ニコニコ生放送「『従軍慰安婦問題』を考えよう」(2015年8月2日放送)全文書き起こし(1) | ニコニコニュース

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 「ニコニコドキュメンタリー」の第1弾、第三者の視点から日韓問題を描いた「タイズ・ザット・バインド~ジャパン・アンド・コリア~」の2回目の解説番組、「『従軍慰安婦問題』を考えよう」が2015年8月2日(日)22時から、ニコニコ生放送で配信されました。

 本ニュースでは、同番組の内容を以下の通り全文書き起こして紹介します。

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※出演者=話者表記
・朴裕河氏(韓国・世宗大学校日本文学科教授)=朴
・下村満子氏(ジャーナリスト)=下村
・青木理氏(ジャーナリスト)=青木
・角谷浩一氏(MC/ジャーナリスト)=角谷
・松嶋初音氏(コネクター)=松嶋
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角谷:こんばんは、コネクターの角谷浩一です。

松嶋:松嶋初音です。「本当のことを知りたい」ということで、ニコニコが総力を結集してこの夏スタートさせた、その名も「ニコニコドキュメンタリー」。第1弾は国際的な第三者の視点から日韓問題を描いたオリジナルドキュメンタリー「タイズ・ザット・バインド~ジャパン・アンド・コリア~」。その解説番組として、きのうは「領土問題を考えよう」をお送りしました。きのうはいかがでしたか?

角谷:きのうの領土問題、竹島の問題というのは、韓国の言い分と日本の言い分が全然食い違っているんですね。それから、きのうの話だと、実は朝鮮戦争と李承晩が、どういうふうにこの後韓国がなっていくんだろうかと、山本皓一さんが熱弁をふるってくれましたね。その李承晩の朝鮮戦争のときの流れがどうなるか見えないときに、李承晩ラインをつくることによって竹島を持つということの意味、地政学的な戦略上の意味というのがあったんじゃないだろうかという大胆な仮説もご紹介していただいて、なるほど、時系列で見るといろんな見方があるなと。一方で、国際裁判所に提訴すべきだというのが、番組の最後のアンケートの中でも一番高い結果が出ましたけれども。専門家のお二人に言わせると、今はもう勝てるかどうかギリギリだと。実効支配が極めて明確になってきているということもあって、もしかしたら負けるかもしれないということもあるけれども、国際社会に出していったほうがいいだろうというふうな結論になりました。ただ、その国際社会にアピールする力が、日韓では随分違うんじゃないかという結論ももう一つあったよう気がします。きのうは領土問題を扱いましたけれども。

松嶋:はい、そして今夜お送りするテーマはこちら、「従軍慰安婦問題を考えよう」です。それでは、早速今夜のゲストをご紹介しましょう。元朝日ジャーナル編集長で、女性のためのアジア平和国民基金、いわゆるアジア女性基金の元理事、下村満子さんです。よろしくお願いいたします。

角谷:よろしくお願いします。

下村:よろしくお願いします。

松嶋:続いて、韓国世宗大学校日本文学科教授で、『帝国の慰安婦』の著者でもあります、朴裕河さんです。よろしくお願いいたします。

朴:よろしくお願いします。

角谷:よろしくお願いします。

松嶋:そして、『抵抗の拠点から 朝日新聞「慰安婦報道」の核心』の著者でジャーナリストの青木理さんです。よろしくお願いいたします。

青木:よろしくお願いします。

角谷:よろしくお願いします。まずお三方に、このドキュメンタリーを見た感想をちょっと先に伺おうかと思うんですけど。朴さん、どうでしょうか。

朴:全体としてとてもおもしろいというか、よくできたドキュメンタリーだと思いました。私も10年前くらいに『和解のために』という本で、ちょうどここで扱われている4つの問題について考えたことがあったんですけれども。やはりこの問題に関して、ある程度の考え方の接点がないと、なかなか日韓関係が良くならないので、そういう意味でしかるべき問題を選んで、いろんな両方の考え方とか言い分をよくまとめてあったかなと思いました。ただ、なぜそうなっているのかということに関しては、あまり掘り下げられていないっていう気がして、見てもすっきりしないっていう気持ちが皆さんしたんじゃないかなと思いました。

角谷:なるほど。きのうもその声がお二人からありましたね。下村さん、いかがだったでしょう。

下村:私も基本的にはよくできたドキュメンタリーフィルムだと思いました。とくに第三者的な視点というか、イギリスのドキュメンタリーフィルム会社というか、プロダクションがつくったと伺いましたので、そういう点ではわりあいと公平というか。それから、アプローチの仕方も私はとてもよくできていると。ただ、限られた時間の中ですし、いろんなテーマが出てきていますので、今おっしゃったように深く掘り下げるというのは難しかったんだろうと思いますし、何も状況の分からない方にとっては、ちょっとよく分からないという問題もたくさんあったので、むしろあれを入口にして,
こういう番組でお話をするには大変いいんじゃないかなと思います。

角谷:そうですね。おっしゃる通りだと思います。ありがとうございます。青木さん、一度伺っていますけど、どうしますか(笑)?

青木:僕はもうおととい、あのドキュメンタリーの感想はお話ししたので繰り返しませんけれども。ただ、こういう問題というのは、日本は日本の言い分があって、韓国は韓国の言い分があって、それぞれはそれぞれで熱くなると、もう譲るところもなくなるという議論ですよね。従軍慰安婦問題の問題もそうだし、領土の問題もそうだし、それから歴史認識問題全般に対してそういう面が強い。それを、下村さんがおっしゃったように、あれが第三者かどうかは別として、イギリス人の目から見ると、ドキュメンタリーをつくるとこうなるんだなと。恐らく日本で激しく反発する人は「不公平だ」って言うだろうし、恐らく韓国人の人でも「不公平じゃないか」と言う方はいらっしゃるでしょう。ただ、そういうふうに見えるんだっていうことを材料にして「じゃあ、当事者たちである僕らが日韓関係をどう考えるんだ」という材料としては、非常に優れたドキュメンタリーだったんじゃないかなと思いますけどね。

角谷:ありがとうございます。

松嶋:ありがとうございます。

角谷:結局、ニコニコがこのドキュメンタリー、まして1回目に日韓関係を着手しようといった理由は、いろんな考え方、それからいろんな情報、知識、それから対立軸があると。それを自分たちの言い分を言い合ったところで、これはあまり生産性がないと。「第三者」という言い方がまた1回目の討論では議論になりましたけれども、やはりイギリスの目から見ると、どんなふうに見えたのかというのは、少なくとも当事国である日韓ではないところから見てもらったらどうだろうかと。それでも随分批判を討論会ではいただきまして。まず、第二次世界大戦の戦勝国側から見たものの見方は、どうしても敗戦国には厳しい見方になるのではないだろうかというのが一つ、それからヨーロッパだとか、それから帝国主義から見ると、植民地支配だとかというのはどんなふうに見えているのかというのも、随分と視点が一定のものがあって、「これはまたちょっと違うんじゃないだろうか」というふうな声もいただきました。ただ、それが今、青木さんからいただいたように、その番組を見た後、こうやって一つ一つ各論についていろいろ議論するなり、それからもう1回整理をして解説をしていくなりして、少なくとも番組を見ている皆さんの知識をなお高めていこうと。今まで知っていることとは違うこと、もう実はこの何日間で僕らも「そうだったのか」ということも随分あると。その気付きをお互いが増やしていくことは、1歩、2歩、3歩と近づいていくものになるんではないかというのが、この企画の意図の一つでもあるというふうにご理解いただければと思っております。

松嶋:そうですね。ユーザーの皆様からもちろんコメントをいただきたいなというところではあるんですけれども、質問も募集しております。プレイヤー画面下のメールフォームよりお寄せください。また、Twitterをお使いの方は、ハッシュタグ、#nicohouをご利用いただけますと幸いです。ということで、朴先生は今回ソウルからこの出演のためにお越しくださったということなんですけれども。

朴:一応そういうことになりました。

松嶋:東京は暑くないですか?

朴:ソウルも負けないくらい暑いので、大丈夫でした。

角谷:そうですね(笑)。

松嶋:本当ですか。ちなみに、大学ではどういったことを教えられて?

朴:私はもともと日本現代文学、近代文学専攻なので、文学と、それからこういったナショナリズムとか、帝国主義とか、あるいはこういう日韓葛藤を巡るようなイシュー、そういう葛藤について考えるっていうことも授業で扱っています。

松嶋:なるほど。さて、本題に行こうと思うんですけれども、この複雑化している慰安婦問題なんですけど、今どういうことが問題になっているのかという年表がありますので、青木さん、ちょっと時系列でこちらを。

青木:はい。もう本当にごく簡単にですけれども、そちらに映されているように、日本と韓国というのは、1965年、日韓基本条約を結んで国交正常化した、国交を結んだわけです。そのときには慰安婦の問題っていうのはもちろんあったんですよね。なかったわけがないんだけれども、慰安婦問題は少なくても両国の重要な政治イシューにはなっていなかったわけです。そのときは、やっぱり韓国側は当時、朴正煕っていう極めて独裁色の強い政権で、その政権との間で、日本の主に自民党政権の保守派の人たちがどうやって国交正常化するかっていうことに注力して、慰安婦問題っていうのはあまり問題になっていなかったわけです。ところが、90年に前後して、実は80年代ぐらいから、ここに書いてありますけど、尹貞玉さんという、慰安婦問題のことをずっと韓国で研究されていた学者さんが、ハンギョレ新聞っていう韓国の、どちらかと言うとリベラル系、左派系の新聞で初めてこういう問題があるんだっていうことを書かれたわけです。それで徐々に問題になっていく。日本側でも、例えば、これはどうも虚偽だったんじゃないかっていう結論がほぼ出ているんだけれども、吉田清治さんという方の「私は済州島、韓国の済州島というところで慰安婦狩りをしたんだ」という本が出ていたりとかもしていたんですけれども、やっぱり大きな分岐点だったのは、1991年ですか。金学順さんという、もうお亡くなりになりましたけれども、元慰安婦の女性が初めて自分で名乗り出た上で「私は慰安婦だった」ということを名乗り出たということで、日韓共に非常に政治的なイシューになっていくわけです。それを受けて、これは賛否いろいろありますけれども、93年に河野談話で日本政府として軍の関与、軍の関与というか、政府が認めたのは、広い意味での強制的な慰安婦の募集みたいなのがあったと、かてて加えて、軍が慰安所の管理とか運営にかかわっていたということを認めた上で公式に謝罪するということがありました。この後たぶん下村さんから詳しいお話があると思いますけれども、日本側としては「65年の日韓国交正常化のときに個人の請求権というのはもうすべて終わったんだ。だから、政府として、もうこれ以上個人の人に補償するというのは法的にできないんだ」というのが日本政府の今も一貫した立場なんですけれども。しかし、「それでもなんとかしたほうがいいんじゃないか」ということが日本側でも、もちろん韓国側でもあって、アジア女性基金というのが設立されて、償い金という形で首相のお詫びの手紙などとともに、その慰安婦の方々にお支払いしたらなんとか解決できるんじゃないかという動きがあったと。ところがそれがあんまり、結果的には韓国との間ではうまくいかなかったということです。今に至るも一切解決をしていないというのが、慰安婦問題に関する、それこそ中立的というか概略的な説明になるかと思います。

角谷:はい。皆さん、何か付け足すことはございますか?

松嶋:大丈夫ですか?

角谷:はい。僕は、87年から88年にソウルにいたんですけど。オリンピック直前でして、それから87年の暮れに金賢姫、大韓航空墜落事件があったので、そんな議論はまだないころで、逆に日本はオリンピックを応援する、そんな感じの時代だったような気がします。その後、今の青木さんの説明でも、事態が動いたのは90年代に入ってからだというところがポイントなんですけれども。その存在自体が別になかったわけではないと。それが問題になってきて大きなテーマ、イシューになってきたというのが経緯だと思うんですけれども。朴さんは『帝国の慰安婦』という本の中で、韓国で伝えられていた慰安婦とは違う実態や捉え方を書いて、韓国国内で大問題になったということですけど。そんな説明でよろしいですか?

朴:いえ(笑)。大問題になったといいますか、この韓国語版を出したのは2年前、2013年8月なんですけれども。それまでの慰安婦のイメージとちょっと違うことも書いたので、「どうなるかな」と思ったんですけれども、意外と普通に受け止められました。いろんな新聞などでも取り上げてくれましたし、どちらかと言うと好意的なものもあって、ほっとしたということなんですけれども。ところが、やっぱりこれには「植民地支配と記憶の闘い」という副題があって、それを中心にしても良かったんですけれども、そこにあるように慰安婦を朝鮮人慰安婦に絞って「朝鮮人慰安婦とは誰か」ということを書いてみたつもりなんです。それを巡って、日本と韓国が全く違うことを言って対立していて接点がないので、やはりもうちょっと議論の土台を変えるというか、ちょっと違う議論をするべきだっていうので書いてみたんですけれども。ところが、学会ですとか支援団体とか、しかるべきところであまり反応してくれなくて、あまり公論化されなかったんです。それで私も去年、2014年4月に「慰安婦問題、第三の声」というタイトルのシンポジウムを開いたりして、慰安婦の方の本人の声をちょっと出したり、いろいろしました。その後に関係者というか、支援団体を始めとする何人かの慰安婦の方たちから、ちょっと不満を寄せられたというか、問題になって、ちょっと騒ぎになったんですけれども。でも、基本的には受け止めてもらえたかなと私は思っています。

松嶋:こちらの本でもそうですし、ドキュメンタリーの映像の中でも、たぶん日本の人たちは結構驚いた部分があったのかなというのがあって。

朴:この本で、ですか?

松嶋:そうですね。その中身、書いてあることは、いわゆる今言われている慰安婦問題、韓国側の意見と少しやっぱり違うかなというふうに思ったんですけれども。ちなみに、この本を今ご覧になっている方が急に読むことは難しいので、朴さん自身が慰安婦問題についてどのように思われているのかっていうのをお話しいただけますか?

朴:ちょっと大雑把過ぎるお話なんですけれども(笑)。慰安婦問題についてですか?あるいは、慰安婦についてですか?

松嶋:慰安婦についてですね。

朴:私はこの本で、さっきも話しましたように朝鮮人慰安婦とは誰なのかを考えたんです。それはなぜかと言うと、これは韓国だけじゃなく、他のいろんな国の方たちももちろんいらっしゃるので、韓国人だけじゃないんですけれども。やはり問題としていまだに葛藤の中にあるというのが韓国なんです。そういう意味で、やはり朝鮮人に絞って考えなきゃいけないと思って考えてみたわけです。結論としては、やはりよくこれを戦争問題っていうふうに捉えるんですけれども、私はこれは帝国の問題だというふうに捉えました。つまりどういうことかと言うと、一つの国家が勢力を拡張しようとしたら、経済的にも、政治的にも、領土を広げるなり、いろんなことをしますよね。そのときに、人を外に出すことが起こるわけです。主に最初に行くのは男性なんです。それに伴って移動させられる女性たちがいるわけです。そういう意味で、国家の勢力拡張のために動員される女性たち、もちろんその中では、男性たちもそういうことはもちろんあるんですけれども、そういう女性たちというふうに捉えました。

松嶋:なるほど。ちなみに、こういった元慰安婦の方々というのは、日本に今現在何をしてほしいんですか?謝罪という形というのは、どういったものを求めている方が多いですか?

朴:いきなりそれになるんですか(笑)。それもやっぱり一概に言えないんです。私がこの本で書いたのは、つまりたくさんのケースがある、一つじゃないということを言いたかったわけです。特にその中で対立的なイメージだけで対立しちゃっているわけなんですけれども、いろんなケースがあって、時期によっても、あるいはどこにいたのかによってもみんな違うんです。それをまず理解すべきだと思うんです。なので、やはり慰安婦の方たちが何をしてほしいのかっていうふうに言っても、あまり本当は解決にならない。しかし、本当は個々人の願いはみんな違うはずですし、例えば、裁判もしたりしているんですけれども、裁判によってその結果が出るとしたら、もちろん違ってしかるべきことだと思うんです。ところが、これが国家問題になり、政治問題になってしまったので、一つの形として解決を求められるという状況になってしまったんです。なので、仕方なくある一つの形を考えなきゃいけないんですけれども、やっぱりみんな違うんだということを常にやはり忘れないほうがいいというふうに思うんです。それを前提として話しますと、いろんな方がいます。私がお会いした方たちの中には、補償をしてほしい。でもやはり、みんな謝罪はしてほしいんです。それはみんな同じでしたし、私はこの本の最後に「あなたが悪かったのではないという言葉が彼女たちには必要だ」っていうようなことを書いたと思うんですが、やっぱりそういう気持ちがどうしても必要だと思いましたし、それを謝罪というのか補償というのかは別で、やはりそういう気持ちだということは分かっていただきたいなというふうに思います。

角谷:つまり、慰安婦問題というくくり方、それからそのくくりの中には政治問題だとか、国家間の問題だというふうにするものと、それから人としての問題がありますよね。いろんな事情もあるし、それから人によっては「戦争中のことなんだから、戦争中はそういうもんだ」というふうに大前提にくくってしまうことがありますけれども、今、朴さんがおっしゃるように、まず勢力を拡大するためには人が出ていく、人が出ていくときには女の人が、その後、男の人のいるところに連れて行かれるというか。

朴:そうです。そこでやはり支配ということが起こるわけなんです。それで、民族による民族支配も起こりますし、やはりどちらかと言うと、貧しい階級の女性たちが連れて行かれるわけなんですけれども、そういう階級問題もありますし。みんな忘れていることに、やっぱり性の支配があるんです。私が思うには、これはやっぱり性の問題ですから一番の責任者は男性なんです。この3つの問題が絡まり合っている問題ということがあって、どのような支配によって誰が苦しむのかということを考えるべき問題というふうに考えています。

角谷:だから、これは時代だとか、戦争だとか、それから日本だとかというくくり以外に、男性と女性の問題がもうベースにあるということですよね。

朴:もちろんそうです。

角谷:ですから、この問題は実は慰安婦問題となると、謝罪は誰が誰にするのか、それから誰がいつまで誰に謝ればいいのか、こういう議論ばかりが大きくなってしまうけれども、実は根本はそこの問題があるのに、その問題は後回しにされて、謝るのか謝らないのかとか、賠償は誰が誰に払うのかとか、国はどうするのかとか、こういう政治問題化することによって実は慰安婦問題というのは質が変わっていったっていうことなんでしょうか?

朴:いや、ちょっと難しいんですけれども(笑)。確かにおっしゃる通り、私も話しましたように、これは男女の問題であり、階級の問題であります。しかし、日本の帝国主義によって領土を拡張することがあって、そのために男性も女性も移動させられたということがあるわけです。その中で、なぜ朝鮮人がその枠組みの中にいたのかという問題なんです。ですから、結局、政治問題になり、国家の問題になってしまったのは仕方のないことだと思います。植民地支配によって朝鮮の女性たちがそういう枠組みの中に入ってしまったという理解がまずは必要だと私も思います。

角谷:なるほど。青木さん、これをどう思います?

青木:朴さんは、なかなかご本人でもおっしゃりにくい面もあるんでしょうけれども。朴さんのおっしゃっていることっていうのは、韓国内でも、日本から見ても、かなり中立的、公平的なんですけれども。ただ、日本にいる僕らがやっぱり知っておかなくちゃいけないなと思うことももう一つあって、僕は韓国に5年、6年くらい住んでいたんですけれども、慰安婦問題というのは、やっぱりすごく、確かに政治的になり過ぎたっていう面もあるんだけれども、でも政治的になりやすいテーマでもあるんです。なぜかと言うと、ちょっと相手方の気持ちになってみるとわかるんですけれども。例えば、韓国というのは特に儒教社会で、目上の人、年上の人を敬う。それから最近はそんなになくなっちゃったけれども、貞操観念というのが日本よりも強かったというのがあった。そういう国で、慰安婦にされた、ましてや日本軍の慰安婦にされたっていうことはものすごく恥ずかしいことであると。それが原因で長い間彼女たちは自分で名乗れなかったわけですけれども、そういう女性たちがましてや、ハルモニっていう韓国語でおばあちゃんっていう意味ですけど、「おばあちゃんたちが必死になんとかしてって言っているじゃないか」っていう問題なんですね。そうすると、僕の印象では、これに関して是非は別として、韓国民はものすごく言論の幅が狭くなるんです。つまり「許せない」。僕がちょっと似ているなと思ったのは、あえて比較すれば、日本におけるところの拉致問題の反応ですよね。やっぱりこれはどう考えたって不当な北朝鮮による犯罪であって、「被害者の人たちを一刻も早く返しなさい」ってこれは当然の反応なんだけれども、そのときにやっぱり言論の幅っていうのが非常に狭くなった面がありましたよね。韓国については、それに非常に似ている状況がある。それは、その是非は別として知っておく必要があって、その中で朴裕河さんのこの『帝国の慰安婦』もそうですし、前作もそうですけれども、そういう中で客観的なというか、客観的な目というのは本当は有り得ないんだけれども、今まで出てこなかったような視座から慰安婦問題というのを提示されたときに、韓国でも評価する人たちがいた。日本でもそうです。けれども、やっぱり韓国内の一部の人たちっていうのは激しく反発した。「そうじゃないだろう。なんだ、裏切るのか」っていうような反応も出た。逆に日本でもこの朴裕河さんの言説に対して、例えば慰安婦問題というのを解決するんだっていう一部の女性の運動家の人たちは「とんでもない本だ」という反応も出ているという、そういう意味では、非常に興味深いというか、意義のある仕事であると同時に、韓国ではそういう問題なんだということを是非は別として僕らは知っておく必要があるだろうなと思います。

角谷:なるほど。慰安婦問題という見方は非常に狭くなってしまったというふうな言い方を青木さんはされましたけども、やはり加害者と被害者の構造だけというところを政治問題化して、「断固許さない」という声と、それから「謝ったけど、まだダメか」という声だけを、平行線にするような議論では本来ないテーマじゃないかというものが、ある意味では政治課題になることによって矮小化されていったり、逆に政治問題として肥大化していったり、当事者の議論ではなくなっていく話になっていった。ここが一つ、何十年かの時系列によって変化していった、この問題のテーマなのかなと思いますけど。朴さんどうですか?

朴:そうですね。矮小化というよりかは、きょうは下村さんもいらっしゃいますけれども、私は90年代の日本のこの問題に対する対応というのはとても良かったと思っているんです。つまり、とても曖昧とした形なんだけれども、漠然とした謝罪の気持ちがあったと思うんです。それをアジア女性基金という形で示せたというふうに思うので、あの辺でもうちょっと合意ができていれば良かったというふうに思うんですけれども。今は、ある意味でこの慰安婦問題に対しての情報を出しているのは、そういう支援団体や研究者、あとそれに反対する人たちなんです。数からすれば少ないはずなんですけれども、その言葉がすごくここ数年で、みんなの関心が高くなって情報も広まり、あと、それだけではなく反発も広がってしまって間に立てる人がいなくなったという状況だと思うんです。やっぱりこれからすべきことは2つあると思うんですけれども。やはり慰安婦とは本当に誰だったのか、どういう人だったのかということをもう1回確認すること。同時にそれだけじゃなくて、ここ20年、もう25年近いですけれども、91年に始まってもう今は2015年です。この期間に何があったのか、日本は何をして何ができなかったのか、韓国はどうだったのかという、この葛藤の過程をやはり両方の国民がもう一度みんなで確認し、それに基づく結論、あるいは方向付けをするということが必要だろうなと思います。

(つづく)

◇関連サイト
・[ニコニコニュース]「『従軍慰安婦問題』を考えよう」全文書き起こし(1)~(4)
http://search.nicovideo.jp/news/tag/20150802_「従軍慰安婦問題」を考えよう?sort=created_asc
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