『ボコスカウォーズ2』のキャラたちに宿る”ヘナチョコな命”の源泉に迫る! “SpriteStudio”使用事例セッションリポート【CEDEC 2015】 | ニコニコニュース

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文・取材・撮影:ライター 戸塚伎一

●『ボコスカウォーズ2』での、ちょっと(かなり?)特殊な使用事例を紹介

 2015年8月26日~28日の3日間、パシフィコ横浜にて開催された、日本最大級のゲーム開発者向けカンファレンスCEDEC 2015。28日に行われた、プレイステーション4用ソフト『ボコスカウォーズ2』(年内リリース予定)のアートワークに言及したセッションの内容をおとどけする。

 汎用性の高いアニメーションデータを煩雑な手順なしに制作できるツール“OPTPiX SpriteStudio”(以下、“SpriteStudio”)。プロフェッショナル・ユースのみならず、インディーゲーム開発者向けの無料特別ライセンスも用意されるなど、ゲーム開発者を全方位的に支援するツールとして、注目されている。

 そんな“SpriteStudio”の使用事例を発表したのは、現在『ボコスカウォーズ2』を開発中の、ピグミースタジオ。約30年前の前作『ボコスカウォーズ』の作者であり、『ボコスカウォーズ2』のゲームデザイン、アートワークを手がけるクリエイター・ラショウ氏を招き、摩訶不思議なビジュアル世界がどのようにして実現したか解説した。

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■ラショウ氏


 ゲームクリエイター、仮面舞踏家、現代美術家など幅広い分野で活動するアーティスト。ゲームクリエイターとしては、『ボコスカウォーズ』(1983年)で第1回アスキーソフトウェアコンテストでグランプリを受賞し、1994年以降は、個人運営のソフトハウス「イタチョコシステム」名義で、『あの素晴らしい弁当を2度3度』『難しい本を読むと眠くなる』など数々の“ヘンテコ”な作品を世に出してきた。

■小清水 史氏


 ピグミースタジオの代表取締役社長。“デジタルおもちゃの工場長”として、『僕は森世界の神になる』『LA-MULANA EX』など、手作り感のある尖ったゲームをプロデュースする。インディーゲームの祭典“BitSummit”の運営団体、一般財団法人日本インディペンデント・ゲーム協会の理事も務める。

■浅井維新氏


 ゲーム開発用ミドルウェアを中心に手がけるウェブテクノロジ・コムの、セールス&コミュニケーション部。“OPTPiX SpriteStudio”シリーズ、“OPTPiX imesta”シリーズなどのマーケティング・セールスを担当する。

●作家のわがままを実現するツールとしての“SpiriteStudio”

 「ラショウさんの“SpriteStudio”の使いかたは、すでに利用している人は“何ていう使いかたをしているんだ!”と思われるかもしれません」と、ピグミースタジオの小清水氏。それを受けたラショウ氏は、自身の創作スタンスを、故・岡本太郎氏の言葉を引用して「四角い枠にこだわるな。作業ウィンドウからはみ出せ」と表現した。

 「“SpriteStudio”は、作家のわがままを実現してくれるツールです」と語る、ラショウ氏。その例として再生されたのは、もちろん『ボコスカウォーズ2』……ではなく、『baritsu』という初出タイトルの、対戦格闘ゲームのような、そうでないようなゲームの1シーンだった。『ボコスカウォーズ2』はどうしたんですか? というツッコミにたいして、「いろんなアイデアから脱線して、いくつもゲームが生まれていくのが、アーティスト・ラショウの生きざまです」と、やんわり返したラショウ氏だが、『ボコスカウォーズ2』以外のタイトルを複数並行して制作しているようにも解釈できた。

●『ボコスカウォーズ2』の見どころは、戦闘アニメーションにあり!?

 「戦うゲームを作れないかといじってみたら、ちゃんと意図した動きのものができたので、これはおもしろい」というところから、“SpriteStudio”の魅力に惹きこまれたというラショウ氏。『ボコスカウォーズ2』の制作でも“SpriteStudio”が全面的に使われているが、とくにこだわりが反映されているのが、戦闘アニメーション。

 小清水氏の補足によると、前作『ボコスカウォーズ』では、敵味方のユニットが衝突すると、大きく“B”と書かれたバトルマークがその場に表示され、戦闘中であることを表現しているのだが、その時間は一定ではないとのこと。ユニットどうしの優劣差や“時の運”が作用して、戦闘時間にバラつきが出るようプログラミングされているから……だそうだが、本作では、「バトルマークの中で起こっているドラマを実際に描く」という名目で、戦闘アニメーションのバリエーションを多数用意したとのこと。100以上作られたアニメーションパターンは、ゲーム内にすべて搭載される予定だそうだ。

● “指示書いらず”のアニメーション作成ツールが、作家のイメージを広げる

 “キャラクターへの命の与え方”というテーマでは、ラショウ氏―ピグミースタジオ間の独特な制作過程が紹介された。その手順は、以下の通り。

(1) ラショウ氏が、キャラクターのラフな絵をパーツ単位に描く


(2) それを受け取ったデザイナーが、“SpriteStudio”で仮組みし、アニメーションさせる
(3) アニメーションを見たラショウ氏が、正式な作画をする
(4) 仮組みアニメーションに、完成した作画を割りつけ、動きを調整

 わざわざ手間がかかる手順を踏んでいることが一目瞭然だが、ラショウ氏にとって、仮組みのアニメーションを見た上で作画することは、“動きの音”をイメージするのに欠かせないプロセスとのこと。「その音にリズムをつけていくと、“キャラクターの音”ができていくんです」(ラショウ氏)

 ラショウ氏の作家性がフルに発揮されるのは、(4)の工程。「ラショウさんは、わざわざポンコツにしたがるんです」と小清水氏が言う通り、ラショウ氏は、アニメーションの規則性の中に“ランダム性”を盛り込む。「“SpriteStudio”のデモンストレーションを見ると、アニメーションは滑らかだけど、予測できる動きなんです。私としては“味”が足りません」というラショウ氏は、上半身は物理的な動きのまま、下半身の動きをギクシャクさせることで、「右手右足がいっしょに出ちゃっている感じ」を意図的に表現しているのだという。

 仮組みアニメーションのモーションによって新しいイメージが湧き、おもしろい原画ができてしまったら、そのキャラクターのアニメーションプランを一からやり直す場合もあるとのこと。アニメーションの飽くなきバリエーション探求にたいして、「おもしろいゲームを作るためですから、そこは自由にやらせていただきたい」と語るラショウ氏。彼にとって“SpriteStudio”は、ゲーム作家としての理想を実現するのに、ベストなツールであったようだ。

●“SpriteStudio”は、今後も成長・進化し続ける

 セッションの後半では、2015年秋に実施予定の“SpriteStudio”の大型アップデート(Ver.5.6)の追加・修正機能の紹介と、システムが一新された次世代バージョン“Sprite Studio 6”の詳細が、ウェブテクノロジ・コムの浅井氏より説明された。現行バージョンのユーザー満足度を上げつつ、より高度な表現を実現できる新機軸のツール開発を進めるウェブテクノロジ・コムの動向に、今後も注目していきたい。