なぜ人は『ドラクエ』をやるのか?高くて「操作性悪い」と不評のスマホ版なのに… | ニコニコニュース

『ドラゴンクエスト6 幻の大地』「ドラゴンクエストfor スマートフォン ポータルサイト」より
Business Journal

 私は最近、朝起きると、まずスマートフォンで『ドラゴンクエスト6 【編註:正式名称はローマ数字、以下同】幻の大地』(スクウェア・エニックス)をプレイしています。

『ドラクエ6』は、1995年に「スーパーファミコン」(任天堂)用ソフトとしてリリースされたものが最初です。その後、「ニンテンドーDS」(任天堂)版がリリースされ、今年6月にiPhone版とAndroid版が配信されました。

『ドラクエ』シリーズの詳細について、ここでは述べません。しかし、私は『ドラゴンクエスト10 目覚めし五つの種族 オンライン』(スクウェア・エニックス)以外の全作品をリアルタイムでクリアしてきました。

 シリーズ初のオンライン仕様となった『ドラクエ10』だけは途中で挫折しており、オンラインゲームに向かない人間なのかもしれません。ちなみに、第1作目の『ドラゴンクエスト』(エニックス)がリリースされたのは、1986年です。当時、小学生だった私は、近所の「クリちゃん」という玩具店で予約して買った記憶があります。

『ドラクエ』シリーズもさることながら、ファミリーコンピュータ世代には人気の高い『ファイナルファンタジー』シリーズも、このところ次々とスマホ版がリリースされています。どちらも、メーカーはスクウェア・エニックスです。

 いわゆるフィーチャーフォンで『ドラクエ』シリーズがリリースされた時も興奮しましたが、13年に初代『ドラクエ』がスマホでプレイできるようになった時には、さらに興奮しました。

 というのも、40代のおじさんが、家族のいる狭いリビングでレベル上げにいそしむ姿をさらすのは不可能に近いからです。仮病でも使って仕事を休まない限り無理でしょう。さらに、ロールプレイングゲーム(RPG)という特性上、毎日少しずつやらないとクリアできません。連日、家族が寝静まった後にやるとしても、もはや体力的に不可能です。

 そういった事情を鑑みると、「ある程度の画面の大きさで、どこでもプレイできる」というスマホ版の登場は、すごくありがたいものです。

●過去にクリアしたゲームを、スマホで再度プレイする感覚とは?

 前述のように、私はほぼすべての『ドラクエ』シリーズをクリアしています。それを、最初からもう一度やるというのは、どういう感覚なのでしょうか。これは他の人に聞いたわけではないので、まったくの主観であり、単なる感想にすぎません。

 当然のことながら、ストーリー自体はなんとなく記憶に残っているのですが、細部まで鮮明に覚えているわけではありません。ぼんやりとしたままプレイしていて、突然何かを思い出す感じです。「あぁ、そうだ、そうだ」「初めてやった時も、ここで苦労したな」と思い起こしながらプレイしています。

 このような不思議な感覚は、なんともいえず心地よいものです。しかしながら、そういった感じを味わいたいがゆえに、スマホ版をプレイしているわけではありません。

 私が、過去にクリアした『ドラクエ』をまたプレイするのは、「スマホ版だから、どこでも遊べて、クリアまでたどり着けるぞ」という確信めいたものと、腹の底から湧いてくる「あぁ、『ドラクエ』か。やらないと」という説明不能の義務感からです。

 アップルのアプリダウンロードサービス「App Store」の有料アプリのランキングを見ると、ほとんどの料金が120円や240円、360円というなか、1200円や1800円のものがあります。それらは多くがパチンコ・パチスロ関連なのですが、『ドラクエ』や『ファイナルファンタジー』のシリーズも混ざっています。

「スマホでゲーム」というと、ダウンロードは無料で、その後アプリ内で必要に応じて課金する、というケースを想像されると思います。そういったゲームの場合、メーカー側としては、「いかに課金に誘導し、長期的に遊んでもらうか」という意思が働きます。

 私は、そういうタイプのゲームもいくつもプレイしましたが、どうにも続きませんでした。酔っぱらった勢いで何度も課金したこともありますが、やはり継続しませんでした。

「私は、アプリ内課金をするようなゲームは断じて認めん。許さん」と言うつもりもなければ、それをビジネスとしている会社を糾弾したいわけでもありません。スクウェア・エニックスにしても、『ドラクエ』をベースとしたアプリ内課金ゲームがあります。

●バグすらも楽しめた昔のゲーム

 また、『ドラクエ』などスマホ版にリメイクされたゲームの評判を見ると「操作性が悪い」などと書かれていることも少なくありません。もともと据置型ゲーム機用につくられたものを、そのまま移植している部分も大きいので、スマホでプレイするには無理があるというわけです。

 私が今やっている『ドラクエ6』のレビューも、「戦闘シーンが遅い」「バグまみれ」「そもそもダウンロードができない」と散々です。私はダウンロードこそ正常にできましたが、プレイ中の押し間違いは頻発するし、途中で別のアプリを開いてしまい、いつの間にか『ドラクエ6』のアプリが終了していることもあります。

 私が寛容すぎるのかもしれませんが、「それでも、今のところはいいんじゃないのかな」と思います。操作にややイラつきながらも、粛々と進めているのが、ちょっとした快感なのかもしれません。

 いや、私は『ドラクエ』をプレイするふりをして、思い出に浸っているだけなのかもしれません。ただ、不便さすらも楽しんでいる自分を披歴することで、余裕のある大人としての存在感を醸し出そうとしているわけではありません。

 しかしながら、「こういう経験も含めて、ゲームをしているのだ」という感覚は持っています。昔は、バグ自体もゲームを盛り上げるひとつの要素として機能していることもありました。

 例えば、ファミコンで発売された当初の『ドラゴンクエスト4 導かれし者たち』(エニックス)には、「8逃げ」というバグがありました。戦闘時に、「逃げる」コマンドを選択した回数が8回以上になると、味方の攻撃がすべて「会心の一撃」になるというものです。これを初めて知った時には、かなり興奮しました。なにせ、ボス級の敵も簡単に倒せるのですから。

 このバグが発生したのは初回出荷版だけで、それ以降は修正されたようです。現在はアプリ版ですから、こういったバグがあったとしても、アップデートで随時修正されていくことでしょう。

 私の場合、こういった不便さや理不尽さのようなものも、よき思い出としているためなのかもしれませんが、レビューに書かれているほど嫌なイメージは持っていません。

 誤解を恐れずにいうと、いわゆる「スマホネイティブ」な若い人にこそ、こういった、もともと据置型ゲーム機用につくられたゲームをやってほしいと思います。

●身体感覚を伴ったゲーム体験

 1975年生まれの私と同世代の方のなかには、『ドラクエ』などのゲームを買うために数カ月前から予約したり、朝早くから行列に並んだり、不人気ゲームとの「抱き合わせ販売」を泣く泣く受け入れた経験を持つ人も多いのではないでしょうか。

 また、ゲームを買いに行く前後に恐喝に遭い、お金やゲームを奪われるといったことも社会問題化しました。ちなみに、私は『ザナドゥ』(日本ファルコム)を買いに行く途中で恐喝に遭ったことがあります。

 リリース前の情報は、最初は少年漫画雑誌のゲーム特集のページで公開され、やがてゲーム専門雑誌で少しずつ明かされるものでした。そして、その内容に心を躍らせていたのです。

 つまり、現在40歳前後のおじさんたちは、ある意味で体を張ってゲームをやってきたというわけです。これは、40歳前後の男性を理解するためのひとつの視点でもあると思います。もちろん、本当のゲームマニアの方からすれば、私は甘い存在だとは思いますが……。

「ゲームをする」という行為は、生きるために必要不可欠な行為ではありません。一般的な優先順位としては、かなり後のほうになるでしょう。しかしながら、現代を生きるおじさんの中には、若い時のことを思い出す際には、ゲームがなんらかの思い出と結びついているという人も多いと思います。

 私は、前述したような話を新規見込み客との面談の場で展開することで、本来の仕事の話はあまりせずに、契約をまとめることも増えてきました。もちろん、私がそういう情報発信を続けているために、同じ嗜好性を持っている方がアプローチしてきてくれていることも、大きな要因です。

 それによって、あらためて感じた、当たり前のことがあります。仕事の場において、自分は「何が好き」で「何が嫌い」なのか、そして「何ができない」のかということを真摯に語り共有することで、共感やそれに基づく信頼感が醸成されていくということです。

 ハッタリでやっていけることもあるかもしれませんが、結局は自分の心から湧き出る何かをぶつけ合うことが、よい関係をつくり上げるのではないかと感じます。言い換えれば、継続的な関係を構築するためには、その土台に横たわる価値観の共有が大切ということです。

 それと同時に、「これで、朝からゲームをプレイしていても正当化できるな」と思ったのも事実であることを付記しておきます。今やっている『ドラクエ6』が終わったら、以前からやろうと思って手をつけていなかった『クロノ・トリガー』(スクウェア・エニックス)を始めようと考えています。

 なお、私はスクウェア・エニックスとはユーザーとして以外の利害関係はありませんし、株主でもありません。単純にゲームが好きなだけです。
(文=藤原実/藤原実税理士事務所所長、内閣府所管公益財団法人日本生涯学習協議会認定ビジネスモデル・デザイナー<R>)