集中力を鍛える「忘れる力」 | ニコニコニュース

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■集中力の源は何か?

私には周りの人たちから、驚かれることがいくつかあります。そのひとつが私の「集中力」です。飽くなき探究心だといいたいところですが、多岐にわたって没頭するところが普通ではないように映っているようです。

一方で、つい最近まで集中していたことすら忘れるので、付き合いの長い人は、実は私の「忘れる力」のほうに驚いています。私からすれば、集中して吸収し終えたら次へと進んでいるだけですし、過去に起きたことを抱えているほうが足かせになると思うのです。次に繋がらない余計なことは忘れたほうがいいのです。

この「集中力」と「忘れる力」には相関性があるのかもしれません。

集中力を高めるために特別なトレーニングを積んだ記憶はないので、おそらく、父の仕事の関係で転校を繰り返した挙句、学校の授業についていけずに落ちこぼれてしまった幼少期の葛藤と、無数の努力の賜物ではないかと思います。

幼少期にさかのぼると、人と同じことをやっても1番にはなれないから、人が目を向けないものを探すことがよくありました。子どもの頃、球技が得意でなかった私はマット運動や鉄棒、跳び箱などを頑張ったのを覚えています。人と違うことをするというのは、日本の社会ではなかなか勇気がいります。変人だと思われたり、異質だということで嫌われたりする可能性もあります。

ただ、人と違うことをやるのは今でもときどき辛くなることはありますが、時間とともに周りもどうしてそのような選択をしたのかを理解してくれるようになります。そのためには結果を残すしかありません。人と違うことをやる覚悟を決めたら、逆に絶対に上手くやらなければというプレッシャーが自分にかかります。この適度なプレッシャーが成功確率を高めてきたのだと思います。

結果が出るまではいろいろな批判にさらされたり、相手にされなかったりすることもありますが、自分を信じてやっていくしかありません。私は、このような努力を重ね、些細なことでも1番になれる何かを探し出してきました。学年で1番懸垂が多くできたり、逆立ちが1番長い時間できたりといった些細なことです。才能がなければできないことはあるものの、努力すればなんとかなることもたくさんあるということを子供ながらに学んだのです。

自分はみんなと同じように努力するだけではダメだと、とうてい敵わないと潔く自覚し、上手に自分なりの価値を生み出す方法を学んできたということだと思います。

そんなことをやってどうするんだと言われても気にとめなくなったのは、どんなことでも頑張れば1番になる可能性があることを知ったからだと思います。

■努力を費やせるのは「今」だけ

集中できるか否かは、二度と戻らない自分の時間をそこに投下するわけですから、自分がやっていることにある程度の価値を見出せているかが鍵ではないかと思います。目的があれば別かもしれませんが、価値のないことをやろうと思う人は少ないはずです。

また、やらない限りは知り得ない結果に気を奪われ、やりながらこれでいいのかと迷い続けていては、周りの雑音に左右されるだけです。いい結果も得難いでしょう。集中するというのは、時間のコミットメントありで、その時間内はほかのことをバッサリと切り捨てて全力を尽くすことでもあります。

このバッサリと切り捨てていく過程で、忘れる力は養われるのではないかと思います。

■集中力は「ながら作業」で著しく低下

集中するために忘れる。これはどういうことかというと、パソコンで作業をしているときに話しかけられた際、完全に手をとめて話を聞けるかどうかがだと思います。本を読んでいるときに話しかけられたら、本をおいて話を聞くのに、パソコンで何かを読んでいるときは、読みながら人の話を聞こうとする人が増えたように思います。それは、マルチ・タスキングという名の「ながら作業」にすぎません。

頭の切り替えをしないまま、ながら作業に慣れてしまっては、集中力は低下する一方なのではないでしょうか。ながら作業をしているのに、マルチ・タスキングをしているつもりになっていると、ただこなすだけの仕事しかできなくなるのではないかと危惧します。わたしが社内でやっていることとして、重要な会議はスマホなどをオフにして行うようにしています。

本当のマルチ・タスキングができる人は切り替えが上手です。並行する時間軸でいろんなことをそれぞれフルに行えます。私はそこまでマルチ・タスキングができるほうではないので、目の前にあることにフォーカスすることを選んできました。

集中するというのは、無駄を断捨離することでもあります。ながら作業をしながら重要な判断を的確にくだせるとは思えません。パソコンの手を止めたり、スマホを見ないようにしたりというのは、日常の中で誰にでもできる集中力を高める訓練だと思いますので、ながら作業に陥っている人は、ぜひ、実践してみてください。頭を切り替える癖は、誰にでも身につけることができることですから。

その結果、その瞬間、瞬間に集中する癖をつけることで、上手に物事を忘れることもできるようになるのだと思います。

最近ではワーキングメモリーが小さい人ほどイノベーティブな発想ができるということが言われています。皆さんも、ワーキングメモリーをスイッチオフしているとき、何も考えずにシャワーを浴びているとき、軽くワインを楽しんでいるときのほうが、発想が豊かになる経験をしたことがあるのではないでしょうか。

今回の話はあくまでも、私流の「集中力」と「忘れる力」の使い方です。大事なこと以外は、辛いこともすべて忘れてしまうので、記憶力はあまりよくないのかもしれません。 そうだとしても、記憶力がよくないというよりも「私には忘れる力がある」「イノベーティブ・シンキングがしやすい」と認識するほうが人生をポジティブに生きる上ではいい考え方ではないかと思います。

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窪田 良(くぼた・りょう)●1966年生まれ。アキュセラ創業者であり、会長、社長兼CEO。医師・医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学院に進学。緑内障の原因遺伝子「ミオシリン」を発見する。その後、臨床医として虎の門病院や慶應病院に勤務ののち、2000年より米国ワシントン大学眼科シニアフェローおよび助教授として勤務。02年にシアトルの自宅地下室にてアキュセラを創業。現在は、慶應義塾大学医学部客員教授や全米アジア研究所 (The National Bureau of Asian Research) の理事、G1ベンチャーのアドバイザリー・ボードなども兼務する。著書として『極めるひとほどあきっぽい』『「なりたい人」になるための41のやり方』がある。Twitterのアカウントは @ryokubota 。 >>アキュセラ・インク http://acucela.jp

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