農家は、なぜ遺伝子組み換え種子を使うのか | ニコニコニュース

左側が害虫耐性のある遺伝子組み換えのトウモロコシ。右は非遺伝子組み換え。シリング氏の農場でできたものだ。
東洋経済オンライン

遺伝子組み換え(GM)作物の安全性は、長らく論争の的になってきた。一方で、世界的にみれば飼料用のトウモロコシや大豆を中心に、GM種子から作られた穀物が、需要の大部分を満たしているのも現状だ。トウモロコシについては、世界有数の輸出国である米国で収穫される量のうち、8~9割がGM種子から栽培されたもの。米国の農家はなぜGM種子をつかうのか。実際にその理由を尋ね歩いた。

「人に安全だと確信がなければ、こんな種子を使わない」。米中西部の主要都市・セントルイスから車で1時間、イリノイ州で農場を経営するロドニー・シリング氏(60)は、GM種子の安全性について問う記者の質問に、こう即答した。「トウモロコシが育っているのを見るのは大きな喜び」というシリング氏。農場を歩き、時には実っているトウモロコシを手に取りながら話し始めた。

■「GMで生活が一変した」

シリング氏の農場の作付面積は1300エーカー(1エーカー=約4047平方メートル)。ここにトウモロコシと大豆、小麦をそれぞれ3分の1ずつ植えている。5代続く農家で、シリング氏も高校卒業から農業を始めたという。GM種子を使い始めたのは1996年頃。ちょうどGM種子が出始めたころだ。

「GM種子をつかって生活が一変した。防虫・除草の手間も大きく省けて、かつ収量が上がった」。収量が急増した効果は実に大きかった、とシリング氏は振り返る。「1970年代、トウモロコシは1エーカー当たり135ブッシェル(1ブッシェル=約25.4キログラム)取れていた。当時はこれでもずいぶん取れたねと喜んでいたほどだ。今では180~210ブッシェル、昨年は豊作で224ブッシェル取れた。質も上がった」。

畑で説明するシリング氏が、近くにあった2本のトウモロコシからそれぞれ1個ずつ実を取って皮をむいた。最初にむいたトウモロコシは、黄金色の実がびっしりと詰まっている。ところがもう一つは皮をむいたとたん、3~4センチメートルの害虫が飛び出してきた。害虫には茎を食い荒らして成長を妨げるものもいる。これが収量に直接響いてくる。

シリング氏の農場では、農業バイオ化学メーカー世界大手の米モンサント・カンパニーの種子を使っている。害虫に抵抗性のある遺伝子が2つ入っている種子を使っており、1つのものと比べて害虫が耐性を持ちにくい。

非GMは手に入りにくい?

また、GM種子を植える際には、非GM種子を一定割合で同時に栽培するよう指示されており、通常は全体の10%程度を非GM種子にする。だが、シリング氏が使う種子では5%まで下げることが可能で、生産性の高いGMを多く栽培できるメリットもある。「GMのほうが根や茎が強く育ち、乾燥にも強い。だから収量が上がる」。

また「農薬などのコストは以前、1エーカー当たり40~45ドル(約4800~5400円)かかっていた。今では8ドル(約960円)ほどだ」とも付け加える。農家にとって、作物に行き渡る栄養分を妨げてしまう雑草は悩みのタネ。「時期を見て何回かに分けて除草剤を散布してきた。それでも雑草は生えてくる。農薬を何回も使うわけにはいかないので、最後は家族総出でかまを持ち、むしり取る。私が子どもの時には何回もやらされたよ」とシリング氏は苦笑する。

■出回るのはGMが多い

GM種子を積極的に使ってきたシリング氏のような農家がいる一方で、必要に応じて使ってきたという人もいる。ミズーリ州に550エーカーの農場を持つブレント・ヘアー氏(56)は、「私はGM種子を最後に受け入れたほうだ」と打ち明ける。

農場の75%をトウモロコシ、残りは大豆を栽培するヘアー氏は、「これまで非GM種子を使っても、きちんと育っていた」と言う。ところが、「(非GMである)従来の種子で品種改良されるものが減って、最近ではまったく出てこなくなった。そのぶん、GM種子として品種改良されるものが相次いで出てきた。結果としてそっちに動いてしまった」と説明する。選択肢は狭まり、今では100%、GM種子を植え付けているというが、結果として「水や肥料、化学薬品の量などが減り、かつ労力・金銭的負担も減った」。

ヘアー氏は、モンサントや米デュポンといった大手企業の種子ではなく、独立系の種子開発会社のものを使っていると言う。理由は「経営者が非常にイノベーティブだから」。今ではとある会社のディーラーをもやっているほどだ。

だがどういった種子を植えるかは、市場の動向を見極めながら決めると、ヘアー氏は強調する。「非GMのほうがニーズがあり、収量も上がって収入が増えるのであれば非GMを植える。一方で、飼料用などGMでもかまわないというニーズがあり、価格動向もよければGM種子を植える。どちらを使えば収入が上がるかという現実的な判断だ」。

天候一つで大きく収入が左右される農業生産者たち。いまだ消費者だけでなく、研究者の間でもGM技術に対する是非が渦巻くなか、目の前の効果や需要を一つずつ見極めながら、合理的にそれぞれの生業を営んでいる。