「原発ってダメ」ではなく、「ソーラーだけでここまでやれるんだぜ」っていう勝ちのイメージを作りたかった【佐藤タイジ×朴順梨トークショー】 | ニコニコニュース

 9月26-27日の2日間にわたって岐阜県・中津川公園で開催された〈中津川 THE SOLAR BUDOKAN 2015〉。今年で3回目を数えるこのイベント最大の特徴といえば、運営に関わる電力のすべてを、太陽光発電でまかなうこと! 発起人は、ロックバンド・シアターブルックの佐藤タイジ氏。3.11を受け、自然エネルギーの可能性を模索しはじめた氏の呼びかけによって、ミュージシャンが集い、地元と一丸となって同イベントを成功させてきたが、今年もCharや斉藤和義、EGO-WRAPPIN、OKAMOTO’Sをはじめとする全33組がステージを盛り上げた。

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 2012年、東京・日本武道館で開かれた〈THE SOLAR BUDOKAN〉を皮切りにした一連の試みを、新しいカルチャーとして追った『太陽のひと:ソーラーエネルギーで音楽を鳴らせ!』(ころから)の著者・朴順梨氏と佐藤タイジ氏が今年の同イベントをふり返るスピンオフ的トークショーが、11月12日に開催された。トークはエネルギー問題にとどまらず、縦横無尽に展開する。

佐藤タイジさん(以下、佐) シアターブルックは実は一度も武道館でワンマンライブをしたことがないんですよ。ロックミュージシャンとしてあそこで演らずに死ねるか、ってことでそれに向けてスタッフ一同がんばっていたときに、311がドーン! と起きて一時期はそれどころじゃなくなりました。日本全国が自粛ムードに包まれるなか、俺や仲間のミュージシャンはアコースティックなら電気を使わないってことでライブ活動を続けたんだけど、何もこれで俺らの夢を全部取り下げることもないだろうと考えはじめて、再び武道館を目指すことに。でも、従来やっていたライブをそのまま踏襲するのは違う気がして、だったらソーラー電気でやればいいじゃん! と思いついたんですよね

朴順梨さん(以下、朴) それを実行するのがいかに大変だったか、ということは当時の関係者への取材をもとに本書にも詳しく書いたわけですが、『そんなのありえない』っていう感じのリアクションがすごく多かったんですよね

佐 それまでも300人規模のパーティをソーラーで、っていうのはありましたけど、俺がやるっていい出したのは日本武道館ですからね。先輩たちから『お前はアホか』っていわれましたよ。でも俺は、原発反対って言葉でいうだけではなく、何かアクションを起こして事実として見せなきゃという信念があったので、めげませんでした

朴 場所を中津川に移して野外フェスとなってから1万2000人、1万5000人、そして今年が1万9000人とどんどんオーディエンスも増えていますが、ソーラーエネルギーで音楽を鳴らすというコンセプトは一貫しています。今年は前日が悪天候で心配しましたが、当日は快晴! 約560枚のソーラーパネルが大活躍でしたね。電力、足りました?

佐 もちろん足りましたよ。2日前からパネルを設営して、そこで発電したものを充電池に貯めておき、当日のアンプや照明の電源にしました。フードコートの電源まではまだこれでは賄えなかったので、来年への課題としたいです

朴 エネルギーを考える、といっても反原発や脱原発っていう反対活動は、それ自体に疲弊し、離れていく人も多いですよね。でもこのイベントは、気持ちのいい場所で好きなミュージシャンのステージを観て、『いいよね』『楽しいよね』と感じるところから、エネルギーを考えることにつながっていく。そうしたポジティブなものは広がりやすいのではないかと、私はこのイベントに参加して肌身で感じました

佐 ただ『反対ー!』と声を上げても、そこから先に行きにくいんですよ。俺は『原発ってダメなんだぜ』ではなく、『ソーラーだけでここまでやれるんだぜ』っていう勝ちのイメージを作りたかったんです。太陽で作った電力だけで大規模ライブイベントを成功させるって、動かしがたい実証例じゃないですか

朴 だから佐藤さんは、原発推進派にこそこのイベントに来てほしいと思っているんですよね?

佐 いまの日本って、TPPにしても安保にしても辺野古にしても、賛成・反対がバキッと分かれて拮抗することがものすごく多い。でも辺野古を例にしていうと、賛成派も反対派も自分が住んでいる地域、引いては日本がよくなってほしいという動機は同じなんですよ。だから賛成派と反対派がともに将来的に共有できるポイント、何年後かにはお互い譲り合って妥協できるポイント、っていうのが必ずどこかにある。それを探していくことが大事です。俺らのソーラー武道館は、原発推進派と反対派が将来合意できるポイントを、ひとつ形にして見せていると思ってやっています

朴 原発反対運動ではなく、ソーラー賛成運動なんですよね。YESの力で変えていこう、という強いコンセプトを感じます。いま各地で原発再稼働への準備が進められていて、なかにはもう稼働してしまったものもありますが、それについてはどう思われます?

佐 まずは再稼働した川内原発のある鹿児島、あそこでもソーラー武道館のライブをやらなきゃいけないですよね。再稼働がおかしいと思っている人たちも、具体的に何をすればいいかわからないまま時間だけが過ぎていってうやむやに……となりがちですが、そういう人たちにこのライブイベントが示すものを見てもらい、希望にしてほしいと考えています。地元出身のミュージシャンにも参加してほしいですね。その土地の人に影響力がある人がどういう行動をするかというのは、みんな注目していますし、そこに民意が出ることもありますから

朴 ミュージシャンではないですが、沖縄の翁長知事がまさにそうですね。地元の人間がこれだけ県内移設に反対している、それが民意なんだと明確に打ち出してくれました

佐 俺は政府が沖縄に対してやっていることって、イジメと同じ種類のものだと見ています。国でいちばんの権限を持っている人が思いっきり弱いものイジメしているのを、子どもたちもニュースなどをとおして日々見せられているわけです。教育って大事ですよ。大人が子どもに対してどれだけいいことを授けられるかにこの国の未来が懸かっているのに、いまの政府がやっていることは子どもの教育によくないことばかり

朴 国がやっているんだから僕たちだって……となりますよね。国会中継でも女性議員が発言すると、総理自ら率先してニヤニヤしながらヤジを飛ばす。こういうのを見て育つ子どもたちがいるってことを考えたことがあるのか、と頭を抱えてしまいます

佐 だから俺らみたいな人間が動かなければと考えて、今年はこのライブイベントの前日に、地元の小学校でワークショップをしたんですよ。一緒にソーラーパネルを組み立てて、パーカッションで演奏する。ソーラー武道館のために作った『もう一度世界を変えるのさ』という曲があって、これは太陽光発電による電力だけでレコーディングしたものです。当日はそれを練習してみんなで合唱する予定……だったんだけど、子どもたちが事前に練習して、唄いながら俺らのことを迎えてくれたんですよ。これはうれしかった! 音楽って、イコール平和で自由なんですよね。みんなで一緒に歌を唄うって、ほんとうに大事。そういうことをしている自由で面白い大人がいるんだぞってことを証明していかないと、この国は危険だと思います。だから来年からはワークショップをもっともっと増やしていきたい

朴 エネルギー問題から政治、教育にまで話が発展してしまって小難しい話だと思われるかもしれませんが、〈中津川 THE SOLAR BUDOKAN〉はライブイベントとして、シンプルに楽しいというのが最大のポイントです。好きなミュージシャンが出ているから、というのももちろんですが、オーディエンスが心からいい顔をしているし、子どものための遊具施設も多くて家族連れの参加者がとても多い。来年は、ぜひ遊びにきてください

 佐藤タイジ氏がアツい想いで種を蒔き、毎年花を咲かせるようになったライブイベントの様子は同書に詳しいが、その活動はとどまることなくすでに来年に目を向けている。さらに今年、メジャーデビュー20周年を迎えたシアターブルックはアルバム『LOVE CHANGES THE WORLD』(子どもたちに披露した「もう一度世界を変えるのさ」も収録)を引っさげて、現在ツアーの真っ最中。2016年3月の札幌まで続くツアーの詳細は、公式HPを参考にされたい。

■シアターブルック20th Anniversary 特設サイト


http://20th.theatrebrook.com/

取材・文=三浦ゆえ