スター・ウォーズ「R2-D2」型冷蔵庫を作った男 | ニコニコニュース

R2-D2型冷蔵庫を紹介する伊藤社長
東洋経済オンライン

日本コカ・コーラ、デル、アディダス ジャパン、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、ハイアール アジア……。数年ごとにあえて未経験の業界に飛び込み、業界の常識を覆す発想と戦略で、さまざまな記録的な結果を残してきた伊藤嘉明氏。“進化形異端の経営者”が自ら仕事の流儀を新刊『どんな業界でも記録的な成果を出す仕事術』にまとめた。その伊藤氏が、仕事の流儀やキャリア観を語る。

2015年6月2日に東京・恵比寿で行われた「ハイアール アジア戦略発表会 イノベーショントリップ」で私は、「AQUA」ブランドの数々の新商品を発表した。世界初の「洗濯中の洗濯槽の中を見て楽しめる」スケルトン型洗濯機「CLEAR」や、Androidと32インチのフルHD液晶パネルを搭載し、IoT時代に対応する冷蔵庫「DIGI」など、どれも従来の家電業界の常識を打ち破るような斬新なものばかりだ。

中でも、いちばん注目が高かったのがR2-D2型自走式冷蔵庫だ。R2-D2とは、皆さんご存じ『スター・ウォーズ』に登場するロボットの名前だ。

サイズは映画の設定と同じで、ルーカス・フィルムと綿密なやり取りを繰り返し、ディテールまでこだわって作り込んだ。頭部を左右に動かす愛らしい姿や、独特の声(機械音)は、まさに本物そっくりだ。胸部を開くと冷蔵庫になっており、500ミリリットルペットボトルや350ミリリットル缶を保冷できるようになっている。ラジコン操作で遠くから呼び寄せることができる。世界初の「呼べばやって来る」冷蔵庫だ。

■「メード・イン・ジャパン」の技術力で製造、商品化 

ハイアール アジアは、旧三洋電機の白モノ家電事業部を母体とする企業であり、6500人を超える従業員の多くは、旧三洋電機の社員である。つまり、われわれの技術は「メード・イン・ジャパン」なのだ。日本の技術力をもってすれば、こうした冷蔵庫を作ることは、それほど難しいことではない。

R2-D2型冷蔵庫は、NHKをはじめとする各メディアで取り上げられ、SNSでも数多くつぶやかれたが、これだけ話題になった理由は、R2-D2型冷蔵庫を「作った」からではなく「実際に商品として販売する」からであろう。現在、2016年の発売を目指し、準備中である。単なる技術的なアピールや演出ではなく、こうした「ワクワク」する家電を商品として販売する大手家電メーカーは、日本では少なくなってきている。

「自分が欲しい」から商品を作る

ちなみにR2-D2型冷蔵庫は、私の発案で製品化を決めた。年末に『スター・ウォーズ』の新作映画が封切られる予定で、「日本でも『スター・ウォーズ』 フィーバーが巻き起こるはずだから、弊社からもそれに合わせて何かを発売したい」というマーケティング的な発想もあるが、製品化を決めたいちばん大きな理由 は、単純に、私が欲しいからだ。

私は自宅に何千枚のDVDやブルーレイを所蔵する映画大好き人間だ。そして、『スター・ウォーズ』の大ファンでもある。そんな私が「R2-D2型の冷蔵庫があったら、自分なら絶対に買うだろう」と思ったから、作るのだ。

■ソニーはなぜ4Kテレビにスピーカーをつけたのか?

社長や作り手が「自分が欲しいから」という理由で商品を作ってもよいのか。答えは「YES」だ。逆に、日本で発売される家電が、あまり「ワクワク」しないものになってしまったのは、社長や作り手が、本心から「欲しい」と思っている商品を作っていないからではないだろうか。

企業が大きくなればなるほど、新商品の開発にあたっては、綿密なリサーチや、慎重な会議が重ねられる。しかし、そうしたリサーチや会議をいくら積み重ねても、そこから「ワクワク」するような、ユーザーが「絶対に欲しい」と思う商品は生まれにくい。

私がソニー・ピクチャーズ エンタテインメントにいた頃、ソニー本体の若手社員と話していてがっかりしたことがある。新しく発売する4Kテレビに、スピーカーをつけると言うからだ。なぜスピーカーをつけるのかと問うと、「リサーチ結果で、そうした要望が多かったから」とのこと。ひとりのAV愛好家として断言するが、4Kテレビが発売されて真っ先に買うようなユーザーは、すでに自宅にサラウンドシステムを組み上げている。テレビに付属している安物のスピーカーなんて、邪魔者以外の何物でもない。

「よそ者」だから、ユーザーの気持ちがわかる

ユーザーの声を数だけたくさん集めても、そこから出てくる示唆は、誰でも想像できるような無難なものになりがちだ。また、作り手側の世界にどっぷりつかって買い手側の気持ちがわからなくなってきた業界人がいくら議論しても、せいぜい、少し新しく、少しおしゃれだけれど、「買っても買わなくても、どちらでもいい」商品しか生まれない。

■「よそ者」だからこそ、業界の常識に縛られない

お客様から「これが欲しい!」と思ってもらえる商品を作るには、お客様を見定め、その人が「欲しい」と思うものを聞き出し、製品化するのが近道だ。そして今回のケースでは、まさに私は「想定顧客」だから、私が「欲しい」と思うものを作ることは正しい。

もちろん、社長なら誰でも好きな商品を作ってよいと言っているわけではない。ユーザーの視点を持っていて、業界の常識に染まっていない社長に限った話である。

私がハイアール アジアのCEOに就任したのは昨年1月だ。それまで家電業界と無縁だった「よそ者」の私だから、ユーザー目線で業界の常識に縛られずに考えることができるのだ。

これは、大きな強みである。家電業界の素人である私が、旧三洋電機を母体とする巨大家電メーカーのトップとして招かれたのは、それまで、ほかの業界で数多くの企業を再建させてきたという実績があるからである。ではなぜ、さまざまな異なる業界で、その業界のベテランたちができなかったことを成し遂げられたのかというと、逆説的だが、つねに「よそ者」だからだ。

私は約3年置きに、異なる業界に転職し続けている。このことをもって、「この人は、1カ所に腰を据えることができない人だ」と言われることもある。実際にあるヘッドハンターの方からは、「こんなにコロコロ会社を変える人に大きな仕事は任せられない」と言われたこともある。しかし、私はそうは思わない。

まず、そもそもビジネスパーソンは本来、何かを成し遂げるためにその職場にいるべきであり、それを成し遂げたならば、その場に居続ける必要はないはずだからだ。もう一歩踏みこんで言うと、実績を上げた職場に居続けることは、居心地のよいコンフォートゾーンにとどまり続けることだとも考えられる。自らの成長を目指すのであれば、むしろ周期的にまったく別の世界に飛び込むことが正解ではないだろうか。

そして、つねに異業界に飛び込むということは、「いつも素人」「いつも初心者」になるわけだが、そのことは決してマイナス要因ではなく、むしろプラス要因であることは、すでにおわかりいただけたのではないだろうか。

「なぜ、そんなに業界が変わっても、いつも成果を出せるのですか?」と聞かれることがあるが、むしろ逆である。毎回、業界を変えてきたから、出せる成果も大きくなってきたのだ。

みなさんに、この言葉を贈りたい。

「世界を変えるのはいつだって、よそ者、若者、バカ者だ」

(撮影:大澤 誠)