アジリティのためのマネジメント意識変革を実現する

市場のボラティリティ(Volatility, 移り変わりやすさ)は,企業に対して,需要変化への可能な限り迅速な適応と,最大限の価値獲得を同時に要求する。アジャイルを採用する上でマネジメント層は,組織内の障害を取り除くチーム編成を行う必要がある,とAhmet Akdag氏は言う。アジリティへの移行とは,試して,失敗し,そこから学ぶ,という方法の習得そのものなのだ。

Akdag氏はAgile Greece Summit 2015で,アジャイルにおけるマネジメントについて講演を行う予定である。InfoQはQ&Aとニュース,アーティクルで,始めて開催されるAgile Greece Summitの様子を伝える予定だ。

InfoQはAkdag氏とのインタビューで,アジリティに価値観の転換が必要な理由,より柔軟な方法で戦略的マネジメントを行うためのアジャイル,アジャイルが企業のパフォーマンス管理手法に与える影響,企業がアジャイルを導入する上でマネージャにできること,などを聞いた。

InfoQ: アジリティに対するあなたの考えを教えてください – アジリティとは何であって,なぜ重要なのでしょう?

Akdag: 変化は多くの意味でリスクであり,一部の意味でチャンスです。私はアジリティを,変化のリスクをコントロールしつつ,変化を最大限に活用する方法と定義しています。世界がこれまで以上の速度で変化している今,これは大きな問題です。製品寿命は劇的に短縮化されています。1984年は20年だったものが,2004年には7年に,2013年には2年になりました。1,451人の企業幹部を対象とした経済学者の調査(2011)でも,アジリティはビジネスにとって重要だという回答が得られてます。すなわち,市場のボラティリティがアジリティ,つまり需要の変化に可能な限り迅速に対応しつつ,最高の価値を得るように求めているのです。

InfoQ: Agile Greece Summitであなたは,企業がアジャイルを導入する場合のマネージャに必要な意識の変化について講演されますが,これについて説明して頂けますか?

Akdag: ほとんどの企業は,コスト経済を基盤として構築されてきました。一部の人たちが考え,他の人たちはそれを実行するのです。そこでは考える立場の人たちが,自身の考えが実行されているかを確認しなくてはなりません。

ここではFrederick W. Tailor氏の科学的管理が重要な役割を果たします。この状況は同時に,厳密で高度な階層化,度の過ぎた権限主義,肩書に基づく管理,官僚主義的な承認フローといったものを作り上げます。これらすべての要素が,変化の激しい市場における迅速な行動と創造性に対しては,あたかも障害物のように見えるのです。加えて,このような構造や意識に対するモチベーションを持たない,新たな世代の存在があります。ですから企業は,自己組織化やエンパワーメント,リーダーシップ,アジャイル組織としての基本を意識しながら,より高い適応性を備える方法を見つけださざるを得ないのです。

InfoQ: より柔軟な方法で戦略的マネジメントを行う上で,アジャイルの導入はどのような役割を果たせるのでしょう?

Akdag: 当社はこれまでに50以上の変革プロジェクトに関与して,さまざまなことを学んできました。アジリティは企業のDNAに組み込まれなくてはなりません。簡単なプロセスではありませんが,マネジメントの決断さえあれば可能です。

戦略的マネジメントにおける最も一般的な問題のひとつは,タスクや実行に多くの時間を割き過ぎることです。あまりに厳格なプロセスや官僚主義,行き過ぎた機能分割,管理主義や監査主義によって迅速な決定や行動のできなくなった企業には,市場の変化はすべてが危機の原因となります。従って企業幹部は,現在の企業において対処されていない問題の解決に関与しなくてはなりません。つまりその企業は, ボラティリティに対処するだけの適応性を備えていない,ということになります。そのため,戦略的マネジメントは常に危機に瀕していて,企業の新たな戦略を作り上げる時間的余裕がないのです。

この問題に対する主要なアプローチは,管理責任を企業全体に拡大した上で,管理的価値と原則のフレームワークを通じて,それぞれの境界内の意思決定権を委譲する,というものです。従来型管理体系を持つ企業にとって,これは大きな転換点になるはずです。

それでは,より高い適応性を備えるために,企業は何をすればよいのでしょう?この転換には,おもに2つのアプローチがあります。全体的な転換と,反復的かつ漸進的な方法です。

最初の方法には,経営層の強い協力が必要です。難しそうに思えますが,移行において必要な手段はすべて揃っていますから,変革を起こす方法としては非常に簡単です。ひとつだけ問題なのは,そのような確信と献身性を持った人物を経営層で見つけることが難しい,という点です。一般論として,中規模の企業向きだと言えるでしょう。

第2の方法はもっと一般的なものです。そこでは組織全体の変革を納得させるために,パイロットプロジェクトや実験がいくつか必要になります。定量的な成果を挙げたパイロットが完成して,コミュニケーションのバックログや計画が揃っていれば,そのエネルギを組織全体に拡げることは簡単になります。

私たちには,この2つのシナリオでアジリティ転換をリードするための,Agile Studioというモデルがあります。Agile Studioは,いわば企業全体のスクラムマスタのようなもので,部門内コーチやCレベルの人材,開発部門など,企業のすべての分野の人材が集められた専門チームです。その目標は,アジャイル価値と原則,プラクティスによって,より迅速に対応する組織の能力を高めることにあります。

InfoQ: 企業でパフォーマンス管理が行われる方法に対するアジャイルの影響がどのようなものなのか,例をあげて頂けますか?

Akdag: パフォーマンス管理が関係する場合は,十分に注意しなくてはなりません。非常に難しい問題ですから。アジャイルチームは自分自身を管理します。そしてパフォーマンス管理は,その重要な部分です。雇用や解雇ができるのは誰か?アジャイルチームは自分自身のパフォーマンスを評価できるのか?この管理責任を負うことができるのか?企業全体へのエンパワーメントと管理責任の展開ができているのならば,答はイエスです!

アジリティとはチームとコラボレートすることであり,チームであることです。多くの企業がアジャイルチームを組織すると同時に,個々の貢献度に基づいて,従業員のパフォーマンスを評価しようとします。パフォーマンスに関する全体論敵な見解がなければ,メンバはコラボレーションの難しさを訴えてくるかも知れません。互いが競争しているという意識を持つことで,情報を隠し合ったり,積極的に支援しなくなったり,あるいは目標を共有しなくなるかも知れません。私はチームとしての成果を持つことを提案したいと思います。パフォーマンス指標の中心にROIや一人当たりの収益,顧客満足度,チーム全体のパフォーマンス指標などを置いて,それら以外を個人のパフォーマンスとします。例えば70%をチームの成果,残る30%を個人のパフォーマンスとするのです。個人評価の部分は,チームメンバによる360度評価でもよいでしょう。

InfoQ: アジャイルを導入しようとしている企業のマネージャは何をすべきか,アドバイスはありますか?

Akdag: 他の人々以上の責任がある立場として,より多くのことを行わなくてはなりません。

変革に対する明確なビジョンに加えて,短期,中期,長期の戦略を考え出すことが必要です。組織の変革は複雑な作業で,コラボレーションを必要としますから,マネジメントの立場としてチームをまとめ上げなくてはなりません。障害もあります。それは組織図かも知れませんし,システム,プロセス,あるいは変革に反対する一部の人たちかも知れません。そのような障害を取り除くことも必要です。アジャイルをもう一度読んで,トライし,学ばなくてはなりません。

組織は事実として,同じ価値観を共有しなくてはならない人たちのグループです。ですから,一人一人の価値観もまた変わらなくてはなりません。アジリティへの転換は,ウォーターフォールなどのプロセスを企業に展開するようには行かないのです。試して失敗し,学ぶことを学ぶのです。ですからマネージャはメンバに対して,積極的に失敗させることも時には必要です。これには多くの努力と利他主義,そして情熱を要します。このような情熱的で正しい人たちを見つけるのは簡単ではありませんが,不可能でもありません。