「しまむら」が「ナチスのマーク付き商品」を売ってしまった理由 | ニコニコニュース

「しまむら」のチラシ(出典:同社のFacebookページ)
ITmedia ビジネスオンライン

 衣料品大手「しまむら」の一部店舗で、ナチスドイツのハーケンクロイツ(カギ十字)をあしらったようなペンダントとタンクトップが980円(税込み)で売られていたとして問題になっている。

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 1カ月前から売られていたものを今月19日に店を訪れた客が画像付きでツイート。ネット炎上をマスコミが追いかけるという毎度お馴染みのサイクルで、20日には販売見合わせになった。

 「仏教のありがたいマークじゃないか」という好意的な解釈をする人々もいたが、ナチスの鉄十字勲章と並べてみると、2020年東京五輪のエンブレムをデザインした佐野研二郎さんの作品群同様に元ネタとピタッとハマる。フランスパン問題で一躍脚光を浴びたトレース技術がここでも用いられている可能性が高い。

 だが、「しまむら」が佐野さんのケースと大きく異なるのは、ハーケンクロイツのパクりだと判明してからもなお擁護(ようご)する声が多いことである。

 「グローバル企業ならいざしらずドメドメの国内企業に欧米の理屈を押し付けるな」とか「行き過ぎた規制」という意見が多く、あげくの果てに店舗の従業員に「使ってはいけないマークだ」と苦言を呈した人物のほうが逆にネット上で中傷されるという事態にまで発展した。

 かつてエノラゲイの搭乗員が原爆投下記念Tシャツをつくって全米で売ってまわった時、日本側から「よくそんな不謹慎なことができるな」と怒りの抗議をしたが馬の耳に念仏だったように、自分たちの痛みを国や文化が異なる人々に理解をしてもらうのはかなり難しい。「あのマークのなにが問題なの」と首をかしげる日本人が一定数いるのも当然かもしれない。

 ただ、企業の経営という観点からみると、今回のナチスマーク騒動はかなり深刻な問題だと思っている。リスクの芽を事前に発見し、それを未然に防ぐ策を講じて組織運営にいかすという「フィードバック」が働いていない恐れがあるためだ。

●「しまむら」への疑問

 1年ほど前の2014年8月28日、スペインのアパレルブランド「ZARA」が発売した子ども服のデザインが旧ドイツ軍ナチス強制収容所の服と似ていると批判され、発売翌日に店頭撤去している。このブランドでは2007年にカギ十字が入ったハンドバックが問題になってやはり発売中止になった「前科」もあって、日本国内でもニュースとして取り上げられた。でも大きな話題になった。

 このような同業者のミスを「人のふりみて我がふり直せ」にする企業は多い。マクドナルドやペヤングの異物混入騒動の直後も、多くの食品メーカーが異物混入防止や自主回収フローの見直しを行ったのは有名な話だ。

 わずか1年で「ZARA」と同じ轍を踏む「しまむら」に対して、「同業者のミスから学ぶつもりがないのでは」という疑問がわきあがるのは自然のことだ。

 日本の地方都市を主戦場にする「しまむら」に海外事例を学べって言われてもねえ、と肩をすくめる方もいるかもしれないが、実は「しまむら」はみなさんが考える以上に「グローバルな視点」をもっている。

 しまむらでは毎年100人を超える商品部のバイヤーが年4〜6回、定期的にパリ・ロンドン・ニューヨークなどでマーケットリサーチを続けています。(同社Webサイトより)

 「しまむら」は「ユニクロ」「GAP」「H&M」「ZARA」というSPA(製造小売)とは異なり、500社以上のサプライヤーの商品をセントラルバイイングで全国へ配置するセレクト型。全品買取のため「追加値引」「返品」をいかに抑えるのかが生命線であり、その鍵を握るのが本社に所属する約120名のバイヤーといわれる。

企業としてかなり危うい

 彼らは日々情報収集にいそしみ、世界のファッショントレンドを読み解き、商品分析を行って、「しまラー」なんて若い女性客が付くようなファッション性のある商品を生み出している。そんな情報感度の高い人々が、「ZARA」のナチス騒動なんて知りません、というのはちょっと考えづらい。

 むしろ、「ZARA」をバリバリ意識しているふしさえある。ご存じの方も多いかもしれないが、「しまむら」には「ZARA」のバッグと並べるとよく似ているバッグが売られている。若い女性からは、機能やデザインがより洗練されていて高く評価され、「ZARA風バッグ」なんて呼ばれて人気を集めているのだ。

 このような商品トレンドは積極的に取り入れる一方で、自社でも起こり得るミスは「他山の石」としない組織風土があるとしたら、企業としてかなり危ういのではないか。

 さらに問題なのは、このようなデザインにまつわる騒動が昨日今日始まったことではないことだ。実は2009年11月、「しまむら」は他社が製造をしているブランドのロゴを無断で使用したベストを2100着売ったとして問題になっている。

 「しまむら」は、ベストの生産を韓国メーカーに発注したところ、彼らが韓国で売られていたコピー品をそのままパクって納品したので、気づきませんでしたと釈明。「佐野研二郎デザイン」とうたいながらも、「スタッフがパクりましたので知りませんでした」という言い訳とよく似ている。

 「再発防止につとめます」と宣言した「しまむら」だったが、4年ほど経過すると再び同じような騒動が起きる。福岡在住の手芸作家さんのデザインをそのままコピーしたTシャツを販売し、ご本人の抗議で販売中止、回収をしているのだ。その約1年半間で今回のナチス騒動が発生している。

上場企業としてイマイチな対応

 こうした一連の流れを見る限り、「しまむら」が本気でこのような問題に取り組もうとしているとは到底思えない。むしろ、ファッション業界から漏れ伝わってくる「デザインのパクリなんてみんなやってるじゃん。バレなきゃいいっしょ」という開き直りのようなものすら感じてしまう。

 「会社というよりバイヤー個人の判断ミスだろ」と反論をする方もいるかもしれないが、個人的にはその可能性は低いのではないかと思っている。

 「しまむら」は「ユニクロ」や「ワールド」と比較すると、販売費および一般管理費が圧倒的に少ない。このローコストオペレーションを実現させたのが、ページ総数は1000ページをゆうに超える分厚い業務マニュアルだといわれる。自社Webサイトでも、『最も優れたベテラン社員のやり方をマニュアルと考え、新入社員でも一定レベルの業務ができるようにするため、全ての部署でこれを重視し、標準化と合理性を追求』していると胸を張っている。

 自他とも認める業務のマニュアル化に成功した企業で、「寺マークにも見えなくもないしギリセーフでしょ」なんて個人のフィーリングが優先されるとは思えない。だとすれば、今回ナチスのデザインを採用してしまった理由はひとつしかないのではないか。

 デザインに対する明確な社内基準や、そのトラブルを想定した対応方法がマニュアルに含まれていなかったのだ。

 「しまむら」のマニュアルは全社員から毎年5万件以上の改善提案が寄せられるそうで、3年もすればすっかり中身は変わるらしい。ならば、2009年に「再発防止」を誓った「パクリ問題」もマニュアルに反映されているはずだが、2013年に同様のことが起きている。もしマニュアルにデザインの社内基準や対応がしっかりと明記されていたとしても、それがどこまで機能をしているのかは正直、疑わしい。

 「立派なマニュアルがあるにしては……」と首をかしげるようなところもある。今回の騒動を取材する『朝日新聞』に対して、「しまむら」本社企画室はこんな風に回答をした。

 「今後の取り扱いは検討している。商品として扱うデザインの社内基準はあるが、今回の件に関してのコメントは差し控えたい」

 「ZARA」は発売中止後、全ての文化と宗教に最大限の敬意をもっているなんてメッセージを出して悪意がないことを懸命にアピールした。それと比較すると、なんとも味気ないというか、他人事感が漂うというか。

 マニュアル見直しのおりには、ぜひ広報の改善も検討していただきたい。

●窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。