「音楽はまたやりたいと思っていたんです」『ハルチカ』橋本昌和監督インタビュー<後編>【16年1月新作・監督インタビュー】 | ニコニコニュース

(C) 2016 初野晴/KADOKAWA/ハルチカ製作委員会
おたぽる

 2016年1月に放送を開始する新作アニメ作品の中から、選りすぐりの注目作の見どころを、クリエーターへのロングインタビューとともにご紹介!

初野晴による推理小説を原作とするアニメ『ハルチカ〜ハルタとチカは青春する〜』(以下、『ハルチカ』)のキャラクターたちについて『TARI TARI』でも知られる橋本昌和監督に主に語っていただいたが、後編では注目の楽器演奏シーン、音楽などについて話してもらった。

■名前がなかった、あの子たちにも注目!?
―― シナリオや絵コンテを拝見すると、チカの一人称である原作では少なかった、部員同士の掛け合いなど、日常シーンが増えているなと感じたのですが。
橋本 そうですね、強化しています。事件が発生して解決までを描いて、キャラクターたちの物語があって……と、短編である原作では難しい部分だったと思うので、ちょっとしたプラスアルファ、日常の間合いや掛け合いは、余裕がある限り、できるだけ入れていきたいと思っています。尺は厳しいので、なかなか難しいんですけど(笑)、キャラクター性につながってくる部分ですし、原作小説の中では会話していないキャラ同士の会話によって「ああ、部内の雰囲気はこういう感じなんだな」と見えてくると思いますから。吹奏楽部は当初5人しかいなかったという設定ですよね。チカちゃん、ハルタ、片桐部長の3人を除く残り2人にも、デザインを起こして、朝比奈香恵、朝比奈紗恵と名前をつけました。最初からいた大事な子たちですから、ちゃんと拾って、しっかり見せていこうと思っています。双子の姉妹にしたんですが、ちょっと不思議な雰囲気も出ていて。片桐を含めて3人だけの上級生です。彼ら彼女らに、ちょっと素敵なシーンが作れればいいなと思います。
―― 尺についてのお話が出ましたが、原作はミステリです。シナリオには、ご苦労があったんだろうなと思うのですが。
橋本 謎を解いていくためには、最低限残さなくてはいけない部分、これはやらなきゃというところと、日常感を出すために必要な部分、両方を収めなくてはいけない。『ハルチカ』は吹奏楽で青春でミステリなので(笑)。謎を解くだけのお話ではなく、事件が解決した後の吹奏楽部の行方や生徒たちの気持ちの変化もありますから。吹奏楽や青春を描きすぎると、謎解き部分が薄くなってしまうし、謎解き部分を厚くやりすぎてしまうと、今度は青春の部分が手薄になってしまう。実際、バランスは難しいです……。
―― 説明セリフも、なかなかはしょれないですものね。
橋本 そこをどう見せていこうかと、試行錯誤しています。いつもコンテをちょっと長めに作って、編集段階でいろいろと考えて試しながら、ここはこの流れは少し切ってもいいかなと、細かく話の流れを詰めていくみたいなやり方をやらせてもらっているので、いつも編集時間が長めで大変なんです(笑)。
―― やべ、ここ切っちゃうと、推理不可能だ! みたいな。
橋本 逆にここを切っちゃうと気持ちが伝わらないだろう、残したい! みたいな(笑)。いつも時間をかけて、丁寧にやらせてもらっています。

■アニメならではの構成と時間の経過
―― シリーズ構成は吉田玲子さんですが、吉田さんとは、どんなお話をされたんですか?
橋本 基本的には原作を大事にしましょうと。アニメとして必要な変更をしつつ、原作の雰囲気をどうすれば出せるかというところを重点的に話し合っています。どちらかというと、2人で一緒に原作の研究をしている感じですかね。
―― 初野先生によると、原作通りの順番で物語が進行していくわけではないとのことですが。
橋本 そうですね、そこはアニメから入ってくるファンのために、わかりやすく、とっつきやすくするために、組み合わせを変えさせてもらいました。キャラクターの登場順であるとか、原作小説の中で触れることができないエピソードもありますから。限られた話数の中で、アニメなりに整合性をうまく取るために、アニメでできる範囲ではどうすべきか、というところを吉田さんに整理していただきました。
―― 原作ではシリーズ中に、結構時間が経過しています。アニメでも季節が巡っていくという部分を描かれるのには、ご苦労があったのではないですか?
橋本 時間の経過はあります。原作が一話完結なので、お話ごとに季節が飛ぶことも多くて。
アニメの流れの中で原作とは季節を変更したお話もありますが、基本的にはアニメもお話ごとに季節を飛ばしながら進んでいきます。なので、できるだけお話ごとに季節感のある絵を入れるように工夫しています。
―― ちなみに、初野先生も作品の映像化は今作が初めてですが、先生とはどんなお話をされたんですか?
橋本 先生は「好きにしてください、楽しみにしています」みたいにおっしゃってくださっていて(笑)。「小説をそのままやるよりも、アニメとしての完成度を追求してください、そのために必要なことであれば変更しても構いません」と。ですから、順番を入れ替えていることに関しても、「大丈夫です」と。それだけ信頼して任せていただいているので、できるだけ原作を生かしたいと思っています。

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作中の演奏はリアル高校生が奏でた音源を使用
■また音楽ものをやりたいという気持ちはありました
―― アニメ化に際して初野先生は、「文章では表現できなかったことを、アニメに託したい」とコメントされていました。それはきっとハルタとチカの表情であったり、楽器演奏シーンや音楽なんだろうと思います。
橋本 そうですね、はい。
―― さらに、アニメファン的には橋本監督ということで「あ、『TARI TARI』の人だ!」と、音楽に期待してしまう部分がかなりあると思いますが。
橋本 (笑)。僕自身「音楽をまたやりたいな」というのはありましたし、演奏シーンはぜひ見せていきたいです。加えて、先生が「“吹奏楽部”要素をあまり入れられなかったな」ということをおっしゃっていたので、そこはできるだけ盛り込んでいきたいですね。今回は音楽を浜口(史郎)さんにお願いできました。非常に信頼できるし、いろいろ相談しやすい方なので、音楽的な仕掛けもいろいろ考えています。吹奏楽部員の練習中のちょっとした音を拾ったりなど、効果さんも巻き込んで、何度も収録をし直して調整しています。
―― 高校生の“吹奏楽部”らしさを出すための演出ですね。
橋本 そうですね。さらに作中の演奏は、実際に高校の吹奏楽部の方たちに演奏してもらったものを収録しているんですよ。“吹奏楽部”らしさが出ていると思いますし、何回かに分けて収録していると、どんどんうまくなっていくのがわかるし、聴いているこっちがOKと思っても、「もう一回やらせてください!」とお願いされたり、現役の吹奏楽部員たちはすごく熱いんです。コンクールにも何度か取材に行きましたが、ミスをしちゃって演奏後に泣いている生徒さんがいたりして……そういった熱い思いは、作品にフィードバックさせてもらっています。演奏シーンを描いていても、「これでは熱さが足りないよな」と盛り上がりや熱を加えたりといったことがちょくちょくあります。
―― そうなるとやはり気になるのが、楽器は描くのが大変……。
橋本 (間髪入れず)いや、大変です(笑)。楽器ってとても細かいメカなんだなぁと実感する毎日です。本当、楽器を持って振り向かせるだけで、ああ、大変だなと……。ただ、今回は楽器作画監督に杉光(登)さんに入っていただきました。杉光さんは劇場版の『レイトン教授と永遠の歌姫』(2009年)の時も総作画監督でお世話になったんですが、すごく信頼できる方なので、そこは安心しています。
―― 楽器は手描きですか、3Dですか?
橋本 両方ですね、ケースバイケースで使い分けています。あと、吹奏楽経験者って意外と身近に多いんですよ。作画をはじめ、各セクションに吹奏楽経験者がいる。「『ハルチカ』、待っていたんですよ」とかよく言われるので、いろいろと頼もしいし、その分、嘘がつけないなとも思います。

■大事にしたい“日常感”、多様なキャラと風景にも注目
―― 楽器以外で、「ここ、大変だったな」というところはありますか?
橋本 ダントツで楽器が大変なんですけど(笑)、それ以外だとメンバーが多いところでしょうか。吹奏楽部としては小規模といっても、20人以上になるわけです。アニメでは“描いていないけど、いますよ”という手法も取れますけど、そうすると雑多な“部活”の感じが出なくなってしまうので、できるだけいろんな部員を描きたいなと思っているんです。そうすると、多いなこれは、と(笑)。
―― チカちゃんは部員が少ないと悩んでいるけど(笑)。
橋本 少ない少ないと言っているんだけど、描いているほうとしては、結構いますよと言いたい(笑)。全員、デザインを起こして名前をつけて、間違いのないように整理しています。
―― 当初5人だったところから段階を踏んで、増えていくわけですものね。
橋本 だからこの子は1年生、この子は2年生としっかり整理して作っています。デザインを見て、“この子は頼もしそうだから吹奏楽経験者”“この子はマレン目当てで入部したちょっとミーハーな子”とデザインから想像しながらお話に合わせて順番に入部させています(笑)。
―― 推理、楽器演奏と並んで、高校生の部活もの、という一面も原作の大きな要素のひとつですから、そのへんの描き分けも非常に楽しみです。
橋本 ただ、『TARI TARI』ほどの“部活感”というのは出しにくいなと思っているんです。『TARI TARI』は5人だけでしたが、『ハルチカ』は謎解きの要素も大きく、事件によっては外部の人も出てきますし、校外に出ることも多いですし。
―― 学校でも、生徒会やブラックリスト十傑の連中もいますし。
橋本 部活の中だけで事件が解決するわけでなく、事件は吹奏楽部とその外とで展開していく。逆に部活の中だけでのやりとりが意外と描けなくて、そこが苦しいところだったりもしますが、“日常感”みたいな面はできるだけ出していきたいと思っています。
―― 日常というと、原作でもわりとはっきり“静岡県清水”と地名が出ています。聖地というか、風景描写も期待する人は多そうです。
橋本 そうですね、清水南高校という初野先生の母校が実名で登場しています。これは「そのまま名前を使用してもいいですよ」と許可をいただいたんです。学校のデザインなどは物語に合わせて一からデザインを起こしましたし、学校の場所も本来は住宅街にあるんですけど、少し郊外にデザインしました。清水へ何度もロケハンに行って感じた、穏やかで素敵な雰囲気を、作品の中で少しでも感じていただければいいなと思います。

■スタッフのパワーアップで、より広く深い表現を!
―― 最後に、橋本監督やP.A.WORKSのファン、原作ファンそれぞれにメッセージをお願いします。
橋本 まずは『TARI TARI』で監督をやらせてもらった後、劇場版の『しんちゃん』(『クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』(13年)、『クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃』(15年)などを挟んで、今回何年かぶりにP.A.に戻ってきたんですけど、中のスタッフの力量がすごく上がっていて、頼もしくなっているんです。メンバーの成長があるので、作業は大変なんですけど、一段と深く広く表現ができるかな、と楽しみにしています。推理小説ファン、初野先生ファンには……事件解決を目的とするミステリというのはたくさんあったと思うんですけど、それらとはちょっと違って、人の心の謎を解いていくというミステリですので、今までにないミステリとして楽しんでいただければと思います。
―― 初野先生の原作だから、ミステリファンがクスッとできる要素はちりばめられていますけど、謎解きが目標、という物語ではないですものね。
橋本 そうなんですよね。謎を解いて、解いた結果、その人がどうなったのかというほうに主眼を置かれていますから。トリックを見せるというのとはちょっと違う作品だと思いますので、そこがアニメでどう表現されているか、楽器演奏シーンと併せて注目していただきたいです。


■TVアニメ『ハルチカ〜ハルタとチカは青春する〜』公式サイト
http://haruchika-anime.jp/

■放送情報
TOKYO MX 16年1/6(水)深夜1時35分~
テレ玉 16年1/10(日)深夜0時30分~
チバテレ 16年1/10(日)深夜0時30分~
ほかU局、dアニメストアにて1/13(水)12時~配信予定

■キャスト
穂村千夏:ブリドカット セーラ 恵美
上条春太:斉藤壮馬
草壁信二郎:花江夏樹
成島美代子:千菅春香
マレン・セイ:島崎信長
芹澤直子:瀬戸麻沙美
檜山界雄:岡本信彦
片桐圭介:山下誠一郎
後藤朱里:山田悠希
朝比奈香恵:小見川千明
朝比奈紗恵:宮島えみ

(C) 2016 初野晴/KADOKAWA/ハルチカ製作委員会