『聖者の行進』に『フードファイト』あの名作ドラマが再放送されない“ウラ事情” | ニコニコニュース

 いろいろな事情のために再放送ができなくなってしまったドラマがある。視聴者からの抗議、出演者やスタッフの不祥事、また価値観の変化によって時代のモラルに合わなくなってしまったものなどなど、放送不可能になった理由はさまざまだが、しかしそんな作品に限ってわれわれ視聴者の記憶に残る名作だったりするのだ。

●『17才—at seventeen—』(1994年・フジテレビ系)……当時人気絶頂のトップアイドルだった内田有紀(40)が主演。そして、これまた当時内田に並ぶ人気女優だった一色紗英(38)、第2回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストグランプリの武田真治(43)、『天才たけしの元気が出るテレビ』のダンス甲子園でブレイクし、素人から俳優デビューしたばかりの山本太郎(41)らが脇を固め、おまけに主題歌はtrfの「survival dAnce ~no no cry more~」という、中高生向けとはいえ、かなり力の入った布陣のドラマだった。しかし放送第1回から未成年設定の出演者らが喫煙・飲酒をするシーンが盛り込まれ、さすがに今よりもおおらかな時代だったとはいえ、これをスポンサーが問題視し、降板騒動にまでなった。もちろん今では再放送は不可能。映像的評価は高いものの、以上の問題のためかビデオ・DVD化はされておらず、マスターテープからしてすでに廃棄されたとのウワサもある。ちなみに、人気の勢いを駆った内田は翌年、神尾葉子の漫画を映画化した『花より男子』(フジテレビ・東映)に主演。作品の出来は、ひと時代前のアイドル映画的な微妙なもので、また興行的にも後年のTBSのドラマ版の大ヒットにはとても及ばない成績だった。

●『同窓会』(1993年・日本テレビ系)……斉藤由貴(49)主演。同性愛をテーマとした物語で、毎回劇中で繰り広げられる過激なシーンが話題となった。西村和彦(49)と高嶋政宏(50歳)、西村と山口達也(44)とのペアで繰り広げられる過激なシーンやシャワーシーン。さらなるオマケは性転換した国分太一(41)のウェディングドレス姿、など、ある意味サービスシーンがてんこ盛りの内容。それだけに今では再放送は不可能となってしまっているが、ビデオ、DVD化はされている。単なるキワモノというだけではなく作品としての評価は高い。また、主題歌がブレイク寸前のMr.Childrenによる『CROSS ROAD』であるのも注目すべき点だ。

●『ライフ~壮絶ないじめと闘う少女の物語~』(2007年・フジテレビ系)……すえのぶけいこ作の同名漫画のドラマ化。北乃きい(24)が主演で、福田沙紀(25)らによる北乃への壮絶ないじめがあまりにリアルで真に迫っていたために、中高生の子を持つ保護者らからの「いじめを助長する」という旨の抗議が殺到。その数2000件を超えた。その一方で、若年層からは良作だとの評価が高く、賛否両論の状況となった。土曜深夜の放送だったが、視聴率は平均12.2パーセント、最終回では17.4パーセントを記録し、ドラマとしては大成功を収めている。北乃と福田は共にこの作品で第45回ゴールデン・アロー賞新人賞ドラマ部門を受賞したが、その過激さのため、地上波で再放送されたことはない。 ●『聖者の行進』(1998年・TBS系)……『高校生』(TBS系)をはじめとして、90年代にセンセーショナルな作品を連発した野島伸司(52)のTBSドラマ第4弾。主演はいしだ壱成(41)。水戸市で実際にあった知的障がい者を雇用する企業での暴行・虐待事件をモデルにしたとされている作品である。野島作品の真骨頂ともいえる惨忍な暴力シーンや、過酷なストーリー展開が見るに堪えないと視聴者からの不評を買い、さらにはスポンサーが提供クレジットを拒否したり、また提供そのものから降りてしまうなど、派手に物議を醸した。不幸なことに、いしだが2001年に大麻取締法違反で起訴され、さらに音楽教師の役を演じたのがよりによって酒井法子(44)だったということもあり、再放送が難しい状況となっている。

●『フードファイト』(2000年・日本テレビ系列)……草なぎ剛(41)が演じる孤児院で育った主人公が、その孤児院に寄付をするためフードファイトで賞金稼ぎに明け暮れる、というストーリー。対戦相手には、市川染五郎(43)、浅香光代(87)、さだまさし(63)、河村隆一(45)らが登場。さらには草なぎの相棒である九官鳥の声を木村拓哉(43)が演じるなど、とにかく贅沢なキャスティングが奇抜な設定にさらなる華を添えていた。企画担当は、この中身からして、やはり果たせるかなの野島伸司。視聴率が好調だったこともあり本放送終了後もスペシャル版が2本制作された。しかし2002年1月に愛知県の中学生が給食中に大食い番組のまねをしてパンを喉につまらせ窒息、死亡するという事故が発生。テレビ番組をまねたことは明らかで、そのため各局の大食い番組が軒並み制作自粛となる。もちろんこのドラマもその流れをうけ、続編は制作されることもなく再放送もされていない。また、DVD化もされておらず、唯一サウンドトラックが発売されたのみである。なにより、もはやSMAPの『らいおんハート』がこのドラマの主題歌だったことすら誰も覚えていないという事実が見事な消されっぷりを物語っている。

 思えば、ひと昔前のドラマは強烈な内容のものが多かった。テレビ局各局が過激さを競っていたのは事実だが、ドラマを通じて社会問題に切り込もうとしていたのも一方の事実である。そのどちらが制作側の本音だったのかはさておき、この時代の実験的な作品の数々が今のドラマ作りに残した教訓は皮肉にも、視聴者やスポンサーを刺激するような過激さは避ける、というシンプルなものだった。ドラマに限らずテレビ番組自体が無難な内容になってしまったのは寂しいが、作る側にとってリスクは死活問題。時代の流れや価値観の変化、と言ってしまえばそれまでだが、今ふつうに見ているドラマや番組も、20年後には放送不可能なんてこともあるかもしれない。