存続?廃止?瀬戸際の「秘境」小幌駅の運命 | ニコニコニュース

日本一の秘境駅として知られる室蘭本線小幌駅。接続のよい午後の列車は鉄道ファンで賑わうが午前中は比較的静かだ
東洋経済オンライン

日本一の秘境駅・小幌駅の存廃をめぐる議論が佳境を迎えている。

小幌駅は、北海道豊浦町にある、JR北海道室蘭本線の無人駅だ。四方を山と海に囲まれ、外界に通じる道がほとんどないという独特の駅で、「日本一の秘境駅」として鉄道ファンや釣り人などに親しまれている。1970年代までは7〜8戸程の集落があったが、現在は駅周辺に住民はいない。

6月末、JR北海道は日常的な利用客がほぼゼロであるとして、10月末で事実上小幌駅を廃止する意向を豊浦町へ伝達。これに対し町は、「観光振興に不可欠」として存続を強く要望してきた。

■「秘境駅」だけではない、小幌駅の存在価値

実は、豊浦町はJRが廃止を申し入れる以前から、小幌駅を核とした観光振興の準備を進めていた。同町は人口4300人の小さな町。主な産業は農業と漁業で、観光業はそれほど盛んとは言えない。そこで注目したのが、鉄道ファンなどに人気の高い小幌駅だった。今年4月には、それまで他部署との兼任だった観光係に専任の職員を配置。本格的な検討を開始していた。

小幌駅は秘境駅として鉄道ファンに有名だが、町が注目したのはそこだけではない。2009年に、糸魚川や島原半島と共に日本で初めて認定された、「洞爺湖有珠山ジオパーク」の存在がある。ジオパークとは、地層、岩石、火山など、地球に関わるさまざまな自然遺産をそのままの状態で体験できる「公園」のこと。小幌駅がある礼文華地区もジオパークに含まれており、小幌駅から山道を20分ほど歩いた海岸にある岩屋観音は、主要なスポットである「ジオサイト」に認定されている。

小幌洞窟は、約300万年前に海底火山の噴火によってできたと言われる洞窟だ。縄文時代末期から人間に利用され、内部には江戸時代初期に行脚僧の円空上人が作ったと伝わる岩屋観音(首無し観音)が祀られている。小幌駅は、その岩屋観音への事実上唯一のアクセス手段だ。人の手がほとんど入っていない噴火湾沿岸の大自然と、縄文時代から続く人間の営みを、列車で手軽にアクセスできるジオサイト。小幌駅は、単なるマニア向けのレアスポットではなく、ジオパークの理念に合ったポテンシャルを秘めているのである。

とりあえず協議継続となったが

 ところが、豊浦町が小幌地域の振興策を検討し始めてから間もない6月末。JR北海道の職員が町役場を訪れ、小幌駅を廃止する意向を伝えてきた。豊浦町の村井洋一町長は、まさに寝耳に水だったと語る。

「洞爺湖町など、周辺自治体とも連携して観光振興を図ろうとしていた矢先のことで、廃止は絶対反対。どうすれば存続できるのか、町として何ができるのかを考えるところから始めた」(村井町長)

■陳情書だけではJRを説得できない

豊浦町には鉄道は室蘭本線しかなく、鉄道の存廃に関わる協議は初めての経験である。町は小川英紀副町長を小幌駅存続問題の担当に置き、鉄道文化財保存の専門家に意見を求めるなど、手探りで存続に向けた検討を進めた。

協議は8月末までに5回行われたが、JR側の廃止への決意は固く、生活利用者のいない駅は維持できないと繰り返すばかり。利用客を増やすための協議や、冬期休止による経費節減といった案はいずれも否定された。

「はっきりしているのは、陳情書をいくら集めてもJRを説得することはできないということ。町が何らかの形で動かなくては、存続は難しい。全国には駅の管理を自治体が行っている事例があるので、小幌駅を町で管理・運営することが可能か検討している」(小川英紀副町長)

JRの協議担当者も、自治体負担による駅の存続については強く否定しなかった。だが、町が費用を負担する場合は、当然住民の理解と議会の承認が必要だ。町側は具体的な作業内容と維持管理にかかる経費を示すようJRに求めたが、8月末の協議でJRから示されたのは、現在行われている作業内容に留まった。

結論は9月以降に持ち越され、一部では「小幌駅は当面存続」とも報じられた。だが、依然として極めて厳しい状況であることは変わらない。駅の管理運営に関するノウハウのない自治体にとっては、必要な経費の全体像が見えない限り、判断ができないからだ。

JR北海道は自治体と十分な協議を

こうした場合、通常であればJR側から具体的な数字が提示され、自治体がどこまで負担し鉄道側が何をするのか協議していくものだ。だが、小幌駅のケースではJRは元々廃止を前提とした協議だったため、存続に向けた施策に対してどこまで協力が得られるかはわからない。

仮に豊浦町の管理で小幌駅が存続することになったとしても、その道は険しい。小幌駅のホームは老朽化が進んでおり、存続となれば安全対策上抜本的な改修が必要。小さなホームを作るだけでも営業路線で工事をする場合は立ち会いも必要でコストがかかる。

貨物列車や特急列車が高速で通過するため、安全対策もJR任せというわけにはいかないだろう。岩屋観音への道も、現在は断崖絶壁の上をロープにつかまって越えるような状態で、観光振興を図るなら本格的な安全対策が必要だ。それだけコストをかけて整備しても、停車する列車は1日上下併せて8本しかなく、観光客を無理なく受け入れられる列車は2〜3本に過ぎない。観光客が見込めないどころか、下車するだけで危険の伴う冬期をどうするのかという問題もある。

■体験ツアーの企画も

とは言え、豊浦町長は小幌駅存続をあきらめていない。

「小幌駅がある礼文華地区は、明治時代に日本を訪れたイギリスの女性紀行家イザベラ・バードが旅したところで、縄文時代の遺跡も発掘中だ。小幌駅があるからこそ訪れられる場所であり、なんとか存続させて、体験ツアーなどを企画していきたい」(村井町長)

豊浦町が本当に小幌駅を維持管理できるかは不透明だが、JRは可能な限りの情報を提供して協力してほしい。豊浦町の管理運営で存続し、地域振興に少しでも役立てば何よりだし、期限を区切って自治体と十分検討した上で、やはり存続は無理となれば、多くの人が納得するだろう。今後JR北海道は様々な合理化を進めていかなくてはならない状況にある。どれほど利用者が少なくても、沿線住民の信頼を失うやり方は避けた方がいいはずだ。小幌駅の命運の行方に、多くの人が注目している。