〈週刊Jリーグ通信〉第2ステージ第1節「代わり映えのしないチームによる『新ステージ開幕』」(大住良之) | ニコニコニュース

〈週刊Jリーグ通信〉第2ステージ第1節「代わり映えのしないチームによる『新ステージ開幕』」(大住良之)
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 J1の「第2ステージ」がスタートした。「興味深い」シーズンの後半戦である。

 いくつかのクラブは、このステージの順位表をにらんで一喜一憂するだろう。しかしいくつかのクラブにとっては、まったく別の順位表だけが問題だ。もしかすると、その両方をにらみながらのクラブもあるかもしれない。

 「第2ステージ第1節」で首位に立ったのはヴィッセル神戸。清水エスパルスとアウェーで戦い、5-0の勝利を収めた。「開幕日」7月11日(土)に行われた9試合のうち引き分けは1試合だけ。8試合で決着がついた。すなわち、8チームが勝ち点3で並んだのだが、得失点差で神戸が首位と言うわけだ。ちなみに、2位はFC東京を2-0で下した川崎フロンターレである。

 神戸は第1ステージは勝ち点19で11位。首位浦和レッズ(勝ち点41)はもちろん、2位F東京(勝ち点35)、3位サンフレッチェ広島(34)を追い抜くのも難しい。当然のことながら、年末の「チャンピオンシップ」に出場するには、第2ステージで優勝するしかない。降格の心配もまずないと思うから、「年間順位表」は気にしなくていい。

 一方、「第2ステージ開幕戦」で松本山雅FCを2-1で下した浦和は、第2ステージで優勝すれば問題はないが、優勝できなくとも「年間勝ち点1位」になれば「チャンピオンシップ」の決勝戦の座を約束されるのだから、もっぱら「年間順位表」とにらめっことなる。ちなみに、この勝利で浦和の年間勝ち点は44(18試合)になり、2位との差をまた1広げた。2位はベガルタ仙台に4-3で勝った広島(勝ち点37)である。

 「年間勝ち点」だけしか見ないクラブもある。「J1残留争い」の渦中にあるクラブだ。18クラブのうち「年間順位」で16位から18位の下位3クラブが自動降格となるのだが、これらのクラブはたとえ第2ステージで優勝しても「チャンピオンシップ」への出場資格はないから、第2ステージの順位表など何の意味もない。

 通常、「残留ライン」は年間の「試合数プラス2~3」の勝ち点(36~37)。18試合を終わって20以下のヴァンフォーレ甲府(13位、勝ち点20)、柏レイソル(14位、18)、の松本(15位、15)、モンテディオ山形(16位、15)、アルビレックス新潟(17位、14)、清水エスパルス(18位、13)は、ともかく年間勝ち点37を目指す戦いとなる。

 Jリーグが今季導入した「2ステージ制」とは、これほどまでに複雑怪奇なものなのだ。多くのクラブが目標をもってシーズンを過ごすことができるのはいいのだが、一般のファンの目には「精神分裂症リーグ」のようにしか映らないだろう。

 さて「第1ステージ」が終わって「仕切り直し」の第2ステージに突入するなら、各クラブにはそれなりの「新味」といったものが必要だったはずだ。だが、この間の各クラブの「補強戦線」は驚くほど静かだった。

 大物移籍は、柏から神戸に移ったブラジル人FWレアンドロくらい。彼はさっそくフル出場して自ら1得点するなど攻撃をリードし、5-0の勝利をもたたした。レアンドロを失った柏はブラジルからFWエデルソンを補強したが、まだ出場できるコンディションではないようだ。「第2ステージ」のスタート、柏は鳥栖に2-3で敗れ、AFCチャンピオンズリーグで準々決勝進出を決めているとはいえ、Jリーグでの「生き残り」も気に掛けなければならない状況になってきた。

 生きた補強をしたのは松本だ。広島からMF工藤浩平、J2のセレッソ大阪からDF安藤淳、そしてルーマニアの1部のクラブからブラジル人MFエリックを補強、「第1節」の浦和戦では工藤と安藤がフル出場して浦和を相手にもう一歩で引き分けという熱戦のリーダー役となった。また清水から山形に移籍したDF高木順平も横浜F・マリノス戦でフル出場し、1-1の引き分けで勝ち点1を得るのに貢献した。

 日本代表FW武藤嘉紀をマインツ(ドイツ)への移籍で失ったF東京はスピードドリブルを武器とするオーストラリア代表FWのバーンズと長身のスペイン人FWサンダサを補強したが、川崎との初戦にはバーンズが交代出場したものの見せ場はなく、サンダサはメンバーにもはいっていなかった。韓国の水原三星から清水に移籍した日本生まれの北朝鮮代表FW鄭大世(チョン・テセ)も、第1節の出場はなかった。

 すなわち、「第2ステージ」に向け、補強によって戦力アップに成功したのは神戸と松本と山形だけということになる。

 これはあまりに寂しいではないか。

 「第1ステージ」で優勝した浦和は、早くから「補強の必要はない」と明言していた。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が時間をかけて作り上げたコンビネーションサッカーのチームだからシーズン途中からの加入では慣れるのが難しいという要素もあるだろう。しかし「うまくいっているから補強の必要はない」という考えには賛同できない。

 私の見たところ、浦和はボランチにボール奪取能力の高い選手が必要なように思う。キャプテンの阿部勇樹が獅子奮迅の活躍をし、柏木陽介との高いレベルの組み合わせになっているが、DFラインに何かあって阿部を下げなければならない状況や、腰に不安をかかえる柏木が連戦ではきつい場合に急激に不安定になるポジションだ。

 J2セレッソ大阪の山口蛍のような選手の補強に成功すれば、「年間1位」を目指す態勢はさらに盤石となり、その後に訪れるかもしれない「FIFAクラブワールドカップ」(12月、大阪、横浜)での重要な戦力となるだろう。このところ何年間も補強費用ほぼゼロで(補償金なし)でやってきた浦和。「投資」を考えるべき時期ではないか。

 欧州の強豪のように何10億円、選手によっては100億円を超す補償金を払うというのはばかげている。しかし数億円の投資でチーム力を一段階も二段階も持ち上げられるような補強ができるのであれば、Jリーグでも十分見合うのではないか。

 Jリーグが「2ステージ制」で新鮮味を打ち出し、現時点でJリーグに興味のないファンを引っ張り込もうというなら、各クラブに積極的な補強をするよう、何かしらの働きかけが必要なはずだ。

 1週間空いただけ、代わり映えのないチームが並ぶなかで、「新しいステージの開幕です」とはやし立てられても、気持ちは白けるばかり。目が行くのは「年間順位表」のほうばかりだ。

〈文:大住良之(サッカージャーナリスト)、写真:Jリーグ公式サイトより〉