Google社も採用する受講料10万円超の「瞑想研修」を体験してみた | ニコニコニュース

禅寺で坐禅を組み、瞑想の末にカッと目を見開き難しい経営判断を社長が下す――ビジネスと瞑想と聞かされれば、そのようなイメージを抱く人が多いかも知れませんが、今シリコンバレーを中心に空前の瞑想ブームが起きているのはご存じでしょうか?

インテル、アドビ、リンクトイン、パタゴニアなど、多くの企業が研修に瞑想の手法を取り入れています。 元々アメリカでも禅はよく知られており、英語でも"Zen"という言葉は広く認知されています。しかし今アメリカ発で世界中に広がりを見せている瞑想はZenではなくマインドフルネス(mindfulness)と呼ばれているものです。

そのブームの震源地となったのがかのグーグル社。2012年、グーグル社の107番目の社員として知られるチャディー=メン・タン氏は瞑想の叡智を職場に持ち込もうと「サーチ・インサイド・ユアセルフ(Search Inside Yourself 以下SIY)」というプログラムを開発しました。その評判は瞬く間に広がり、グーグルの社内では常に数百人が受講待ち、グーグル以外でもSAP、フォード、リンクトインなどそうそうたる企業でも実施されるようになっています。

そのSIYを東京でグーグル社員以外でも受講することができるというので、体験しに行ってきました。

SIYプログラムを教えることができるのは米国SIYLI(Search Inside Yourself Leadership Institute)が認める組織と講師だけとのことで、日本でその認定を受けているのが一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート。今回のプログラムを主催しているのも同法人なのですが、今回は米国SIYLIのCEOであり、グーグル社のメン・タン氏とともにこのプログラムを開発したマーク・レサ―氏がプログラムの講師を務めるために来日したということで期待は高まります。

会場は東京駅に程近いセミナールーム。 朝の9:30から夕方の5:30まで土日の2日間みっちり行うタフなプログラムで、受講料も10万円以上と決して安いわけでもないにも関わらず、100人入る会場は受講者で満席です。

開講すると簡単な実習の後にさっそく瞑想に入ります。 ファシリテーターのガイドに従いながら椅子に座ったまま5分間の瞑想をするのです。

SIYはリーダーシップ開発用のためのプログラムですが、なぜリーダーシップに瞑想が必要なのでしょうか? その鍵となるのが「エモーショナル・インテリジェンス(EI)」。聞き慣れない言葉ですが、EQという言葉なら聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。EQとは今から20年近く前にベストセラーになった『EQ~こころの知能指数』(1996年:ダニエル・ゴールマン著/講談社刊)で話題になった言葉で、書名にもあるように「こころの知能指数」として認識されていましたが、直訳すると感情面での知性。SIYではイエール大学のサロヴェイ学長とニューハンプシャー大学のメイヤー教授が1990年に提唱した「自分自身と他人の気持ちや情動をモニターし、見分け、その情報を使って自分の思考や行動を導く能力」と定義づけています。さらには自己認識、自己統制、モチベーション、共感力、社会的能力がEIの要素だとも分析しています。この5つの要素が高ければ、確かにビジネスのシーンにおいてもリーダーシップは発揮できそうです。そしてEIを高めるにはマインドフルネスを身につけることがとても重要で、瞑想はそのための有効なツールだというのです。だからこそアメリカの西海岸を中心に、多忙を極めるビジネスリーダーも時間を作っては瞑想に耽っているというのです。

もう少しだけ詳しく説明すると、マインドフルネスとは直訳すれば「注意深さ」ということになります。何に対して注意深くなるのかと言えば、今現在起きていることに対してです。過去のことを思い悩まず、未来のことに気を取られず、今起きていることを五感を使って観察することをマインドフルと呼びます。そしてマインドフルになるトレーニングとして瞑想が効果的であるというのです。

マインドフルネスを実践することにより、ストレスが軽減され集中力が向上し、さらには思いやりも高まると言われていますが、それにしてもSIYプログラムの人気には驚きました。その日の参加者も北は北海道から南はフィリピンまで、文字通り全国から人々が集まってきているのです。

「そもそもメン・タンがこのプログラムを開発したのは、彼自身が生きている間に世界平和を実現したいと思ったところから始まっています。そのためにはリーダーを変えなければいけないと考えたのです。そしてSIY受講者には成功者になってもらうだけでなく、幸せになってもらわなければいけないと考えた結果EIをプログラムの骨子に据えたのでした」

SIYLIのマーク・レサ―CEOはインタビューに答えてSIYができた経緯を話してくれました。確かにマインドフルネスによって思いやりのあるリーダーが増えれば世界平和に一歩近づくかも知れません。

しかしEIやEQという概念自体がはやったのはもう20年近くも前なのに、なぜ今頃になってまたブームとなっているのでしょうか?

「最近『EQ~こころの知能指数』の著者のダニエルと話したのですが、彼は一言『当時は機が熟していなかった』と話していました」

ただ60年代70年代には東洋思想の影響を強く受けたニューエイジ思想も流行りましたし、禅も広く知れ渡りました。それでも時期尚早だったのでしょうか?

「現在これだけマインドフルネスが受け入れられているのは複合的な理由からだと思います。一つには臨床実験により瞑想の効能を科学的に解明してベストセラーになった『マインドフルネスストレス軽減法』(北大路書房2007年)を記したジョン=カバット・ジン博士の影響です。それから現在アメリカではヨガ人口が2000万人とも3000万人とも言われているのですが、ヨガが普及したことによって瞑想に対する偏見も減ったと思います。さらに地球の温暖化や世界中の様々な紛争、核の脅威など世界が混沌としている中、何とかしなければいけないという差し迫った思いが一段と後押ししているのかも知れません」

なるほど。世界には確実にマインドフルネスを後押しする流れがあるのですね。


では実際にこのプログラムを受講した参加者はどういった理由から参加しているのでしょうか?

「昨年、最悪の年を送ったので、今年はいい年にしようとフランスでマインドフルネスのワークショップを受けたのがきっかけでハマりました」(TV関係者)

「仕事で企業内のリーダーを指導・育成することが多いので、その一助になればと思い受講しました」(経営コンサルタント)

「自分の成長が停滞していたように感じたので、自社内では得られないような研修や中長期的な成長が見込める内容を求めて参加しました。また参加費から考えて成長マインドの高い方が集まるのではないかと思い、ネットワーキングも期待していました」(現役官僚)

「一度タイでマインドフルネスのカンファレンスに参加し、日本で開催されることがあるのなら是非参加したいと思っていたところ開催を知ったので、フィリピンからSIYのためだけに帰国しました」(マニラ在住日本人)

その他、参加者アンケートの結果を見ると、皆さん「マインドフルネス」か「リーダーシップ」のいずれかについてより深く知りたく参加している人が多いようです。そして今年の3月に開催されたセミナーでは参加者の満足度は5点満点で4.38点と高得点でした。

アメリカではブームから一つのムーブメントとして定着しつつある


マインドフルネス。日本でも来年にかけて益々注目が集まりそうな予感です。
(鶴賀太郎)