アトムはこうして生まれた! パトレイバーのゆうきまさみが描く新しいアトムとは | ニコニコニュース

『アトム ザ・ビギニング(1)』(手塚治虫:原作、ゆうきまさみ:コンセプトワークス、カサハラテツロー:漫画/小学館クリエイティブ)
ダ・ヴィンチニュース

 漫画の神様、手塚治虫の作品の数々が近年、現代に蘇っている。『ヤングブラックジャック』(手塚治虫:原作、大熊ゆうご:著、田畑由秋:著/秋田書店)や『PLUTO』(手塚治虫:原作、浦沢直樹 :著、長崎尚志:プロデュース/小学館)などまるで手塚が手がけた“火の鳥”のように、手塚治虫作品は新しい時代に合わせ、姿を変えながら生まれ変わっている。今回ご紹介する『アトム ザ・ビギニング』は手塚治虫の代表作『鉄腕アトム』(手塚治虫/講談社)の主人公、アトムが生まれるまでをベテラン漫画家と若手漫画家がタッグを組んで手がけた挑戦作だ。
 あなたは疑問に思ったことがないだろうか。優しい心を持ったアトムがいかにして生まれたのかという経緯を。天馬博士の死んでしまった息子を模して作られたという経緯は知っていても、アトムが完成するまでの、科学的な経緯は作中では全くと言っていいほど語られていない。いくら世紀の天才、天馬博士でも1からアトムを創りだしたわけではないはずだ。なぜ、アトムが「優しい心」を持つようになったのか。そして、アトムの驚異的な力はどのような経緯で生まれたのか。それらの疑問に『パトレイバー』(ゆうきまさみ/小学館)などのリアリティ溢れる人間模写をお得意とするベテラン漫画家、ゆうきまさみが独自のセンスで答えている。

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 なんとアトムが生まれる前に、2人の若き天才が創りだした「シックス」という名のアトムの雛形とも言うべきロボットが存在したというのだ!

 A106、通称「シックス」と呼ばれるロボットは、未完成でありながらアトムのような人やロボットを気遣う優しさを持ち合わせ、人間と変わらない大きさであるにもかかわらず、大型トラック2台分もの馬力を有している。ただ、まだ発展途上であるため、さまざまな課題が残されており、アトムのように「完璧なロボット」にはなれていない。そんなシックスを生み出したのは、アトムの産みの親「ウマタロウ」こと天馬午太郎と、手塚ファンにはお馴染みの大きな鼻がトレードマークのお茶の水博志(ひろし)だ。

 大学時代の若い2人の天才はお互いの鼻を触り合うという奇行を見せることがあるものも、お互いに研究者として切磋琢磨しあい、シックスを真の意味で自律した人間の心を持ったロボットへ進化させようと奮闘していた。時にはバイトの代理として、シックスを使い、引越し業者にシックスを売り込みに行くなど、『鉄腕アトム』で、すでに博士としての地位を確立していた2人からは考えられないような、ロボット開発に苦労する人間らしい姿を垣間見ることができるのも本作の魅力の1つだろう。

 もちろん、原作の『鉄腕アトム』を彷彿とさせるロボットならではのギミックを使ったアクションや、ロボット対ロボットの人間以上の存在同士が繰り広げるダイナミックな戦闘シーンは『フルメタル・パニック! 0』(富士見書房)などでスピード感のあるアクションを得意としている田畑由秋が描いているとあって、見応えもバツグンだ!

 また、手塚作品には欠かせないお馴染みのキャラクターも、作中でなんらかの形で登場している。それに注目するのも、この作品のもう1つの楽しみ方と言えるだろう。

 鉄腕アトムは、どうやって生まれたのか。親友だった2人はどうしてすれ違ってしまったのか。すでに『鉄腕アトム』という作品で2人の関係を知っている読者としては、これから先の天馬博士とお茶の水博士の博士になる前の2人の関係も気になってしまうのではないだろうか。手塚治虫の『鉄腕アトム』を下敷きにして描く『アトム ザ・ビギニング』がどのような展開を迎え、アトム誕生までにどのような物語が待ち構えているのか、往年の手塚ファンでなくても気になってしまうだろう。

 今後、どのように物語が進んで行くにせよ、アトムが悲劇の中で生まれてくることは決まってしまっている。しかし、人の心の動きを巧みに描いてきたゆうきまさみが、改めてアトムが生まれるまでを描くのだから、手塚治虫が描いたような、ただの悲劇では終わらないはずだ。果たして2人の漫画家が描くアトムが生まれるまでの物語は、どのような結末を迎えるのか。シックスは心優しきアトムになるのか、それともアトムのように産みの親に捨てられてしまうのか――。

 親に捨てられた可哀想なアトムが誕生するまで、どのようなドラマが待ち構えているのか、その続きが気になってしょうがないという方は、ぜひ本書を手に取って“新しいアトム”の物語を楽しんで頂きたい。

文=山本浩輔