ソーシャルゲームで破産者激増?借金「チャラ」制度の対象外に? | ニコニコニュース

「Thinkstock」より
Business Journal

 インターネット上で、「ゲーム課金で多額の借金を負う人が増えすぎて、破産申請しても免責されなくなったようだ。ソーシャルゲームがギャンブルと同様の扱いになっている」といった情報が流れ、話題になっている。

 実はその原因は、昨年4月に大阪地方裁判所で破産申立の書式が改訂されたことにある。これまで破産申立をする際の「免責不許可事由に関する報告」において、「浪費等」の欄に「飲食・飲酒」「投資・投機及びネットワークビジネス・マルチ商法等」「商品購入」「ギャンブル」と並び、最後は単に「その他」となっていたが、「その他(ゲーム代その他の有料サイト利用代等)」と変わったのだ。

 大阪弁護士会の飯田幸子弁護士が、自身のTwitterでこの書式の変更に言及し、「ゲーム課金で破産する人がそんなに多いのか」と驚きを表したところ、冒頭のように話題となってしまったのだ。

 まず、「免責」とはどういうものなのだろうか。これは、大きな債務を負ってしまった破産申請者の経済的再生を実現するために設けられた制度で、破産手続終了後に残った債務の返済義務を免れる手続を指す。つまり、借金を“チャラ”にしてくれるものであり、個人が破産を申し立てる目的は、この免責を受けることにあるといっても過言ではない。ただし、財産を隠したり、浪費・賭博などによって財産を減少させるなど、破産法252条1項各号に定める「免責不許可事由」があると、免責を受けられない場合がある。モラルハザード(倫理欠如)が起きることを防ぐためだ。

 今回、書式が改訂されて「浪費等」の欄に「ゲーム代」が明記されたのは、破産の申立人の中でソーシャルゲームに相当な額をつぎ込んでいる人が増えてきたためだと思われる。実際、「ゲーム課金で100万円以上の債務を抱えた人から破産の相談を受けた」「破産の申立人が毎月5万円ほどゲームにつぎ込んでいることを裁判所に問題視されて反省文を提出した」といった話が弁護士の間でも出ているという。

 ゲーム代だけで破産に至ることは多くないと思われるが、ただでさえほかの債務を負っているところへ高額のゲーム代が追い打ちをかけて債務額が増大した、というケースはかなりの数に上りそうだ。

●ゲーム代で多額の債務があっても免責は受けられる?

 しかし、ネット上で広がっている情報には、誤解を招く面があると飯田弁護士は危惧する。

「『浪費等』の免責不許可事由があっても、直ちに免責不許可になるわけではありません。その程度に応じて、『反省文と家計簿を提出する』『免責審尋を経る』『口頭審査で個別の訓戒を受ける』『免責観察型の管財手続に移行する』などの方法によって免責が受けられることが多いです。この点は誤解がないようにしていただきたいと思います」(飯田弁護士)

 実際、大阪地裁では昨年度、免責事件終局件数4973件のうち免責不許可は11件にとどまっている。破産の申立後もギャンブルを続けて破産管財人の調査を拒否し、債権者集会も欠席したといった悪質なケース以外は免責不許可に至ることはあまりない。今回の書式改訂も、あくまで債務の中にゲーム代が含まれることが増えてきたから、裁判所としても情報を把握するために対応しただけのようである。

「したがって、ゲーム代で多額の債務を抱えている方も、『免責は受けられない』と絶望せず、一度弁護士に相談してみてください。無理なゲーム課金を断ち切って経済的に立ち直るつもりさえあれば、お力になれると思います」(同)

 飯田弁護士は、大阪弁護士会制作の裁判員裁判を忠実に再現したゲーム『ゲームで裁判員!スイートホーム炎上事件』の制作を統括した経験を持つ。ゲームに対する思い入れは人一倍強い。

「私は趣味でゲームをつくっていますが、ゲームは本来、人を楽しませるためのものだと思っています。そのゲームで経済的に追い詰められ苦しむ人がいるとしたら、あまりに哀しいことです。料金を支払ってゲームする場合でも、ユーザーは自らきちんと上限を設けて、無理のない範囲で楽しむようにするべきです」(同)

 以前から、射幸心を煽るソーシャルゲームは問題視されている。多額の浪費を招き、破産の原因につながる事態が広がれば、ゲーム市場全体にも悪影響を及ぼしかねない。社会問題として本格化する前に、課金制限を定めるなどソーシャルゲームに対する適切なルールづくりも必要な時期にきているのではないだろうか。
(文=関田真也/フリーライター・エディター)

【取材協力】
弁護士 飯田幸子
京都大学法学部卒業。京都大学法科大学院修了。2008年弁護士登録。増田・飯田 法律事務所パートナー。主な業務分野は、倒産、企業再生、会社法務、一般民商事、著作権法。