フィンテックの次のフロンティアは保険業界だ | TechCrunch Japan

編集部記:Brendan Dickinsonは、Crunch Networkのコントリビューターである。彼は、Canaan Partnersのプリンシパルを務めている。

フィンテック(金融テクノロジー)の黄金時代に突入した。 LendingClubOnDeckは、最近、巨額のIPOを達成し、昨年の全世界のフィンテック分野への投資額は30億ドルに達した。溢れんばかりの資金とイノベーションは、モバイルバンキング、小規模ビジネスへの融資、資産アドバイス、信用度の評価、貯金といった金融の各分野に広まった。

フィンテックに流入した資金の額を鑑みると、既に顕著で大きな問題の大部分は解決されたように思うかもしれない。しかし、信じられないほど金融分野のイノベーションが進み、技術的な進歩が他のセクターを変容したにも関わらず、金融業界の一部分はほぼ手付かずのままになっている。そこには、摘み取られるのを待っているチャンスがある。

保険分野は、本格的なイノベーションが起きる余地のあるチャンスの大きい分野だ。アメリカの保険業界は、収益の面から見れば世界最大の市場で、純保険料は驚きの1兆2000億ドルだ。しかし同時に、この分野の主要なプレイヤーのネットプロモータースコア(NPS)の評価は、他のどの業界よりも低く、カスタマーの満足もロイヤリティーも得られていないことを示唆している。

人々は保険会社が好きではないし、信頼していない。「9・11の緊急対応要員、稀なガンを発症も保険が下りず」や「ハリケーン・サンディの被災者、保険の申請が組織的に却下される」の記事の見出しだけで、その理由が分かるだろう。この業界のモラルの崩壊と詐欺行為は知れ渡っている。

それに加え、コンシューマーに保険商品を届ける手法も古びたものだ。世界は既にスマートフォンの画面を数回タップするだけで何でも手に入るようになっている。多くのアメリカ人が保険に加入していないのも頷ける。25歳から64歳までの 「ミッドマーケットのコンシューマー」の半分以下しか生命保険に加入していない。また加入しているアメリカ人の40%は、それが十分ではないと感じている。そして、64%のアメリカの住宅に保険はかけられていない

保険業界は「ディスラプト」されるのを待ち望んでいる。

Affordable Care Act(医療保険制度改革)の外では、何年もの間、なんら変化が見られなかった。なぜこんなにも変化するのが遅いのだろうか?まず高い参入障壁が存在する。保険業界は規制の面で、とても複雑でお金がかかる業界だ。

新しい保険会社は、債務のない潤沢な資金を保有して監督機関を納得させることになるが、保険を引き受けたリスクに応じてその資金を増やし続けなければならず、リスクの量も次第に大きくなる。

Affordable Care Act(医療保険制度改革)の外では、何年もの間、なんら変化が見られなかった。

融資より保険においてこれは大きな問題だ。また、保険の中には州ごとの価格の規制があり、保険監督機関が、特定のプロダクトに対して企業が利益を得るのに上乗せする価格に制限を設けている場合もある。このような理由から新しい保険商品をアメリカ市場に持ち込むのは困難であり、変化のスピードも遅い。

次に、加入者に関連する不都合な問題もある。新しいプロダクトを必要とし、最初に加入するのは最もリスクの高い人である場合が多い。それによりローンチした後、業界平均より多く申請がなされるリスクを負うことになる。スタートアップが最も若く、影響を受けやすい時期と重なるのだ。

数人の勇気のある者がこの市場に挑戦し、成功を収めてきた。最も注目を浴びているのは、OscarMetromileだ。Oscarは「より良い健康保険企業」を目指し、テクノロジーとデザインを活用してユーザーの体験を改善しようとしている。この企業は、ローンチしてわずか一年半で、現在15億ドルの評価額となった。Metromileは、走行マイルに応じた自動車保険を販売し、年間1万マイル以下しか運転せず、自動車保険に必要以上に支払っているドライバーの70%に訴求している。

両社は、直感的でアクセスしやすいモバイルのユーザーインターフェイス、コンシューマーにとって親しみやすいビジネスモデルと事業の高い透明性を提供している。これらの企業は氷山の一角に過ぎない。どの保険商品も「ミレニアル世代への対応」をしなければならず、今後、住宅保険、生命保険、損害保険といった保険商品が刷新されるだろう。

スタートアップにとって最も大きなチャンスがあるのは次の4つの領域だ。新しいエコノミーのための新商品、豊富なデータから得た知見を活かしたサービス、リスクと自己資本比率を新しい方法で管理するサービス、そしてカスタマーを獲得する新しい構造のサービスだ。

保険業界は「ディスラプト」されるのを待ち望んでいる。

Uber、Airbnbの台頭で私たちのエコノミーは、資産の保有から資産の貸し借りに移行している。既存の大手保険会社が提供する施策のもとでは、このようなユースケースに対応することができないため、新しい商品が取って代わる必要がある。この世界の更に大きな移行は、長期に渡って資産に保険をかけるというコンセプトが古くなっていることだ。代わりに、その時々で消費するモデルに移行するだろう。必要な時にモバイルで保険商品を見て、保険契約が数秒で完了する世界だ。

現在、10年前とは比較にならないほど多くのデータが手に入る。それは、リスクを評価する新たな方法があることを意味する。例えば、Apple WatchやFitbitは、人々の毎日の運動量の情報を得ている。これは、健康状態の評価を行うのに有効に活用することができるだろう。

また、自動車業界では、個人が毎日通勤するために運転する距離とどのような地形の道を通るかがリスクと直結する。加速度計は何年も前から存在し、現在ではどの携帯電話にもGPSが備わっているため、より正確で詳細なデータが得られるのだ。

新しい保険会社は、必要となる自己資本に関連する課題をいくつか興味深い方法で解決しようとしている。Oscarは、最初の資金調達ラウンドで巨額の資金を調達し、続くラウンドでも大きなラウンドを達成した。これは法定自己資本比率を満たすためでもある。

他の企業は、オンライン融資で用いられるユーザー間での融資モデルをからヒントを得て、監督機関が求める自己資本比率を達成しようとしている。このアプローチを取る海外企業を多く見てきた(例えばドイツのFriendsuranceなどだ)。アメリカにも同様のアプローチを取る企業があり、アメリカの監督機関がどのような反応を示すかに注目したい。

最後に、保険業界はカスタマーを獲得するための新しい方法を欲している。ミレニアル世代は愕然とするほど保険に加入していない。それは、彼らの多くは電話で誰かと話すことを望んでいないからという要因もある。彼らが安心して利用しようと思うチャネルは、保険会社が彼らにリーチしようとしているチャネルとは異なるのだ。結果的にターゲットとなるデモグラフィックの大部分にサービスを提供できないでいる。

PolicyGeniusは、今までコンバージョンを起こすことができなかった世代に対し、オンラインでより良い情報と教育を施すことでコンバージョンできることを既に示している。

私は保険スタートアップの将来を楽観的に捉えている。もちろん課題はあるが、どんな問題を解決しようとする場合にも課題はつきものだ。保険業界は変化を求めている。人々は最初、金融サービスへのニーズがあったとしても銀行よりスタートアップを信じるとは思えなかったし、スタートアップが保守的で確立している強力な業界を変えることができるのかと懐疑的であった。しかし、その見解は間違っていた。既存の銀行は生き延びるためにイノベーションを起こさねばならず、右に左に買収やパートナーシップの締結に奔走している。

同様に保険業界も、私はイノベーションが既存の業界内から起きると思わない。スタートアップは自らチャンスを作り、保険会社が進みの悪い車輪を動かすことを強要するだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter