人類はまず中国に進出? アフリカ以外で最古の人類の化石を発見

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8万~12万年前の人間の歯。

人類はアフリカで生まれた」と言われていますが、いつどうやって地球全体に広がっていったかには諸説あります。が、アジアへの進出が従来考えられていたよりかなり早い時期だったことを裏付ける化石が発見されました。これによって人類の拡散の経過や、現世人類の前に存在していたネアンデルタール人絶滅の理由など、いろいろな学説に影響してきます。

カリフォルニア州立大学文化人類学講師、Maria Martinon-Torres氏と、同大学名誉教授のJose Maria Bermudez de Castro氏は、その化石と発掘場所を第三者として検証してきました。以下は、彼らがThe Conversationに寄稿した記事を米Gizmodoに転載したものの翻訳です。

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我々は誰もが、地球上で唯一のヒトという種のひとりです。いま存在するヒトより前の時代には、絶滅した原人の種がいくつもあったわけで、そう考えると我々の種のほうがちょっと優れているような感じがしても仕方ありません。たとえばヨーロッパではネアンデルタール人が4万年ほど前に絶滅していて、現生人類がヨーロッパに到達したのもその頃です。なので現生人類はネアンデルタール人より優れていて、彼らを駆逐したのだと思われてきました

でも科学はときに、我々に謙虚になることを教えてくれます。中国で8万~12万年前の人間の歯47本が発見され、人類がアジアに進出してからヨーロッパに到達するまでに少なくとも4万~8万年かかったことが示唆されたのです。その研究結果はNatureで発表され、人類の進化と地球上への拡散、特にネアンデルタール人絶滅の過程に対する従来の理解に対抗する内容となっています。

証拠は明らか


これまで研究者は、現生人類は東アフリカで16万~19万年前に生まれたものと考えてきました。その後はというと、イスラエルのスフール洞窟やJabel Qafzenといった遺跡から発掘された人間の化石から、人類がそこに8万~12万年前にやってきたことを示しています。が、そのイスラエルの化石には古い時代の人類の特徴が残っていて、「現時代の境界」にはあるものの、完全に現代の人類と同じとは言えませんでした。なのでその化石は、アフリカを出ようとして失敗した結果であり、アフリカ大陸の境界をわずかに超えただけだったのだと考えられていました。つまり人類は8万~12万年前にヨーロッパの入り口にはたどり着いたものの、当時ネアンデルタールが占拠していたその地に至るにはさらに5万年を要したのです。

遺伝子研究の結果「出アフリカ」が最初に成功したのは6万年前後だったと考えられていました。が、中国科学院古脊椎動物古人類学研究所が中国南部の湖南省道県の洞窟で新たに発見した47本の歯は、完全に現生人類のものであり、8万年以上前のものと推定されています。つまり人類は従来考えられていたよりかなり早い時代にアジアに進出していたことになります。ヨーロッパや東地中海より3万~7万年も早く、現生人類と同じ体を持った人間たちがアジアにいたということなのです。

研究チームによる「最古で12万年」という推定は、にわかには信じがたいものでした。それはかなりの大風呂敷です。そこで彼らは我々を遺跡に招き、我々は喜んで参加したのでした。今回の発見で難しいのは、歯の持ち主の種を証明することではなく、歯の時代推定とその背景について確信を持つことでした。

中国に到着したとき、我々はその歯がホモ・サピエンスのものであるということについては疑っていませんでした。北京で同僚と一緒に数週間かけて歯をじっくり検分し、そのあと飛行機で2000km以上離れた道県まで飛び、興奮と期待でいっぱいになりながら遺跡まで車に乗って移動しました。アフリカから遠く東の地で、そこまで古い時代の現生人類を見つけることができるのだろうかと。

道県の小さな村に到着して遺跡に入ると、私たちは言葉を失いました。洞窟の中の岩や堆積物は、シンプルでわかりやすいものでした。そこには4つの層がはっきりと積み重なっていて、それが300平方メートル以上にわたる発掘地全体で確認できました。

47本の歯は、巨大な墓石のようにひと続きの方解石に閉じ込められた層の中で発見されました。なので、それより下の層にあとから土や新しい時代の化石が入り込むのは難しいと考えられます。またそこには、水に含まれる鉱物から形成されていく石筍があり、その下には中国と米国の専門家が8万年前頃のものと推定する流華石がありました。方解石が化石の層を閉じ込めた後に石筍が形成されたとすれば、その下にあるものは8万年より古いはずです。


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発見された歯はすべて、ほかの哺乳類の化石と混在していました。たとえば絶滅したハイエナ、パンダ、象などで、それらの分析によって人間の化石はもっとも古くて12万年前のものと推定されました。これで推定の過程がクリアになりました。我々は洞窟の中で何時間も過ごし、証拠はすべて、後期更新世時代の初期を示しているという結論に至りました。

それ以降の中国での旅は、興奮と衝撃でめまいがするほどでした。道県の人たちは、あらゆるごちそうや飲み物で温かく歓迎してくれましたが、我々のほうこそ彼らに敬意を払うべきだと思いました。アフリカ以外ではわかっている限り最古の現生人類がいた場所を訪れるという栄誉にあずかったからです。

人間の起源の謎


米国に帰るフライトでは、アフリカを出た最初のホモ・サピエンスの出処とたどった道筋についてブレインストーミングになり、それは忘れがたいものになりました。我々はみんな、今回発見されたヒトたちの子孫なのでしょうか? それともよりあとの時代にアフリカを出た集団の子孫なのでしょうか?

我々はまた、ネアンデルタール人の名誉を回復すべきときが来たと考えました。または少なくとも、ネアンデルタール人と現生人類、どちらが優れていたかについての結論を保留すべきです。我々は長いこと、ネアンデルタール人は文化的・生物学的に優れている(とされる)現世人類の侵攻に耐えられずに絶滅したと考えてきたのです。

でも現生人類はなぜ、ネアンデルタール人のいないアジアにそんなに簡単に移動できたんでしょうか? ネアンデルタール人は、冬は厳しく零下になるヨーロッパという土地を征服できたんです。熱帯生まれのホモ・サピエンスがそこに至るまでに長い時間が必要だったのは、その寒さが理由だとも考えられます。冬の厳しさによって数十万年も断絶され、苦しんでいるうちに、ネアンデルタール人は衰退してしまったのかもしれません。それでようやく、ホモ・サピエンスがヨーロッパを征服するチャンスを迎えたのかもしれません。


image by S.Xing and X-J.Wu.

Gizmodo US[原文
(miho)