家一軒分の「遺品」、どう整理するか | ニコニコニュース

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亡くなる人は増えるが後継ぎは減る。社会の急速な変化にあわせて、介護、葬式、墓の常識は今、ここまで激変した!

【QUESTION】親が残した家一軒分のモノをどうしたらいいですか?

親が亡くなったら実家にある無数の遺品をどう整理すればいいのか。最近は遺品整理の専門業者が増えている。たとえば業界の先駆けとして知られる「遺品整理の埼玉中央」の場合、依頼が入ると、まず現場である故人の家に赴き見積もりをとる。日程を決めたら作業員を入れて1日がかりで仕分けをし、大事な遺品を確保したあと、翌日にはトラックを入れて不要になった荷物を搬出する。搬出だけなら引っ越し作業とそっくりだ。

『もしものときに迷わない遺品整理の話』という著書を持つ代表の内藤久さんによれば、遺品整理は届け出が不要で「トラック1台あれば参入可能」なため、葬儀会社だけでなく、運送・リフォーム・解体・花などの異業種からの新規参入が増加中だ。大手では、ヤマト運輸の子会社が「メモリアル整理サービス」を始めている。

しかし、立派なホームページやそれらしい資格だけで、かけがえない遺品を扱う業者を選ぶのは不安だ。なぜなら、遺品の中には、遺族も知らない現金、貴金属など大事な品が含まれる。信用できる業者でなければ、おいそれと仕事を託すわけにはいかないからだ。もちろん、値段も気になる。

内藤さんによると、遺品整理の料金は、主に「仕分け作業代」「(搬出作業の)人件費」「処理代金」の3つの合計になる。引っ越しと大きく異なるのは、持ち主が他界しているために仕分け作業が難しく、信頼と経験を要すること。そして、処理の費用がかかることだ。

実は遺品整理業者が持ち込む処理場には、ところにより大きな金額差がある。しかし、「安ければいい」とは言い切れない。下手をすると、個人情報の塊である遺品を違法投棄されかねない。内藤さんが言う。

「ちゃんとした処理場は人員も多く、手間をかけて仕事をしてくれます。処理に回した荷物の中から年金手帳が見つかりました、と連絡をもらったこともあります」

遺品整理業者に依頼をしたら、見積もりに来た担当者に対して、金額の根拠をできるだけ細かく聞くことが重要と内藤さんは語る。現場をまともに見ずに「2DKなので一式20万円」などという業者は論外である。同じ間取りでも集合住宅の階数や遺品の量で人件費も処理代金も異なるからだ。

どれだけ違うのか、内藤さんに試算してもらった。

「マンション1階の2DKで荷物が少なかったとします。1階なので人件費は1人につき1万8000円。4人いれば1日の作業で済みます。処理するモノはトラック1台半分だったとします。すると合計して……18万5000円で引き受けましょう」

これは荷物を増やさずシンプルに暮らしている人の例。ふつうはそうはいかない。特に、戦争経験世代の女性は、押し入れの中にびっしりと荷物や食糧をしまってあることが多いのだ。

「引っ越しと同じですが、2階以上の場合は荷物の搬送が大変。当然、人件費はかさみます。ここでは1人2万円で計算しましょう。1日目の仕分けのために2人必要です。お客さんにも立ち会ってもらい、現金や預金通帳、貴金属などは徹底的に探します。女性の場合、米びつの下からお金が出てくることもあります。2日目の搬出作業には5人は要りますね。処理するものはトラック約3台分として、合計34万8000円です」

類似する間取りでも、部屋の広さと遺品の量により倍近くの料金差が生じるのだ。見積もりの内容を細かく聞けば、他社との比較検討もしやすく値段に納得もできる。

また、見積もり内容を精査するとともに、遺品整理にあたり気になることを10点ほど質問すると、その会社の信用度や経験値が見えてくるという。

「業者の経験値を測るには、これまで経験したトラブルについて聞くのもいいでしょう。私の場合は、今まで50件以上のクレームを受けましたが、お客さんからのお叱りは1件だけで、しかもお客さんの勘違いによるものでした。他はすべて近隣からのクレームです」

トラックの駐車位置が悪い、作業音がうるさい、エレベーターを独占するな、などのクレームが多い。生前に近隣トラブルがあったか否かの聞き取りに加え、地元に精通した業者の経験が生きてくる。

トラブルではないが、顧客から「祖母が大事にしていた真珠のネックレスが出てこない」「故人の借金明細を記したメモが紛失した」と相談され、とくに念入りに仕分けを進めることもあるという。それでも目的物が見つかるとは限らない。

むろん真相は不明だが、高齢者の1人暮らしの場合、生前に悪意のある人や利害関係者が訪れ、こっそり持ち去っていたとしても気が付かないおそれはある。現場ではそうした事態に出くわすこともある。だからこそ、遺品整理業者には高い信用度が求められるのだ。

「できることとできないことをはっきりと言う業者は信頼していいと思います。たとえば、うちでは屋内に注射器があったらお断りします。実はある現場で、ベッド下に落ちていたインシュリン注射の針を誤って手に刺してしまったことがあります。大学病院に2年も通って検査を受け続け、事なきを得ましたが、もし肝炎に感染していたらと思うとぞっとします」

ところで、遺品整理が必要になる前に、本人や家族が気をつけるべきポイントは何か。内藤さんのアドバイスは次のようなものである。

「親が何を持っていてどれを大切に思っているか。生前に耳を傾けておかないと必ず後悔します。たとえば、故人のぬくもりが残る洋服は捨てがたいものです。とりわけ母親の衣類、父親のスーツはなかなか捨てる決断がつきません。遺品整理のときに途方に暮れ、悔やんで涙を流す遺族を何度も見ています。自分自身も『どうすれば遺族が困らないか』という視点で生前整理をしておくべきです」

内藤さんの経験では、警察官や自衛隊員の家はモノが少なく、驚くほど片付いている。死と隣り合わせの仕事だから、残された人に迷惑をかけない振る舞いが身についているのだ。ただ、一般家庭の場合、遺族だけでは遺品整理をやりきれないケースが少なくない。

だからこそ「年老いた親御さんには、生前整理を持ちかけておくべき」というのが内藤さんの考えである。

「お孫さんがいる場合は、『遊びに行くときに危ないので片づけておいてね』とお願いする手があります。話を聞くときは、『どれを捨てていいか』ではなく『どれを気に入っているか』を聞いておきましょう。いい写真を3枚ぐらい確保しておけば、膨大なアルバムは処分できますし、遺影選びにも苦労しません」

【ANSWER】できる限り生前整理したうえで、信頼のおける遺品整理業者に依頼する

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遺品整理の埼玉中央代表 内藤 久
1960年生まれ。京王プラザホテル勤務などを経て、2005年から遺品整理業に携わる。著書に『もしものときに迷わない遺品整理の話』

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