(ひそかに)編集長交代のごあいさつ

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こんばんは。三代目ギズモード編集長の尾田です。

今回はお別れのご挨拶。本日をもってギズモード・ジャパンを卒業させていただきます。この編集長が交代する際に出す記事は恒例になっていて、初代編集長のいちるさん、二代目大野くんのお知らせの頃から、僕はその都度ギズモードに経営者、そしてディビジョンディレクターとして関わってきたので、まさか自分で書くことになるとは思ってもいませんでした。前向きに新しいメディアを立ち上げるために外の世界に出る、という感じなので、そんなにしんみりとしたことも書けないのですが...。

ちなみに「恒例」といえば、過去の編集長交代の記事には目覚ましいテクノロジーの進化が特筆すべきこととして挙げられていますよね。自分が在任した1年半も同様で、それこそ「様変わり」といっていいぐらいのものだったんじゃないでしょうか。

この間、アップルがApple WatchApple Music、まだまだ噂のレベルですがApple Carと、次々と“Apple”の名を関したプロダクトやサービスを発表し(iPhoneも新社屋の完成と共に“Apple Phone”という呼称に変えるんじゃないかと予想)、テック業界全体も、情報通信革命だったインターネットがパソコンやスマホ、タブレットといったデバイス画面のなかに収まらなくなり、洗濯機から台所の家電製品、スマートホーム、自動運転車、さらには自らの肉体にまでつながっていくインフラ革命の潮流へと変わっていきました。

苦戦が伝えられるウェアラブルデバイスがその真価を発揮するのは、この新たなインフラ時代へのゲートウェイとしての機能するようになってからなはずです。いわゆるIoTInternet of Things)ってやつですね。最後までこの言葉はマーケティングっぽい思惑が見え隠れして好きになれませんでしたが。

そしてギズモードは、AIARドローン(僕たちはだいぶ前から遊んでいたし、告白すると公園の木の枝を折ってしまったり、ドローン犯罪のハシリでもあった!)、バイオハックといったSF的テクノロジーに関するニュースで賑わうようになり、シンギュラリティ技術的特異点)の危険性なんて話題も半信半疑ながらも、リアリティーをもって語れるご時世となりました。

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最近の編集部内ブーム「AIがエディターの仕事を奪う」について書きましょう。そのうち編集作業は人工知能にとって代わられ全員クビになり、編集長の前に“鴻上”“鈴木”“斎藤”“町田”などと名前がつけられたサーバーが鎮座しているだけの無人ギズ編集部になる。さらに武者/三浦/小暮などとライター名が書かれたアルゴリズムのパラメーターをいじって文体を調整、Googleアナリティクス‎のAPIを使って地域や個人に最適化された記事をAIがセレクトするようになる...なんて冗談が流行っていました。

テクノロジー好きの僕たちにとって、むしろそれは望ましいことなので、ジョークでなくIBMが誇るコグニティブ・システム、“ワトソン”くんのチームか、ライゾマの真鍋大度さんに本気で頼もう、と盛り上がったり。こんな無駄話に夢中になれて、そのうち本気で実現しようと画策しはじめるギズモード編集部は最高です。さすがにこんなチームにはもう巡り会えないんじゃないでしょうかね..。

この生き馬の目を抜くような変革期の中で、“ガジェット”という我々が長年慣れ親しんできた言葉も、いつの間にか少し古びてきたように感じられます。キュレーションメディア、バイラルメディア、分散型メディアとメディアのトレンドも大きく変わり、PCの検索流入、各種SNSのシェアから、スマートフォンのNotification(通知)へと闘いの主戦場が移行しました。

ポストBuzzFeedと言われるQUARTZmedium、“トップページを殺す”と物々しく宣言した動画ニュースメディアNOW THIS NEWSのような行くところまで行った新種メディア(アプリ)も登場する昨今。

我々は原点に立ち戻ってテキストを重視し、その内容もデバイス単体の紹介でなくそれを取り巻くインフラの全体像、社会的構造から、本質的な価値を定義づけて、読者の価値観を刷新するような読み応えのある記事を作っていかなければならない、という心意気で長文に力を入れたり、その反動で、ブレイキングニュースやライトな記事にも気配りしたり。さまざまな試行錯誤を繰り返した濃密な1年半でした。

でも、ギズモードはいつもそうやって数々の修羅場をくぐり抜けてきたんですよね。設立して10年目を迎え、まだまだ勢いはとどまることを知らず、PVも売り上げも拡大し続けています。あらためてインタビューやスペシャルコラボで登場するラインナップの豪華さを見ても、メディアとしての発言力や影響力をつけてきているなあと感じます。

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四代目となる新編集長は、もっとも長くギズモードに在籍し、ライター陣からの信頼も厚い副編集の松葉信彦が昇進します。これまでも顔出し記事でいい味を醸し出し、痺れるようなピンチでも悠然と構えて入られる芯の強さを持つ彼ならば、普段は読者の側に立った弱キャラをキープしつつも、時として鬼神のようなリーダーシップを発揮してくれるはずです。

最後に、歴代の編集長が口々に、“尾田さん、いったん離れて読むギズモードの記事って面白いですよ。いち読者とし良いメディアだなあって感動できる”と話しているので、俺も今からそれを楽しみにしています。本当に。

(尾田和実)