「世界中にインターネットを」それはまだ実現不可能な夢である

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何事も夢見ることから始まるのでしょう。

世界中の人々にインターネットを! 地球の隅々まで繋がる社会を! 最近よく目にするスローガンですが、それは今はまだ実現不可能だ、夢の話だと現実をみつめる人がいます。オックスフォード大学の准教授であるMark Graham氏が、なぜそれが夢なのか解説しているので、みてみましょう。

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衛星、太陽光発電のドローン、はたまた気球。地球の隅々までインターネットを提供しようとさまざまなアイディアが飛び交っています。フェイスブックにグーグルなどの大手テック企業、国際団体、政府などが参加し考えを出し合って煮詰めています。そんな中、ロンドンで開催されたIP Expoで講演したWikipedia創始者のジミー・ウェールズ氏が、世界中にインターネットを提供することについて、ツイッターでコメントしていました。


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「昨今のトレンドから、10年後にはほぼすべての人にインターネットが提供されるのは明らかだ。反対意見は目にしない」


世界中がネットで繋がった社会になるべきだという願いは、多くの技術者や、政策立案者、思想リーダーなどによってあちこちで何度も発言されている。願いは願いでいいとして、さて実現は可能なのでしょうか。世界中にインターネットを実現するための方法には2通り考えられます。市場を開くか、閉じるか、ということです。

開かれた市場


1つ目は、誰もが参加しネットを提供するために競争していくやり方だ。世界中にインターネットを提供し、使ってもらうためには誰もが手の届くインターネットである必要があります。この「手が届く」というのが鍵なのです。世界中で使えても、利用料が高ければ、それは「すべての人にインターネット」とは言えません。ただ、世界で利用するためのブロードバンドのコストを下げるのは、大変難しい

世界に存在する、ぎりぎりの生活、食べるので精一杯という暮らしを送らざるをえない何十億人という人々にとって、今1番安いインターネットにすら手が出ないというのが実情です。例えば、エチオピアの平均的な労働者ならば、安いブロードバンドを契約するのに、給料1ヶ月分以上が必要になります。Alliance for Affordable Internetのような市場競争によるインターネットアクセス提供拡大を模索する団体は、結局、先述の貧困地域には多くを提供することはできないのです。とすれば、ウェールズ氏のいう未来は、市場に頼っていてはやってこないでしょう。


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image by Mark Graham/OII, Author provided


ネットを拡大していかねばならない地域こそ、ネット利用料を払うことができない地域なのです。

閉ざされた市場


2つ目に考えられるのは、閉ざされた市場で展開すること。つまり、フェイスブックやグーグルのようなある大手テック系企業が提供していくパターンです。Internet.org(フェイスブック主催)やFree Zone(グーグル主催)を通して、ユーザーは無料でネットにアクセスできるという仕組みです。

が、世の中に完全なる無料はありません。このサービスにもコストがかかります。無料でアクセスできる代わりに、そのアクセス内容が限られてくるわけです。例えば、フェイスブックのネットを使うならば、フェイスブックまたはフェスブックが許可するサイトにしかアクセスできないという具合に。グーグルも然り。フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、ネットへコネクトすることは人間の権利だと語りますが、フェイスブックが提供するネットがフェイスブックにしかアクセスできないとすれば、それはえらく狭い権利となります。

ネット戦略の数だけインターネットがもたらされることとなります。勝ち組負け組、主役脇役が、すでにネットアクセス権を握る団体に左右されてしまうのです。例えるなら、それは食料援助が、アフリカの地元の農場や市場を脅かしてしまうことに似ていないでしょうか。「インターネット救助」が、今後その地域でのネット事業やローカルコンテンツの発展や改革を脅かし、芽を摘んでしまうかもしれません。すると、開かれたネットの世界を近い未来に提供できるとは、やはり考えにくいですね。

インターネットへアクセスするための金額を下げようと努力しても、やはり貧困地域は取り残されてしまう。かといって、大企業による無料インターネットなら、そのネットの世界が限られてしまうというわけです。

ウェールズ氏のいう未来を実現するためには、ネットインフラ企業の市場からも、テック企業のサービスからも離れたところで考えなくてはならないのではないでしょうか。世界の誰もがネットにアクセスできる社会とは、実現不可能な話ではありません。しかし、そのためには特定の団体が押し進めるのではなく、社会全体が実現のために大きなビジョンと動機を持たなければならないのです。


※本記事は、The Conversationに最初に掲載され、米ギズモードが再掲載したものを翻訳したものです。

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アツく夢を語る人がいれば、それを冷静に諭す人がいます。しかし、後者がその夢に対して無興味で反対的であるかといえばそうではありません。前者同様に、その世界を夢見ているのです。ただ冷静なだけ。熱して冷まして熱して冷まして、それを繰り返すことで、夢は磨かれ実現への方法を探し出していくのではないでしょうか。夢は見続けてこそ、です。


image: by NCVO London under Creative Commons license

Mark Graham - Gizmodo US[原文
(そうこ)