“戦車”題材のアニメ映画『ガルパン』好調 ミリタリーと萌えの親和性 | ニコニコニュース

『ガールズ&パンツァー 劇場版』(公開中)(C)GIRLS und PANZER Film Projekt
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 “ガルパン”こと『ガールズ&パンツァー』というアニメをご存知だろうか? 11月21日に公開された劇場アニメ『ガールズ&パンツァー 劇場版』が77スクリーンという規模の公開ながら初週の土日で約8万4800人を動員。1億2800万円を超える興行収入を叩き出し、公開館が追加された2週目には早々に2億円を突破しているのだ。ガールズ=女の子、パンツァー=戦車。そう、この作品は“美少女”と“戦車道”と呼ばれる戦車戦が題材になっている。『艦隊これくしょん -艦これ-』など、ミリタリーの要素がある美少女アニメのヒット作は多いが、「萌え×ミリタリー」の親和性が高いのは何故なのか?

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■『艦これ』など美少女アニメでは定番となっている“軍隊もの”

 『ガルパン』は2012年10月よりTVアニメが放送されるとアニメファンの間で大ヒット。PS VITAゲーム、OVAなどのメディアミックスを経て、劇場版が公開されるに至った。同作の世界では、“戦車道”がまるで華道や茶道のように「乙女の嗜み」として扱われ、“○○派”なんて流派も存在する。全国高校生大会も開かれており、「西住流戦車道」の家元に育った主人公の西住みほは、姉であり流派筆頭のまほが隊長を務める名門・黒森峰女学園で1年生から副隊長に抜擢されながら、勝利至上主義の方針に疑問を持ち大洗女子学園へと転校。TVシリーズの物語はここから始まり、新たな仲間達とゼロから自分たちの戦車道を見出していくまでの過程が描かれた。

 さて、アニメ界においてこうした「萌え×ミリタリー」という座組みはある種の定番だ。もちろん、美少女とミリタリー要素が結びつけばどんな作品もヒットするとは限らない。やはり基本であるストーリーとキャラクター、そして演出が高度に絡み合ってこその良作なのだが、例えばここ1、2年を振り返っても、第二次世界大戦時の大日本帝国海軍の軍艦を擬人化した“艦娘(かんむす)”が躍動する『艦隊これくしょん -艦これ-』と、同じく美少女キャラクターが第二次世界大戦時の軍艦の“メンタルモデル”となって人間と対立する『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』がヒットしている。少し遡れば、やはり大戦時の戦闘機をモデルにした“ストライカーユニット”を装着し、半人半機のスタイルで魔女が空を翔ける『ストライクウィッチーズ』が話題を呼んだ。

 『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』『超時空要塞マクロス』のような1970年代から綿々と続く“SF軍モノ”も含めれば、アニメ作品には陸・海・空・宇宙軍がそろい踏みしていることになる。この業界がいかにミリタリーと密接な関係にあるか、たったこれだけの説明でも理解してもらえるはずだ。ミリタリーを題材としたアニメ作品は、SFやファンタジー、学園モノなど様々な要素と結びつき、多様性溢れるジャンルとしてアニメ界に定着している。

■美少女アニメにハマるミリタリーファン “オタク気質”の共通点

 そこでこの手の作品のヒットの共通点を探ってみると、あることに気がつく。注目作であればあるほど、ミリタリー要素には徹底したリアリズムが貫かれているのだ。『艦これ』に関しては、わかりやすくキャラクター化された美少女の設定や台詞などに史実が細かく反映されていたことや、元のゲームの軍事ゲームとしての戦略性にミリタリーファンが目をつけ、ヒットにつながった。ただ、実在の兵器を美少女に擬人化した作品ほど、ミリタリー要素の扱われ方にはより厳しい目が向けられがちだ。例えば『艦これ』や『アルペジオ』のように大戦中の戦艦=キャラクターが登場すれば、その扱われ方や戦績が史実と照らし合わされ、生還するにせよ撃沈されるにせよ、ファンは“歴史のif”としての収まりが良いかを議論する。『ガルパン』であれば、各戦車の走行音や発砲音といった効果音にまで注目するコアファンも存在するのだ。

 この手の作品には、アニメオタクだけでなく、ミリタリーオタクへの訴求力も求められており、どちらかの要素に妥協点が多ければ多いほど、ヒットに結びつきにくい。逆に両者のハイブリッドに成功すれば、大きな反響を生むというわけだ。ともにひとつの事象を徹底的に追求するという“オタク気質”が高く、ある程度経済的にも余裕が出てきた年代のファンが多いと思われるため、「萌え」「ミリタリー」を入り口に互いのジャンルに好影響を与えていると考えられる。事実、『艦これ』のヒット以降、ミリタリー関連の雑誌が品薄になったり、グッズの売上が伸びたりいるという。ただ、オタク市場規模に関しては民間のシンクタンクが定期的に調査結果を発表しているが、そのアニメオタクとミリタリーオタクの交わりが形成しているであろう市場については、今もってあやふやなままだ。どうも日本のマーケティング業界は、“オタク”と“愛好家”に明確な線引きをしているのではないか。せっかく目に見えるヒットが生まれても、その作品の市場分析を誰も語れないことは、少々もったいない話のように思える。

 毎年8月に東富士演習場で行われる陸上自衛隊の実弾射撃訓練「富士総合火力演習」のチケット応募には、『ガルパン』放送後の2013年、前年比150%の約11万5000人が殺到した。2015年の応募総数はなんと約15万人だ。もちろん、東富士演習場は同作品が舞台となった“聖地”であり、現地には『ガルパン』Tシャツ姿の若者が目立ち、周辺のテントにもキャラクターの上りが立っていた。応募数の増加すべてがアニメの影響と断ずることはできないが、ならばどの程度の実効果があったのだろうか。『ガールズ&パンツァー 劇場版』のヒットにより、「萌え×ミリタリー」が話題性だけで終わるのではなく、ビジネスの可能性を秘めた現象として語られることに期待したい。

(文/西原史顕)