人類を火星に移住させる「Mars One計画」は相変わらず杜撰すぎる

150817_MarsOne01.jpg


Mars Oneは初めて人類を火星に送る試みとして話題を呼び、日本人も含め様々な国の人々が火星への移住希望者として志願しました。しかし、時とともに予算や技術的な観点から多くの問題点が指摘され、壮大な詐欺ではないかとさえ言われるようになり、計画には現在暗雲が立ち込めています。

そんな中、先日第18回火星協会国際大会がワシントンDCで開かれ、その一環としてMars One計画の実現性を問う討論が行われました。

以下の記事は討論後、米GizmodoのMaddie Stone記者が考えるMars Oneの大きな問題点と、どうするべきかをまとめたものです。

* * *


2時間にもわたるMars One計画の実現性に関する討論を昨晩観た結果、私はようやくその問題点が分かった気がしました。それは会社に資金が無い事ではなく、火星での生命維持技術が無いのにも関わらず、それをMars Oneがまだ認めようとしない事なのです。

昨晩、火星協会国際大会で行われた公開討論には、Mars One創始者のバス・ランスドルプ氏に対し、MITの博士号候補でありMars One計画を表立って批判しているSydney Do氏とAndrew Owens氏が参加しました。討論の議題はいたってシンプル。「Mars Oneは実現できるのか?」です。つまり、2025年から片道切符を持った移住者を26ヶ月毎に送りはじめ、火星で生活させる事が出来るのかという事です。

Do氏とOwens氏は不可能だと論じます。なぜなら、火星のコロニーを支える技術がまだまだ未熟だからです。それを証明するため、二人は昨年秋に公開した実現性の分析結果を要約したものを披露しました。それによるとMars One計画は、少なくとも今まで公表されてきた計画では移住者が飢えるか、住居に火がつくか、修理に必要なパーツがなくなるか、あるいはその全てが原因で失敗するそうです。

ランスドルプ氏は反対します。討論を通じて、彼は火星に移住するために必要な技術は既に存在すると主張しました。ですが具体例を一切挙げず、彼の気まぐれな空想をアポロ11号に何度も喩えていました。

どちらも火星に行きたいという理想を掲げているのに、どうしてここまで反発しあうのでしょうか?それは片方が具体的な数字で論じているのに対し、もう片方はでたらめばかりな上に、自分がでたらめだと分かっている上で私達の希望を弄ぼうとしているからです。

生命維持とスペア部品


150817_MarsOne02.jpgMars Oneによれば、彼らの生命維持技術はISSのシステムを参考にするそうです。Image via NASA


火星で人間が生きていくには大きくわけて(ロケットや宇宙船が既に出来たと仮定して)2つの技術が必要です。まずは生命維持装置。空気、水、食料などをリサイクルし、二酸化炭素と酸素のバランスを一定に保つ装置と、技術者がIn Situ Resource Utilization (ISRU)と呼ぶ技術。これは火星から資源を取り出す為のものです。Mars Oneが成功するには、持ち込む資源だけではなく火星内部から水を取り出し、火星の窒素と酸素を使って空気を作らねばなりません。ランスドルプ氏はそれらの技術が既に存在するとしています。

そうでしょうか?

大雑把に見れば確かにそうかも知れません。生命維持装置に関して、Mars Oneは彼らの提案するシステムを国際宇宙ステーション(ISS)のそれと比較しています。それはいいんです。ISSの生命維持システムは宇宙や微小重力の環境でもちゃんと動作する事が証明されていますし、なら理論上は、これが火星でも使えない筈はないでしょう。

ですがOwens氏が昨晩指摘したように、ISSの生命維持システムは249マイル(約400km)下にある基地を使い、頻繁に修理と交換が行われています。

「私達がISSで学んだのは、こういったシステムは修理が必要だという事です。ISSは3ヶ月毎に補給を行い、何か問題があれば中の人員は帰ってくる事ができます。」とOwens氏は語ります。

Mars Oneの計画では26ヶ月間毎に補給を行い、何かアクシデントがあってもクルーが帰れる船はありません。つまり、研究者たちが実現性分析でも今回の討論でも説明していたように、クルーを飛ばす毎に膨大な量の部品を一緒に送らなければいけないという事です。Do氏とOwens氏の計算では、クルー二人を飛ばす毎にSpaceX Dragon3基をスペア部品で一杯にして、それでも生存確率は50%だそうです。

実はMars Oneが新たにクルーを送る毎に、補給のコストが雪だるま式に膨れ上がる程にスペア部品は重要なのです。まず、最初のクルーは自分達が必要な分を持っていきます。その次のクルーは、自分たちの分と最初のクルーの分を持っていき、そのまた次は更に…という具合です。

「火星への片道旅行の補給コストは、いずれ持続できなくなります。火星の植民地を持続させるには、火星での製造能力が必要になるでしょう。」とOwens氏は説明します。地球からの補給に頼ることなく、火星内で資源を作っていかなければならないという事ですね。

火星での製造


150817_MarsOne03.jpgキュリオシティは現在、長期定住の可能性を探る為に重要なデータを採取しています。Image via NASA


そこで、先ほど紹介したISRU技術がMars One成功の鍵を握るわけです。Mars Oneは新しい技術を発明する必要はないと言いますが、それはつまり火星から資源を採掘するために必要な物理的なプロセスを理解しているという意味にとれました。

それはそうかも知れません。でも理解だけなら、核融合炉を作るのに必要な物理的なプロセスだって理解はされてます。火星から水、酸素、窒素を採掘する物理的方法を分かっている事と、それを実行に移す事は全く違います。これらの技術は贔屓目に見ても実験的でしかなく、火星では一切テストされていないのです。

金属やプラスチックを多用すると思われるスペア部品を製造する技術に至っては、存在していません。一応明記しておくと、ランスドルプ氏はそこを昨晩認めており、Paragonによるコンセプトデザイン評でも今後力を入れるべき項目として挙げられていました。

ランスドルプ氏は「火星現地で材料を作る事が非常に重要」と認め、「現地の資源でいかにしていかに移住者の住まいを作るかの提案が欲しい」と語りました。

偶然にも、NASAは3Dプリントで出来る宇宙コロニーのデザインコンペを最近発表しました。昨晩の議論で両側が合意できたのは、長期的な火星での定住には、インフラを火星で製造できる能力が必要不可欠であるという事でした。

なら、そんな重要な技術がまだ明らかに無いのに、なぜMars Oneは人を火星に送るなどと提案できるのでしょうか?それは出資者を募るためです。Mars Oneは資金不足ですから。

ランスドルプ氏の全ての言い分は金に帰結します。Mars Oneが一度潤沢な資金を受け取れば、技術は生まれるというわけですが、これはジレンマです。技術を持っていないのに、その架空の技術を元にしたプロジェクトに投資しろというのは相当なギャンブルです。

「生命維持が解決できる問題だというのは否定しませんが、この問題は非常に複雑です。トランプで出来た家のようなもので、どこかが壊れたら全てがおしまいです。ですが、コンセプト無しに計画の実現性を評価する事はできません。まだコンセプトを考えているという段階では、計画は無いも同然です。」とDo氏は断じました。

移住の前に、計画を


150817_MarsOne04.jpg火星に接近するNASAのキュリオシティのコンセプト画。 Image via NASA / JPL-Caltech


Mars Oneは、資金を得さえすれば必要な技術は全て揃うと期待しています。それはいいでしょう。多くの優秀な研究者たちが長期的な宇宙移住の実現に動いていますから。

しかし技術がまだないのに、人間を送り込む事を議論するのはバカげているように見えます。

火星での生命維持に関して予期せぬ事態が起きた場合、「クルーには閃きが求められる」とMars One側は認めました。火星に初めて向かうような人たちですから、勿論地球でも有数の知能を持つ人たちが選ばれると願っていますが、だったらまず無人探査機を火星に送り、製造と資源採掘技術を開発すればいいのでは?世界初の火星移住者達は、人類史で最大のサバイバルに挑戦する事になります。そんな彼らに私達がすべきことは、可能な手を全て尽くして、彼らに生き残るための手段を提供する事なのでは?

「私は出発の前に全ての技術を開発すべきだと考えます。そうでなければ火星を一周して帰ってくるなど、計画をスケールダウンすべきです。しかし、これはあくまで提案の一部です。実現に向かうにはコスト、スケジュール、そして計画の範囲を圧縮すべきです。」とDo氏は結論づけました。

「これは解決できない問題ではありません。しかし解決には大勢の研究者と時間が必要になります。本気で火星に人間を送り込むつもりなら、技術開発と成熟のプロセスを経るべきです。」とはOwens氏。

Mars Oneの問題は資金が無い事でも、まとまりがなくて胡散臭い事でもありません。本末転倒な事をしようとしている事です。技術は人間を火星に送ったからできるわけではありません。彼らが生き残るには、彼らが火星への片道旅行に行く前に100%技術が準備できていなければならないのです。


Maddie Stone - Gizmodo US[原文
(scheme_a)