安保反対デモは「12万人」……なぜ警察発表の「4倍」なのか | ニコニコニュース

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ITmedia ビジネスオンライン

 いよいよ安保反対デモがえらいことになってきた。

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 なんてことを言うと、反対派のみなさんから「そのとおり! 安倍政権はもう虫の息。市民革命、バンザーイ!」なんて勝利の雄叫びが聞こえてきそうだが、残念ながらここで言う「えらいこと」はそっち方面の話ではない。

 「参加者数の主催者発表と警察発表のギャップ」がえらいことになっているのだ。

 これまでの過去最大規模だったということで主催者発表の参加者は12万人。これは神奈川県海老名市や福島県会津若松市の人口とほぼ同じ。要は、会津若松の赤ちゃんからお年寄りまですべての市民が国会前に集結したとイメージすればいい。

 そりゃあスゴいと驚くかもしれないが、警視庁の発表はだいぶトーンがかわって参加者は約3万人。主催者側発表の「4分の1」と大きな隔たりがあるのだ。もちろん抗議デモなので、参加チケットや入場ゲートがあるわけでもない。主催者のみなさんも「ハンターイ、ハンターイ」と喉を枯らすのに夢中で、交通量調査みたいに数取り機でカチカチとカウントをするヒマなどないだろう。警察だって警備でてんてこまい。互いにザックリとした数字になるのは分かるが、ここまでダイナミックな開きがでるのも珍しい。

 この手の「ギャップ」で有名なのは、2007年9月29日に開かれた沖縄県民大会だ。当時、沖縄戦の集団自決について「日本軍が強制した」という文言を教科書から削除するという動きがあり、これに反対をする県民が宜野湾海浜公園に集まった。

 主催者発表は11万人。それを鵜呑(うの)みにした『朝日新聞』はどーんと大きく報じたが、『産経新聞』が取材をして、いやいや空撮写真とか検証しても、いいとこ4万3000人でしょうと突っ込みを入れた。要は、実際の参加者を「2.5倍」に水増ししたのではと問題提議したのだ。もちろん、主催者側は猛反発。確かに事前申告の総計は5万人強だったが、それを遥かに上回る人々が押し寄せ、11万も控えめな数字だと言い放った。

「ギャップ」は年を追うごとに激しく

 どちらの言い分に分があるかは個々の判断に委ねるとして、興味深いのは、この手の反戦平和運動の参加者数にまつわる「ギャップ」が、年を追うごとに激しくなっている点だ。

 1995年に沖縄駐留の米軍兵士が少女を暴行する事件が起きた。そこで催された抗議集会の参加者は、主催者発表で約8万5000人。一方、警察発表では5万5000人と、その差は「1.5倍」程度しかない。それが12年を経た県民集会では「2.5倍」、そしてさらに8年を経た安保反対集会になると「4倍」と右肩があがりで差が開いているのだ。

 この20年で、なぜここまで大きな開きがでてしまったのか。反戦平和運動にいそしんでいる方たちの主張を見る限り、「権力者が警察やマスゴミを使って情報操作をしているんだ!」というのが定説となっているようだ。

 否定はしない。確かにこの世界にはそういう例がごまんとあるからだ。例えば、2012年のロシアでは、プーチン大統領が復帰することに対して、モスクワで大規模な反対デモが開催された。主催者発表では10万人以上だったが、ロシア内務省は3万5000人と発表。「2.9倍」の開きがあった。

 今回の安保反対デモ並のギャップも確認されている。1991年、お隣の韓国光州市で催された「五・一八光州民衆抗争十一周年継承大会」という反政府集会があった。主催者発表では20万人が当時の盧泰愚政権を厳しく批判するために集まったというが、警察発表では約4万人。メディアは約5万人と報じた。ギャップを見る限り、今回の安保法政デモとかなり近いものがある。

 ということは、反対派のロジックでいけば、いまの安倍政権は、1987年に民主化宣言をしたてホヤホヤの韓国と同じくらいのダイナミックな情報統制や、市民運動弾圧の動きがあるということにもなる。それはそれで恐ろしい話だ。

「ギャップ」が生まれる原因

 ただ、実はもうひとつこのような「ギャップ」が生まれるケースがある。それは、共産党系市民団体、あるいは労働運動をしてらっしゃる方たちの「動員目標と実力の乖離(かいり)」が大きくなってしまった時だ。

 今回の安保反対デモでも、共産党や労働組合、そこと連なる市民団体が大きな役割を果たしているのは今さら説明する必要はないだろう。このような方たちの集会やデモにはだいたい、「動員目標」というのがある。どこどこ労組から何人、どこどこ団体からは何人というノルマがあり、それに達するように参加者を動員しなくてはいけない。

 昔は、目標と実数の開きはそんなになかった。むしろ、目標を大きく上回る「うれしい誤算」もあったが、労働運動の衰退によって徐々に目標と実数のギャップが生まれてくる。それが顕著になったのは、1989年のメーデーだ。実はこの年、労働運動は音楽バンドみたいに方向性の違いから、連合・総評系、共産党・統一労組懇系、東京都労連という3つに分裂をしてメーデーを行った。もちろん、それぞれ「動員目標」を掲げてがんばったが、組織は3分割したので、動員力も3分割されるのは小学生でも分かる。だが、そのジリ貧具合を認めてしまうと、組織力低下があらわになる。そこで苦肉の策として生み出されたのが、「水増し」だ。

 この年、連合・総評系メーデーの参加者は19万6000人、共産党・統一労組懇系は23万人、東京都労組連合会が3万1000人となったが、これらはすべて「主催者発表」。警視庁が「実態に近い」と自信満々に発表した結果では、連合・総評系が5万5000人(3.6倍)、共産党・統一労組懇系が3万7000人(6.2倍)、都労連が1万7000人(1.8倍)。これが事実ならかなりダイナミックな水増しが行われたことになる。共産党・統一労組懇系が尋常ではない「鬼盛り」をしている理由は、『読売新聞』(1989年5月2日)によると、『統一労組懇系は「とにかく連合・総評系を上回る人数」を強調していた』からだという。

●安倍首相をひきずり降ろすために

 ただ、共産党や労組のみなさんをかばうわけではないが、このような「水増し」は悪意があって行われるわけではない。大義のために数字をちょこちょこいじるというのは、共産主義や社会主義のお家芸というか、さして珍しい話ではないのだ。

 南京事件なんか分かりやすい。事件当時や終戦直後は欧米メディアも中国も犠牲者を2万とか4万とか言っていた。しかし、広島や長崎の原爆の被ばく者数が年を追うごとに増えていくのを見るや、張り合うように20万人、30万人と跳ねあがっていった。「日本の戦争犯罪を糾弾する」という大義のために数字を盛るのは、「正義」なのだ。

 今回、国会前に集っているみなさんからも、「安倍首相をひきずり降ろす」という清く正しい目標を遂行するためにはなにをやっても問題なしというムードが漂う。その正当性をアピールするために参加者数を「鬼盛り」したのでは、という疑惑がもちあがるのは当然だ。

 いずれにせよ、主催者発表と警察発表に「4倍」の開きがあるというのは、健全な社会とは言い難い。もし国会前に集まった12万人の市民の数を、警視庁に圧力をかけて4分の1にして発表をさせたとしたら、安倍政権は1990年代の韓国並の情報統制をしているということだ。

 逆に実数3万人の集会を12万人に水増しをしたとしたら、かつての共産党・統一労組懇系を思わせる「革命闘争」が国会前で行われているということである。

 どちらの発表が事実なのかは今となっては分からない。ただひとつ言えることは、どちらであっても日本の未来は暗いということだ。

(窪田順生)