被害者の顔写真を勝手に使うメディアは許されるのか?SNSへの写真投稿に重大な危険 | ニコニコニュース

「Thinkstock」より
Business Journal

 1月15日未明、軽井沢でスキーツアーのバスが転落し、13人もの将来有望な大学生と乗員2名が亡くなった。この大事故を受けて、国土交通省は今月中にも貸し切りバス業者に対し、一斉監査を行う方針であることがわかった。

 この事故に関して、亡くなった被害者の情報や顔写真までもが多くの報道機関で掲載された。これらの情報や写真は、亡くなった被害者の方々が生前にFacebook上に掲載したものが多く使用された。「Facebookより」と出典を示しているメディアもあったが、遺族などの許可もなく写真を使うことに疑問を持った人も多いのではないだろうか。

 今日においては、多くの人がTwitterやFacebookなどのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を利用し、そこに自分の情報や写真を載せている。しかし、それが自分の死後に無断で報道使用されることを想定している人はほとんどいないだろう。そもそも、このように報道機関が勝手に他人のSNS上の情報や写真を掲載してもいいのだろうか。

 これについては、SNSトラブルの法律問題に詳しい野口明男弁護士は、慎重を要すると言う。

「報道目的で写真等を利用する場合、著作権、プライバシー権、名誉権など、さまざまな権利に配慮しながら利用する必要があり、場合によっては写真等の利用が法律上制限されることもあります」(野口弁護士)

 では、どのような場合に、これらの被害者の情報や写真の使用が許されないことになるのだろうか。

「SNSに投稿された事件被害者の個人情報等を報道の対象とする場合、特にその個人情報等が、公開されることを利用者が通常欲しない情報である場合には、事件被害者のプライバシー権侵害の問題が生じ得ます」(同)

 しかし、報道機関による写真等の利用が、直ちにこのプライバシー権侵害につながるとは限らないようだ。

「事件被害者が多数人に閲覧されることを予定したSNSに、自ら投稿した情報である場合は、投稿の時点で本人がプライバシー権の保護を放棄したものと考えられることが多いため、報道機関がこの情報を使用しても、通常はプライバシー権侵害となる可能性が低いと思われます。ただし、投稿先のSNSが、『友人のみ』など特定の人だけが閲覧することのできるクローズドな場合には、そこに投稿された個人情報を広く報道の対象とすることはプライバシー権侵害と認められる可能性があります。また、事件被害者が亡くなっている場合には、そもそも死者のプライバシー権をどう考えるかという難しい問題があります」(同)

●SNSに載せた写真は、報道利用される可能性がある

 また、被害者の情報や写真を利用することが名誉毀損に当たる場合には、報道機関はこれらの情報や写真を利用できないこともあるという。

「ただしその場合でも、報道内容が公共の利害に関するものであり、かつ報道が公益を図る目的として出たものである場合は、報道内容が真実であると認められれば名誉毀損とはなりません」(同)

 報道機関が事件の報道に利用する場合、虚偽の情報や写真を利用するとは考えにくく、裏付けを取っていることが通常だ。報道がそのような確固たる裏付けに基づいている限り、名誉毀損が成立することはまずあり得ないことになる。

 自らSNSに投稿した情報や写真を、報道機関に利用されないようにすることは極めて困難である。SNS利用にあたっては、自分が事件や事故に巻き込まれた場合には、日々発信している情報や写真が報道機関に利用されて、国内のみならず世界中に発信されることになると肝に銘じておかなければならない。

 また一方で、今回のような事故が起きたときに、そもそも被害者の顔写真を入手し、それを大々的に報道する必要があるのか。報道機関の報道手法に対して疑念を持つ人が多かったのも確かだ。
(文=Legal Edition)

【取材協力】
野口明男(のぐち・あきお)弁護士
日本リーディング法律事務所代表、平成17年弁護士登録
得意分野:IT、知的財産権、訴訟ほか
「当事務所は、徹底的にお客様の立場に立つ献身的なリーガルサービスをご提供いたしております。どのようなお悩みもお気軽にご相談いただけるよう、電話・メールはもちろん、面談についてもご相談を承ります。じっくりとお話をお伺いいたしますので、小さなことでもまずはご相談ください」