異端児率いる「第2のユニクロ」が見据える先 | ニコニコニュース

クロスカンパニー創業者の石川社長。「借り入れなしに20年間、売上高1000億円までいけたのはすごく自信」(撮影:今井康一)
東洋経済オンライン

「第2のユニクロ」といわれるアパレル企業のクロスカンパニーが、来年中に東証1部に新規上場する予定だ。ヤングカジュアルブランド「アース ミュージック&エコロジー」で女優の宮﨑あおいさんを使ったテレビCMで急成長。いまや連結売上高は1000億円を超え、国内外で1000店以上を展開するアパレル大手に成長している。異端経営者と呼ばれる創業者の石川康晴社長(44)に聞いた。

――「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長と親交がありますね。

最近1年半ぐらい会っていないが、それまでは定期的にユニクロ本社に呼ばれて早朝ディスカッションをやっていた。柳井さんにはいつも怒られるというか、叱咤激励を受けていた。うちの旗艦ブランドであるアース ミュージック&エコロジーを見て「店が小さすぎる」と。「世の中、規模の経済だ。早く店舗面積を30坪から200坪にしろ」というアドバイスをいただいた。

だが、僕は柳井さんに「イトーヨーカ堂もあれば、セブン-イレブンもあるじゃないですか。僕たちは在庫回転数で日本一を目指している。キャッシュフロー経営をセブン-イレブンでやろうとしている。だから無駄な在庫を食うイトーヨーカ堂はやりたくない」という話をした。

そしたらまた柳井さんが「それは違うぞ。規模だ」と言う。あとは規模、規模という平行線で(笑)決裂じゃないけど、新興企業が借り入れなしに20年間、ダイナミックな拡大戦略をとりながら売上高1000億円までいけたというのは、僕はすごく自信を持っている。だから柳井さんに大型化だというふうに言い切られるのは、ちょっと違和感がある。

■これまでは”小型店”がカギだった

――ユニクロとは異なるビジネスモデルで発展してきたということですね。

僕たちはROA(総資産利益率)を高める戦略を進めてきた。最初はみんなが分からなかったから、社内では“低資産”で“高回転”“高粗利”だというこの3つだけを伝えてきた。これが実現できれば、ROAを高めながら、銀行から借り入れなく、拡大路線が敷ける。それでもボーッとしている人もいるので、1つだけ覚えてくれと言ったのが「小型化戦略」だ。店を小型化すれば、投資がかからないので低資産ですむと。小型化で無駄な在庫も置かないので、在庫回転率も上がる。

どうして在庫を回せる?

――商品在庫の消化率が業界でも高いのが特徴です。商業施設内のセールも頻繁にやっている姿を見かけます。

たぶん日本一の在庫回転率だと思う。1年間に13回転。日数でいくと26日に(1回と)なる。だいたいユニクロの回転日数が70日ぐらいじゃないかな。僕たちが高い在庫回転率を実現できるのは、徹底的な在庫管理をしているからだ。

うちの場合は3週間定価で販売して、消化率が30%を切ったものは、まず第1売変(売価変更)って社内では呼ぶが、価格がワンマーク下がる。それで6週間経つと、第2売変でもうワンマーク下がっていく。早い段階で小さい値引きをして、どんどん在庫を減らす仕組みができている。

さらに、やや人海戦術的な話にもなるが、25万点と大量発注する商品もある中、かなり早い段階で、何を強化商品にしてどうプロモーションをかけて売っていくかについて、他社よりもものすごいエネルギーと時間をかけている。

■上場して欧米を攻める

――来年中に東証1部への新規上場を目指しています。

今年8月に主幹事証券がすでに入っており、その審査が約5カ月かかるので、年内に終わる予定だ。その後、来年2月から東京証券取引所による審査が約3カ月ある。来年に上場できれば、創業22、23年目で1000億円以上の企業が上場するという結構めずらしいケースだろう。スタートアップしてだいたい4、5年で上場する会社が新興企業では多い中で、今さらというのもあるが。

――なぜ今になって上場することにしたのですか。

これまでは国内の展開が中心だったので、キャッシュフローの中で回せた。ヒトのリソースも十分あった。ただ、これから「KOE(コエ)」という新ブランドで欧米に出ていく。理系を含めたテクノロジー方面の人達も集めたい。東アジアに積極的に拡大していく可能性もあり、新たな成長戦略を考えた場合に、今のキャッシュフローだけでは足りない。

ただ、だからと言って速度を落として、今のキャッシュフローの中でゆっくりやっていくと、時代が離れていきそうだ。この10年でグローバル、M&A、テクノロジーをキーワードに一気に勝負をかける。そのためには、最低200億円ぐらいの資金調達をして、M&Aやグローバル資金に使っていかないと、もうマーケットにインできないと考えた。

服を売って終わりにしない

――アパレルにもテクノロジーが必要になってくると。

KOEという新ブランドに関しては、ユニクロがベンチマークになる。ただ企業としてとらえると、僕たちはテクノロジーのイノベーションをユニクロよりも考えてやっている。ユニクロの「ヒートテック」みたいな流通プロダクトのイノベーションではなく、流通自体のイノベーションを考えている。

生産性が上がれば斜陽であるアパレルでも利益が出る。2兆円売らないと1000億円の純利益が出ないというのではなく、テクノロジーに傾斜していった場合、5000億円の売上高でも1000億円の純利益を出せる可能性が残っている。

■これまでは全員、正社員だった

アベノミクスで世の中がインフレになるとしても、アパレルはデフレに向かっていくと思っている。eコマースが進むと経費がかからなくなり、それが価格に転嫁されてくると、どんどん上代(小売価格)は下がってくるからだ。イノベーションが新たに起これば別だが、アパレルはそれが起きづらい業界でもある。

その減少を補うためにも、これからは服を売るだけでなく、テクノロジーを使って、売った後の川下を伸ばし、トータルで売り上げを上げていく。車も売った後にメンテナンスがあるのと同じだ。最近(企業買収によって)クリーニングのサービスを始めたのもその一環だ。また日常着のレンタルビジネスもECで立ち上げようと考えている。車や音楽業界ではレンタルは当たり前。だけどファッションになると、ウエディングドレスはともかく、日常着では全世界で事例がない。

――全員正社員で成長してきたのも強みでしたが、今年2月にやめました。

全員正社員は創業時から今年2月まで約21年間やってきた。やろうと思ったきっかけは、そもそもアパレル業界は非正規が多く、人材の流出が激しくて社内のノウハウがたまらない。何か新規事業をやろうと思ってもノウハウのある人がいないので、守備的な組織しか作れないということがあった。

ライバルはZARA、ユニクロ

さらに長い将来を見た場合、非正規メインの構造では雇われるほうからみて魅力的かどうかって考えた場合、人が集まりにくくなるのではというのがあった。

ただ最近は、専門学校生や短大生を中心にリサーチをかけると、正社員が怖いという声が多い。負担が重たいと。今の若い人たちの中には、1回会社を見てみたいというニーズが出てきたので、体験入社という概念の下に、パート・アルバイト制度を今回導入し、3割は体験入社の人をまず入れてもいいんじゃないかと考えた。

■新ブランドはユニクロにぶつける

――今後、ユニクロなどとはどう勝負していくのか。

柳井さんとのディスカッションで刺激をいただいたので、(アースブランドよりは店舗が広い)KOEを作ろうと決めた。セブン-イレブンモデルも大事だけど、世界戦略を考えたら、(店舗規模が大きい米国のスーパーである)ウォルマートモデルもいるのかなと思って。柳井さんには「前回、規模ということをご助言いただいて、日本版ZARAを作ることにした。ZARAを最もコンペティターにしたブランドを、日本企業として立ち上げます」と報告した。

KOEのほぼ1号店となる出店は、ユニクロの好調店の隣だ。新潟に女池っていうユニクロがかなり高業績を出しているロードサイド店があって、そこのほぼ横のところに(笑)ユニクロの売上を全国で調べるというのは、理論的には最も手っ取り早い。ユニクロの売上上位10店舗の好調店から当てていくことが勉強になる。

ユニクロは今のステージに来るまでに50年かかった。僕たちは22年でこれから。今は高校野球とヤンキースほどの違いがあるが、20年後の立ち位置としては、彼らにぶつかっていけるような組織にしたい。