうことであれば、創作活動が萎縮してしまう。場が狭くなる。そういうことを我々は心配していますね。

津田:ドワンゴが、例えば、ニコニ・コモンズみたいな、自由に利用できるものの意思表示システムみたいなものをやることで、ユーザが安心して二次創作できる環境作りをやってきたと思うんですけど。そういうもので、ドワンゴが力を入れてきたところってなんですかね?

甲斐:色んなところで、色んなことをやっているので、一番と言われても、「これが一番」となかなか説明しづらいんですけども。やっぱりベースが動画であったり、音楽であったり、映像であったりすれば、既存の権利者、特に大きな企業の方々に、こういう場で二次創作を作るということは、実は一次創作者にとってもプラスがあります。「作品が広がるし、プラスなんですよ。マイナスではないんですよ」ということを説明するのには、非常に力を入れてますね。

津田:伊知哉さんね、ドワンゴとかニコニコ動画ってのが出てきて、最初の頃はYouTubeが出てきた頃と同じように、著作権侵害なものとかもたくさんあったし、単なるネットコピーみたいなコンテンツがある中で、初音ミク、ボカロみたいなものが新しく出てきて。ニコ動ならではの新しいコンテンツが出てきた。

でも、著作権的にはクロとかグレーに近いものがある中で、JASRACがいち早く包括契約をして、国のコンテンツ制作でも、虚空の空間をちゃんと白いものにしていこうと。国のほうもちゃんとやっていった部分があったと思うんですけど。ニコ動も随分歴史がありますけど、この10年のニコ動の発展と、政府のコンテンツ制作との関わりってどうご覧になってます?

中村:知財本部に川上さんが座ってるぐらいですからね。いい国なんだと思いますよ。大人なんだと思いますよ。権利があって、義務があって、そこでビジネスをやるっていう時に、本当はマズイだけど、全体が大きくなるよなってことを、大体みんなが理解した上で。

津田:かなりラジカルにそこは認めてきたことだと。

中村:プロレス的にやってきたと思うんですよね。阿吽の呼吸で。それがニコニコ動画だとか、コミケだとか、ボカロのような、世界には無い日本が誇るべき文化であり、またそれを産業としてやっとここまで成長してきた。

だからこそ、今の著作権制度っていうのも、日本の生態系っていうのがあって。「50年、70年にしましょうよ」って議論もかつてあったけども、「日本はこれでいいんじゃないの」ってひとまず決着をしているわけですよね。

そこでTPPっていうのは「アメリカのものにしようよ」と言って来ているだけの話なので、生態系を壊されることは間違いないと思うわけです。もしも仮に、これで妥結してしまったとしたらどうするか。あるいはその前に、我々が上げるべき声はなんなのかっていうのがギリギリ場面であるから。ここでちゃんと声を出さなきゃいけないだろうと、僕は思いますけどね。

津田:福井さんいかがですか?

福井:まさにさっき伊知哉さんがおっしゃった「阿吽の呼吸」ね。あるいは、津田さんが言った包括契約って、何かっていうと。さっき名前の出た「歌ってみた」「踊ってみた」があるじゃないですか。本当に花盛りですよね。「あれは著作権侵害じゃないか?」って思う方もいるかもしれないけど、実はドワンゴとか、そういう動画の投稿サイトっていうのは、JASRACなどの団体と年間契約を結んでいるんですよ。

だから、みんなが歌っても、実は著作権の処理は、ドワンゴが済ませてるって形になってる。音楽の著作権に関しては大丈夫なんですね。でも「完全に白いですか?」というと、そうではなくて、実はそこで使われている演奏の音源。この音源には、著作隣接権という別の権利が働く。この部分というのは、ほぼほぼ未処理。未処理の部分が、まだかなり大きいわけですね。つまり、若干の違法みたいなものが入り込みやすいわけです。でもそこは、おっしゃったみたいに阿吽の呼吸で、やり過ぎたら叩かれるけど、このぐらいは迷惑じゃないかなっていうところを、うまく見切りながらやってきた。

これは考えようによっては、世界最先端のすごく洗練された知財のシステムとも言えたわけですよね。もちろん欠点もたくさんあるけど。米でグレーゾーンから新しいコンテンツが育たなかった理由


津田:これは逆に伺うと、最初の福井さんの説明であった「アメリカは超コンテンツ大国である」と。で、アメリカの中から、こういう日本のような、グレーゾーンから新しいコンテンツが育たなかったのはどうしてなんですか?

中村:弁護士のせいじゃないですか?

福井:今のナイショ話になってないですよ(笑)

津田:TPPで弁護士が儲かるんじゃないかみたいな話になりましたけどね。

福井:アメリカは弁護士が125万人いますから。信じられないでしょ。人口比でいったら、日本の歯医者とお医者さんを全部合わせたよりも、アメリカには弁護士が多いんですよ。

津田:日本ってどれぐらいですか?

福井:日本なんて、3~4万人ぐらいかな。人口比で15倍違いますから。全然違います。それで、言ってみればアメリカからもグレー領域を生かした作品が生まれているかもしれないけど、確かにそんなに目立っていない。

その代わり、フェア・ユースっていう書かれた法律の例外規定を駆使し、弁護士にも相談したり、問題があるなら裁判で白黒つけましょうかと。つまり全然違う生態系で、彼らは彼らなりにおもしろい作品を生み出してきた。問題は、彼らのやり方と我々のやり方は、これまで全く違っていて、それぞれに良さがあったと。

津田:だけれども、TPPというアメリカのルールに沿うことによって、その道筋は随分変わってしまう危険性が。

福井:「アメリカ型になればいいじゃないか」っていう方がいる。「フェア・ユースを入れれば全部解決だ」みたいな議論すらある。私も導入には賛成だけれど、そんなものを日本人が使いこなせるようになるのは、まず10年はかかる。

甲斐:フェア・ユースは言ってきてないわけですよね。

福井:アメリカが自国の制度の中で、輸出しようとしないただ唯一のルールがこのフェア・ユース。他国に自分の作品を自由に使われるのは、別に嬉しくないですからね。

津田:質問がいくつかメールで来ています。「非親告罪に関して質問があります。インターネット上にある本の感想とかネタバレなどを載せているブログやまとめサイトがあります。あれは、著作権の非親告罪の対象になるのでしょうか?」

福井:もっと典型的なのは、ニュース記事のコピペですかね。あんなのは、現行法上、著作権侵害がほとんどだし、引用には当たらないものがほとんどだし、非親告罪化にはストレートに当たりますよね。首を洗って待っててください。

津田:「ゲーム実況などはどうですか?」って質問があります。

福井:ゲーム実況もどちらかと言えば、暗黙の了解で許されることが多いですよね。ゲーム画面、あれは映画の著作物に当たることが多い。それが公衆送信されているわけですから。つまり理論上は著作権侵害ですが、じゃあ、ゲームメーカーが迷惑がっているかっていうと。

津田:ゲームメーカーが積極的に「OKだよ」と許可を出してますけれども、許可を出しているってことは、つまり無断でやったらアウトってことなわけですよね。

福井:任天堂みたいに明瞭に許可を出すところもあるけれども、暗黙の了解でやっているところもある。そうすると、そういう部分なんかは、形式上違法です。

津田:これはゲーム実況の生主、大変なことになりますよ。

黒田:あ~、ゲーム実況大好きなのに~。どうしよ~。

福井:今、パネリストの立場、離れましたよね。

黒田:私はニコニコユーザとしての立場で…。

福井:あ~そうか!ニコニコユーザだった。

黒田:ゲーム実況が大好きです。

福井:それでさっきのネタバレとか、何かのストーリーを書いちゃうというのは、程度問題です。梗概なんて言いますけど、ごく短いものであれば、現行法上でも大丈夫です。

しかし、ある程度の長さのストーリーを再現するとなると、あるいは、具体的なセリフをかなり再現しているってことになると、現行法でも著作権侵害。形式上はそうなる。これまでは大したことないから「まあいいよ」で済んでいたものが、これからは、より摘発の対象になりやすいかもしれない。

津田:甲斐さん、今こういう状況になってきた時に、ドワンゴとしてはどういう形で対処していきたいと考えているでしょうか?

甲斐:まだはっきり分からない今の状況の中では、特にネットのクリエイターっていうのは、自分たちの意見を表明したり、コメントを出すってことがなかなか出来ない方々が多いので、声を代弁するような形で意見を言うこと。

まさに、この生放送もそうですけども、場を提供することで、色々交渉されている方々、あるいは検討されているトップの方々に、声を届けていきたいっていうのが、まず第一ですよね。

津田:今コメントで「引用ならいいでしょ」っていうのがありました。そうなんですけれども、引用と二次創作というのが意外とごっちゃになっている例がネットにもあるんですよね。引用ってOKなんだけど、引用が認められるのって、狭い条件というか、制約があるというか。

福井:引用にはもちろんそれなりに厳しい制約があって、主従関係とか出典の明示とかあるんだけれども。

津田:文字だったらすごい分かりやすいじゃないですか。例えば、引用するのは一部分で、5行を引用したら、10行以上それに対する論評が入るみたいなのが分かりやすく示せると思うんですけど。これでもまさに今日の話で、ニコ動になってくるとメチャクチャじゃないですか。音もあれば、絵もあれば、色んなものが、まさにマルチメディアになってきて、ここもじゃあ、引用とか二次創作のラインって相当高くなるんですよね。

福井:そもそも裁判例が動揺してますから。かつての最高裁判例の基準一本でやれっていう時代じゃないから。実を言うと研究者だって、「1分で説明してください」って言われて、説明できないぐらい、今、基準は動揺してます。

そういう中で、さっき例えば、いくつかの画像を引用的に使ったわけじゃないですか。我々はこれぐらい出来るって言って、セルフリスクでね、最後はドワンゴがお尻持ってくれるだろうという期待に基づいてやっているわけです。

津田:持ってくれるかな~(笑)

福井:こういうのが「場」ですよね。場の力ですよね。じゃあ、これができなくなったらどうなるかというと、確実に放送がつまらなくなるわけです。

津田:あー、そうか。

福井:一歩踏み出すことがやりにくくなるところに問題がある。放送だけの話じゃないですよ。例えば、企業内では資料コピーしてるでしょ。それから、北大の田村先生なんかおよく例に挙げられるけど、ホームページのプリントアウトだって、あれ複製ですからね。

業務目的でやってるんだったら、私的複製は普通成立しないから、形式的には、ホームページをプリントアウトしたら、それで違法っちゃ違法なんです。でも、そんなことはみんな気にしないでやってるわけです。それがちょっとずつ、ちょっとずつ、じわじわ萎縮していった時に、社会全体がどんな感じになるのか。これが突きつけられている問題ですよね。

津田:有馬さん、いかがですか?

有馬:声をあげなきゃなんないっていうところでありながら、結局、どこまでなのかが分からない。だからこそ恐いですし、萎縮もしてしまう。そういう明らかじゃないところが、ものすごく恐いかなって思ってますね。

津田:今後、例えばTPPの場合、妥結をしてしまったら、これで…みたいになっちゃって、分かったから声をあげやすくなるけれど、「もう決まっちゃってるからな」ってなる人って多いんじゃないかと思うんですけど。

有馬:本当にそういう意味での、対応的な難しさっていうのは、ものすごいあると思います。

甲斐:交渉されている条約ですから、それを国内法化するためには、著作権法の改訂があると思うんですけど、実際どういう形に国内法が可決されるのか。あるいはただ単純に、「親告罪が非親告罪になりました」ってそれだけなのかもしれない。その辺のところで、どこまで日本的な文化に合わせた形での、二次創作の保護のされかたが変わってくると思うんですけれど。

中村:それ考えなくてはいけない位置に来たなと思うんですよ。これまでは「止まっててね」って言われたんですけど、もう止まってられないなと思うんですね。これって、政府間で協定を結んで帰ってきましたと。次は国会で批准って行為があるので、まずそこで、これを飲むのか飲まないのかっていうのがありますが、今の情勢だったら、与党多数で、そのまま条約として成立しちゃうでしょうと。次に国内法でどうしますかってステップになります。

国内法をどうするかっていうのは、普通の手続きだと、これまで著作権法をどう変えるって言う時には、僕が参加している知財本部で1年ぐらい揉んで、そのあと文化庁の審議会で2年ぐらい揉んで法案になってというステップになります。

今回、そのぐらい時間をかけて、チンタラやるってことが許されるかどうか、分からない。非親告罪化っていうのを飲んじゃったとして、どこまで国内法でリカバリー出来るかっていうのがまだ全然分からないですね。そこが、これからの本格的な議論のステップになってくるかなと思います。

福井:国内法をどう整備するかもこれから本当に重要なんだけど、同時にどう運用していくかも大事じゃないですか。そうなった時に、さっきから画面上に何度も登場しているけど、漫画家の赤松健さんね。非親告罪化で最も熱心に発言してきた権利者でもある赤松健さんは、同人マークというのを提唱してるわけですよね。画面上で紹介可能ですかね?

津田:出ました、出ました。

福井:あっ、出ましたね。

津田:これは、いわゆる上のほうがクリエイティブ・コモンズですね。

福井:いわゆるクリエイティブ・コモンズですね。権利者、著作者の方が「私の作品は、こういうルールを守ってくれれば、みんな自由に使ってくれよ」とマークで意思表示するわけですよね。そうすると、誰が使ったって、そのルールに従っている限りは、著作権侵害ではもちろんない。当然、非親告罪化も問題にならない。

上にあるのは、世界的に最も普及したクリエイティブ・コモンズっていうマーク。世界8億点ぐらいに使われています。下にあるのが、このクリエイティブ・コモンズでは、二次創作だけを許すってことができないもんだから、赤松健さんが自ら提唱した同人マークですよね。同人誌はOKだと。

津田:デッドコピーはダメですよと。

福井:デッドコピーはダメ。

津田:だけれども、それを使った自分の創作を加えた二次創作だったら許可しましょうっていうことですね。

福井:そう。しかも紙ならっていうのが、デフォルトの形になってる。条件を加えることもできる。で、これを商業誌とか、アニメの作品とかに、権利者が全部付けるようになれば、確かに二次創作は今まで以上に大手を振って出来るようになるから、これは1つの対策である。

しかし、赤松さん自身も言っているけど、こんなのは最後の手段であって、非親告罪化しないのが一番いいのは間違いない。なんでかといったら、このマークが仮に爆発的に普及したとして、半分の作品に付いたとしても、残りの半分には付かないわけですよ。

ってことは、マークの付いてない作品については、もっと真っ黒に見えちゃうんです。「これ、やっちゃいけないのに、二次創作してるんだよね?」って、もっと真っ黒に見えちゃう。だから、こんなものがない、今までの阿吽でやれていたのが、何よりだよと。

ということは、非親告罪化しなきゃいいっていうただ1点なのに、それを受け入れちゃった後で、国内法整備をやる、運用で対処する、あれやってこれやって。なんでそんな大変なことをするんだと。今TPPの最終段階でひと頑張りして、非親告罪化を跳ねのければ、それで済む話じゃないか。私も本当にそう思う。

津田:もし本当に非親告罪化が盛り込まれることになると、警察も大変じゃないですか。警察の負担っていうのは、どうなっていくんですか。

福井:今度、警察に出てもらいましょう。

津田:いやいや(笑)出てくれるかなー。

福井:路駐と似てますよね。違法化と言われれば違法だと。人手は足りないけど、通報が来た時に、明瞭に違法で告訴すら必要ないものを、摘発しませんと言い続けられるのか。

津田:確かにね。ちなみに、僕のこのTシャツ、クリエイティブ・コモンズに寄附をしたら、その対価としてもらえてる、そんなTシャツですけども。

福井:素晴らしい。(後編に続く