<香取慎吾>ロングインタビュー 「ギャラクシー街道」では「すごく嫌なやつでいてほしいといわれた」 | ニコニコニュース

映画「ギャラクシー街道」のワンシーン (C)2015 フジテレビ 東宝
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 脚本家の三谷幸喜さんが監督した「ギャラクシー街道」が全国で公開中だ。西暦2265年、広大な宇宙の片隅に浮かぶハンバーガーショップが舞台の“スペース・ロマンチックコメディー”で、女優の綾瀬はるかさんや優香さん、大竹しのぶさん、俳優の小栗旬さん、山本耕史さん、「T.M.Revolution」の西川貴教さんらが個性豊かな宇宙人に扮(ふん)し、ドタバタ劇を繰り広げる。店長役で主演した人気グループ「SMAP」の香取慎吾さんに聞いた。

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 ◇台本を読んでも訳が分からない

  ――三谷さんとのタッグは15年くらいになります。三谷さんとのお仕事はいかがですか。

 本当にうれしく光栄な限りですね。こんなにたくさんお仕事させていただいてますけれど、ファンですから。本当にすごく才能のある方で僕の人生の中に笑顔というか笑いを与えてくれる作品を作っている方です。僕は子供のとき、マンガを読んで声を出して一人で笑っている子供がうらやましかったんですよ。それがなかなかできなくて。面白いんだけど無表情で読んでしまう子だったんです。それが三谷さんと最初にドラマでご一緒したときに、三谷さんの台本を読んで家で一人で声に出して笑っている自分がいて、その変化に衝撃を受けたんです。こんなに楽しことってあるんだって。

 いまだにこんなふうに三谷さんと一緒にやらせていただいて、しかも映画の監督もされるようになって、三谷さんの人生の中でも何本の中の映画の一つにこんなふうに(主役として)ど真ん中に立ってられるというのは、信じられないですね。

 ――今回の脚本を読まれた感想を。

 最初に読んだ時は訳が分からなかったです(笑い)。いつもは読んだだけでバッと見える部分ってあると思うんですけど、宇宙人たちって、イラストもなければ写真もない。台本だけ読んで、ト書きにこういう宇宙人と説明が書いてあっても、それを自分の中で想像するのがやっぱり難しくて。どういう話なんだろう、どういう人達がいるんだろうと思ったら、想像をはるかに超えた格好をしているというかディティールの(登場人物の)皆さんに現場でやっと会えた。

 ◇三谷さんは頭の回転が速い

 ――セットに入る前にはどんな心構えで行きましたか。

 いつもと違っていたのは、最初、もうちょっと明るい青年というか、作り笑顔をしながらもなんとかこの場を繕おうとするような、一生懸命な子なのかなという読み方をしちゃったんですよ。そうしたら、そうじゃなくて、すごく嫌なやつでいてほしいと。皆さんに謝罪している姿も「すいませんでした」と言いながらもまったくそんな気持ちを持っていないような。自分のことだけでいっぱいいっぱいで、先も見えず、途方に暮れながらも、でも夢として始めたハンバーガーショップで、お客さんへの愛情もいまや持てていない、自分さえもどうしていいか分からないでいることにずっと悩んでいるような……。それを言われて現場でびっくりしましたね。

 そういうことなら、全部の言い方が一言ずつ変わっていった。現場でもちょっとでも僕がほかのキャストの人への優しさを持ってせりふを発すると、三谷さんが「今の違います」と。優しくいうようにして、「もうさっさと帰れよ、お前」という気持ちでいってくれとか(笑い)。そうすると優しいせりふなんだけど、その人の目を見ないでいうとか。そこは三谷さんと言い合いになりました。「さすがに三谷さんですね。嫌なやつの気持ち、僕はちょっと分からない。三谷さんの中にあるんですね」といったら、「いやいや、これは香取さんに当て書きというか、香取さんはこういうところを持っていると思って、香取さんの中の本当は普段見せていないけれども嫌なやつな部分でやってくれ」と。「いや、僕にはないです」といいながら(笑い)。

 ――三谷さんとは結構言い合いになったんですか。

 でも、三谷さんは頭の回転が速いんですかね。一つ疑問をぶつけると、最後の答えだけポンと来るので、それまでの会話が全部省かれてしまって。初めての人やあまりご一緒していない人は間の会話がない分、その答えだけをもらってもそこからひもといていかないと。そんな印象がありますね。三谷さんと仕事していると、僕がちょっと質問して答えが来たのを瞬時に読み取るというのがいつものパターンですね。

 ――今回は三谷さんと初めてのキャストが多かったと思いますが、結構戸惑っていた人が多かったんですか。

 三谷さんも今回は初めての人が多いから多めの説明をしている感じはありましたね。僕の方も、いままでの作品でもちょっと分からない人、初めての人がいたりすると、僕の中では分かっていても多めに質問したりします。やっぱり自分が中心(主役)にいたりする作品ですと、自分だけ「はい、分かった」ということではなく、「それってこういうことですよね」っていうのをみんなに共有するように。

 ◇綾瀬はるかが真ん中にいることが重要だった

 ――綾瀬さんと今回、夫婦役ですけれども。

 本当にキュートな可愛らしい女優さんで。不思議な方でしたね。この人が現場にいるだけで華やかになるというか。怒っていたスタッフのおっさんでさえ、綾瀬さんがいると、なんかこう顔がほころんじゃうような。そんな女優さんだと思います。

 ――綾瀬さんがダンスするシーンは動きがキレキレでした。

 すごく一生懸命なんで、彼女が中心、真ん中にいるからこそ、周りがあんなにエロチックなのに温かく見られる。三谷さんの中でも綾瀬さんが真ん中にいてくれることがすごく重要だったんじゃないですかね。

 ――友人の山本耕史さんも出演しています。

 現場で少しからみました。石丸(幹二)さんと一緒に遠くに座っていたりとか現場は一緒だった。日数はそんなになかったんですが。そのときは3月だったので、(山本さんが堀北真希さんと結婚するきっかけとなった)「嵐が丘」って舞台を今度やるんだっていう話をしたぐらいで。

 ◇運命を感じる役が多い

  ――セットに入って、いろんな扮装をしている人が現れたと思うんですけど、撮影している間はどんな雰囲気だったんですか。

 僕は改めて、映画やドラマだけじゃなく、コントとかバラエティーの部分でいろんな格好をやってきたからこそこの映画クリアできてるなと(笑い)。いろんな人が来るので一瞬はみんなと同じようにちょっと驚いて笑っちゃったりするんですけど、自分の生活の中で、(コントなどで)自分もその格好をするし、あんまり違和感はなかったんです。本当に俳優さん一本の人で、急にSFっていわれて、遠藤(憲一)さんのあの格好(ボンデージ)で来られて、真面目な顔されてもお芝居できないと思う。それこそ僕はかぶりものやキャラものをさんざんやっているので、一瞬はおっと思いますけど、格好のことまでいちいち気にならない。

 ――香取さんはいままでいろんな役をされてますけど、素の自分、等身大の自分が出ることってありますか。

 どこか近い部分はありますよね。どんな役でも自分に寄せて作ってくれる作品もあれば、そうじゃなくてもどこか、役の中の人間も、SMAPとしてお仕事している香取慎吾も人間ってそんなに幅はないんじゃないですかね。僕の人生で経験したことはどこかはその役引っかかる部分があったり。この役は僕の中に一切ないということは僕にはない。運命を感じたりもしますね。自分のこんな思いのときにこの役が来たというタイミングは結構多いです。どこか自分の人生と作品がリンクしていくというか。ほかの俳優さんに、どのくらいリンクするのか聞いてみたいくらいです。本当に僕は結構多いから。

 ――「生活感のない香取さんに生活感のある役をやらせてみたかった」という三谷さんが発言されていますが、現場ではもっと生活感を出してとかいわれたんですか。

 そうですね、声のトーンを抑えて抑えて、低めにと三谷さんの作品の中ではいままでで一番いわれましたね。僕が他の役でしているような声の張り方をしていると、周りがこれだけの人達なので、全体がちょっとぼやけちゃうのかな。だから、より静かにナチュラルでいる僕が真ん中にいてほしいと。それによって周りの人達が声を張り上げるのがより引き立つというか。

 三谷さんの作品で僕はそういうのが多いんですよね。大河ドラマ「新選組!」もなんだかんだで近藤勇で真ん中にいるけれど、実直で静かに前を見ながら、その周りでいろんな派手なキャラクターたちがいて、それらを苦労しながらもつなぎとめていくというか。本当は派手な格好でわーっと言っている方が楽だけれど。

 ◇三谷作品には珍しく笑いにストレート

 ――香取さんもこれから40代に差し掛かってきますけれども、10代から仕事をしてきて、40代のこれからを見据えて今、どういう心境ですか。

 SMAPの中で一番下なので、そこから草なぎ(剛さん)、稲垣(吾郎さん)、木村(拓哉さん)がいて、一番上に中居(正広さん)がいて、40代の自分ってこんななのかなというのがなんとなく見られるので。30代はもう僕一人ですから。それこそ、僕らアイドルとしての40代というのは、中居君、木村君とは五つくらい離れているので、2人が今仕事をしているのを見ながら、このくらいな感じは僕もできるんだなと。僕はつねにラッキーですね、一番下なのでみんなを見ることができる。木村君と中居君が僕らの先頭を走っているという感じですね。

 ――さて「ギャラクシー街道」の出来上がった作品をご覧になっていかがですか。

 こんなに笑いにストレートなのは、いままでの三谷さんの作品とちょっと違うなっていうのがあって。もちろん三谷さん流の笑いが連鎖していく部分もたくさんあるんですけど、ストレートっていうのは、小細工を全部省いていて、こんなにストレートなやり方があったんだという。

 あと、ロマンチックコメディーとうたってますけど、僕の中ではセクシャルコメディーというか、エロチックコメディーですね。セクシャルな部分、エロチックな部分って三谷幸喜は持ってないと思っていたんですよ。持ってないから描けないんだっていうくらい、いままでやってこなかったと思うんですよ。でも、がっつり持っていたんですね。三谷さんの頭の中の見ちゃいけない部分を今回の映画では見た感じですね(笑い)。

 ――これから見る人にメッセージを。

 この映画は友達同士で、大人数で見に行ってほしい。感動なし、笑いだけ。素直に今回見て思ったのは感動なんて何もない。ただ笑うだけ(笑い)。こんな映画はきっと今後ないと思いますね。今あるのもいけない。こんな映画作っちゃだめなんですよ。それができたので(笑い)。友達同士、男だけで見るといいかも。女の子同士が一番盛り上がると思うな。女の子が3人くらいで見て、そのあと食事しながら話すとすごく楽しいと思います。本当に笑うために劇場に見に来ていただきたいと思います。

 映画は、TOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 かとり・しんご 1977年1月31日生まれ、神奈川県出身。91年にデビューして以来、人気グループSMAPのメンバーとして歌手、俳優、MCなどさまざまな分野で活躍。おもな映画出演作に「ジュブナイル」(2000年)、「NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE」(04年)、「西遊記」(07年)、「座頭市 THE LAST」(10年)、「こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE〜勝どき橋を封鎖せよ!〜」(11年)、「LOVEまさお君が行く!」(12年)、「人類資金」(13年)など。三谷作品には映画「みんなのいえ」(01年)、「THE有頂天ホテル」(06年)、「ザ・マジックアワー」(カメオ出演、08年)。ドラマは「古畑任三郎 VS SMAP」(99年)、「合い言葉は勇気」(00年)、「HR」(02〜03年)、「新選組!」(04年)。舞台は「TALK LIKE SINGING」(09〜10年)、「burst!〜危険なふたり」(15年)がある。

 (インタビュー・文:細田尚子)