「魔都紅色幽撃隊」は「DAYBREAK SPECIAL GIGS」でどう変わったか。今井監督が決定版で再び世に問う,ゴーストハント青春群像劇 | ニコニコニュース

 アークシステムワークスから本日(2015年11月26日)発売となった,學園ジュヴナイル伝奇アドベンチャーRPG「魔都紅色幽撃隊 DAYBREAK SPECIAL GIGS」(PS4 / PS3 / PS Vita)のプレイレポートをお届けする。

 本作は「東京魔人學園」シリーズや「九龍妖魔學園紀」を手がけた“學園ジュヴナイル伝奇”のパイオニア・今井秋芳監督による最新作であり,2014年に発売された「魔都紅色幽撃隊」に,さまざまな新要素を加えてブラッシュアップした,言わば「決定版」にあたるタイトルだ。


 4Gamerでは,前作についても何度か特集をお届けしているので,それを読んでプレイし,この決定版でいったいどんな要素が追加されたのか,筆者同様に気になっている人も多いハズ。また,興味はあったのだけど,前作はタイミングが合わなくてプレイできなかったという人にとっては,いきなり本作を手にとってもいいのかどうか,いささか不安を感じている人がいてもおかしくはないだろう。

 というわけで,本稿ではそのどちらの疑問にも答えるべく,本作の特徴をおさらいすると共に,新たに加わったさまざまな要素も紹介していこう。なお新要素の部分は,コラムの形式で差し挟むようにしているので,そこだけ知りたいという人は,うまくつまみ読みをしていただければ幸いだ。


 それではさっそく,めくるめく學園ジュヴナイル伝奇の扉を叩くとしよう。

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リンク:「魔都紅色幽撃隊 DAYBREAK SPECIAL GIGS」公式サイト

■十人十色の青春を演出する“五感入力システム”

 本作の舞台となっているのは現代の東京。新宿の暮綯學園高等学校に転校してきた主人公は,オカルト雑誌を編集しながら裏ではゴーストハントを請け負っている「夕隙社」の社長,伏頼千鶴にその才能を見込まれ,《霊》との戦いへと身を投じていく。クラスメイトである支我正宗,深舟さゆり,そして超自然的な事件を通して出会った多くの仲間達との絆を育んでいく青春の日々。それこそが“學園ジュヴナイル伝奇”の真骨頂である。「東京魔人學園剣風帖」で一世を風靡した今井監督の最新作ということもあって,昔からのファンならばニヤリとできるような仕掛けが散りばめられつつ,初心者にも親しみやすい物語が展開される。

 本作最大の特徴といえるのが,プレイヤー自身の喜怒哀楽をダイレクトに表現する「五感入力システム」だ。アドベンチャーゲームにおける選択肢の代りとなるこのシステムでは,それぞれ5パターンある「感情」と「感覚」を組み合わせに,何も選ばない「無視」を含めた26パターンのリアクションによって物語が進んでいく。例えば,相手に対して友好的な反応を示したいのであれば「友」+「触」で握手を求めたり,「愛」+「触」ならもっと情熱的にハグしたり,などである。

 ただ,五感入力によって主人公がどんな行動をとるのかを事前に知ることはできないので,組み合わせによっては「床に撒かれた塩を一心不乱に舐めまくる」「初対面の老人を撫で回す」といったように,奇妙奇天烈な行動に出てしまうことも。……明らかに常軌を逸しているが,それもまた,本作の面白さの一つと言っていい。

 五感入力の結果がキャラクターの好感度に関わってくる場面も多々ある。良かれと思って選択した行動が不興を買ったり,逆に変態的な行動で好意的な反応が返ってくることもあるので,人間関係というのは難しい。新たな仲間が登場するエピソードでは,十分な好感度を確保できないと夕隙社の一員として迎えるフラグが立たないので気を付けたい。


 とはいえ,どんな行動をとろうとも,基本的に物語の進行には支障は出ないので,少なくとも1周目のプレイではプレイヤー自身の感情と欲望の赴くままに五感入力してみるのがオススメだ。なぜなら,今井秋芳作品では主人公とはプレイヤーのことなのだから。誰彼かまわず接吻を求めたり,あるいはすべての事柄に対してシカトを決め込んだり,そんな青春があってもいいのである。

■■「DAYBREAK SPECIAL GIGS」では

 前作では全13話構成のメインシナリオが用意されていたが,本作ではその本編に大幅な加筆修正が行われている。さらに山河,楓,曳目,白峰,音江&八汐といったキャラクターを中心とした全5話の追加シナリオ「DAYBREAK」を収録。それぞれのキャラクターのファンにとっては,見逃せないものになっている。


 とくに,ストーリー後半で仲間に加わる音江と八汐は,どうしても影が薄くなりがちだったので,主人公との絡みが増えたことは,純粋に喜ばしい。余計な先入観を持たずにプレイしてもらう方が,より追加シナリオを楽しめると思うので,ここでは内容について詳しく書くかないでおくが,どうしても気になるという人は公式サイトの「ストーリー」をチェックしてみるといい。各話のあらすじが掲載されているので,大体の雰囲気は掴めるハズだ。

 さらにメインキャラ以外にも,事件に関わる登場人物は増えている。中でもM+M機関の異端審問官であるシャガールは,バトルパートにまで関わってくるので印象深い。しかも「M+M機関」といえば,今井秋芳作品のファンならばご存知のように過去のシリーズ作品にも登場した組織でもある。こういった世界観のつながりを感じさせる部分も,本作の魅力の一つ。ほかにも「東京魔人學園」シリーズと関わりのあるキャラクターが事件に関わってくるシーンがあるので,シリーズファンは思う存分ニヤニヤできること間違いなしだ。

■夕隙社編集部で準備を整えよう

 アドベンチャーパートとバトルパートを繰り返しながら進んで行く本作だが,その合間に「インターバル」が存在する。ここのパートの主な目的は,仲間との交流を通して,バトルに入る準備を整えることにある。具体的には,夕隙社編集部の仲間達と雑談や訓練をしたり,あるいはコンビニに出掛けて備品等の購入したり,新兵器の開発を行ったりといったことだ。

 とくにパートナーを一人選んで行う訓練は重要で,伸ばせる技能はキャラクターによって違ってくる。訓練後にはさまざまなアイテムを獲得できるほか,そのキャラクターが覚えている特技を習得できるようになる(※戦闘に参加しないキャラは除く)ので,疎かにはできない。


 なぜなら,本作の主人公はすべての武器を使用できる一方で,その武器に対応する特技を自身で編み出すことができないのだ。必要な特技は訓練で仲間から習得するしかないので,自分が使用したい武器を決めたらその武器を得意とするキャラクターのレベルを優先して上げるようにするといいだろう。

 ちなみに,訓練や特技習得に消費する「TP」は,除霊の報酬として獲得できるので,編集部のPCから除霊依頼を受けてガンガンこなしていくべし。経験値を稼げてレベルも上がっていくので,メインストーリーのバトルでも苦労しなくなるはずだ。

 また,編集部でプレイできるミニゲームに「HYPER NATURAL」というボードゲームがあり,これでもTPを稼ぐことができるのだが……これがただのミニゲームと侮れない面白さなのだ。タイトルとゴーストハントを題材とした内容からして,明らかに海外ドラマ「スーパーナチュラル」へのオマージュでもあり,同作のファンには嬉しい小ネタである。シンプルながらも奥深いシステムで,ハマると本編そっちのけで遊んでしまいがちだ。要注意である。

■勝利の鍵はシンプル&ディープな“行動予測”

 バトルパートでは,特徴的な「行動予測システム」が前作よりもブラッシュアップされ,遊びやすく進化している。


 そもそも本作のバトルシステムは極めて個性的で,ビジュアルだけ見ればかなり“地味”に見えるかもしれない。しかし,実際に遊んでみれば「ゲーム」としての完成度が極めて高いことを実感できるはず。前述した「HYPER NATURAL」と同じように,シンプル&ディープな仕上がりになっているのだが,それもそのはず。本作は,いわゆる「ボードゲーム」から着想を得ている部分が大きいのだ(関連記事)。

 基本的にはよくあるシミュレーションRPGのように,升目状のフィールド上で味方キャラクターに移動や攻撃といった指示を出し,《霊》の撃滅を目指すわけだが,ここでミソとなるのが「敵も味方も同時に行動する」という点だ。

 つまり移動してみるまで,攻撃してみるまで敵がどこへ現れるのか,誰を狙ってくるのか分からないのである。だからこそ,事前にフィールド上へ罠を張り,《霊》の行動を先読みして移動と攻撃を行う必要がある。いつか当たるだろうと闇雲に攻撃しまくればいいと思うかもしれないが,除霊には制限時間が設けられているうえ,予想を外して何もいない場所を攻撃した場合,家具や装飾品などを破壊してしまう。こうなると戦闘終了後に弁償しなければならず,そうでなくても罠などの使用には経費がかかるので,考えなしに行動していては,クリアできたとしても大赤字確定だ。世知辛いことだが,夕隙社はこれでも会社組織であるため,《霊》の駆除に報酬以上のコストをかけるわけにはいかない。ぶっちゃけ,慣れてくれば罠を一切使用せずとも余裕で《霊》を斃せるようになるので,報酬をまるっといただきたい時などは,徹底的に節約して挑んでみるのも良いだろう。

 なにせあまり一般的ではないシステムなので,最初のうちは戸惑うかもしれないが,ひとたび理解できてしまえば間違いなく「ハマる」と断言できるこのバトルパート。《霊》がこちらの思惑どおりに動いて罠にハマった瞬間や,高威力の特技が決まった瞬間には,シビれるような快感が脳内に広がり,その感覚が病み付きになる。画面が地味だからと侮るなかれ,何度遊んでも“作業”にならない面白さは本作ならではだ。

■■「DAYBREAK SPECIAL GIGS」では

 バトルパートにおける前作からの変更点では,まず行動値である「AP」が残っている限り,続けて行動できるようになったことが挙げられる。1ターンに複数回の攻撃や強化が実行可能になり,加えて側面や背面からの攻撃にボーナスが付加されるようになった。ただし,その条件は敵も同じ。プレイヤーには,これまで以上に慎重な戦略的思考が求められるというわけだ。

 そして細かいところではあるものの,地味に嬉しいのが戦闘前のブリーフィングにおいて,「おすすめセット」を選ぶと自動的に罠が設置されるようになった点。自分で色々考えながら罠を設置するのも本作における楽しみの一つだが,おすすめセットの配置でも十分にクリアは可能。そこが面倒だったという人には,なかなか便利な機能と言えるだろう。

■新たな學園ジュヴナイル伝奇シリーズの幕開けとなるか。正統続編にも期待大

 2014年に発売された「魔都紅色幽撃隊」は,今井秋芳作品らしい雰囲気や個性的なシステムが一定の評価を得たものの,ファンの間でボリューム不足だという不満も目立ったタイトルだった。まさしく筆者もいちファンとして同じような感想を抱いたし,だからこそボリュームアップした拡張版か続編が発売されないものかと待ち望んでいたのだが……その希望は,「魔都紅色幽撃隊 DAYBREAK SPECIAL GIGS」で見事に叶えられたわけだ。

 加筆修正と「DAYBREAK」シナリオの追加によって,ボリューム面での弱点を克服した本作。正直に言えば,面白いからこそ筆者的にはこれでもまだ「遊び足りない」感があるのだが,それはさすがに欲張りすぎだろうか。冷静に考えればキャラクターの個別エンディングを目当てに周回プレイするので,これくらいのボリュームでちょうどいいのかもしれない。バトルパートもシステムがブラッシュアップされ,テンポが向上しているので,繰り返し遊ぶのは苦にならないはず。前作を遊んだという人も,ぜひ全キャラクターの攻略を目指してみてほしい。

 というわけで,ますます続編の登場が現実的になってきたように思える「魔都紅色幽撃隊」。「東京魔人學園」に続く新たな人気シリーズとなっていくのか,今後の展開も非常に楽しみだ。今井秋芳監督のファンはもちろんのこと,“學園ジュヴナイル伝奇”という響きに魅惑的なものを感じてしまう人にこそ遊んでほしいタイトルである。

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リンク:「魔都紅色幽撃隊 DAYBREAK SPECIAL GIGS」公式サイト

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関連タイトル:
・PS4 魔都紅色幽撃隊 DAYBREAK SPECIAL GIGS
・PS3 魔都紅色幽撃隊 DAYBREAK SPECIAL GIGS
・PS Vita 魔都紅色幽撃隊 DAYBREAK SPECIAL GIGS

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