結局レーシックってどれぐらい安全なの?後編

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実態調査

レーシック難民からの批判の高まりを受け、2009年10月、米食品医薬品局(FDA)は国立眼病研究所、国防総省と共同でレーシックのQOL調査に乗り出しました。その目的は「レーシックで生じる重度のトラブルのリスクを把握する」ことです。

共同調査ではまず、サンディエゴ海軍病院でレーシックを無料で受けた海軍の242人(大部分は男性)にオンラインアンケートを行い、続いて民間医院5ヶ所でレーシックを受けた一般患者292人を調査。その結果を2014年10月にFDAの眼科・耳鼻咽喉科部門トップのMalvina Eydelman氏が途中報告しました。

結果はそれまでの調査と大体一緒で、患者の満足度も90%以上というものでした。もちろんWaxler氏(FDAがレーシック認可した当時の責任者。引退後に被害者に詰め寄られ、今はFDA認可に反対している。前編参照)や他の人たちが何度も主張しているように、満足度と安全性は別物ですけどね。

肝心の安全性ということになると、FDAの調査結果も白黒はっきりしません。乱視の人は手術後かなり減りますが、3分の1以上はハロ(光輪症。まぶしく見える症状)やスターバースト(夜間に光がまぶしく見える症状)を未だに抱えています。さらに、レーシック手術後3ヶ月経っても「かなり/極度に煩わしい」視覚症状を訴える人は最大4%、「視覚症状が原因で普通に生活できない/生活に支障を来している」人は最大1%という結果でした。

レーシック前に特になんの症状もなかった人の中では、手術後3ヶ月で新たなドライアイを訴えた人が約30%、新たな視覚症状を訴えた人は45%にのぼります。

以上の結果についてWaxler氏は、レーシック患者の疫学分析、視覚症状、満足度を任意抽出で調べるのではなしに、患者やレーシック器具をかなり具体的な基準で選んだ「ベストケース」シナリオなので、このまま「一般の状況」に当てはめることには無理があると主張。FDAと屈折矯正手術業界は「レーシックの安全性と効果を裏付けるかのように研究結果を印象操作している。実際にはレーシック患者が抱える問題を裏付ける内容なのに」と苦言を呈しています。

アメリカ白内障屈折矯正手術学会(ASCRS)に取材したら、広報からは学会の公式見解として2014年11月のプレスリリースが送られてきました。FDAの調査結果を「圧倒的にポジティブ」と伝え、ASCRSのRichard Lewis会長が、レーシックの成功率の高さは「手術としては未曾有」であり「レーシックの驚くべき効能」が改めて確認されたかたちだと語っています。

プレスリリースには「どんな手術も100%リスクがないものなどない」とも書かれており、Lewis会長のこんなコメントが引用されています。「レーシック手術でドライアイと視覚障害を抱える危険性を把握することは重要で、進化もしている。[...]ハイリスクの人を特定することも大事だが、適切な管理下で迅速に検査で判断しなければならない現実がある」

手術後の問題はそのうち解消するものが多い、という研究報告も沢山ありますが、患者を実際に6ヶ月とか1年以上の長いスパンで追跡調査して確かめたものはほとんどありません。ボストンの眼科医Rosenthal氏はレーシック手術後に慢性の痛みを訴える患者21人を診てきましたが、そのうち8人は手術後1年はなんともなかったのだといいます。一方、アメリカ角膜研究協会(The Cornea Research Foundation)の調査では、レーシック手術後のドライアイ症状は1年後に悪化し、2年後に再び回復する現象も確認されています。

アメリカの消費者団体「Consumer Reports National Research Center」が成人800人近くを対象に行った調査でも、アメリカ眼科専門誌「American Journal of Ophthalmology」、「Cornea」、「Ocular Surface」に出た報告でも、慢性ドライアイなどの症状はレーシック手術の半年後に比較的広く見られるという結果が出ているので、やっぱり追跡調査は大事ですよね。

ちなみに「Molecular Pain」に載った最近の論文では「持続的な目の症状」を訴える患者の割合は20%から55%の間と言い切っており、もしかしたら角膜の神経がやられたのが原因かもしれない、と推察しています。

先日コンシューマーズ・ダイジェスト誌に載った記事では、レーシックの安全性を伝えるシステムと検査の幅広い問題点を紹介しています。

肝心の監督官庁であるFDAは、患者第2グループの6ヶ月後の追跡調査の結果は今に至るまで公表していません。ただ、調査を担当したEydelman氏は「Public Health Impact」というプレゼンテーションを発表しており、その中でこう結論付けています。「レーシック手術を受ける患者は年間かなりの数にのぼる。それを考えると、不満と障害の症状を訴える恐れのある患者もかなりの数になるだろう」

実際どれぐらいかと言いますと、業界の推計ではレーシック手術を受けた人は世界でこれまでに4000万人以上いるそうです。つまり慢性の目の症状を抱える人の数はミリオン単位ということに。

ここ5年は手術の需要も落ち込んでますが、Waxler氏曰く、ドライアイに伴う症状に特化した目薬の需要は逆に「爆発的」に増えていて、一部のメーカーに至っては、レーシック難民をターゲットに広告展開しているのだといいます。「これはただの偶然じゃないですよ」と氏。

Waxler氏は2011年、かつての職場のFDAに対し、レーシック認可撤回を求める請願を出しました。その3年後、FDAは氏の訴えは論拠不明で、FDAに提出されたデータでは手術のリスクよりメリットの方が上回っていたとし、氏の訴えを退けました。氏は2014年7月に見直しを求める請願を出しましたが、もうさすがに疲れたと言っています。自分にできることは全部やった。でも動かない。「これを動かす魔法の杖もない」と匙を投げてる状態。

ですが市民団体はまだ諦めていなくて、2014年12月には3つの消費者保護団体がFDAに「ブラックボックス警告」の表示を求める署名運動を起こしました。警告はレーシックのレーザーに貼る用で、そこにFDA自身の調査結果を警告で引用し、不要な手術で視覚症状やドライアイが高確率で発症することを明記せよ、という要求です。さらに2015年5月には1,000名以上のレーシック難民と支援者が、FDAにWaxler氏の請願再考を求める書簡に署名をしました。

FDAはどう出るのか? Eydelman氏の科学的プレゼンテーションに対する感想と当局としての対応を取材してみたら、FDA広報からは、論文審査のある学術専門誌に出す原稿を研究者たちが準備中なので、掲載まで公のコメントは控えたいとのお返事。

「それはいつ掲載されるんですか?」との質問には、「答えられない」ということでした。


*本稿はMosaic初出記事をCreative Commonsライセンスで再掲しました。
image: UCI Institute for Innovation under Creative Commons license.

Bryn Nelson - Mosaic - Gizmodo US[原文
(satomi)