空を買う時代がくる? NYの地下公園開発で進む太陽光を売るビジネス

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最近の都市開発の技術革新は想像を超えてきます。ニューヨークのイーストリバーでは、川の汚水をろ過するプールを浮かべる「+ POOL(プラスプール)」プロジェクトが進行中。同じくニューヨークでは、実際に太陽光が差し込む地下公園「ロウラインをつくる計画も進んでいます。

ロウラインの建設計画が最初に提出されたのは2011年。当時はニューヨークだけでなく他の都市でもかなり話題になりました。次に盛り上がりを見せたのは、廃線となった線路の高架を再利用した公園「ハイライン」が、ニューヨークにオープンした時です。

ニューヨーク市は、街の景観や都市生活をより豊かにするプロジェクトに力を入れています。ロウラインは、クラウドファンディングの資金で立ち上げた、ニューヨーク市の初めてのプロジェクトになりました。伸び悩んでいるという声もあった、KickstarterやIndiegogoなどクラウドファンディング業界も、このようなパブリックで大規模なプロジェクトを足掛かりに拡大したと言えるでしょう。

それから4年、クリエイターのダン・バラシュとジェームズ・ラムジーは、デザイン、ファンドレイジング、公的手続きなどを進めてきました。次のファンドレイジングは、本物の太陽光が差し込む地下公園をつくるための技術に費やす、おそらくこのプロジェクトの現フェーズでは一番重要なものになります。

どうやって太陽光を地下に取り込むか


現在、ロウラインのチームは、草花を育てるために築112年の地下道に、本物の太陽光をどのように取り込むかに取り組んでいます。ロウラインパーク予定地は、廃駅となったウィリアムズバーグ・トローリー・ターミナルで、1903年から現在の地下鉄システムになるまで、マンハッタンとブルックリンををつないでいました。

ここ1年、ロウラインチームはSunPortal社と組んで仕事をしています。イギリスと韓国を拠点とする創業3年のSunPortalは、複雑に組み合わせた反射鏡や集光器を使い、工場やトンネルなどの光の入らない場所に自然光を届ける、最先端の採光技術を提供する会社です。人間の生活が成り立ちにくい場所に、地球環境を化学的・生物学的に再生するために、技術を有効活用しようとしている会社は幅広くあります。今回のケース、SunPortalや他の採光技術を扱うスタートアップでいうと太陽光です。


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人類を繁栄させるのに完璧な、地球という独特な生物学的環境がなくても、人間はどの程度生き残ることができるか、という研究をしているNASAやヨーロッパの宇宙機関など、このプロジェクトは文字通り広範囲に及ぶ影響を与えています。また、地球が修復不可能なほどのダメージを受けても、人工的な“地球っぽいもの”で生き残ることができるのかという、未来のダークサイドにも影響を与えるでしょう。

もちろん、ロウラインはただの公園ですが、まだ発展途上の段階にある技術もすすんで取り入れて使おうとしているので、最終的には他のプロジェクトの試験場のようになる可能性もあります。

人工的な野外っぽい場所のつくりかた


SunPortalの創業者は、ロウラインの最初のキャンペーンの後、直接ロウラインチームに連絡をし、草木や芝生を育てなければならない地下公園を、実現可能なものにするために手を貸したいと申し出ました。

ラムジーは建築家でもありますが、今はロウラインに太陽光を取り込むための設備の開発に力を入れています。「それまでSunPortalのことは知りませんでしたが、彼らの持っているシステムや経験は、私たちが実現したいと思っていることに完璧に合致していました」とラムジーは言っています。

当初、バラシュとラムジーは光ファイバーケーブルを使って、太陽光を運ぶ採光技術を使おうと思っていましたが、SunPortalと組んでからは、SunPortalの反射器をベースにした技術に切り替えました。ラムジーは3度韓国を訪れ、SunPortalの技術と現在ロウラインのために制作中のカスタマイズされた設備を見学しました。


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では、SunPortalの技術とはどのようなものなのでしょう?

ロウラインの場合は、公園の上にある路上から大量の自然光をパラボラ型の集光器に集めます。集光器は、光を効率よく反射し、塵やゴミを寄せ付けないよう、銀やガラスでできています。次に、約7インチ幅のパイプいっぱいの光を、光学レンズで下向きに反射させ、その光が公園に届くよう固定された装置で拡散させます。


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SunPortalは、この技術を使えば太陽光を650フィート(約198メートル)運ぶことができると言っています。これはロウラインに必要な距離よりもはるかに長いです。SunPortalは、35年後にオープン予定の、人工的な採光が必要な韓国初の地下水力発電所施設に、この太陽光を650フィート運ぶことができる設備を設置しました。ロウラインで使用するのと同じような集光器やレンズのシステムを使い、頭上の透明なパイプを通った不思議な黄緑色の光が、100ルクスの明るさでトンネル内を照らしています。


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ロウラインの新しいKickstarterのキャンペーンでは、採光設備の開発と試験のためのラボの資金を募っています。Sunportalの持っている技術を、ロウラインでどのようにアレンジして使用するかというのは、まだあまり表に出ていませんが、ラムジーが少しだけ語ってくれました。

光の転送は既存のシステムと大体同じですが、ポリカーボネートは使用しません。光をどのように出力するかは、完全にロウライン独自のデザインになります。高性能レンズや反射面を組み合わせ、夜間のためにインラインの照明を使います。

太陽光を売るビジネス


今や太陽光はビッグビジネスです。太陽光で商売をしようとしているのはSunPortalだけではありません。都市部ではさらに発展し、価格も上がっていくでしょう。ラムジーさんは「トラッキングと資材技術はまだ比較的新しくて、おそらくACE業界(建築[Architecture]と光学[Engineering]と建設[Construction]が協業している)でも、あまり知られていないと思います。だけど、コスト効率が高くて、恐ろしく有益で効果的なソリューションが大量にありそうです」と言っています。


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イタリアのCoeLux社は、太陽光を奪い取るスタートアップです(というと、なんだか暗黒世界の使者のようですが)。CoeLuxの製品は、二酸化チタンナノ粒子のスクリーンの裏にLEDライトを使っているだけのシンプルなものですが、紫外線を浴びたくない場合の日よけ製品に使われます。また、空が青い理由として聞いたことがあるかもしれませんが、「レイリー散乱」と呼ばれる現象で、空にとてもよく似た雰囲気と光を発します。

CoeLuxで販売しているのは、トロピカル、地中海、北欧の3種類のナノ粒子スクリーン。それぞれ世界の異なる地域の光の角度と温かみをつくり出します。イタリアの放射線センターでは、実際にこの不思議な光を体験できます。見た目は本当に青空のようで、光の芸術家ジェームズ・タレルの有名な作品「skyspaces」の下に座っているような気分になります。



Sunportalのシステムが“リアルな太陽光”だとしたら、CoeLuxの製品はかなりエセというか“つくりもの”感があります。太陽がなくても、完全に人工的な材料だけで、限りなく本物に近い“美しい空”をつくろうとしています。CoeLuxの創業者は、太陽や空と接すると、健康や気分に良い影響があることは証明済みだと言います。巨大な病院や会社の中で、このような限りなく空に近いものをつくることは、間違いなくメリットがあるでしょう。


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それでは質問です。

反射でもナノ粒子でも、今自分が浴びている光は、空から直接降り注いでいる本物の太陽光ではない、ということを知ったら、人は認知的不協和を克服できるのでしょうか? 窓のない部屋に屋根から反射板で太陽光を取り込む、Amazonで売っている簡易太陽光システムのレビューにはこのように書かれていました。

「光の色が少し無機質な感じがした」
「屋根の低い家が持ち上げられたような感じがした」

ロウラインのチームは、まだファンドレイジングを募集しています(あと数時間後で終わり)。新しい地下の都市生活の先がけにならなかったとしても、自然の太陽光の実験から、ラムジーとバラシュは何かしらの結果を得ることになるでしょう。そして、それが似たような問題を抱えるデザイナーや科学者の、重要なケーススタディになるはずです。

ウィリアムズバーグ・トローリー・ターミナルは、そういう意味で実験には最適のロケーションです。古い都市のテクノロジーが、新しい時代のテクノロジーへと生まれ変わることを祈ります。


Kelsey Campbell-Dollaghan - Gizmodo US[原文
(的野裕子)