グリー、忍び寄る「危機」の足音 初の赤字転落、大量リストラ、ヒット作不発… | ニコニコニュース

グリーのゲーム
Business Journal

 ゲーム業界は浮き沈みが激しい。2012年にリリースされたモバイルゲーム、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの『パズル&ドラゴンズ』のブームは一巡し、今では代わってミクシィの『モンスターストライク』(13年リリース)が快進撃中だ。

 浮き沈みを劇的に演じたのがグリーだ。飛ぶ鳥を落とす勢いで伸びてきたが、業績が急降下している。同社の15年6月期連結決算は惨憺たるものだった。売上高は前年同期比26.4%減の924億円、営業利益は42.2%減の202億円、最終損益は103億円の赤字(前期は173億円の黒字)。08年12月に上場して以来、初の最終赤字となった。

 2月に発表した15年6月期通期予想では、最終損益は10億円の黒字としていた。一転して巨額赤字に転落したのは、11年と12年に傘下に収めた米国ゲーム会社3社で、351億円の減損損失を計上したからだ。

 米国でモバイル向けゲームの制作を手掛けるファンジオの業績は想定を下回った。既存タイトルの売り上げが低迷した上に、新規タイトルのリリースを中止したことから、同社を12年5月に買収した際に計上したのれん代などの減損損失を142億円計上した。米国のもう1社はスマホ向けのプラットフォーム運営のオープンフェイントで、90億円を減損処理した。

 グリーの今期業績も厳しい。15年7~12月期(6カ月間)の業績見通しは、売上高が前年同期比26.3%減の365億円、営業利益は46.0%減の60億円、最終損益は35億円の黒字(前年同期は41億円の赤字)とした。16年6月期通期の業績予想は開示しなかった。

●コンプガチャ禁止の影響

 グリーは『釣りスタ』や『探検ドリランド』など、自社のプラットフォーム上で提供するブラウザゲームで急成長を遂げてきた。12年6月期の売上高は前年同期比2.5倍の1582億円、営業利益は2.6倍の827億円、最終利益は2.6倍の479億円を計上した。

 急成長をもたらしたのは交流型ゲームの新商法、コンプガチャである。1回100円から500円程度を払うと、ゲームで使うアイテムが当たる仕組みになっている。特定のアイテムをそろえるとレア(希少な)アイテムが入手できる。これがコンプリート(コンプ)ガチャだ。

 例えば釣りゲームの場合、無料ではすぐ折れる釣り竿しか使えない。通常のアイテム課金だと、普通の釣り竿が買える。これがガチャ課金になると、すぐ折れる釣り竿が出てくるか、絶対に折れない釣り竿が出てくるか、出てくるまでまったくわからない仕組みになっている。気に入った釣り竿が出てくるまで、ガチャを繰り返し、子供が何万円も使ったりした。その結果、テレビCMでは無料を謳っているのに高額利用料を請求されたという相談が、親から全国の消費生活センターに殺到。ガチャで5万円、10万円請求されたという相談が急増した。

 無料を謳い文句にユーザーを呼び込み、有料アイテムを購入させて稼ぐというビジネスモデルが急成長の原動力となった。しかし、子供相手に高額な有料課金で稼ぐビジネスモデルへの社会的批判の高まりを受け、消費者庁は12年7月、コンプガチャを禁止した。コンプガチャの禁止は、交流型ゲーム各社の経営に大きな打撃を与えた。なかでもグリーはコンプガチャへの依存度が高かったため、全廃の影響は大きかった。

●激変する時代環境

 業績が悪化したグリーは、初の希望退職を実施。13年11月、単体従業員の12%に当たる205人が退職した。深刻なのは、古参有力社員の流出だ。有力社員に権利を付与したストックオプションの待機期間が13年12月に切れ、すべてのストックオプションの権利行使が可能になった。所有していた株式の売却益を手に、有力幹部がグリーを去ったとされる。

 コンプガチャの対応に追われている間に、事業環境は激変した。スマホの普及でアップルやグーグルのプラットフォーム上でゲームを配信するネイティブゲームが台頭した。しかし、グリーはこの変化に即応できなかった。

 創業者の田中良和社長は14年8月、大掛かりな事業転換を図った。主力のブラウザゲーム事業の人員を6割減らし、ネイティブゲームの陣容を3倍の1000人体制にすると表明。しかし、ゲーム開発者が従来型携帯電話用のブラウザからスマホ向けネイティブにシフトするのは容易ではない。

 グリーのネイティブゲームでは、ヒットは生まれていない。今期は国内外で15本の新作ゲームを投入するが、果たして、パズドラモンストのようなメガヒット・ゲームは生まれるのだろうか。空振りに終われば、グリーの苦境は深まる。

●注目される共同創業者の進退

 グリーが9月29日に開催する定時株主総会で、共同創業者で副会長の山岸広太郎氏が非常勤取締役に退く。会社から離れるのは時間の問題とされている。

 山岸氏は1999年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、日経BP社に入社。03年1月、シーネットネットワークスジャパン(現・朝日インタラクティブ)に入社し、「CNET Japan」編集長に就任。04年12月、グリー取締役副社長に就任すると、14年9月には取締役副会長となり、経営の第一線から実質的に退いていた。

「創業メンバーである田中氏と山岸氏の対立は、コンプガチャの処理をどうするかの立場の違いから起こった。田中氏は『コンプガチャの何が悪い』というスタンスだったが、山岸氏は高額請求問題をきちんと是正して、ゲームの健全化を図るべきと主張した。この問題で亀裂が深まり、山岸氏は副会長に棚上げ。業績の失速と相まって、山岸氏は経営から手を引くことを決断したとみられる」(業界筋)

 山岸氏は、08年12月の新規株式公開で200億円の現金を手にしたと話題になった。現在、個人では田中氏に次ぐ第2位の大株主で、グリー株691万株(2.8%、14年12月末現在)を保有している。株価は下落したとはいえ、売却すれば巨額な資金が転がり込んでくる。
(文=編集部)