「CITY LIGHT FANTASIA by NAKED」を仕掛けるNAKED代表村松亮太郎さんインタビュー:「シーンを創る」とは一体何?

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感情的になる「映像」にはどんな想いが込められているのか?

そう、プロジェクションマッピングもだいぶ一般的な催しになってきました。あの東京駅の3Dマッピングをはじめ、ディズニーランドやハウステンボスなど、全国各地のアミューズメントスペースで「レギュラー展示」のように行われているのが現状……とはいえそりゃ、見たら見たで感動しちゃいますよ、スケールが大きいですし、やっぱりキレイですから。

そんな中今年春、ギズモード編集部に届いたとある情報。大阪あべのハルカス展望台「ハルカス300」にて、大阪の夜景に3Dマッピングするというアートイベント「CITY LIGHT FANTASIA by NAKED」が行われたのです。


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あべのハルカスといえば、あべのハルカス近鉄本店をはじめ、大阪マリオット都ホテル、各種レストラン、美術館、オフィスなどが入った、地上300m、日本一の超高層ビル。会場がなんとそこの展望台、ハルカス300ってんだからその内容が気になります。

しかもハルカス300の60階、360度ガラス張りの「天上回廊」を使って、これまでにないガラス窓に3D映像をプロジェクションマッピングする技術を用いて、現実の夜景に幻想的な3D映像を混ぜて見せてくれる仕掛けが詰まった巨大アート……まさにいまだかつてない夜景体験ができるってわけなんです。

今回このプロジェクトを行うのが、東京駅3Dプロジェクションマッピング「TOKYO HIKARI VISION」や「新江ノ島水族館ナイトアクアリウム」など、自社が演出・制作を手がけたイベント、エンタテインメントショーには通算70万人以上を動員しているというウワサのクリエイティブ集団、NAKED

そしてなんと今週からこの「CITY LIGHT FANTASIA by NAKED」が8月7日(金)から渋谷ヒカリエ開催されることが決定しました。渋谷の夜景に輝く未来都市という壮大なテーマに、新しい渋谷像を映し出す3D映像に仕上がっているということだから期待が高まります。


ん? ちょっと待てよ? 窓ガラスに3D映像を投影するってどういうこと? 今回のプロジェクトには、窓ガラスに映像を投影する透明なフィルムが使われているということなんですが、一体どんな技術なんでしょうか? ということで、早速NAKED代表の村松亮太郎さんに話を伺ってきました。

単なるプロジェクションマッピングではない、リアルとバーチャルの融合


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NAKED Inc.代表を務める村松さん


「CITY LIGHT FANTASIA by NAKED」では、技術的にこれまでのプロジェクションマッピングでは実現できなかった、新しい技術を採り入れられることを決めたそうなんです。そもそもなぜそのような試みをしたのでしょうか。きっかけは「新江ノ島水族館ナイトアクアリウム」と村松さんは言います。


「大水槽前にスクリーンを設置してプロジェクションマッピングをやったときに、フワーッとした映像ごしにエイが泳ぐ……あれがすごく気持ち良くて」

実はNAKEDはプロジェクションマッピングの会社、ではなく、映像を軸としたクリエイティヴチーム。プロジェクションマッピングは、あくまでもその一環なんだそうです。

「僕がやりたかったことって、いわゆるリアルとバーチャルの融合みたいな話が近いんです。本当にあるリアルなことを生かしつつ、バーチャルとミックスして楽しむ……エイが泳ぐということと、その前にある映像というのは、まさにリアルとバーチャルが融合している状態です。もし、あのエイが泳いでいる後ろに映像を映したら全然違ったと思うんですよね。あれが「CITY LIGHT FANTASIA by NAKED」のヒントになった。映像体験というのか、VR体験というのか分からないですけど、直感的にすごくいいなと思って。プロジェクションマッピングをどうしたという感覚ではないんですけど……ただプロジェクターを持って映像を投影するのが、プロジェクションマッピングというのか? そこはもはや僕では分からないですけど(笑)」

「もはやどこからどこまでがCGか分からないみたいな」ものすごい技術


「新江ノ島水族館 ナイトアクアリウム」のマッピング


重要なことは「リアルとバーチャルなものが同時にミックスされている新体験であることが一番キモだ」と、村松さんは語ります。単にプロジェクションマッピングを見てきた、と言えない面白さが、「CITY LIGHT FANTASIA by NAKED」にはありそうですよね。ではその新体験の秘密である“ガラス窓に3D映像を投影する”技術ってどんなものなんでしょうか?


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「新江ノ島水族館 ナイトアクアリウム」の大水槽を使った迫力あるマッピング


「「新江ノ島水族館 ナイトアクアリウム」のときは、映像が映るけれど透過する、ちょっと変わったフィルムを使ったんですけど、今回は進化系で、本当に透明に見えるシートを使ったんです。透明系のフィルムはいくつかあるんですけど、ホントに透明のものはこれまでなかった。昼間でも普通に見ることができて、貼っていることがほぼ分からないけれど映像は映るもの、なんて存在してなかったので、それを使ったところが技術的にも特殊です。ある意味地味、どう見てもただのガラスですから(笑)」

一見ガラス、だけどそこに映像が映る。そんな地味だけどものすごい技術が使われているのが「CITY LIGHT FANTASIA by NAKED」のポイント。今回もあまりにも自然すぎてお客さんにはすごいことだと分からないかもしれない、そんな逆説的な心配をしているそう。まるですごいCGの映画みたいかも。

「もはやどこからどこまでがCGか分からないみたいな。そのCGがすごいかどうかも分からないみたいな、そんな状態かもしれないですね」

プロジェクションマッピングは1つの技術でしかない


こちらの特殊な“フィルム"は限りなく無色透明だそうですが、意外にも、ガソリンスタンド「ENEOS」でお馴染みのJX日鉱日石エネルギー株式会社が同社のナノテクノロジーを活用して“開発中”の画期的な製品だそうです。開発にはNAKEDが特別協力しているのですが、もちろんそこには数々の苦労があったと村松さんは言います。

「フィルムの厚さを変えることでキレイに映るようにはなるのですが、厚くしすぎるとどうしても少し濁りが出てきてしまう。それなら何ミリが良いのか? と微調整をしながらだったのですが、それを詰めながら間に合わせるのが大変でしたね。市販品として流通しているわけではないですから、僕らも実際に映像を映してみないと、プロジェクターとの相性や映り方の特性、癖なんかが把握できない。となると実験もしないといけないので心配しました」


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投影前


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投影後


東京駅の3Dプロジェクションマッピング「TOKYO HIKARI VISION」、それに「新江ノ島水族館ナイトアクアリウム」をしっかりとチェックしてきたギズモード編集部。そこにはNAKEDが作り出すライブ感、それにストーリー性や本当に生き物がそこにいるんじゃないか、そんな実体験を感じてきました。

「たまたま東京駅での作品からプロジェクションマッピング屋さんみたいなイメージがついちゃいましたけど、プロジェクションマッピングは1つの技術でしかないんです。僕はもともと映画を含めた映像を作ってきたわけで、プロジェクションマッピングは僕にとって映像技術の進化の中の1つという扱いなんですよね」

映画って2時間座って観させるって、かなりすごいことじゃないですか


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「新江ノ島水族館 ナイトアクアリウム」の「深海世界のオアシス」に設置された巨大な曲面スクリーン


そんな中でも特に「新江ノ島水族館 ナイトアクアリウム」はNAKEDらしい作品、と村松さんは言います。

「技術を見せたいとか、プロジェクションマッピングというものを特別にやりたかったわけでもない。それとは別に、世の中的にテクノロジーを使ったデジタルアート的なものがトレンドになってますけど、僕らテクノロジー屋でもない……もちろん使いますけど、デジタルだ、テクノロジーだ、と言いたいわけでもなく、ある種の映像エンターテイメント、そういうものの延長上でプロジェクションマッピングを考えている。ナイトアクアリウムというのはそれ以外のこともやってますから、水族館というものにある種のVR的なものを掛け合わすことによって別空間を作っている。つまり映画作りと一緒で、ストーリー性や世界観が重要だったわけです。僕はひたすらそこにこだわった……それによって普通と違う、夜の水族館のまったく新しい体験ができるということがやりたかった」


単に水族館に行ったという体験ではなく、その映像を見ることで、水族館の体験が拡張された、そんな感覚かもしれません。現に「新江ノ島水族館 ナイトアクアリウム」はとても記憶に残る印象的な体験となっています。今回の「CITY LIGHT FANTASIA by NAKED」に訪れるみなさんも、単にキレイな夜景を見るだけの経験ではなく、より拡張された体験をできることと思います。


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「CITY LIGHT FANTASIA by NAKED」渋谷ヒカリエの巨大ガラスに映しだされた幻想的な3Dマッピング


「映画はまずスクリーンを観てとりあえずその世界観に没頭してもらうわけですが、今、例えばスクリーンを大きくしてみようとか、3Dにしてみようとか、より体感性をあげる方向に向かっています。スクリーンの中だけではなく、リアルな場所でもそういう世界観が作れてエンターテインメントを見せることができる。そういうことって、僕の中ではスクリーンの中でやっていたことと究極的には一緒なんじゃないかなと思っているんです。それをフィルムに納めて映画として見せる場合は映画になるし……アレもある種世界観やストーリー作り上げて観てもらうわけですよね。それをリアルな場所でやったらどうなるの、みたいな話に近いと思うので」

「僕が映像を作ってきたという背景は大きいですね。映画って、呼び出して閉じ込めて2時間座って観させるって、かなりすごいことじゃないですか? その上で楽しんでもらうって、お客さんにしてみたら面白くなかったら苦行ですよ(笑)。東京駅も含めて、やっぱりある種の世界観とかストーリー性……僕らが世間から注目してもらったのは、プロジェクションマッピングにコンテクストを持ち込んだからだと思うんです。プロジェクションマッピングは技術的でボコボコ動いたりするよというのはあくまで錯視的な表現だったものに、映画やショーを観るかのようにストーリーがあって、世界観があって、10分くらい一気に観られるような作り方をしたのが、映画的なものと融合させたというようなことがあったのかもしれません」

映画が面白いと感じるとき。それはサプライズがあったり、カットがすごく変わったり、はたまた、長回しで撮るときの映像の映り方だったり……そんな映画同様の面白さが、村松さんの作品から感じ取れるような気もします。

シーンを創っていると考えると納得がいったんです


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「僕の考えは今のトレンドの文脈とちょっと違うふうになっちゃったかもしれないですけど。テクノロジーアート系の人は多くが元々テクノロジー屋さんだったり、いわゆるプログラマーだったり、いい悪いの問題じゃなくて、僕はルーツが全然違うと思う。映画の世界観をどう外に持ち出せるだろうということから始まって、リアルな方にきていると思うのですが、僕は完全に映像エンターテインメントの進化の方からいっている。ルーツが全然違うから多分、切り口やアプローチが違うと思うんです。ただ、どこかそれらはクロスオーバーしてくることもでてくる。技術に関してはクロスオーバーしますけどね」

プロジェクションマッピングはもちろん、ミュージックビデオの制作やテレビ番組のタイトルバック、アート展……さまざまな作品を世に送り出すNAKED。世界観やストーリー性を重視したというそれらは、どのように作られているのか、とっても気になります。

「映画みたいに作るというと、ちょっと語弊がありますね。世界観とストーリーがやっぱり大きい……そこに関しては昨夏いろいろなインタビューを受ける中で、説明するのは難しいなと思っていたんですね。僕は何をやっているんだろう? 僕は何を面白いと思って作品を作るのか、と考えたときに、“シーンを創る”のが好きなんだなということを気づいて、去年の年末、やっと自分が何の仕事をしているかちょっと分かったんです(笑)」

「映画を作るにせよ、プロジェクションマッピングを見せるにせよ、それに僕は飲食店もやっていますけども、すべての仕事に関して、シーンを創っていると考えると、すごく納得がいったんです。例えば水族館が記憶に残るというのもそうだと思うんですけど、そういうワンシーンを創りあげている。シーンというのは情景、それに空間演出という言葉もよく使っていましたけど……スペースとは違うんです。スペースは場所であり景色でしかないけど、人が介在してこそ、そこはシーンとなりうるわけで、映画も要はシーンの連続じゃないですか?」

最終的にはやっぱり生身の人と話したいんです


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「CITY LIGHT FANTASIA by NAKED」イメージ


「プロジェクションマッピングの面白いところは、リアルな場所ってことを含めて、東京駅やナイトアクアリウムを観たというシーンがお客さんに残る。何か1つ、自分のシーンとして残るものや胸に届くもの……頭で理解してすごいってことよりも、何か胸とかにちゃんと届くもの、そういうことを作り上げていくのが僕は好きなんですね。言語化できない部分……僕にとってモノを作って人に見せるということは“グッとくる”を何かを起こしたいということ。これは説明できることではないんです。例えば人を好きってめっちゃ曖昧で実体もない、上手く説明できないことだけど、自分では確かなことですよね? 好きって感覚は自分にとっては絶対的にリアル、それに近いですね」

人の感情を喚起する、そのモメントを作るということ、そしてちゃんと記憶に残るシーンや場を作り上げることに興味があるんだ、と村松さんは言います。テクノロジーをバリバリ使って感動的なものを作りあげていくクリエイター……と締めようとしたところ、村松さんがボソッとつぶやいた一言が、村松さんの人柄、ひいてはNAKEDの作品を物語るような、とても印象的な一言でした。

「世の中はVRの方向に向かっているんですけど、自分が好きかっていうと微妙……VRってなんか嫌じゃないですか(笑)。ここにあなたはいないのに、いるという状態を技術的に作れる。それはすごいことかもしれないけれども、やっぱり生身の人と話したいんです」

***


お忙しい中でのインタビューでしたが、村松さんの言葉からは技術的なトレンドに歓喜するというよりも、「シーンを創る」「コンテクストを作る」ことへの強い想いが感じ取れました。プロジェクションマッピングを突き詰めるのではなく、「一つの技術の進化」と割り切った価値観で、その過程を楽しみながら人と映像が交じり合うエンターテイメントの未来を模索しているとも言える村松さん。「CITY LIGHT FANTASIA by NAKED」が映し出す映像は、空間を埋めるだけの技術というよりも、いい映画を見た時の「没入感」のように映像の一部に溶け込んでいく人間的な感覚を引き出すトリガーなのかもしれません。

CITY LIGHT FANTASIA by NAKED

」開催情報

◆東京

期間:2015年8月7日(金)〜8月30日(木)

場所:渋谷ヒカリエ11階スカイロビー

時間:19:30〜22:30(予定)

料金:無料

公式サイト:

http://clf.naked-inc.com/hikarie/

◆大阪
期間:〜8月31日まで
場所:あべのハルカス展望台「ハルカス300」
公式サイト:http://clf.naked-inc.com/harukas/

◆名古屋
期間:〜9月27日まで
場所:名古屋テレビ塔展望台
公式サイト:http://clf.naked-inc.com/nagoyatvtower/


協力: NAKED

(取材、撮影:鴻上洋平、文:ホシデトモタカ)