“日本語の乱れ” 学者はどう考える?――上野誠さんインタビュー(2) | ニコニコニュース

『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』書影
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 出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』第71回は、『さりげなく思いやりが伝わる大和言葉』(幻冬舎/刊)の著者であり、万葉集や万葉文化の研究者として知られる奈良大学文学部教授の上野誠さん。
 この本では大和言葉を定義しなおしつつ、万葉集の第一人者だからこそ書ける、日本語の奥深い物言いを紹介する一冊。メディアへの出演経験も豊富で、惹き込ませるトークも評判の上野さんのお話をぜひ楽しんでください。3回にわたるインタビューの中編をお伝えします。
(新刊JP編集部/金井元貴)

■「日本語を間違えている!」と騒ぐ人たちを学者はどう考えているのか?

―― 確かに「しなやか」という言葉から、一本筋がありつつ、変化にも柔軟に対応できるイメージが浮かびます。

上野: 「しなやか」という言葉を一番分かりやすく例えられるのが「竹ひご」ですね。僕が子どもの頃は竹ひごで飛行機を作って飛ばして遊びましたが、飛行機に姿を変えることができるし、元に戻ることもできる。それが「しなる」ことの強さなんです。

―― 優しさと強さが同居した言葉ですよね。

上野: 優しい言葉って、強さも感じるでしょ。それは母親のイメージからくるものなんですよ。そして、そこにあるのが情感です。人は理屈だけでは動かない。やはり動くときの決断として、必ず「情」があるんです。

―― 「情」ですか。

上野: 「万葉集」では、「情」と書いて「こころ」と読みます。「なさけ」というものです。「情報」っていうでしょ。これは「情をつかむ」ということなんですよね。人の情をつかめば、それは強い。どんなときもそうです。

―― 日本人は日本語の使い方の間違いに対して厳しいところがあると思います。その点について上野さんはどのようにお考えですか?

上野: タレントさんの言葉の使い方が間違っているとかね。指摘するのは簡単だけれど、間違っていたとしても同世代の人たちに伝わるものがあるならば、それでいいと思います。なにも国語のテストをしているわけではないですしね。

―― インターネットで炎上するケースもあります。

上野: 悪いところを探してしまうんですよね。僕もこの本に漢語起源の言葉も載せたので、「純粋な大和言葉じゃないものが載っている!」と指摘する人はいるでしょう。


でも、そうした言葉を排除していっても豊かにはなれません。ここに載せた外国語起源の大和言葉は、日本語のしなやかさから生まれたものです。そういうしなやかさが表現を自由にしていくわけですし、その部分はより一層磨いていくべきところだと思います。
学校の授業では、「的確に正しく」国語を学ぶよりも、「楽しく深みのある」国語を勉強したほうが正しいと思うんですね。「あの先生のような話し方がしたい」「あの先生が書くような文章を書きたい」と生徒に思わせるような授業が、国語の正しい教え方だと考えています。

―― 生徒たちのお手本となるような言葉を使う先生ですね。

上野: 好きなものは勉強するでしょ。でも「これはやっちゃいけない」という教え方をすると、苦手意識を持ちやすくなってしまう。

―― 上野さんは大学教授として教壇に立たれていますが、そのような教え方を意識されているんですか?

上野: ○×ゲームみたいな教え方はしませんね。言葉の魅力を引き出すような教え方をするのが大切だと思っています。

(後編へ続く)