1泊27万円!知られざる「超豪華病室」の世界 | ニコニコニュース

「これが病院?」と思わせるほどに豪華な内装の病室 (撮影:尾形 文繁)
東洋経済オンライン

病気で入院するときの費用を大きく左右する「差額ベッド代」。個室など少人数の特別な療養環境を求める場合に発生する費用のことだ。健康保険の適応外で、全額個人負担となる。

個室の場合、その1日当たりの平均費用は7563円(2013年7月1日現在、厚労省・中央社会保険医療協議会)。2~4人部屋だと1日当たり平均2000~3000円程度となっている(同)。

ただ、差額ベッド代は病院によって差が大きく、平均値では実態がつかめない。最低額はわずか100円。最高額は福岡県北九州市の小倉記念病院の特別室で、1日当たり36万7500円(2013年、税込み)、1泊2日だと73万5000円にもなる。高級ホテルのスイートルームに匹敵する金額である。

■“高級病室”は全国に34存在

全体で見れば、一般的な医療保険の1日当たりの入院給付金(5000~1万円)でカバーできる、1日1万0500円以下が9割近くを占める。一方で、1日10万5001円以上の差額ベッド代が発生する“高級病室”が全国に34ある。

週刊東洋経済は7月11日号(6日発売)で『トクする保険 ソンする保険』という特集(全52ページ)を組んだ。その取材に関連して、高級病室のうち2つの個室と、高級度は下がるが、お姫様になった気分が味わえそうな個性的な病院に潜入した。普通の人では、なかなか伺い知れないこれらの実態をお伝えしよう。

1つ目は、インパクトのある山の形をした、東京都新宿区戸山の国立国際医療研究センター病院。エイズをはじめとする感染症、糖尿病・代謝性疾患、肝炎・免疫疾患に強く、40以上の診療科を有する総合病院だ。

エグゼクティブフロアにある病室は1泊27万円

病棟最上階の16階が高級病室階、その名もエグゼクティブフロア。入院している人の許可がないと入ることができないこのフロアは、暖かみのある暗めの照明とダークブラウンの重厚なドアで統一され、さながら高級ホテルのよう。シンプルで明るいほかの階とは一線を画している。

■外国人に向け、ホテルも参考に

エグゼクティブフロアにあるのは24室。1泊27万円(差額ベッド代1日13万5000円、税抜き)と24万円(同12万円)のエグゼクティブスイートルームが1室ずつ、1泊12万円(同6万円)のラグジュアリールームが2室、1泊8万円(同4万円)のデラックスルームが13室、1泊6万円(同3万円)のスーペリアルームが7室だ。「外国人にもアピールしたいので、わかりやすいように、ホテルも参考にしながら最近名前を変えた」(廣井透雄・16階病棟医長)。フロア全体の稼働率は30~40%という。

16階のエグゼクティブスイートルームのあるエリアに入るには、さらにもう一度セキュリティゲートを通る。フロア、エリア、ドアと三重の関門を通って入ったその先には、広さ90平方メートルのスイートルームが広がっていた。

ここが1泊27万円の最高級病室。内部はダークブラウンを基調に、高級感あふれるインテリアで統一されている。ベッド、アイボリーのソファの応接セット、独立した会議室、バスタブ付きの浴室――。酸素吸入などの医療のための設備は隠れており、言われなければ病室だとわからない。

特殊なニーズをうかがわせるのが、窓。なんと、厚みのある防弾ガラスになっている。非日常を感じさせるこの病室には、政治家、芸能人、経営者、海外のVIPなど、セキュリティを重視する人が、人間ドックなどで短期間入院するケースが多いという。

食事もボリューム満点

食事は通常の場合、4種類のメニューから選ぶことができる。それ以外に人間ドックを受ける人向けの特別な「ドック食」があり、これは北海道産サロマ黒牛のサーロインステーキ、天ぷら、スイーツと食べきれないほど盛りだくさん。食べ過ぎて検査結果に響くのではないかと心配になるくらいのボリュームだ。

佐藤和恵・16階病棟看護師長は「エグゼクティブフロアはベッド数を抑えているので、手厚く患者を診ることができる。食事などで差別化も図っており、リピーターも多い」と話す。

北欧風のスタイリッシュな雰囲気の高級病室を有するのは、東京都中央区築地にある国立がん研究センター中央病院。入院するのは全員がん患者で、手術、抗がん剤治療、放射線治療、検査などを行う。病室として最上階の18階、1室のみのA個室(71.7平方メートル)を訪れた。

ここが同病院で最も豪華な病室。1泊の費用は21万6000円(1日当たり差額ベッド代10万8000円、税込み)。同系統の北欧風の高級病室には、1泊11万8800円(同5万9400円)のB個室が5室ある。両個室のみが絨毯の床だ。18階には、病院らしい雰囲気を持つシンプルな個室である、C個室1泊8万6400円(同4万3200円)も34室ある。面会者は病棟のクラークを通じて患者の許可を得ないと、このフロアに入れない。年間の稼働率はA個室が4割弱、B個室が8割、C個室がほぼ100%だ。

A個室は窓からの眺望が自慢。寝ていても外が見えるように、窓に足を向けて寝る配置にしている。半分は陸、半分は海で、天気がいい日はお台場まで見渡せ、夜景も美しいという。「船、新幹線、ゆりかもめ(東京臨海新交通臨海線)、飛行機などいろいろな乗り物が動くところが見えるので、患者が退屈しないようだ」(佐々口博子・18階病棟看護師長)。ちなみに、窓は二重ガラスだが、防弾ガラスではない。

病室らしくない病室を意識して設計されており、目を引くのは病室には珍しい真っ赤なソファ。木目調のベッドはパラマウントベッド社の最高級の特注品。

キッチン、浴室も豪華

食事は一般病棟と同じだが、キッチンで簡単な食事を作れる。バスタブ付き浴室、入院患者の秘書などのための控え室もある。照明は控えめで、採血などのときにはベッドの上の処置灯を付け、明るさを確保する。

A個室を利用するのは、裕福な医師や中小企業の経営者が多い。「がんセンター」という名前から、入院していればがんに罹患していることが知られてしまうため、政治家、芸能人や大企業の社長は少ない。だが、国内最高峰のがん治療の拠点とあって、患者は全国から集まってくる。

■乙女心をくすぐる産婦人科

ところ変わって、東京都武蔵野市吉祥寺の水口病院。産婦人科を中心に、療養病床や在宅診療も手掛けている、町中の病院だ。

外観は落ち着いた茶色でごく普通だが、一歩足を踏み入れればロマンチック趣味の極みと言うべき、乙女心をくすぐる世界が広がっている。アロマが香る待合室、南仏プロヴァンス風のレストラン(出産後に家族とフルコースのディナーが食べられる)を通り過ぎ、産科の病室に案内された。水口病院の産科に来るのは、アフタヌーンティーやフルコースのディナーなどで祝福感を味わうことを望む、比較的若い妊婦が多い。

まずは最も豪華な特別室「フレンチモロカン」(1室、差額ベッド代1日3万5000円、税込み)。目のくらむようなチェック柄の床に、ターコイズブルーの壁。パリジェンヌをイメージした部屋にモロッコ風のテイストを取り入れた、非常に個性的な病室だ。ワンルームアパートほどの広さでこぢんまりとしている。

特別室のほかには、産科において日本で初めて天蓋付きベッドを導入した「フェミニン」という個室(5室)や、ベッドの布やカーテン、壁紙などがすべてファッションブランド「ローラ・アシュレイ」のもので統一された「エレガンス」という個室(2室)、現代風のインテリアの「モダン」(4室)がある。1日の差額ベッド代は、部屋の大きさに応じて2万5000円と2万2000円の2段階。

高齢者が多いフロアは修道院をイメージ

一方、別フロアにある療養病床は、修道院をイメージした神聖で穏やかな雰囲気。体外からチューブを通して流動食を摂る人や、寝たきりのような、要介護度が高い高齢者が入院している。

■個性や希望を尊重したいという思いから

頻回の痰の吸引が必要となるなど、老人ホームでは対応できなくなった患者が多い。終末期のケアをする場所であるため、半数の人が3年以上、長い人は6~7年滞在する。個室の差額ベッド代は、特別室で1日3万5000円、個室2万5000円、2人部屋1万円、3人部屋5000円だ。

療養病床には、「自分らしく最期の時間を過ごしたいという患者のために、個性や希望を尊重した対応をしていきたい」という吉田文彦理事長の思いが込められている。

差額ベッド代に対しては「高い」「払いたくない」というようなネガティブなイメージを持っている人が多いだろう。しかし、差額ベッド代を払って出合える病室は、患者の多様なニーズを組み入れ、それぞれに工夫が凝らされている。その個性に目を向けてみるのも、一興かもしれない。