[CEDEC 2015]読者参加型“3D小説”ではどんな試みがなされたのか。イシイジロウ氏らが現実世界を巻き込んだ施策やARGの未来を語った | ニコニコニュース

[CEDEC 2015]読者参加型“3D小説”ではどんな試みがなされたのか。イシイジロウ氏らが現実世界を巻き込んだ施策やARGの未来を語った
4Gamer

 2015年8月26日から28日まで,神奈川県のパシフィコ横浜にてゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2015」が開催されている。その初日,読者参加型Web小説である“3D小説”「bell」をテーマとした「現実世界のプレイヤーとデジタル世界のキャラクターの理想的なコミュニケーションのあり方とは?」と題するセッションが行われた。

 このセッションでは,ARG(Alternate Reality Game,代替現実ゲーム)の制作者であり,「bell」において読者参加型イベントを手がけたラ・シタデールLLC.代表の竹内ゆうすけ氏と,「428〜封鎖された渋谷で〜」「タイムトラベラーズ」などを手がけたストーリーテリング代表取締役のイシイジロウ氏が登壇。「bell」のプロジェクトを解説しつつ,その試みやARGの未来といった内容が語られた。

■読者が参加して結末を変えていく“3D小説”

 まずは竹内氏から,3D小説「bell」についての解説が行われた。3D小説とは,リアルタイムにストーリーが進行していく読者参加型のWeb小説のことで,Web上に更新される物語の展開に対し,読者はアクションを起こして介入することができる。まさに広義におけるARGといえる。

 たとえば,「主人公が交通事故で死んでしまう」といった内容の小説がWeb上で発表されたとしよう。小説の中には「事故がどの場所で起こったのか」という事故を回避するためのヒントが散りばめられているので,読者がそれを読み解き,主人公のTwitterアカウントに助言を与えると,悲劇的な結末を回避できるというわけだ。


 そのため,1つの物語を読み進めていくだけの受動的な“読者”というより,イベントの“参加者”に近いと考えたほうがいいかもしれない。ただ,本稿では講演における表現にならい,読者と表現していく。

 Twitter経由でコマンドを出すアドベンチャーゲームのようなもの,とイメージすると分かりやすいが,ゲームと違うのは,参加しているのは自分一人ではないこと。そして,3D小説はリアルタイムで進行していくため,一度きりの体験であるということだ。


 3D小説のイベントは現実世界の時間と連動しており,前述した「交通事故」の場合だと,もしタイムリミットまでに有効な対策を打ち出せなければ,主人公が死んでしまう可能性もないではない。Web小説とTwitterが織りなすライブ体験が,3D小説ならではの醍醐味というわけだ。

■小説とゲーム実況,そしてリアルの“アイテム”を組み合わせて,新しい体験を作る

 続いて,実際に行われた読者参加型イベントがいくつか紹介された。そのうち,「bell」のために制作されたフリーゲーム「シロクロサーガ」による実況プレイと現地凸(現地へ突撃),そしてクリスマスプレゼントを絡めたイベントが印象的だった。

 シロクロサーガは,小説の登場人物である「ノイマン」が制作したという設定のフリーゲームだが,実際にダウンロードして遊べるようになっている。「主人公がゲーム内に取り込まれてしまい,このままでは死んでしまう」という未来像が提示されているため,読者は協力し合ってゲームクリアを目指すことになる。


 ニコニコ生放送で配信されたシロクロサーガの実況プレイには,延べ8万人が参加し,主人公を助けるべく難題に挑んだという。大勢の仲間と一緒に同じ目的に向かって力を合わせるという体験は,3D小説でなければ味わえないものだろう。

 ゲームから得られた手がかりに従って,読者が秋葉原の中華料理店へ赴くと,新大阪にあるマンションの住所が書かれたメモが手に入る。その内容がTwitterで公開されると,付近に住む読者がそのマンションへと現地凸を行ったという。


 謎を解くと,次に向かうべき目的地を指示されるというパターンは,リアル脱出ゲームなどでも使われている手法で珍しいものではない。しかし,東京と大阪のように遠く離れた場所が指定できるのは,Webを活用した3D小説ならではの強みだ。

 新大阪のマンションに訪れる読者の様子は,定点カメラによるWeb中継で生配信も行われた。手がかりを探す読者達が,部屋に置かれていたはずのスマートフォンが持ち去られているのに気づくと,Web小説が更新。その内容は,新大阪にいる登場人物がマンションの部屋からスマートフォンを拝借したというものだった。


 つまり,現地にいた読者達はいつの間にか小説の登場人物と遭遇しており,小説と現実の世界がリンクした瞬間に立ち会ったというわけ。言うまでもなく,スマートフォンを持ち去ったのは,読者の中に紛れていた運営側のスタッフだ。

 クリスマスが近づくと,読者達の家には謎の贈り物が届き始めた。小説によると,そのなかのどれかが物語の結末に関わるキーアイテムであるという。

 読者達の謎解きによってキーアイテムが判明すると,その持ち主は読者でありながら,物語の展開を左右する力を持つことになるというわけだ。結局,キーアイテムの持ち主は,Twitter上でほかの読者と相談したうえで,登場人物が幸せになる結末を願ったという。

 Web小説やTwitter,ニコニコ生放送など,さまざまなメディアを活用した3D小説。だが,多数の読者が参加してくれた最大の原動力は「個々の施策ではなく,物語の魅力」と竹内氏は語っている。


 読者にとって主人公を身近に感じさせ,「彼のためなら一肌脱いでもいい」「彼が成功すれば自分も嬉しい」と思わせる物語を作れたことが,読者を惹きつけた核となる部分なのではないかと,竹内氏は3D小説という試みを総括していた。

■ARGのマネタイズ,そして物語が生まれる仕組み作り

 セッションの後半になると,イシイジロウ氏が加わり,3D小説を含むARGに関する解説が行われた。


 イシイ氏によると,ARGはマネタイズ面から「広告宣伝ARG」と「独立系ARG」に分類できるという。前者は映画などのプロモーションとして行われるもので,ARG自体で収益を上げる必要はない。だが,後者はARGによってお金を稼がなければならないため,「bell」のようにARGの結果をまとめて書籍化するといった手法が取られる。
 つまり,「bell」ではARGの体験そのものではなく,その記録(リプレイ)に課金してもらうビジネスモデルが採用されたというわけだ。

 ただ,イシイ氏の見解では,テキストや動画などのデータ化された物語はコピーできるため,マネタイズには限界が来ているという。その反面,リアルな場に居合わせて物語を体験することや,思い出としてのモノには課金することが可能だと語っている。


 体験をマネタイズする例として挙げられたのは,ライブ会場で販売されるグッズなど。ライブという一度きりの体験が,記念のグッズという形でマネタイズされているというわけだ。これを踏まえてイシイ氏は,ARGの最中でしか買えないグッズなどがあれば,ARGのマネタイズにも可能性があるのではないかと語っていた。

 ちなみに「bell」では,当初の想定よりも早く読者が物語の核心に迫っていたため,後半の展開を書き換えるようなことが行われたという。インタラクティブなストーリーテリングとも言えるが,これは手間が掛かるうえにコストパフォーマンスもよろしくない。イシイ氏は,質の高い物語を安定供給するという意味では問題があると指摘する。


 こうした問題を解決しうるのが,物語が生まれるゲームデザインを作ることだという。この場合のゲームデザインとは,一般的に知られるデジタルゲームのルールではなく,アナログ的なルール,つまり仕組みのことである。

 イシイ氏がその好例として挙げたのは夏の甲子園(高校野球),そして「Fate」シリーズの「聖杯戦争」だ。どちらも戦うべき理由を持った者が集まり,勝ち残るために激しい戦いを繰り返している。

 夏の甲子園をあらためて説明するまでもないと思うが,「物語を生み出す仕組みとして優れている」とイシイ氏が評価するように,毎年無数のドラマが生まれており,さらにそこから「ドカベン」や「タッチ」といった多数の傑作がものされている。


 聖杯戦争は,「聖杯」を巡ってマスター(魔術師)とサーヴァント(英霊)が戦うという仕組みだ。夏の甲子園と同様,これまでに何度も繰り返されてきたという設定になっている。原作者が質の高い物語を提供するというのはもちろんだが,聖杯戦争という仕組みがあれば,読者もそこで戦うサーヴァントを考えたり,自分なりの聖杯戦争を作り出したりできるだろう。

 つまり,夏の甲子園や聖杯戦争のように,物語が生まれてくる仕組みを作り出せば,クリエイターは質の高い物語作りに集中でき,読者から物語が生み出されるかもしれないというわけである。


 優れた物語とさまざまな施策によって,ほかでは得られない体験を生み出した「bell」。多大なマンパワーを要する企画だったことは確かだが,その秘めた可能性の大きさが感じられるセッションだった。

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