「対話」の末に見えた、人が人を殺す“理由”とは――『殺人犯との対話』 | ニコニコニュース

『殺人犯との対話』(文藝春秋)
日刊サイゾー

 なぜ、人は人を殺すのか? 

 殺人事件の被害者数は年間383人(2012年)。実に、1日に1人以上が殺人事件の被害者となっており、殺人の報道を耳にしない日はほとんどない。怨恨、強盗、保険金、強姦、快楽など、さまざまな理由で人は人を殺す。にもかかわらず、司法の場以外で、殺人犯たちの生の声が社会の中で語られることはほとんどない。

 ノンフィクション作家・小野一光は、「週刊文春」(文藝春秋)の連載「殺人犯との対話」で、凶悪殺人犯たちの素顔を追いながら、そんな疑問に迫っている。角田美代子が首謀者となった「尼崎連続変死事件」や、畠山鈴香による「秋田児童連続殺人事件」など、10の事件を追ったこの連載が、同名タイトルの書籍として刊行された。

 02年に発覚した「北九州監禁連続殺人事件」は、主犯である松永太が自らの手を汚さずに、マインドコントロール下に置いた被害者たちに殺し合いをさせ、合計7人が殺害された事件。小野は、福岡拘置所で松永と面会すると「私の裁判はね、司法の暴走ですよ」「いわゆる魔女裁判のように裁こうとしているんです」と、饒舌にまくし立てられる。「一光さん、神に誓って私は殺人の指示などはしていません」。殴る蹴るにとどまらず、電気コードを用いた通電の虐待など暴力行為が常習化し、暴力の末に被害者が死ぬと、生き残っている家族に遺体の切り分けや肉を鍋で煮込むなどの処理をしていた松永は、後ろめたさも卑屈さもなく、そう断言した。小野は「大きな目でこちらを射抜くように直視して言い切る姿は、確信に満ちていた」と振り返り、「悪魔とは、意外とこんなふうに屈託のない存在なのかもしれない」と殺人犯の素顔を描写する。

 同じく福岡県で04年に発生した「福岡一家4人殺人事件」は、3人の中国人留学生による凶悪な事件。犯人として捕らえられた楊寧、魏巍には死刑、王亮には無期懲役の判決が下された。金銭目当ての犯行にもかかわらず、彼らが手にしたのはわずか3万7,000円のみ。その金額と引き換えに、一家4人の命は失われ、福岡市内の箱崎ふ頭に沈められたのだった。小野は、中国に飛ぶと、魏巍の父親との面会を果たす。「進んだ技術を勉強するため、日本に送り出した」と語る父親は、親戚から自身の10年分の年収に相当する金を借り、息子に希望を託した。しかし、息子は日本で遊びほうけてアルバイト代も使い果たし、学費の支払いにも窮するほど金に困るようになると、「少なくとも100万円の分け前をもらえる」という甘言に乗り、事件に加わったのだ。中国では「優秀学生」にも選ばれた魏巍だが、異国での生活が彼を変えてしまった。彼の父親は、死刑判決の出る直前「どうして事件を起こすとき、私たちのことを思い出さなかったのか」と叱責し、「裁判官にありのままを話すように。失意のどん底に落ちてはいけない」と、親として最後の言葉を手紙にしたためた。

 山地悠紀夫は、05年に大阪のマンションに住む19歳と27歳の姉妹を強姦し、殺害した。山地はこの事件を起こす5年前、16歳の時に自分の母親も殺害しており、取り調べに対して「母親を殺した時のことが楽しくて、忘れられなかった」と、快楽が動機であることを語っている。20歳で少年院を退院するとき、彼は「勉強をしたい」「ワーキングホリデイで海外に行きたい」という希望を手紙を弁護士に送り、これからの生活に希望を抱いているように見えた。しかし、退院し、パチンコ店に務めると、過去の殺人という履歴がバレてしまい、職を転々とせざるを得ない状況に追い込まれる。山地はゴト師グループの打ち子にまで身を落とすも、ここでも元締めから稼げないことを叱責されてグループを飛び出し、強姦殺人という凶行に及んだ。死刑判決を受けて、山地は弁護士に対して「私は生まれて来るべきではなかった」という手紙を送り、自らの控訴を取り下げ、死刑を確定させている。09年7月、大阪拘置所で山地の刑は執行された。

 本書に掲載されている10人の殺人犯との対話から、「共通項」というべきものは浮かび上がってこない。ある者は深い後悔の念に沈み、ある者は反省の色を見せることがない。その動機だけでなく、出自も、性格も、振る舞いもさまざまなのだ。小野はそんな彼らへの取材を通じて、以下のような確信を得ている。

「なぜ私は闇に目が向いてしまうのか。それは、殺人犯を通じて人間を見たかったからに違いない。非人間的な殺人という行為は、人間だからこそやってしまうのだということを、改めて確認したかったのだ」

 殺人が、人間の手による仕業であると確認する。それは至極当たり前のことではあるが、しかし、非人間的な殺人行為からは、「極悪非道」な姿しか浮かび上がってこない。本書を通じて、小野は動機や犯行手法などを積み重ねて犯人を裁く司法のシステムでは明らかにできない「殺人犯という人間」を描き出している。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])