朝型勤務は、違法な「サービス残業」だった | ニコニコニュース

プレジデントオンライン

■朝型勤務でビジネスマンは大損している

朝早く出勤したり、始業時間を早めたりする「朝型勤務」が徐々に広がっている。

ところで、社員が始業前に出社すれば、会社側は“残業代”を支払う義務があるにもかかわらず、ほとんどが支払っていないことをご存知だろうか。

朝型勤務の先駆けとなった伊藤忠商事の取り組みが図らずもその事実を浮き彫りにする形になった。伊藤忠の仕組みは20時~22時の残業を原則禁止、22時以降の残業を禁止。始業時間の9時前の5時~8時の時間外割増率を50%、8時~9時を25%にするというものだ。

だが、割増賃金を支払うこと自体は何も特別なことではない。時間外労働の割増賃金は所定労働時間(勤務時間)を超えた場合に1時間につき25%以上支払うことを義務づけている。

そして22時から翌日の5時までの深夜労働はさらに25%以上の割増賃金の支払い義務があり、時間外労働と深夜労働が重なると50%以上の割増率となる(25+25=50%)。また、管理職も深夜労働に関しては割増賃金の支払い義務がある。

つまり、どんな会社であっても仮に始業時間が9時であれば、終業後の残業代と同じように5時から9時までの勤務時間についても“残業代”を支払わなくてはいけない。

伊藤忠の場合は5時~8時の時間外割増率を深夜労働と同じ通常の25%の倍の50%というニンジン(インセンティブ)をつけて朝型勤務を奨励している点が大きな特徴だ。

しかし、驚くべきことにこの朝型勤務の残業代を実際に支払っている企業はほとんどないという。

■「朝型サービス残業代未払い」労働基準監督署の証言

都内の労働基準監督署に勤務する労働基準監督官はこう証言する。

「企業に立ち入り調査したときに、必ず労働時間と残業代の支払い状況をチェックしているが、当然始業前の勤務状況も見ています。ところが、朝早く出勤していても残業代を支払っている会社はほとんどありません。会社の担当者になぜ払っていないのかと聞くと、朝早く出勤するのは業務命令ではなく、本人の自由意志なので申告もしてこないと言うのです。どこの会社でも申告しないのが慣例になっているようですが、実態はサービス残業であり、ほとんどの企業は違法状態にあるといってもよいでしょう」

私たちは終業後のサービス残業に目を向けがちであるが、法律違反の“朝型サービス残業”が放置されているのだ。その意味では、伊藤忠の朝型勤務は残業代を支払うことで違法残業というリーガルリスクを回避しているともいえるだろう。

じつは朝型勤務がブームになる前から朝早く出社する社員が増えている。前出の労働基準監督官は「朝早く出勤しているサラリーマンが近年増えている」という。

ネット関連企業の人事部長も「始業1時間前の8時にはほとんどの社員が出社していますね。うちだけではなく、どこの会社でも社員の出社時間が早くなっているようです」と語る。

なぜなのか。

もちろん、通勤ラッシュを避けたいという人もいれば、朝早く会社に出てきて仕事の段取りや準備を早めにやりたいという真面目な社員もいるだろう。しかし、中には昨日の残業を朝早くきてやっている人もいるのだ。精密機器メーカーの人事部長はこう推測する。

「リーマン・ショック以降、どこの会社でも残業規制が厳しくなり、ノー残業デイを設けたり、残業時間を減らしたりすることに専念しています。9時に消灯し、社員を会社から閉め出すところもあります。無理矢理帰させられるので当然、仕事が終わらない社員もいます。その結果、家に持ち帰って仕事をする社員もいれば、会社に朝早く来て昨夜の仕事をしている社員もいるはずです」

■国は「朝の違法残業」を取り締まらない

会社を早く出ることはワーク・ライフ・バランスの観点からも推奨されている。会社にとっては時間外勤務手当の削減につながり、社員にとっても私生活や家族との時間を享受できるウインウインの施策といわれる。

だが、実態は“持ち帰り残業”や“朝型サービス残業”を生み出しているのだ。つまり、朝型勤務が違法残業の温床になっている可能性もある。

そうであるなら政府は朝型残業を徹底して取り締まるべきなのだが、そういう気配はない。今年4月20日、塩崎恭久厚生労働大臣は経団連に「夏の生活スタイル変革」と題する要望書を提出し、経済界として朝型勤務の導入を図るように要請した。

そしてご存知のように朝型勤務を導入する企業が増えている。しかし、どういう仕組みを作るかは企業の自由である。下手をすれば、残業代を支払わないままに朝型サービス残業が蔓延する可能性もある。政府・厚労省はこれまで長時間労働を削減するために違法残業など夜の残業を徹底的に取り締まってきた。

しかし、朝の違法残業を取り締まらない限り、夜の残業は減ってもトータルの長時間労働は変わらないことになる。朝型サービス残業を取り締まらずに経済界に朝型勤務を要請するのは本末転倒ではないか。

朝型勤務を始める企業の多くは始業時間を早める仕組みを導入しようとしている。1時間早くすれば、当然終業時間も1時間短くなり、早く帰れるはずである。

だが、始業時間を早くしても延々と残業する社員も増えるのではないかという声も人事関係者の中で上がっている。そして朝型勤務の開始にあたって職場ではとんでもないことが起こっている。

次回は職場でどんな問題が発生しているのかを報告したい。