東京チカラめし、なぜ見かけなくなった? 餃子の王将、床ベタベタでも繁盛のワケ | ニコニコニュース

東京チカラめしの店舗(「Wikipedia」より)
Business Journal

 競争が激しい飲食業界。特にチェーン店は、独自のスタイルが受け入れられて繁盛しても、気がついたら業績悪化に伴い経営規模が縮小して街中で店舗を見かけなくなる――というケースも多いのが同業界の恐ろしいところである。

「270円均一メニュー」を打ち出し激安居酒屋ブームを巻き起こした「金の蔵jr.」や、牛丼市場に突如として現れて話題となった「東京チカラめし」を運営する三光マーケティングフーズは、軒並み低調な外食業界で数少ない勝ち組として一時はもてはやされた。しかし、その勢いは長くは続かず、ここ数年の決算では毎回のごとく通期収益予想を下方修正しており、15年7月~9月の売上高は32億4800万円、前年同期比で7.1%のマイナスとなっている。

 三光マーケティングフーズに限らず、外食業界の流行り廃りのサイクルは非常に速い。ブームになりながらもすぐに下火になってしまった店舗や営業スタイル、サービスは、何がいけなかったのだろうか。立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に、マーケティングの観点から分析してもらった。

●話題性だけでは一見様で終了

「一時的に流行って急速に店舗数を増やしても、短期間で客足が遠のいてしまったというチェーン店は過去にも多くあります。その原因は、トライアルの顧客が一巡した段階で『また来たい』と思わせられなかった点にあるでしょう。外食業界で重要なのは、リピーターをいかに獲得するかということです。そのためには、少なくとも期待に応えるサービスを顧客に届ける必要があります。低価格を強く打ち出した店舗でも、提供される料理が相応にコストカットされていると明らかにわかれば、顧客の足は遠のいてしまい再来店することはほとんどありません」

 廃れた激安居酒屋チェーンは円安に伴う原材料高の影響で、提供するメニューの品質低下を消費者にも隠しきれなかったという要因もあるだろう。「話題になっているから行ってみよう」という消費者心理は、若者を中心に多くの人が持っている。しかし、それは裏を返してみれば「一度行ったからもういいかな」という気持ちになりやすいということだ。経営側はそうならないようにする努力が必要だと有馬氏はいう。

 では、「一度で十分な店」と「また行きたくなる店」を分けるものはなんであろうか。

「人気が長続きしない店舗の共通の特徴は、他店より劣った部分を顧客に強く印象付けてしまっている点です。接客を伴うサービス業では、他店より顕著に劣っている要素が顧客に感じ取られてしまうと、それだけで顧客がリピートする気分には大きなマイナスとなってしまいます。顧客は、わざわざマイナス要素が目につく店舗に再び行く必要はないと考えるからです。つまり、コンセプトの斬新さだけに頼ってしまうと、顧客に再来店したいという動機が芽生えないため、長期的な優良店にはなりにくいのです」(同)

●顧客のニーズとコンセプトの一致が生む人気店

 だが、例えば故・佐野実氏が流行らせたラーメン店「支那そばや」では、佐野氏が味を追求するあまり、接客でお客さんをもてなそうという姿勢は皆無だったという。これは一般的な飲食店の常識から考えると非常に不利なようにも思える。

「店舗のコンセプトや主人の姿勢が顧客の期待しているイメージと一致しているのであれば、必ずしもフレンドリーな接客が必要というわけではありません。ラーメン好きからすれば、ただただおいしいラーメンを食べたくてお店に行くわけですから、そこに全力を注ぐ職人の姿勢はむしろ好意的に受け入れられます。『餃子の王将』は、店内の床がベタベタ、にんにく臭いなどとよくネタにされますが、中華料理を安価でたくさん食べたいという顧客のニーズからすれば、そのくらいは覚悟の上、他店と比較したとしても想定内なのでしょう。顧客の期待を裏切らないサービスが、きちんと提供されていることが重要なのです」(同)

 つまり顧客のニーズをしっかりと理解するというのも、リピーターを増やす上で非常に重要なポイントなのだ。

「それを見誤ったのが、近年低迷の続く日本マクドナルドです。苦境の打開策を模索しようとさまざまな新しいシステムやメニューを打ち出しましたが、経営の軸がブレブレのなかでの施策だったので、顧客はついてきませんでした。軸を動かすのではなく、コンセプトを一貫させながら進化をしていかなければ、顧客に店舗やブランドのイメージさえも湧かせられなくなってしまいます」(同)

「負けに不思議の負けなし」という言葉があるが、凋落する店舗にはそれなりの理由があるようだ。しかし、理由がわかっていたからといっても競合店は数多く存在し、顧客はいつだって数ある店舗の中から比較して行く店を決めている。外食業界においての人気の定着というのは、それほど難しいのであろう。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=A4studio)