ニコンD810レビュー:冒険写真家の究極の友?

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冒険写真家は本人が死と隣合わせになるだけでなく、お供のカメラにとっても過酷な旅です。大雨にさらされ、崖の岩にぶつけられ、砂埃を浴び…と普通なら大切なカメラを持っていかないような環境ばかり。しかし、どうやらニコンD810はまさにそんな人達の為に作られたようで、米ギズモードのライターであり冒険写真家でもあるChris Brinlee Jr記者は大変気に入っている様子。レビューを早速見てみましょう。

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先月、僕はニコンD810を持って、シエラハイルート―最も険しい冒険の1つ―に向かいました。カメラは汚れ、濡れ、そこかしこでぶつけました。そんな中どう活躍したか紹介しましょう。

3年前、ルームメイトがD800Eを購入しました。僕は常にキヤノンを愛用してきましたが、何回かの撮影の為に彼のニコンを貸してくれました。その体験は、控え目に言っても素晴らしいものでした。僕は、5D Mk IIから買い換える時が来て、もしキヤノンが比較になるカメラを出していなかったらD800を買うと決めました。

そして昨年の4月。450ドルのバイクでベトナムを旅行中全てを入れたバックパックを失い、5D Mk IIとレンズも同時に失ってしまいました。

早速新しい一眼レフのリサーチを始めましたが、目を引く物も冒険写真家の過酷な環境に耐えうる物も無く、それは最近発表された5DSにしても同様でした。しかしそんな中、36メガピクセルニコンD810(本体のみで3,000ドル、約37万円)に出会いました。購入する時が来たのです。


150814_D810_02.jpgワシントン州、ベリンガムを飛行機の窓から携帯で撮ってみました。


最近のスマホの多くは、驚くような写真を撮る事ができます。「iPhone 6で撮影」のビルボードを見ればそれは明らかです。でも、これはスマホで撮影する事に異議を唱えるレビューではありません。また、強力なプロ用カメラの1ピクセルまで徹底的に調査したレビューも既にいくらでもあります。それによれば、D810はデジタル一眼レフの中でも最高の画質を誇るそうですが、これはそんなレビューでもありません。


150814_D810_03.jpgニコンD810は冒険写真家の究極の友になるのでしょうか?ニコン24-70mm, f/2, 8E GDを装着した状態です。


代わりに、このレビューはD810が冒険写真の撮影にどこまで使えるかを調査します。冒険写真とは何か?主にアウトドアで、冒険を写真に収める事です。目を見張る風景、共に行く人々のダイナミックな人間性、常に困難で刻々と変わる撮影コンディションが特徴のニッチなジャンルです。特に最後の項目がキーポイントです。


150814_D810_04.jpg高山で冒険写真家が頻繁に出くわす状況。


冒険写真家は、非常に過酷な環境で撮影を行う事が頻繁にあります。南極大陸の氷の上や、ヒマラヤの吹雪の中アマゾンの沼地など様々です。従って、冒険写真家の機材は耐久性に優れ、使い易く、尚且つ画像の品質が高くてダイナミックレンジを備えていなければなりません。今回のレビューで取り上げる主な点はそれらですが、まずはカメラそのものについて少々。

D810は、人気のニコンD800Eの後継機です。「E」の文字が重要で、Eがついている機種とそうでない機種には大きな違いがあります。Eモデルはアンチエイリアシング(デジタルフォトグラフィーにおけるエイリアシングとは、人工的なパターン等を撮影した時に生まれるモアレ等を示します)フィルターの働きをキャンセルする光学ローパスフィルターがついています。その結果、D800EはD800よりも若干鮮明な画像を作り出します。鮮明さは、中判デジタルカメラレベルの解像度が必要な写真家にとっては非常に重要です。D810において、ニコンはアンチエイリアシングフィルターもろとも全て取っ払ってしまいました。そして生まれたのは、前例の無い鮮明さとディテールです。

さて、それならD810は冒険写真の撮影においてどう活躍するのか?試してみましょう。


150814_D810_05.jpgD810は強固なウェザーシールを誇り、雨やホコリの中でも撮影が可能です。

耐久性


冒険写真家にとって、耐久性は最も重要なファクターの1つです。落としても使えるのか?ぶつけ続けても本体は耐えられるのか?雨でも撮影できるくらいちゃんと天候耐性はあるのか?滝のそばでなら?アウトドアで撮影するならこれらのシチュエーションは頻繁に起こるので、しっかり考慮しなければいけません。

D810の本体はマグネシウム合金製(マグネシウムは最も軽い構造用金属)で、雨やホコリが内部に侵入するのを防ぐためにウェザーシールされています。シャッターはキャノン 5D Mk IIIより25%増しの20万回までテストされています。これらの特徴が合わさり、タフなカメラに仕上がっています。

シエラハイルートにおいては山道をハイキングする時間よりも岩を登っている時間の方が長いので、D810は毎日山の険しい環境に晒されました。勿論、高い機材をわざとそこらにぶつけたりはしませんでしたが、意識せずとも必ず起こります。この仕事はそういうものですから。ですが、そんな時もカメラはダメージにしっかり耐えてくれ、表面に軽く傷がついた程度で機能に一切の影響はありませんでした。


150814_D810_06.jpg僅かな機会しかありませんでしたが、D810で雨の中撮影しました。Photo by Gilberto Gil


カリフォルニアの歴史的な干ばつの為、天候に対する耐性をテストするチャンスはそれほど多くなかったのですが、旅の終わりに暴風雨に遭遇しました。そこでレインジャケットを被ってこれぞチャンスとばかりに撮影を続けました。雨は30分も続きませんでしたが、スクリーンの下にも、ビューファインダーにも、レンズにも結露は一切見られませんでした。アイスランドで死にかけた時にこれを持っていればと思わず願いましたね。

またこのカメラは、ホコリもしっかり退けていたようです。撮影した画像を細かく調べましたが、一ヶ月のアウトドア撮影に二週間の過酷なハイルートでの撮影を行った結果、画像に写っていたのは小さなホコリの点1つだけ。撮影の状況を考えれば許容範囲です。

全ての要素がしっかりと噛み合っているので、今まで僕が体験してきたどんな冒険でも、自信を持ってD810で撮影できます。


150814_D810_07.jpgD810のボタン配置は直感的で使い易いものです。

使いやすさ


全てのカメラは使いやすくあるべきですが、冒険写真家にとっては特に重要な事です。多くの場合、カメラマンはアスリートの活動に積極的に参加します。峠を越えるチームを前から撮るために急いで先行したり、滝の隣をラペリングで降りて、通り過ぎるカヤックのショットを押さえたり等は頻繁にあります。簡単に言うと、良いショットの心配の前にカメラマンは手一杯になってしまうのです。なので、カメラの操作が冒険の邪魔になってはいけません。カメラのサイズ、重量、操作が大きな要素になります。


150814_D810_08.jpgソニーのA7シリーズと比べると、D810は大きさも重さもほぼ倍です。


まず、D810はかなり大きいです。本体のみで31オンス(約880g)もあるので重さもあります(でもまだキャノン 5D Mk IIIや5DSと同等です)。ニコン 24-70mm f/2.8G ED (約24万円)を装着したらもう64オンス(約1.8kg)になってしまいます。首にかけるにも手に持つにも重いし、バックパックの重りになってしまうのは最悪です。特に色々とアウトドア用の道具を詰め込んでいるならなおさらです。

比較すると、ミラーレスでフルフレームのソニー A7Sと16-35mm f/4は34オンス(約960g)で約半分の重さとなり、実に扱いやすいです。

重さと大きさの関係で、バックカントリーを歩く際にD810を楽に運ぶ方法はありません。スタンダードのネックストラップではかさばるし、Peak Design CaptureProクリップ(80ドル、約1万円)にも大きすぎます。一番良かったのはPeak Design Slide(60ドル、約7,500円)でしたが、それでも完璧ではありませんでした。ただ、これは何もD810に限った問題ではありません。実は一眼レフ全体に言える事で、よりコンパクトでも画質は同じくらい高いミラーレスカメラの登場によって最近顕著になっただけなのです。

大きさと重さで言えば、ニコンD750(本体のみで2,000ドル、約25万円)も気に留めておいた方がいいかもしれません。12メガピクセル少ないものの画質は近く、D810と比較してより速いバーストスピード(それぞれ5fpsと6.5fps)を誇り、かつ26.5オンス(750g)でかなり軽くなっています。D750をテストした事はありませんが、少なくとも紙面上は、D810のみの機能を我慢できるなら妥協案として有力だと思います。


150814_D810_09.jpg残りの枚数は、例えカメラがオフになっていても表示されます。


過去のニコンの体験では、ユーザーインターフェースは大きな欠点でした。操作感はぎこちなく、ボタンは届きにくい場所に置かれ、その配置は全く意味不明でした。D810はそうではありません。電源スイッチはシャッターボタンの近くにあり、フリックでスイッチを入れたら即座に撮り始められます。デフォルトの操作設定では、シャッタースピードダイアルは(素晴らしい)グリップのシャッターボタンの下にあり、絞り値調節ダイアルはちょうど本体後ろの親指を添える部分にあります。これらの調節ダイアルの位置と秀逸なオートISOモードのおかげで、刻々と変わり続ける照明条件下での撮影は自然で直感的です。

他にもちょっと嬉しいD810の機能としては、電源を切っていても残り枚数が表示されたり、デフォルトで自動オフモードがついています。これらは小さいものですが、実用的です。カメラの電源をもう一度入れれば、半秒で撮影に移る事ができ、過ぎ去って行く一瞬を逃さず収める事ができます。


D810の素晴らしいダイナミックレンジは、雪のような難しい照明条件で撮った写真ですら、ハイライトでも影でもディテールを保持できます。ISO 64, f/4.5, 1/160。


過ぎ去って行く一瞬といえば、D810は3Dトラッキングを行う51点のダイナミックオートフォーカスのシステムを、シリーズの中で最も高価なD4Sから拝借しています。これと-2~+19EVの検出範囲により、例え暗闇であっても、カメラは対象に素早くピントを合わせる事ができます。ハイルートで撮影中、D810のオートフォーカスがあまりに静かで速かったので、既にピントが合っているのに気付かないなんて事が多々ありました。


150814_D810_11.jpg高速で正確なオートフォーカスシステムと素早いバースト撮影で、過ぎ去っていく一瞬を逃しません。ISO 200, f/8, 1/500。


素早く正確なフォーカスシステムは、5fps47フレームバッファのバーストモード(カメラのセンサーを1.2x DXモードにすれば、6fps / 100フレームバッファも可能)と実に相性が良く、アクションシーンも問題なくこなせます。高いフレームレートとバッファは2つのカードスロット(SD+CF)で実現されており、バックアップの保存か追加の保存領域として使用できますが、特に後者は必ず必要になるでしょう。128GBのSDカード(50ドル、約6,200円)で36メガピクセルのRAW画像が1,500枚保存できます。


150814_D810_12.jpgD810は視野率100%のアナログビューファインダーと、視野角170°で周囲の明るさに合わせて明度を調整するLCDモニターがついています。


視野率100%のビューファインダーは撮る対象が見やすく、視野角170°の3.2型TFTモニターは撮った物を見やすく表示してくれます(殆どのカメラ同様、ライブビュー撮影も可能です)。撮ったものの確認を、常に変わる照明条件の下で行いたいですか?周囲の明るさに合わせて、センサーが自動的にモニターの明度を調節してくれます。

ニコンの推定では1回の充電で1,200枚撮影可能だとしていますが、僕が実際に試したところおよそ700枚でした。この差は察するに、僕がモニターを多用した事と、もしかしたら頻繁に寒い場所で撮影していたからかも知れません。多くの一眼レフがそうであるように、D810はUSBから充電できないので(ソニー A7等のミラーレスカメラなら可能ですが)、もし長旅に出るのであれば、バッテリーを多めに(Wasabi Powerバッテリー2パックで大体40ドルです)、あるいは5ポンド(約2kg)のGoal Zero Sherpa 100を充電に持っていった方がいいでしょう。

昨今のカメラの機能の中で僕が特に有難いと思うようになったのは内蔵Wi-Fiです。これにより、スマホを使ってリモートコントロールしたり、カードリーダーやケーブルを使わずスマホに写真を保存、またはクラウドに転送する事ができます。実に便利な機能で、多くのミラーレスカメラやD750にも搭載されていますが、残念ながらD810にはありません。一応、高くて不格好なアダプターを使えばWi-Fi機能を付ける事も出来ますが。恐らくニコンがこの機能を省いたのは、ローエンドのD750と差別化する為だと思うのですが、いずれにせよ機能が無いのは残念な事です。


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画質


冒険写真は風景、ポートレート、スポーツ等の多くの要素を取り入れます。従って、画像のシャープさ、色の再現性、ダイナミックレンジ等は画質に大きく影響するファクターになります。これこそ、D810が真価を発揮するところです。

上でも紹介したように、D810にはアンチエイリアシングフィルターがありません。その結果生まれるのは、デジタル一眼レフではかつてない画像の鮮明さです。AAフィルター欠如のデメリットはモアレに弱くなるという事ですが、それは自然環境を撮っている時には問題になりません(主に人工的なパターンで起こります)。なので、ハイルートでの撮影中にはモアレで困る事はありませんでした。

D810にAAフィルターがなく、先代のD800Eよりも遥かにシャープな画像を捉えます。ISO 200, f/5.6; 1/640。ズームすると、Gilの顔や服の生地のディテールが驚く程鮮明に写っているのがわかります。どちらも修正なしのRAW画像。


D810で撮影した画像は非常に鮮明です。センサーはどんな些細なディテールも見逃さずに見事にレンダリングしてくれます。こういった要素は、特に大きく印刷する際にとても重要になります。まだ僕はテストしていませんが、スクリーンでみた100%の大きさを見るかぎりでは、大きな印刷にも適している事はわかります。

D810で撮影されたRAW画像は、ポストプロダクションにおける幅広い調整の可能性を秘めています。


D810は実に正確な色の再現性を誇っています。カメラのカラープロファイルをベースラインRAWに設定して撮影すると、一見驚くほどのっぺりした画像になりますが、同時にポストプロダクションで幅広い調整を行う事ができます。これだけ広いレンジを持つファイルを扱った事はありません。ポストプロダクションにおける可能性は驚愕です。

D810は14.8のEV値があるため、ハイライトからも影からも多くのディテールを復元する事ができます。ISO 64, f/5.0, 1/250。


D810のRAW画像がここまで幅広く調整できるのは、ダイナミックレンジのおかげです。写真においてダイナミックレンジとは、写真における最も明るい部分と最も暗い部分の範囲です。撮影対象がカメラのダイナミックレンジを超えると、ハイライト部分が真っ白になり、影は真っ黒くつぶれてしまいます。(Ken Rockwellがより詳細を説明しています)。

ズームしてみると、影のディテールを完全に復元したところですら、ノイズは最小限なのが分かります。ISO 64, f/5.0, 1/250。


風景写真においては、EV値が12あれば素晴らしいと考えられていますが、D810は14.8です。そのおかげでハイライトからも影からもポストプロダクションで多くのディテールを復元できます。その為、普通であれば異なるシャッタースピードで撮った写真を重ねて作るHDR画像も一枚の画像から作る事ができます。HDR画像の過剰に加工された見た目はあまり望ましい物ではありませんが、失ったディテールをリカバリー出来る能力は、必ずしも理想的ではないアウトドアの撮影環境で撮影した画像を最大限に活用するのに有用です。

最大限ズームアウトすると、ノイズが入っているなんて全く分かりません。 ISO 12,800, f/8, 1/400。100%ズームすると、ISO 12,800にも関わらず使用に問題ないクリーンなノイズパターンである事が分かります。


更に、ISOはネイティブで64まで下げる事ができるので、明るい照明条件ならよりノイズの無い写真を撮る事ができます。ネイティブで最大のISO 12,800(ISO 32 - 51,200まで拡張可能)でも、シャープでクリーンな、使える画像を生み出します。


150814_D810_14.jpgD810は頑丈です。岩の中に置いても違和感が全くないですね。

買うべき?


D810は冒険写真に必要な風景、ポートレート、アクション等、様々な種類の写真で活躍できる素晴らしいカメラです。

カメラは頑丈に作られており、天候や衝撃に耐えながらも、扱いにくい中判カメラでなければ出せないような品質の画像を作り出します。大きくて重いものの、素早くて感度の高いオートフォーカスシステムは、過ぎ去って行く一瞬を迷わず捉えてくれます

ソニーのA7シリーズを含めても、D810の画質と比較できるカメラはごく少数です。A7カメラは画質が近くてUSBから充電も可能な上、大きさや重さは約半分ですが、反応は遅くバッテリーの寿命も短いし、耐久力も高くありません。

残念ながら、より小さくて軽いD750と違ってD810はWi-Fiがついていません。D750は画質は同じですが、画素は33%少なく、D810より1,000ドル安く販売しています。

あなたにとって予算が問題ではなく、かつ36メガピクセルの画素が必要で耐久性やウェザープルーフが重要なら、D810がオススメです。

画素にそこまでこだわりが無く、重さと値段で節約したくて、WiFiを使って撮影現場からソーシャルメディアをアップデートする事に活用するならD750がいいでしょう。

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Chris Brinlee Jr.記者の冒険写真は、こちらからご覧になれます。


images: Chris Brinlee, Jr. / トップ画像: Gilberto Gil

Chris Brinlee, Jr. - Gizmodo INDEFINITELY WILD[原文