ダスキンは、「ミスド」をどう立て直すのか | ニコニコニュース

創業以来、ドーナツは手作り。だが意外と知らない客が多い
東洋経済オンライン

モップやマットのレンタルで知られるダスキンがもがいている。ここ数年、利益はじりじりと減少。レンタル事業の客離れはきわめて緩やかで、それが全社的な”ゆでガエル”状態を作ってしまった。「ミスタードーナツ」などの外食事業も赤字が続く。八方ふさがりの局面を、どう打開するのだろうか。

■実は創業以来手作り、なのに皆知らない

大阪府にあるイオンモール茨木。今年4月に改装したばかりのこのショッピングモール内にある、ミスタードーナツ イオンモール茨木ショップ。大手コンビニが仕掛ける「ドーナツ戦争」に押され気味と揶揄されるミスドが、起死回生の一発を狙って打ち出した新しいタイプの店舗だ。

カウンター式の高いテーブルとイスは、これまでの画一的な店舗づくりとは様変わり。定番のドーナツだけでなく、ベーグルやトーストも取り扱う。商品の並べ方にも余裕があり、カフェやパンの店といった趣である。

ひときわ目を引くのが、ガラスの向こうに見える厨房。店で売る商品はすべて、粉と水の混ぜ合わせから、このオープンキッチンで行っている。生地を作る際、小麦粉や砂糖、水の調合比率がドーナツの種類ごとに異なるのはもちろん湿度や気温によっても比率が変わってくるという。たとえば、表面の堅さとひび割れが特徴の「オールドファッション」の場合、冷たい水で仕込む。熱い油に入れた時にきれいにひびが入るためだ。

こうしたこだわりをアピールするのは、セブン-イレブンなど計5万店以上に及ぶコンビニ各社がレジでドーナツを本格的に売り始めたからだろうか。山村輝治社長は「多少なりともミスタードーナツは影響がある」と逆風を認める。ただ、コンビニとの対決だけで、あわてて一部店舗で手作りを導入するのではない。

実はミスドは創業以来、全店舗が生地からドーナツを作っている。日本での1号店は1971年4月開業と、マクドナルド(同年7月)やケンタッキーフライドチキン(70年11月)と並ぶファストフードの老舗でもある。その創業当初からの伝統だ。

だがこの事実は意外と知られていない。

地方では根強い人気、だが客数は減

2009年に就任した山村社長が昨年5月から始めた「ミスドファンミーティング」には、「われこそはミスドファン」を自認する長年のヘビーユーザーばかりが集う。しかし「来られているミスタードーナツが大好きなお客さんの半分ぐらいが、ドーナツは店舗で作ってない、手作りじゃないと思っておられた」(山村社長)という衝撃の事実が判明。

つまりダスキンは、手作りという付加価値を“宝の持ち腐れ”状態にしてきてしまったのだ。

ミスドは国内に1316店(2015年3月末現在)あり、内装デザインは基本的に統一されている。しかし今後は、半分程度を場所ごとにあった作りに変えるという。単価は高いがゆったりとくつろげるカフェタイプのほか、駅ナカでは持ち帰り専門店なども構想しており、こうした店舗改装と「手作りドーナツ」の訴求で、早期に外食部門の黒字化を目指す。

■清掃用具もジリ貧、だが対応は後手に

一方、主力の清掃用具のレンタルはどうテコ入れするのか。1軒1軒訪問して、4週間お試し料金で商品を使ってもらい、良ければ契約するというのがダスキンのスタイル。法人向け、個人向け双方とも高度成長期を謳歌した。いまも熊本県の天草市では全世帯の5割が利用者であるなど、地方ではまだまだ盤石だ。

だがこの訪問販売モデルは、核家族化や女性の社会進出などの社会構造の変化を受け、壁にぶつかるようになった。たとえばだがタワーマンションなど、都心部ではセキュリティが年々強くなり、訪問しても商品の交換がしづらくなっている。専業主婦と子ども、祖父母まで同じ家にいるような家族も減った。

社員に危機感はあるものの、過去の成功体験からなかなか脱却できない。ダスキンは原則、フランチャイズチェーン(FC)モデルで事業を拡大しているため、現場の最前線が加盟店であることも、改革を先送りする方向に作用していた。

新たなサービスにも踏み出す

たとえば3年前、インターネット注文で交換用のモップやマットが郵送されるサービスを導入すると、加盟店に告知したときのこと。案の定、反発を食らってしまう。「訪問して対話することが最高のサービスだと(加盟店は)考えていた」(山村社長)。同様にクレジットカード決済の導入にも反対の声が多かった。

だが何もしなければ契約者は減るばかり。業を煮やした山村社長は、2012年4月から、全国の加盟店を1軒1軒回り始め、自ら説得に出るようになった。

直接訪問が売りの会社ゆえか、社長とじかに話し合うことは、遠回りのようでもっとも近道だった。ミスドを含め、加盟オーナー数は2200~2300。まだ半数弱しか訪問していないが、早くから全国的な加盟店組織のあるダスキンでは、オーナー同士の横のつながりでの伝達も早かった。今年4月にネットのシステムを本格導入した際には、反対の声はなくなっていたという。

■訪問販売のノウハウをさらに生かす

もう一つ、高齢者をターゲットにした新サービスも始めようとしている。ダスキンの訪問販売客のうち、40%が65歳以上。この強みを生かし、高齢者の生活全般の”ご用聞き”になることを狙っている。

「網戸の交換をしてほしいとか、訪問先でちょっとした要望を聞くことが多かった」(山村社長)。そこで生活用品メーカーと組み、4月から網戸とトイレの便器交換を一部地域でスタートさせた。2年程度で加盟店の研修を行い、全国で本格展開する計画だ。

来るのを待つのではなく、企業側から近付いて顧客を囲い込む”ご用聞き”は、現在多くの小売り・サービス業者が狙う金城湯池。訪問モデルに50年を超す知見を持つダスキンが、本格参入に成功すれば、他社にとってもモデルケースとなりうる。眠れる獅子は目覚めることができるだろうか。