『おそ松さん』ヒットを後押しする腐女子パワー なぜ女性がハマった? | ニコニコニュース

もちろん赤塚イズムを継承する、パロ満載の内容も人気の理由 (C)赤塚不二夫おそ松さん製作委員会
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 赤塚不二夫生誕80周年を記念し、2015年に3度目のアニメ化がされ、現在、2クール目放送中のTVアニメ『おそ松さん』(テレビ東京系/月曜深夜1:35~)。昨年12月の「コミックマーケット89」ではグッズ完売続出、六つ子が表紙を飾った雑誌『PASH!』(主婦と生活社)や『アニメージュ』(徳間書店)の重版が話題となるなど大人気となっている。放送開始当初からパロディネタや下ネタ満載の内容が賛否両論となっているが、とりわけ女性からの人気が高く、中でも“腐女子”と呼ばれる層からは圧倒的な支持。何がそこまで女性たちを惹きつけているのだろうか?

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■六つ子を“BL妄想”して楽しむファンが急増

 『おそ松さん』は言わずと知れた故・赤塚不二夫さんの名作『おそ松くん』の大人になった六つ子たちの姿を描いた作品で、おそ松、カラ松、チョロ松、一松、十四松、トド松の六つ子、イヤミやチビ太、トト子、デカパンなどの主要キャラが勢ぞろい。27年ぶりの新作アニメとあって、放送前から往年のファンが反応していたことはもちろん、絵柄の可愛さや六つ子の声に櫻井孝宏(おそ松)、中村悠一(カラ松)、神谷浩史(チョロ松)、福山潤(一松)、小野大輔(十四松)、入野自由(トド松)という現在活躍する中でもトップクラスの人気を誇る声優陣が集結したことで、女性アニメファンの注目も高かった。そして放送がスタートすると、一気に人気が爆発。中でも「腐女子」と呼ばれる層から熱狂的な人気を得たのだ。

 アニメにあまり興味のない人は腐女子=女性のアニメファンと捉えている人も多いが、腐女子は単に女性のオタクではなく、男性同士の恋愛要素、いわゆる「ボーイズラブ(BL)」を好むファンに対し使われる呼称だ。そして作品自体が恋愛をテーマにしてなくても、男性キャラクターが2名以上登場し、恋愛しているという関係性、カップリングを“妄想”できる余白が多い作品なら腐女子のファンがつく。いや、たとえ人間じゃなく、動物や感情を持たない無機質な物質だとしても、“妄想”を広げられる1対1の特別な“関係性”が成り立っていればいい。文房具や家具などを“擬人化”しBL妄想している人もいるほどだ。

 よく『おそ松さん』が腐女子から人気を集めている理由について、「人気の男性声優が集結しているから」「1話で六つ子たちが人気の某アイドルアニメ風にイケメンになっていたから」と考察しているのを見かけるが、それは単なる視聴のきっかけにすぎない。pixivなどに投稿されている「BL松」タグの作品を見ると、描かれているのはイケメンアイドル風の六つ子たちの姿ではなく、アニメのようにデフォルメされたほんわかしたタッチのものが多いからだ。実は前段落でも書いた通り、“個性的な性格を持った六つ子たちが一つ屋根の下で躍動している”“1対1の特別なカップリングを妄想できる”という、腐女子の妄想を掻き立てる“関係性”が確立されていることが重要。さらに同作は1話が複数の要素ごとに区切られているため、「語られ過ぎず、妄想の余白がある」。こうした部分が腐女子の妄想を刺激しているのだ。

■想像を掻き立てる“関係性”と“余白”

 例えば、一番人気と言われるカップリングの「一松×カラ松」「カラ松×一松」(順番も重要らしい)。一松はなぜかカラ松にだけひどい対応をする。居酒屋で他の兄弟が一松をからかう中、唯一フォローする発言をするも、なぜか一松に胸ぐらをつかまれ涙目になるカラ松(酔っているのか?頬は赤い)……ただ、仲が悪いわけではないようで、帰り道では酔いつぶれた一松をカラ松がおぶっている姿が映し出される。6人が一緒に寝ている長~い布団でも、一松とカラ松はいつも隣同士。どうやら単純に行動や表情を見ただけでは読み取れない特別な関係性が存在しているらしい……さらに『おそ松さん』の場合、友人ではなく“兄弟”という背徳感も妄想を掻き立てるようだ。

 こうした「個々の性格や関係性からどれだけ妄想を広げられるか」ということについては、同じく腐女子に絶大な人気を誇るスポーツアニメのプロデューサーも語っていた。もともと中高生の男子から人気があったその作品は、アニメ化にあたり、原作のストーリーに忠実に描くことはもちろん、「キャラクターの“ペア”や“チーム”の成長」「個々のキャラクターにスポットが当たる施策」を重視していったという。特に後者については、本編では語られない日常シーンが描かれたエンドカードを週替わりで提示。その結果、「キャラクターの様々な表情や関係性を描くことができ、視聴者のイメージが広がった」そうで、アニメ放映が終わった現在も関連イベントは熱心な女性ファンで大盛況となっている。

 以前、とある男性アイドルアニメのスタッフが「女性は基本的にお財布のヒモが固い。でも、1クールごとに“嫁”が変わる男性と違って、一途な人が多い。1度好きになれば長く愛してくれるし、お金を使うことも厭わないんですよ」と話していた。六つ子とイヤミが歌う『おそ松さん』の「SIX SAME FACES~今夜は最高!!!!!!~」はすでに累積10万枚を売り上げているが、今後発売される映像商品も予想以上のヒットとなりそう。中心となるファン層は違えど、『おそ松くん』同様、長きにわたって愛される作品となっていきそうだ。