濱の狂犬・黒石高大の引退試合に密着「喧嘩する奴は弱い自分を守りたいだけ」 | ニコニコニュース

日刊SPA!

「俺、これからは芸能界で派手に喧嘩かましてくるんで! 応援よろしくお願いします!」

 “濱の狂犬”黒石高大が、最後は盛大に散った。第1回大会から出場している黒石の存在は、THE OUTSIDER(以下・アウトサイダー)の歴史そのもの。多くのファンに惜しまれつつ、男は涙ながらにリングを降りた。

 12月13日、東京・大田区総合体育館で開催された「THE OUTSIDER 大田区総合体育館 SPECIAL」は見どころが多い大会となった。ガンバレ☆プロレス所属のプロレスラーでDDT映像班の一員でもある今成夢人の格闘技デビュー戦、ROAD FCとの5vs5日韓対抗戦、麦わらユウタの引退試合、大会に華を添えた女子選手の3試合、各階級のタイトルマッチ……。前田日明主催の不良格闘技大会として知られるアウトサイダーも、気づけば旗揚げから7年が経過した。競技レベルも上がっており、選手のバックボーンやキャラクターもバラエティも豊か。もはや単なる“不良のお祭り騒ぎ”とは呼べないレベルのスケールに育ってきている。

 さて、8時間以上(!)にも及ぶ超ロングラン興行のトリは黒石高大の引退試合だった。対戦相手の啓之輔は、共にアウトサイダーを初期から支えてきた黒石の友人。

 7年前、黒石の運命はアウトサイダー第1回大会に出場することで劇的に変わる。愚連隊集団・横濱義道会の初代総長を務めていた黒石は、腕をぶして同大会に殴り込みをかけた。だが、初戦はジャーマンスープレックスでブン投げられてからのスリーパーホールドで失神負け。2戦目は試合開始2秒で右ストレート一発のKO負け。3戦目は意気込むあまり、ゴング前に対戦相手を殴って試合自体をノーコンテストにするなど醜態を晒し続ける。しかも、そのたびに横濱義道会がリングサイドに駆け寄って乱闘騒ぎを起こすのだから、たまったものではない。黒石とその仲間たちの言動は、いつもアウトサイダーの中で注目を集めていた。

 その後、黒石は格闘技の練習を重ねることで勝利をものにするようになる。さらに驚いたことには、アウトサイダーでの活躍が関係者の目に留まり、俳優やモデルの仕事が舞い込むようになってきたのだ。パンチパーマでメンチを切るチンピラ然とした風貌の一方、つぶらな瞳でケラケラと笑う愛くるしさも併せ持つ黒石。情に厚く、涙もろい素顔も大きな魅力だ。やがて黒石はファッション誌の表紙を飾ったり、北野映画に出演することで、格闘技を知らない者からも愛される存在になっていった。以前は生計を造園・建築関係の仕事で立てていたが、現在は所属する芸能事務所にスケジュールも管理してもらっている。まさにアウトサイダー版「成り上がり」を、もっとも体現した男といえる。そんな黒石が「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということで、役者の道に専念することを決意。対戦相手の啓之輔は「今回は殺す気でいく」と並々ならぬ入れ込みようだった。

 だが、試合はあっけなく終わる。開始早々手を合わせるかと思いきや、それはフェイントで殴りかかる両者。奇しくも2人とも同じ作戦だったようだ。これで一度は尻餅をついた啓之輔だったが、すぐに立て直す。すると黒石は右ミドルを連打。さらにタックルを狙うも、逆に黒石の首を取った啓之輔が体勢を崩しながらもギロチンチョークに。そのまま1R1分0秒、失神葬でゴングが打ち鳴らされた。

⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1007184

 マイクを持った啓之輔は「格闘技って残酷なものですね。この男がアウトサイダーを引っ張ってきたんで、みんな、デカい拍手をしてやってください!」と観客にアピール。会場に割れんばかりの歓声と拍手が響き渡る。そして、泣き笑いのような表情をした黒石が感謝の言葉を口にする。

「負けて始まって、負けで終わるって……ギャグか、この野郎! 多くは語りません。俺、最後までダサかったし、弱かった。それを支えてくれて、応援してくれて……。前田日明、アウトサイダー関係者のみなさん、家族、地元の友達や仲間たち、応援し続けてくれた人たち、本当に……本当に心からありがとうございました!」

 その後、黒石は最愛の母に対し「産んでくれて、育ててくれてありがとう」と笑顔で語りかける。黒石の人間臭い生き様に打たれて、涙する者の姿も会場には目立った。そして試合終了後、控室前で写メ攻勢にあう黒石を日刊SPA!はキャッチ。慌ただしい時間の合間を縫ってコメントをもらうことに成功した。

――今の率直なお気持ちは?

黒石:「アホだなぁ、自分」って思います。「結局、こんな感じかよ」って。もうちょっとやれるんじゃないかと思っていたんですけどね。結局、最初(の大会)も最後もチョークで失神って(苦笑)。なんで、あそこでタックルにいっちゃったんだろうなぁ……。

――あっけなく終わったことで後悔が残る?

黒石:そりゃ本音を言えば、格闘技は辞めたくないッスよ。試合はずっと出ていたいッスよ。でも、それよりも俳優で勝負したいっていう気持ちが強くて。時間が足りなさすぎるんですよね、両方を真剣にやるには。

――俳優をやっていても、また戦うことが恋しくなるのでは?

黒石:仲間の練習につき合ったり、インストラクターを務めたりはするつもりですけどね。身体を維持するためにも。今は週6ペースで、朝・昼・晩って1日3回練習しているけど、そこまではさすがに無理かなっていう感じです。

――格闘技を始めて何が変わりましたか?

黒石:心が強くなったというのはありますね。喧嘩もしなくなったし。格闘技を習っていたら、喧嘩なんて普通に勝っちゃうので。逆に格闘技をやっていなかったら、いまだにそこらへんで喧嘩していたのかもしれないな……。結局、すぐ喧嘩する奴って、弱い自分を守りたいだけでそうしているんですよ。強かったら余裕を持って臨めるというか、「いいよ、別に。いつでも殺ってやるし」って気持ちになりますしね。

――仮にアウトサイダーに出ていなかったら、今頃、何をやっていたと思います?

黒石:現場の肉体労働者かチンピラ。まぁどちらかのパターンでしょうね。それ以外は考えられない。俳優やモデルをやっているなんてことは、100パーなかったはずです。

――黒石さんにとって、アウトサイダーはどういう存在でした?

黒石:ご褒美みたいな場所でしたね。10代の頃から俺はクズだったし、片親だったし、その母親も問題を起こして帰る家がなかったりして……。ガキの頃は逃げ場がなかったんですよね。20代に入ってからアウトサイダーに出場したおかげで、今は俳優と雑誌の仕事でごはんが食べられて、仲間もいっぱい増えて、休日はいっぱい遊べる。今でも信じられない気持ちになることはありますよね。

――最後にファンのみなさんにメッセージをお願いします。

黒石:俺みたいな奴のことを、いつも応援してくださってありがとうございます! それだけは何百回言っても言い足りないッスね。でも逆に、それ以上は言いたいことがないかな。これだけ応援して支えてもらっているのに、さらにこれ以上「もっと応援してください!」なんて言えないッスよ。そこまで厚かましくなれない。ただ、もし気が向いたら、芸能界で戦う俺にも注目してくれたらうれしいかなって思います!

【黒石高大/くろいし・たかひろ】


1986年、神奈川県生まれ。29歳。幼少期から不良の道をひた走り、いくつかのギャング・愚連隊組織を経て、横濱義道会の初代総長に就任。アウトサイダーではその熱い生き様が観客の支持を集め、一躍、人気選手に。悪羅悪羅系ファッション誌『SOUL JAPAN』(休刊中)でモデルを務めたほか、数多くの映画・ドラマ・Vシネマに出演。代表作は『愛と誠』『アウトレイジ ビヨンド』『仮面ライダーフォーゼ THE MOVIE みんなで宇宙キターッ!』など。2016年GW公開の映画『テラフォーマーズ』では、伊藤英明、山下智久、山田孝之、小栗旬といった超豪華キャストと共演を果たす。

<取材・文/小野田衛 撮影/丸山剛史>