BCG式提案書「意思と知恵と情熱」で相手を口説く | ニコニコニュース

プレジデントオンライン

何となく、過去のフォーマットをコピペして作っていないか? 数字やデータを並べただけで満足していないか? 必要なのは次のアクションを生む文書だけ──これが一流企業の常識だ。

パートナー(役員)として、ボストン コンサルティング グループの各プロジェクトチームが作成した企画提案書をチェックする立場にある平井陽一朗氏。多いときは週300枚をチェックするが、どのような視点でダメ出しをするのか。

「企画の提案で大事なのは、意思、知恵、情熱の3つ。資料はそれらを伝えるための手段です。だから、資料はうまいとか下手は気にしなくてもいいと思いますよ。ただし逆に言えば、見栄えが良くても、この3つが欠けている提案書は話にならないということです」

「意思」でいうと、あれもこれもと提案が総花的で、結局、何をやりたいのかが絞り切れていないものはアウト。そして、たとえ意思が明確でも、提案の根拠が曖昧なものは「知恵」が足りないと判断される。また、プランに具体性がない提案書では「情熱」が伝わらず、読み手の心を動かせない。

3つの要素を的確に伝えるには、どのような資料をつくればいいのか。平井氏が重視するのは、意思が如実に表れる1枚目だ。

「アジェンダ(議題)がふわっとした提案書は、読み手を迷わせます。大切なのは、1枚目で背景と目的、つまりいま、どのような課題があって、それを踏まえてこの提案書で何をしたいのかを明確に伝えること。BCGには1枚目のアジェンダ設定が勝負と考える人すらいて、私が尊敬する同僚のパートナーも1枚目に数時間かけることもあるそうです」

アジェンダ設定は重要だが、だからといって、内容を盛り込みすぎるのは厳禁だ。

「背景と目的をだらだらと説明するのは、考えが固まっていない証拠。自分の中でも揺らいでいるから、不安になって説明過剰になるのです。BCGでは『結晶化』といいますが、まず考えを研ぎ澄ませて純度を高めることが大事。そうすれば簡潔な説明が可能になります」

2枚目以降は、1枚目で示した提案内容をデータなどのファクトで補強していく。

「ロジックとファクトが不足した提案は、単なる意見です。読み手を納得させるには、隙のないロジカルなストーリーをつくり、重要なメッセージはファクトでサポートすべき。ここでも詰め込みすぎは厳禁。ワンメッセージ、ワンスライドが伝わりやすいですね」

ファクトベースで説明した後は、今回提案する企画と他のオプションを比較検討した表を1枚で示す。コンサルタントにとっては、これがキースライドになる。

「他のオプションと十分に比較検討したことを示せば、提案した企画が結論ありきの決め打ちではないことが伝わります。たとえば、他のオプションに比べて市場成長性はどうなのか、自社のプロモーション力を活かせるのか。さまざまな角度から比較して網羅感を出したいところです。また、比較が客観的であることも大事。資料に書く必要はありませんが、なぜそう評価したのかと突っ込まれても即答できるように、評価基準を明確にしておきましょう」

ファクトの提示や他のオプションとの比較表は知恵を伝えるのに役立つが、一方、情熱を伝えるために欠かせないのが具体的なプランや体制に関する資料。

「読み手の心を最終的に動かすのは、リアリティーと迫力です。それらを示すには、必要な投資と期待できる売り上げ、具体性のあるスケジュール表が必須。また、どのような体制で企画を実行するのかという体制図も重要。自分が責任ある立場で入り、さらにすでに他部署に根回しして協力を取り付けていることを示せば、提案者の覚悟が伝わります」

以上がBCG流提案書の基本パターンだが、平井氏は「型にとらわれる必要はない」とアドバイス。

「事業会社なら、理屈よりも意思や情熱を強調したほうがいい場合もあります。そのときは、1枚目の背景と目的、最後の事業計画や体制図だけでもいい。重要な点は押さえていることを示すには、分析前のデータや法規則などのファクトそのものでもいい。社内であれば、資料のつくり込みは本来不要のはずです。僕はパワーポイントでものすごくきれいにつくられた資料を見ると『あれ、暇なのかな?』って思います(笑)。伝わればいいのですから、ワードやエクセルまたは試作品そのものでも十分なのです」

■論点が曖昧、矛盾……
伝えたいことは何?

【×BEFORE】

(1)いきなり“現状分析”では理解できない――いきなり現状分析といわれても、何の分析なのかが不明。今日の目的が何かすらわからないのは大問題。

(2)焦点がぼけると、読む気がなくなる――コメの消費量が減少しているといいつつグラフは支出額の話。さらに米の消費量と主力商品の相関が不明なうえに、米のPRや米以外の話に飛躍。

(3)ファクト、ロジック不足――主力商品の売り上げ低下の要因が、つきつめられていないうえでの提案は無意味。さらに複数の提案があり、強い意思のある提案が埋もれている。

(4)具体性ゼロ。やる気が見えない――必要なコスト、スケジュールや協力体制、責任の所在など具体的なアクションプランが皆無で実現性が不透明。これでは提案が通るわけがない。

■1枚目が勝負。
うまい下手より「何をやりたいか」

【○AFTER】

※AFTERの資料は、編集部作成のBEFORE資料の提案内容を踏襲した場合の資料の作り方

(1)目的を考え抜き、「結晶化」させよ――1枚目は、提案書で最も重要だ。まずは提案書の背景と目的を説明。背景ではいま直面している課題やその原因を解説し、目的では背景を踏まえたうえで、企画の内容と相手に判断してほしいことをはっきりと示す。背景と目的を伝えることでアジェンダが明確になり、読み手は全体像がイメージできる。説明過多にならないように、言葉は十分吟味して余計な情報は省く。すかすかの印象を与えるくらいでよい。

(2)提案を裏付ける根拠となるデータを用意――提案書の背景と目的を、データなどのファクトで裏付ける。書き方は、ワンメッセージ、ワンスライド。1枚に複数のメッセージを盛り込むと、伝えたいことがぼやける。メッセージとファクトにズレがないことも重要だ。数字をたくさん並べても、忙しい相手は読んでくれないので、グラフ化などわかりやすいビジュアルを心がけたい。ストーリーがロジカルに展開されていないと説得力に欠けた提案書になる。

(3)基準を設け、戦略効果を◯×△で一目でわからせる――今回提案する企画と他のオプションのメリット・デメリットを比較検討して、一覧表で示す。比較する項目に決まりはないが、「SWOT分析」(強み/弱み、機会/脅威)、「3C」(カスタマー、コンペティター、カンパニー)などのフレームワークを活用して導き出してもいい。その際に、評価には客観性を持たせることが重要。たとえば◎◯△×の4段階で評価するなら、「市場成長率何%以上は◎、何%~何%は◯」というように基準を明確にしておくこと。

(4)たかがスケジュールと侮るな。“情熱”はここに表れる――(4-a)プロジェクトのスケジュールを、ガントチャート等で示す。企画がまだ決裁されていなくても、スケジュール案を示せば、「自分は先の先まで考えている」というアピールに。具体的であるほど本気度は伝わる。

(4-b)収支をシミュレーションした事業計画をつける。売り上げ予想が“鉛筆舐め舐め”になるのは致し方ないが、大切なのはコスト。リスクマネーが不明だと、決裁者は判断を下しにくい。いくらかかるか、はっきり示す。

(4-c)プロジェクトの実行体制を示し、ゴーサインが出ればいつでも動けるとアピール。ポイントは、自分を責任あるポジションに置くことだ。こうすることで、この企画に懸ける不退転の決意を伝えることができる。