『鬼平犯科帳』も終了……時代劇減少で「殺陣」が絶滅寸前? | ニコニコニュース

『鬼平犯科帳』シリーズは2017年放送予定の150作目をもって終了することが発表された。写真は2012年発売のDVD『鬼平犯科帳スペシャル~盗賊婚礼』
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 先日、フジテレビが『鬼平犯科帳』シリーズを2017年放送予定の150作目をもって終了することを発表した。2011年12月に『水戸黄門』(TBS系)、2012年3月に『逃亡者おりん』(テレビ東京系)が終了し、ついに民放TVの“時代劇”の終焉が近づいてきた感があるが、同時に気になるのが時代劇俳優、さらに言えば“殺陣”(たて)ができる俳優、そして殺陣を教える“殺陣師”がいなくなってしまう可能性だ。このまま、本当に“チャンバラ”シーンがTVから消えてしまうのだろうか?

【画像ギャラリー】佐藤健『るろうに剣心』インタビュー

■かつてはスターの条件だった殺陣 今ではただのアクションに?

 この“殺陣”というのは、剣での斬り合いや格闘などの立ち回りのことで、わかりやすく言えば『水戸黄門』の終わり15分前ぐらいから始まる、悪代官などの敵キャラVS助さん格さんらご老公一行の格闘シーンのことである。もちろん『暴れん坊将軍』(松平健主演・テレビ朝日系)、『桃太郎侍』(高橋英樹主演・日本テレビほか)、『大江戸捜査網』(松方弘樹主演・テレビ東京系)といった往年の人気時代劇でも、一番のクライマックスシーンが殺陣であり、この殺陣が極めて上手かったり、殺陣に色気があった俳優がスターとなっていったのである。

 などと言うと今の若い世代は、殺陣=ただのアクションシーンだと思うだろうし、似たようなシーンを映画『るろうに剣心』で佐藤健がやってる、と言うかもしれない。しかし、時代劇の殺陣には、敵と対峙したり、敵に囲まれた場合の微妙な相手との間合いが必要で、お互いに見合いながらジリジリと間を詰めていき、一瞬にしてバッサバサと斬りまくるその緩急のつけ方や、背後や横から斬りつけてくる敵のさばき方など、役者や殺陣師、カメラマン、監督等々、制作スタッフ側に相当の経験や実力がなければ、迫力のある殺陣シーンは撮影できないのである。またそのあたりの見せ方が殺陣の最大の魅力とも言えるのだ。

 かつての『水戸黄門』の殺陣シーンでは、里見浩太朗演じる“テクニック”の助さんに、伊吹吾郎演じる“パワー”の格さんといったキャラ分けもされ、観る側にも手に汗を握るものがあったが、後期の『水戸黄門』で助さんを東幹久、格さんを的場浩司が演じた際には、「助さん格さんの殺陣がヘタすぎる」「黄門様の里見浩太朗の殺陣が一番うまい」などとネットなどで酷評されてしまった。しかし、そもそも時代劇を演じる機会自体が今の俳優にはほとんどないし、かつては演技の勉強でも“必須科目”だった殺陣も、今では教えてくれる先生が高齢化している。『水戸黄門』で30年にわたって殺陣師を務めた菅原俊夫氏も、「若い人が時代劇でヒーローになるには普通の努力じゃ到底ダメ。今は僕を含めスタッフ、俳優さんともに甘いと思う」(TBSのインタビューより)と嘆いていたように、殺陣をウリにした時代劇映画は絶滅し、時代劇ドラマも風前の灯火の今、殺陣のできる後進の若手役者の育成は非常にハードルの高い問題だと言えよう。

■衛星放送を中心にオリジナル時代劇増加 “刀ブーム”で注目も

 一方、最近では時代劇自体の復興ということでは動きがあるようだ。12月には、BS日テレで『佐武と市 捕物控』(小池徹平主演)、BS朝日では『大江戸事件帖 美味でそうろう』(北村一輝主演)と、ともに時代劇のスペシャル番組が放映され、再放送ばかりしているBSドラマにしては異例だと言われた。またCS放送でも『時代劇チャンネル』が好調とも聞くし、先述の『るろうに剣心』などのアニメや映画、『刀剣乱舞』などのゲームのヒットにより、若者たちの間にも時代劇は浸透しているようなのだ。

 実際、かつては映画『あずみ』(上戸彩主演/2003、2005年)や『座頭市』(北野武主演・監督/2005年)などがヒットし、特に『座頭市』ではCGを駆使した斬新な殺陣シーンが話題にもなったのである。『戦国BASARA』などのアクションゲームもいまだに人気が衰えないこともあり、時代劇自体のポテンシャルは老若男女を問わず高いと言えそうだ。むしろ、先の『るろうに剣心』にしても佐藤健の殺陣シーンの評価が悪くなかったことを思えば、制作サイドの力の入れ方によっては、まだまだ時代劇の殺陣は生き残っていく可能性があるし、ひょっとしたら今がそのチャンスなのかもしれない。

 これからも高齢化社会は進むであろう。現在30代以上の層も中高年になったときに、かつて観た時代劇がふと懐かしくなったり、また観たくなったりすることは十分にあり得る。そのときのためにも、先達から受け継がれた時代劇、そして殺陣という日本の文化は、ぜひ残していってもらいたいものである。

(文/五目舎)