「日本一の酒どころ」へ=福島県、蔵元が切磋琢磨―金賞4年連続トップに挑む | ニコニコニュース

 東京電力福島第1原発事故の影響が残る福島県。その中で風評をはね返し、快進撃を続けているのが日本酒の蔵元だ。全国新酒鑑評会での金賞受賞銘柄は、都道府県別で2012年度から3年連続日本一に輝いた。各蔵元では新酒の仕込みが本格化、4連覇に挑む。

 「『新潟、山形に負けたくねえ』と、あの頃は夜遅くまでよく飲んだ。口角泡を飛ばして議論し、けんかもした」。喜多方市の「大和川酒造店」会長の佐藤弥右衛門さん(64)は、福島の日本酒の「黎明(れいめい)期」を振り返る。

 かつては「安酒」のイメージがあったが、最近は躍進著しい。全国新酒鑑評会では最近10年間の金賞総数も207と、198の新潟県を抑えてトップ。「芳醇(ほうじゅん)、うま口」が特徴で、他のコンテストでも常に上位を占める。

 飛躍の土台となったのは、1991年に発足した「清酒アカデミー」と、95年結成の「高品質清酒研究会」、通称「金取り会」だ。

 県酒造組合で技術委員長だった佐藤さんには忘れられない記憶がある。「東北6県を馬車に例えると、山形、秋田が先頭の馬。青森、岩手が両輪、宮城が御者で、福島は馬のしっぽ」。東北各県の組合の会長会議で、上司の会長がそうやゆされたと悔し涙を流していた姿だ。

 当時、「淡麗辛口」のブランドを確立していた新潟県は「新潟清酒学校」を設置し、人材育成に力を注いでいた。「新潟に学ぶしかない」。佐藤さんは新潟の学校長に頭を下げてカリキュラムを教えてもらい、アカデミー開講にこぎつけた。

 アカデミーは初級、中級、上級の3年課程。座学に加え、蔵元に出向いての仕込み研修など計312時間の講義が組まれ、卒業生は240人を数える。金取り会では鑑評会の出品酒を持ち寄り批評し合ったり、先進地を視察したり。現在、約30の蔵元が所属し、切磋琢磨(せっさたくま)している。

 かつて酒づくりの技術は、酒蔵を仕切る杜氏(とうじ)だけが握り、門外不出だった。だが、金取り会などを通じて、蔵元の後継者らは「横のつながり」を深め、蔵の垣根を越えて技術を共有していったという。

 科学的データの活用も原動力となった。福島県の研究機関のスタッフがアカデミーで講師を務め、金賞取りのポイントを網羅したマニュアルを毎年作成。関係者は「そうしたアドバイスを基に各蔵元が腕を磨き、全体が底上げされた」と語る。

 一方、県酒造組合の阿部淳専務理事(58)は「全国的にはまだ知名度不足。どう克服するかが課題」と語る。県などは今年、県内の酒蔵を巡るツアー客誘致に乗り出す。蔵元の側にも欧州など海外展開を図る動きが広がっている。