爆発的進化を続けるデジタル建築の世界


どんどん狭まる現実とデジタルの境界線

素晴らしい建築家の中には、実際の建物を建てた事がないという方が昔から多くいます。アンビルト・アーキテクト、またはペーパー・アーキテクトと呼ばれる彼らの作品は、文字通り紙の上、二次元の中にのみ存在します。しかし今日では、彼らが少し違う分野で活躍しているのを見かけるかもしれません。それはゲームデザインや、3Dビジュアライゼーション等です。

建築ビジュアライゼーションアーティストのRonen Bekerman氏は、この大きな転換の中心にいます。Bekerman氏は、ゲームや実際の建築物などのビジュアライゼーション作品に関する有名なブログを運営しています。「ゲームの世界は映画のそれと同じように、建築家に自由に夢想させ、その夢を制約に縛られる事なく完成させる事ができます」Bekerman氏はそう語り、元建築家で現在はトロン等の監督を務めるジョセフ・コジンスキー監督を例に挙げました。「その魅力に、建築家や建築ビジュアライゼーションを専門とする人々が、デザインスキルを武器に続々とゲーム業界にやってくるのは想像に難くありません」


Image: Bertrand Benoit


建築とゲームの隔たりは加速度的に薄れています。伝統的なゲームもそうですが、VRの世界はどんどん写実的になり、細部のディテールも細かくなっています。一方建築家は、自分のデザインのプレゼンテーションに感情表現やストーリー性を付加する美しいレンダリングを多用するようになってきています。かつては全くの別分野だった2つが、お互いに共通点を見出し始めているのです。

デザイナーによる作品を紹介し、掲示板を運営し、チュートリアルやコンテストを行うBekerman氏のオンラインハブは、2つの世界の融合を象徴する素晴らしい一例です。また彼のサイトでは毎年、読者が特定のソフトやゲームエンジンを使ってデジタル空間を作るチャレンジも行っています。


アンリアルエンジンを使用して作成されたレンダリング


例えば、今年の夏に彼が企画したコンテストは、ぶどう畑とワイナリーをデザインするというものでした。そして、ここからがインターネットのクリエイティブコミュニティが面白い所なのですが、絶対的な参加条件として、いわゆる伝統的な建築家やランドスケープアーキテクトの様に、建物と景観を本当に設計しなければならず、レンダリングには最新のゲームエンジンで、ビジュアル・エフェクトやアニメーションゲームも含んだ開発用ツールを搭載しているUnreal Engine 4を使用するというものでした。また、このコンテストはエンジンの開発元であるEpic Gamesと、チップメーカーのNvidiaがスポンサーしています。


1500712_digitalarch02.jpgImage: Bertrand Benoit


最近行われた別のチャレンジは、カンチレバー構造の家をGoogle Sketchupで既にモデリングされたパーツを使ってデザインするものでした。これは言わば、全てのパーツが架空な、デジタル空間でのプレハブ工法とも呼べます。参加者はパーツに一切変更を加えずに組み立てていかねばならなかったのですが、投稿された作品はどれも息を呑むものばかりです。


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それ以前のチャレンジでは、モダニズム建築の名作、ミース・ファン・デル・ローエのベルリン国立美術館、新ナショナル・ギャラリーで、「お好みのイベントを開催中」の様子をリアルタイムアニメーション、または静止画レンダリングで表現するというのもありました。

新ナショナル・ギャラリーは1968年に建築され、石の床と重厚な鉄の屋根に、ガラスの壁と滑らかなフロアが挟まれた姿は美しくも異様で、ある種哲学的な建物です。Bekerman氏が読者に課したテーマは、「建物の命を表現する」ことでした。つまり、建築物を写すだけでなく、その風景の感情を表現しなければいけないのです。入賞者の中にはポルシェの展示会やインスタレーション展を作ったり、美術館の外にミース氏が亡霊のように立っている姿を作った人もいました。


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1500712_digitalarch08.jpgImage: 上からDimitar Dimitrov, Bertrand Benoit, Jamie Holmes


アニメーションで入賞したのはニューヨークで3Dアーティストとして活動している Wenjun Yuという方で、アーティストであると同時にアーキテクトとして、建物の一日を表現しました。その美しさは、まるでゲームか映画のイントロのようにも感じます。



その他のチャレンジには、よりゲーム開発の世界に傾いたものもあります。その中の1つは、都市の風景をアニメーションか静止画で表現するというもので、動き、人物、季節等、シーンを構成する全てをデザインしなければなりませんでした。入賞者の作品は本当に映画のスチルや都市計画のゲームの一場面に見えます。


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1500712_digitalarch11.jpgImages: 上からThomas Hauchecorne, Egor Goray, Jean-Marc Emy


Bekerman氏のチャレンジは、ゲーム開発のスキル建築のノウハウをミックスする事が求められ、両方の業界の興味を引くように考えられています。実際のところ、2つを隔てる境界線は思うよりも薄いのです。考えてみれば、どちらも同じツールを使い、同じレンダリングエンジンで描画し、レンダーファームだって同じ場所を使うのですから。殆どのチャレンジで共通しているのは、ストーリー性が存在するところです。また別のチャレンジの入賞作品を御覧ください。


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1500712_digitalarch13.jpgImages: 上からIvo Sucur, Chris Labrooy


建築ビジュアライゼーションに若い建築家達が引き寄せられるのはなぜなのでしょうか?2008年の経済危機からほぼ10年経ちました。当時、建築と建設業界を大きな打撃を受けましたが、7年経った今彼らが職を探すのはそれほど難しくありません。しかし7年の間に、人々が空間を体験する方法が大きく変わりました。ARVRが身近になり、ビデオゲームがより一般大衆に受け入れられる文化になりました。また、レンダリングソフトウェアがより高度で扱いやすくなると同時に、コンピューターの演算能力も飛躍的に向上しています。

恐らく最も重要なのは、レンダリング画像―クライアントやコミュニティに建築デザインを売り込み、建設が始まる前に建築物の象徴となるもの―が広く流行した事ですが、これは興味深いと同時に問題にもなり兼ねない進展です。評論家には、生徒たちは美しい画像を作れるようになる一方で現実世界でどういった空間が人間に適しているかという空間デザインの基礎を学んでいないと指摘している人もいるのです。と同時に、ビジュアライゼーションは若いデザイナー達が、お金をかけずにスキルを披露する場にもなっています。


1500712_digitalarch14.jpgImage: Tom Svilan


これらのレンダリング画像を作り出すツールも、伝統的な建築家の使ったそれらから離れてきています。Maya、V-Ray、Maxwell Render、3DS Max、そして最近上昇傾向にあるゲームエンジンです。そしてモデリングには全く別の工程とツールが必要になる事もあります。

ある意味、ビジュアライゼーションは独立した産業となりつつあるのです。建築を定義するのではなく、増強するための職業として。Bekerman氏は、ゲーム開発も増強する可能性があるとしています。「ゲームの世界も、建築と建築ビジュアライゼーションから得るものが多くある事は明確です。我々の分野でUnreal Engineが日常的に使われるようになる可能性があると思うし、そうなった時、建築ビジュアライゼーションアーティストがゲーム開発に携わったり、あるいはその逆の際に移行がスムーズになるでしょう。」


1500712_digitalarch15.jpgImage: Stefan Hirschsteiner


結論として、建物のレンダリングは今までに無いほどリアルになりましたが、そこに行き着くプロセスは大きく枝分かれして花開き、それそのものが新しい産業になりました。それは伝統的な建築、ゲーム、アートなどの型にはまらず、あたかも、まだ存在しない表現媒体の為に浮上しつつあるように見えます。将来、VRによる建築物のツアーやARを使った改築のビジュアライゼーション等、VRゲームも含めて色々な事が可能になると思います。そんな時、美しいだけでなく利便性も考慮できるデザイン性と、感情に訴えかける演出力―建築とゲームそれぞれの特色―を兼ね備えたアーティストが重宝されるようになるのかも知れません。


Kelsey Campbell-Dollaghan - Gizmodo US[原文
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